うゅしび反対   作:((::X::))

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第1話

気が付くと世界は反対になっていた。

何が?

美醜が。

僕の感覚でいう絶世の美女が絶句するほどのブスとなり、ブサイクを通り越し、二足歩行する動物の豚や牛が美男美女ともてはやされる。

この世は狂っていた。

 

「ブヒヒヒヒヒヒ」

 

それは高校でも例外はない。

制服を着た豚がブヒる光景は、ただただ地獄だった。

 

「豚骨王子くん、今日も恰好いいよね」

 

「わかる。マジで同じクラスになれてラッキーだわ」

 

しかも女子の話し声から彼? は豚骨 王子などという名があるようだ。

ちょっと店名をひねったラーメン屋かと言いたい。

いや、言いたい事はそれだけにとどまらないのだけれど。

 

「歴史とか、どうするんだよこれ」

 

僕、学生。

つまり勉学に励まないといけない訳だが、世界史がぐちゃぐちゃになっているのは想像に難くない。

このままだとファオラが蛇で、豊臣秀吉が猿など。

人外魔境てんこ盛りになっていたりするのだろうか。

そうなれば国語も怪しいし、唯一の望みは数学しかない。

これはもうダメかもわからんね。

幾つかの教科で赤点を覚悟する僕であったが、捨てる神あれば拾う神あり。

担任の先生が入室して、こう言ったのだ。

 

「は~い、みんな~。せーき、着いて。テスト配るよ」

 

首の皮が一枚繋がった。

どうやらすでに、テストは終わっているらしい。

本当に助かった。

時期的には中間テストだろうが、期末に備えこれで幾ばくかの時間が稼げる。

そう思って顔を上げた僕は、目を丸くした。

なぜか?

先生がとても教師とは思えない姿をしていたからだ。

 

「名前を読んだひーとから、取りに来てちょ」

 

おでこの割れたツインヘアーは金髪で、肌も小麦色に焼けている。

くりっとしたまん丸の瞳には、赤いフレームのメガネがかけられ、ピンクのリップが特に目を引いた。

何だこのスーツギャル?

 

「伊勢 快くん」

 

「は、はいぃ」

 

そりゃ動揺もする。

いの一番に呼ばれた僕は、ぎこちなく返事をし、席を立った。

 

「おつかれ~」

 

「ど、どうも」

 

受け取るテストの答案用紙。

さて、何点だったのか。

席に戻った僕は、じっくりと内容を吟味する。

 

「えーと……」

 

身長・178センチ

体重・65キロ

ペ〇ス・21センチ

容姿Cランク。

体力測定Cランク。

経済状況Eランク。

家族構成Eランク。

総合評価Eランク。

 

これはいったい?

どこから突っ込めばいいのやら。

普通に身体測定なのだが、ペ〇スのサイズを測るのはおかしいし、容姿やら家庭環境にランク付けされているんだけど。

 

「豚骨王子くん」

 

「ブヒッ」

 

「おめでと~」

 

「ブヒヒ」

 

二度、三度と読み返しても、まるで意図がわからない。

困惑する僕をよそに、全ての答案を配り終えた先生は、パンッ。と締めくくるように手を叩いた。

 

「以上で終了。ほんでさー、聞いてよ~。ウチらのクラスから、Aランクいたんだよね。やばくね?」

 

「先生、それって――」

 

「そ。豚骨くん。ヤバいよね」

 

おおーと、室内に歓声が上がる。

Aランクってすごいのか?

 

「ヤバいしょ。でーも、残念な事にEランクも一人いてね」

 

「えっ」

 

嘘だろ、本気かよ、などなど。

今度は別の意味でクラスがざわめいた。

AからEに対するこの落差。

よほどEランクはまずいようだ。

 

「伊勢くん」

 

「……はい」

 

「残念だけど、来月から課外授業でお見合いあるからよろ」

 

「はい?」

 

いま何て言った?

 

「あの、お見合いって聞こえたんですけど……」

 

「そだよ、お見合い。Eランクだからわかんよね」

 

わかんないよね、普通。

いや、この世界がぶっ飛んでいるのは、嫌ほどわかってはいるつもりなんだけど。

 

「僕、まだ学生ですけど」

 

「むしろ学生の間に結婚して子供作っておかないと、激ヤバじゃね。育児手当もらっておかないと、生活できないっしょ」

 

「そこは……あの、就職とか……」

 

「Eランクは定職つけません。子育てが仕事だかんね。あー、なにさっきから。ショックでおかしくなった?」

 

「ええ!」

 

おいおいおいおい、どうなっているんだ。

格差社会も真っ青なディストピアか、ここは。

社会に階級制度があるどころか、職業選択の自由まで奪われているんだけど。

生涯で味わった事がないような汗が吹き出る。

喉も渇き、頭もボーっとしてくる。

そんな僕に対し、先生はパンっと手を叩いて無理やり現実に引き戻した。

 

「まー、いいか。ところでお先真っ暗な伊勢くんに、朗報。今ならバラ色の未来をつかみとれるチャンスがあるんだけど、聞く?」

 

「お、お願いします」

 

ここから入れる保険がまだあるみたいで助かった。

そうだよな、まだ僕がくせいだし、セーフティーネットがないとおかしいよな。

この年で結婚や育児に悩むのはごめんこうむる。

 

「今ならアタシと結婚できんよ」

 

「はっ?」

 

いや、キツイでしょう。

いきなり何を言い出すんだ、この先生は。

 

「アタシCランクだし、マジお買い得だよ。どうせお見合いになったら、Eランクしか相手がいないんだから」

 

自分を指さしケラケラ笑う先生に、戸惑いを隠せない僕。

どういうべきか悩んでいる間に、クラスメイトがはやし立ててくる。

 

「おっ、いいじゃん、よかったな」

 

「やったなEランク」

 

マウントを取られるのが早すぎる。

Eランクってだけでここまで生きにくいの。

てか、教え子と教師なのにそこはいいいのか?

いいんだろうな、誰も反対してないし。

 

「あの、先生は、どうして僕と、けっ、結婚しようと……」

 

「ちょい査定がヤバくてね。CランからDランに落ちるかもだし。だったら結婚して評価上げんのも悪くないかなって」

 

結婚で社会的地位が向上するんだ。

あっ、だから僕はお見合いをさせられそうになっていたのか。

だんだんとこのランク制度の全容が見えてきた。

 

「ほら、Dランだと割り振られた仕事色々やらされるじゃん。それならまだ教師でいられるCランでいたいかーなって」

 

「はぁ」

 

ふむふむ、Dランクは派遣社員で、Cランクでようやく職業の自由が出てくる訳だ。

 

「ちなみにBランクとAランクは、どんな仕事が……?」

 

「どんなって、スポーツ選手でもアイドルでも政治家でもよりどり緑っしょ。なに、アタシと結婚して上のランク狙ってんの? ざーんねんだけど、伊勢くんの場合、ほぼ絶望的だと思うよ」

 

憧れの職業とも言うべきものは、Bランクからと。

そしてランクは定められて終わりではなく、いちおう後かも変動の余地がある。

なるほどなるほど。

 

「ほんじゃーこれ、よろしくね」

 

「はい?」

 

ツカツカと僕に向かって歩いてきた先生は、ピラリと一枚の紙を手渡してきた。

見てみると白い紙に緑の枠線。

そして左上にでかでかと浮かぶ、婚姻届けという文字が。

 

「えっと、あの……」

 

「名前かいたらちょうだいね。後で出しておくから」

 

そう言われて見ると、すでに先生の欄は記入済みであった。

皐月 千景、それが先生の名前であるようだ。

って、そうではなくて。

 

「あの、先生!」

 

僕まだ結婚に同意してませんけど。

てか、さっき結婚の案を出しておいて、なぜここまで用意周到に準備されているのか。

聞きたい事は幾らでもあった。

だが僕が質問を投げかけるよりも早く、クラス中に拍手が降り注ぐ。

 

「よかったな」

 

「やったなEランク」

 

やめてくれ。

そんな事をされたら断りづらいじゃないか。

てか、これ僕に選択権がない奴だったりするのか?

そうしてアワアワする僕に、誰かがポンっと肩を叩いた。

振り返るとそこには豚骨王子がいた。

 

「ブヒヒ」

 

「……日本語で喋ってくれ」

 

「おめでとう」

 

君、しゃべれるんかい。

こうして始まった僕の新たな生活は、奇想天外な一歩を踏み出すのであった。

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