ご注文はうさぎです!Re   作:新生兎丸

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3.お話をするお話?

 ココアの機嫌を取ったあの日から、数日が経過した。

 

 放課後。

 

 俺は今、プリントの山を抱えて準備室へと足を運んでいる。この学園に数少ない男子生徒だからって、いいようにこき使いやがって……。

 

 「あれ? 芹沢さん? 何やってるんッスか?」

 

 背後から飛んできた気楽な声。

 ……うわ、面倒なヤツに絡まれた。さっさと仕事を終わらせて帰りたいっていうのに。

 

 声の主は、花深 由々亜。

 

 派手な金髪ツインテールに、首から下げた無骨な一眼レフがトレードマークの女子生徒だ。例の放課後の一件以来、腐れ縁というか、妙な距離感で付きまとわれている。 

 

 「見て察しろよ。プリント配りだよ」

 

 「大変そうッスね~。手伝うッスか?」

 

 「いいよ。紙の束だし、そこまで重いもんじゃない」

 

 「まあまあまあ! そんな固いこと言わずに!」

 

 「本当にいいって。それに、お前が手伝うとロクなことが……」

 

 「じゃあ、ついていくのはアリっすよね?」

 

 「なんでだよ」

 

 問い返すと、花深はニシシと悪戯っぽく笑い、愛機のグリップを握り直した。

 

 「なんだか……最高のシャッターチャンスが降ってきそうな予感がするからッス!」

 

 「不吉な予感しかしないんだけど。ただプリント運んでるだけで、面白いことなんて起きるわけ――」

 

 会話を続けながら渡り廊下に差し掛かった、その時だった。

 

 「――痛ぁいっ!?」

 

 衝撃は唐突だった。

 

 視界の端から飛来したテニスボールが、俺の頬にクリティカルヒットする。

 

 たたらを踏み、派手に体勢を崩した。抱えていたプリントが真っ白な花吹雪のように舞い、俺はそのまま無様に地面へとひっくり返る。

 

 「キタコレ! 決定的瞬間ッス!」

 

 駆け寄る心配の声……なんてものは微塵もなかった。

 

 聞こえてくるのは、小気味よい連続シャッター音。カシャカシャカシャ!と、倒れ込む俺の姿を花深は必死にレンズに収めている。

 

 こ、この疫病神が……!

 

 「す、すみません……っ! テニスコートのフェンスに穴が空いてたみたいで……!」

 

 申し訳なさに消え入りそうな声で駆け寄ってきたのは、ラケットを抱えたテニス部員だった。

 

 一方、俺の隣では花深が撮影したばかりのプレビュー画面を確認しながら、喉を鳴らして笑っている。

 

 「あははっ! 空いてた穴をボールがたまたま通って、それがたまたま芹沢さんの顔面に当たるなんて。凄いミラクルッスよ、これ!」

 

 「そのミラクル、少しは俺のプラスになる方向に働いてほしかったわ……!」

 

 ズキズキ痛む頬を押さえながら、俺は地面に這いつくばって散らばったプリントをかき集める。

 

 「本当にすみません……! け、怪我とか、その、大丈夫ですか……っ?」

 

 「……ああ、大丈夫。気にしないで。ほら、これ」

 

 俺は立ち上がり、足元に転がっていたボールを拾い上げて渡した。女子生徒は「恐縮です!」と言わんばかりに、何度もペコペコと頭を下げている。

 

 「心配御無用ッスよ! 芹沢さんは鋼と同じ強度なんで、これくらいじゃ死なないッス!」

 

 「勝手に俺をアイアンマンに改造するな……というか、お前は少しは手伝えよ」

 

 「あ、失礼しますっ! 本当にすみませんでした!」

 

 嵐のような謝罪を残して、テニス部員は逃げるようにコートへと戻っていった。

 

 

 「……マジで結構痛かったぞ、今のは」

 

 ジリジリと熱を持つ頬を指先で慎重になぞってみる。

 

 幸い、血が出ているような感触はない。だが、放っておけば間違いなく腫れるだろう。氷嚢のひとつでも借りて、少し冷やしておいた方が良さそうだ。

 

 「どうするッスか? 一応、保健室行くッスか?」

 

 カメラを首にぶら下げ直し、花深がひょいと顔を覗き込んできた。少しは心配しているのかと思いきや、その瞳には「また何か起きないか」という期待が透けて見える気がする。

 

 「……ああ。プリントを配り終えたら、寄っていくよ」

 

 「了解ッス! じゃあ、乗り掛かった船ッスし、自分も最後まで付き合うッスよ!」

 

 そう言って、花深は勝手に俺の隣を歩き出した。

 「乗り掛かった」も何も、そもそも勝手に乗り込んできたのはお前だろうが……。

 

 「お前が乗ったせいで、この船が沈まなきゃいいけどな」

 

 「失礼ッスね! 自分はおもしじゃなくて、追い風担当ッス!」

 

 「向かい風の間違いだろ……」

 

 笑いながら歩く彼女の背中を追いながら、俺は深い溜息をついた。準備室までの廊下が、いつもより少し長く感じられた。

 

 




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