ご注文はうさぎです!Re   作:新生兎丸

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連日投稿記録が途切れてしまった……………!

では、続きをどうぞ……!


4.初めて酔った日の事、実はあまり覚えてない

 「あんなに怖いと思ってなかった……」

 

 千夜の怪談が終わり、自室に戻った俺は、暗闇の中で一人後悔していた。千夜があそこまでガチな話をぶっ込んでくるとは予想外だ。完全に油断していた。

 

 無理やり目を閉じ、ベッドに潜り込んで眠ろうとしたその時。

 

 静まり返った部屋に、控えめな、それでいてどこか切実なノックの音が響いた。

 

 重い腰を上げてドアを開けると、そこにはパジャマの裾をぎゅっと握りしめ、顔を赤らめたココアが立っていた。

 

 「ご、ごめんねジンくん……起こしちゃった?」

 

 「いや、まだ起きてたけど……どうしたんだ、こんな時間に」

 

 「その、えっと……」

 

 ココアは視線を泳がせ、言いづらそうにモジモジしている。いつも元気に「お姉ちゃんに任せなさい!」と言っている姿はどこにもない。

 

 「と、トイレ……ついてきてもらっても、いいかな……?」

 

 なるほど。

 

 千夜の怪談は、この自称お姉ちゃんに特大のダメージを与えたらしい。

 

 「おいおい、そんな年でもないだろ……」

 

 「だ、だって! 千夜ちゃんの怪談、すっごく怖かったんだもんっ……!」

 

 涙目で訴えるココアに根負けし、俺はため息をついて部屋を出た。スマートフォンのライトで足元を照らし、廊下を進む。

 

 ココアは、背中に体温を感じるほどぴったりと後ろについてくる。時折、廊下の影が揺れるたびに、俺のパジャマの袖をぎゅっと掴んでくるその手はひどく震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ジンくん? ちゃんとそこにいる?」

 

 扉の向こうから、不安げなココアの声が漏れてくる。

 

 「ああ、いるよ。どこにも行かないから安心しろ」

 

 「……うん。絶対だよ? 勝手にいなくなったら、お姉ちゃん怒るからね!」

 

 強がっているつもりだろうが、声が少し震えている。俺は廊下の壁に背中を預け、薄暗い足元を見つめた。夜の静寂の中では、ほんの些細な物音も大きく聞こえる。外で風が吹き抜けるたび、ココアが「びくっ」と息を呑む気配が伝わってきた。

 

 「……ねえ、ジンくん。何か喋ってて。静かだと、千夜ちゃんの話……思い出しちゃうから」

 

 「喋れって言われてもな……。あ、そうだ。明日のパン、何焼くか決めたのか?」

 

 「えっと……明日はね、うさぎパンの新作に挑戦しようかなって……。あと、ジンくんが好きなデニッシュも、たくさん焼こうと思ってたんだ……」

 

 パンの話を始めると、彼女の声に少しずつ生気が戻ってくるのが分かった。

 

 扉越しに交わされる、なんてことのない日常の会話。

姿は見えないけれど、木の扉一枚を隔てたすぐ向こう側に彼女がいる。

 

 「……ジンくん」

 

 「ん?」

 

 「……ついてきてくれて、ありがとね」

 

 不意に、囁くような声がした。

 

 何て事ない礼のつもりなのだろうが、静かな廊下で聞くその言葉は、妙に熱を持って俺の耳に残った。

 

 「……さっさと済ませろよ。置いていくぞ」

 

 「あ! 酷いっ! もうちょっとだけ待っててよぉ!」

 

 俺はわざとぶっきらぼうに答えた。

 

 無事にトイレを済ませたココアだったが、その顔にはまだ緊張が張り付いている。

 

 「……ふぅ。ありがと、ジンくん。おかげで助かったよ」

 

 「いいって。……じゃ、戻るぞ」

 

 帰りはココアを前に行かせ、俺が後ろからライトで照らすことにした。だが、角を曲がろうとしたその時、窓の外でガサッと大きな音が響く。

 

 「ひゃっ!?」

 

 短い悲鳴を上げたココアが、弾かれたように後ろに飛び退いた。

 

 咄嗟に受け止めようとした俺の胸の中に、ココアが勢いよく飛び込んでくる。

 

 「わっ……!」

 

 「う、うわぁぁん! ジンくん、今の絶対何かいたよ! お化けだよぉ!」

 

 パニックになったココアは、俺の首筋に腕を回してしがみついてくる。柔らかい感触と、シャンプーの甘い香りが一気に鼻腔を突き、俺の心臓は別の意味で激しく鳴り始めた。

 

 「落ち着けココア! 木の枝が風で揺れただけだろ……っ」

 

 「嘘だぁ! 今、白いのが見えたもんっ……! もう、離さないからね! 絶対に離さないんだからっ!」

 

 強く抱きつかれたまま、俺たちは暗い廊下で立ち往生する。密着した体温がパジャマ越しに伝わってきて、さっきまでの怪談の恐怖は、どこか遠くへ吹き飛んでしまった。

 

 「……ココア、さすがに近い。苦しいって」

 

 「やだ! お部屋のベッドに入るまで、こうしてるの!」

 

 結局、腰が抜けてしまったココアを半分抱きかかえるような形で、俺たちは亀の歩みで部屋へと向かうことになった。

 

 そうこうして、ようやくココアの部屋の前に辿り着いた。

 

 「……つ、着いたぞ。ほら、もう大丈夫だろ?」

 

 俺の腕にしがみついたままのココアに声をかける。

 

 ココアは恐る恐る顔を上げ、自分の部屋のドアを確認すると、ようやくホッとしたように小さく息を吐いた。

 

 「……うん。ありがと、ジンくん」

 

 ゆっくりと腕の力が緩む。密着していた体温が離れていくのが、夜の冷気のせいか、少しだけ名残惜しく感じた。

ココアはドアノブを掴んだまま、なぜか部屋に入ろうとせず、もじもじと俯いている。

 

 「……あのさ、ジンくん」

 

 「……ん?」

 

 「明日……あ、もう今日だね。朝起きたら、お礼に特製の厚切りフレンチトースト、作ってあげるね! ジンくんの分、すっごく美味しくするから!」

 

 さっきまで半べそをかいていたのが嘘みたいに、ココアは少し照れくさそうに、でも満面の笑みを浮かべた。その笑顔が暗い廊下で妙に眩しくて、俺は毒気を抜かれてしまう。

 

 「あぁ、楽しみにしてるよ。……じゃあな、おやすみ」

 

 「うん、おやすみなさい!」

 

 ココアが部屋に入り、パタンとドアが閉まる。

静まり返った廊下に一人残された俺は、不意に自分の心臓が、さっきの怪談の時よりもずっと速く打っていることに気がついた。

 

 「……フレンチトースト、ね」

 

 独り言をこぼして、俺は自分の部屋へと歩き出す。結局、朝までまともに眠れそうにないのは、俺の方だった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!

誤字、脱字、不自然な箇所等がありましたらご報告のほどよろしくお願いします!

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