ご注文はうさぎです!Re   作:新生兎丸

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投稿、いっきまぁ~す!!


とあるジンの日常

 枕元でけたたましく鳴り響くサイレン。その暴力的な音に叩き起こされ、俺は意識を覚醒させた。

手探りで時計を掴み、乱暴にアラームを止める。

 

 時刻は午前七時半。

 

 「……最悪の目覚めだ」

 

 重いまぶたを擦りながらベッドを抜け出し、ハンガーに掛けていた制服を手に取る。毎朝この繰り返しだ。体から疲労が抜けきらないのは、十代特有の悩みなのか、それとも俺の不摂生か。

 

 切り揃えた髪を適当に整え、鏡も見ずに部屋を出る。寝癖を気にしなくて済むのだけが、この髪の唯一の恩恵だった。

 

 階段を降りると、香ばしいパンの香りと共に、チノが手際よく朝食を並べている姿が目に映った。

 

 「おはようございます、ジンさん。ココアさんはまた寝坊ですか……。しょうがないですね、ちょっと起こしてきます」

 

 「みたいだな。……って、いつもチノが起こしに行ってるのか?」

 

 「はい。そうしないと学校に遅刻してしまいますから。ジンさんは先に食べていてもいいですよ?」

 

 「いーや、二人が来るまで待ってるよ」

 

 「わかりました。では、すぐ連れてきますね」

 

 チノが小走りで二階へと戻っていく。トタトタという軽い足音を見送りながら、俺は指定席の椅子に腰を下ろした。

 

 あんなにココアを疎ましがっているように見えて、結局は面倒を見てやる。チノの根っからの優しさには頭が下がる。 

 

 ……まあ、俺のことは一度も起こしに来てくれたことはないんだが。

 

 別に気にしてねぇよ? 本当に。

 

 テーブルに並んだ朝食を眺める。初めてここで食ったサンドイッチも、チノの手作りだったらしい。あの味なら、毎日でも飽きは来ないだろう。

 

 しばらくして、空腹が限界に達しようかという頃、眠そうなココアを引きずるようにしてチノが降りてきた。

 

 「それでは、いただきましょうか」

 

 「眠いよぅ……。お布団が恋しいよぅ……」

 

 「……永遠に寝かしつけてやろうか?」

 

 「女の子に冗談でもそんなこと言っちゃダメだよ!?」

 

 「安心しろ、お前は特別だ。他の奴には言わねぇよ」

 

 「全然嬉しくない!」

 

 騒がしいやり取りの末、ようやくココアの目が覚めたようだ。チノが小さく溜め息をつき、三人で手を合わせる。穏やかな一日の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 一日のノルマをこなし、鞄を肩に担ぎ直す。

 

 今の俺の頭にあるのは、買い溜めたゲームの消化だ。もう少しでクリアできそうな一本がある。さっさと帰って、次の一本に手を付けなければならない。

 

 早足で校門を抜け、ラビットハウスへの近道を歩く。

 

 その途中のことだった。路地裏の木の上、枝に引っかかるようにして降りられなくなっている子猫が目に入った。

 

 「…………」

 

 可哀想だが、俺には関係ない。誰か心優しい通行人が見つけてくれるだろう。

 

 そう自分に言い聞かせ、素通りしようとした瞬間――子猫と目が合った。

 

 「ニャ~ン…………」

 

 細く、震えるような鳴き声。

 

 ……無理だ。あんな目で見られて素通りできるほど、俺の心は鉄でできていない。

 

 「……さて、どうやって助けるか」

 

 見上げれば、猫がいるのは俺の背丈を優に超える高さだ。木登りの経験はないし、一人ではどう足掻いても届かない。誰か一人、肩車に乗せられる協力者がいればいいんだが、あいにく周囲に人影はない。

 

 仕方なくスマホを取り出し、ココアとリゼに連絡を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分後。

 

 「…………繋がんねぇ……」

 

 折り返しを待っても、コール音だけが虚しく響く。猫は相変わらず震えながら木にしがみついている。

 

 立ち往生していると、背後から控えめな声が掛かった。

 

 「あの……どうしたんですか?」

 

 振り返ると、そこには赤い髪を控えめに結った少女が立っていた。

 

 チノと同じ制服。おそらく同年代だろう。

 

 「いや、子猫があの木から降りられなくてさ……」

 

 人一人を肩車するくらいの筋力はある。あまりに重い人間は勘弁だが、このくらいの年頃の女の子なら問題ないはずだ。

 

 「それなら、私にお手伝いさせてください! あのままじゃ猫さんがかわいそうですからっ」

 

 少女の瞳には迷いがない。その懸命な表情に、彼女の人の良さが一瞬で伝わってきた。

 

 「助かるよ。えっと……名前を聞いても?」

 

 「メグって言います。お兄さんは?」

 

 「俺は芹沢ジン。ジンでいいよ。早速だけどメグ、俺が肩車するから、猫を確保してもらってもいい?」

 

 「はいっ、お任せください!」

 

 その場に屈むと、メグが恐る恐る肩に足をかける。立ち上がると、その軽さに驚いた。

 

 「お、重たくないですか……?」

 

 「全然。むしろ軽すぎて心配になるくらいだ」

 

 ゆっくりと木に近付く。この高さなら、彼女の手が届く。

 メグが器用に腕を伸ばし、震える子猫を優しく抱き上げた。

 

 地面に下ろされた子猫は、お礼を言うどころか、一目散にどこかへと走り去っていった。

 

 「お礼の一つくらいしていけよな」

 

 「ふふ、でも助かって良かったです」

 

 メグが花が咲いたような笑顔を見せる。

 

 ……天使かな?

 

 この純粋な優しさ。切実に、こういう妹が欲しかった。

 

 「ありがと、メグ。メグが来なかったら、俺も途中で諦めてたよ」

 

 「そうですか? ジンさん、誰かが来るまでずっと待ってるっていう、優しい雰囲気が出てましたよ」

 

 「褒めてくれてる? ありがと。けど、流石に夜までは持たなかったさ」

 

 人をおだてるのも一級品らしい。

 その後、俺はメグと別れ、温かいコーヒーの香りが待つラビットハウスへと足を向けた。

 

 




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