ご注文はうさぎです!Re   作:新生兎丸

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チノちゃんかっわいい~!

二次元から飛び出してこないかなと思う今日この頃


2.コールミーシスター

 気づけば私は、ベッドの上でジンさんに後ろから抱きすくめられていた。

 

 どうしてこんな状況になったのか、記憶の糸を辿ろうとするけれど、うまくいかない。背中から伝わるジンさんの高い体温、耳元をかすめる熱い息遣い、そして鼻腔をくすぐる彼特有の香りが、私の思考を甘く痺れさせていく。

 

 「チノは……本当に可愛いね」

 

 鼓膜を震わせる、低くて甘い響き。

 

 たったその一言だけで、胸の奥がじんわりと幸福感で満たされていく。それ以外の何も考えられなくなるほどに。

ジンさんの腕が、逃がさないと言うようにさらに強く私を包み込んだ。

 

 私は彼に体重を預け、心臓の鼓動を背中で感じながら、震える声で問いかける。

 

 「ジン……さん……。私を……その、ちゃんと『女の子』として、見てくれているんですか……?」

 

 恐る恐る口にした言葉に、ジンさんはふっと短く笑った。

 

 「当たり前だ。俺がこれまで、どれだけ我慢してきたと思ってる?」

 

 直後、首筋に鋭い熱が走った。ジンさんが軽く歯を立てて、私の肌を噛んだのだ。

 

 「ひゃうっ……!?」

 

 予期せぬ刺激に、自分でも驚くほど上ずった声が出てしまう。首をすくめて身悶える私を、ジンさんは楽しむように見つめていた。

 

 「い、いきなり……何をするんですか……っ」

 

「ごめん。でも、チノがあまりにも可愛くてさ。つい……ね?」

 

 悪びれる様子もなく、彼はまた甘い言葉を重ねる。

 

 「もう……。そうやって、私の欲しい言葉を全部知っているみたいに言うのは……ずるいです……」

 

 抗いたいのに、体はもっと彼を求めて熱くなっていく。私はただ、彼の腕の中で翻弄されることしかできなかった。

 

 ジンさんの大きな手が、ゆっくりと、私の太ももをなぞるように触れた。

 

 指先から伝わる熱に、心臓が跳ねる。

 

 「チノ……いいか?」

 

 確認するように囁く彼の瞳は、熱を帯びていて、私を射抜く。

 私は自分でもはっきり分かるほど呼吸を乱しながら、縋るような思いでジンさんの方へと向き直った。

 

 「はい……。私の、全部……あげ、ます……」

 

 重なり合うほどに顔が近づき、互いの熱い吐息が混ざり合う。

 

 視界が彼の影で覆われ、唇がゆっくりと重なろうとした、その瞬間――。

 

 「っ……!!」

 

 弾かれたように目を見開くと、そこには見慣れた天井があった。

 窓の外からは、朝を告げる小鳥たちの穏やかなさえずりが聞こえてくる。

 

 「ゆ……め……?」

 

 冷めやらない体の熱を抱えたまま、私は慌てて自分の首筋に手をやった。ジンさんが確かに歯を立てた、あの場所。

 

 けれど、鏡に映る肌には赤みひとつなく、跡形もなくなめらかなままだった。……付けられたはずの印なんて、最初からどこにも存在していなかったのだ。

 

 「な、なんて夢を…………っ!」

 

 ぶり返すような熱気と、あまりにも破廉恥な自分の妄想。

 私は燃えるように熱い顔を両手で覆い、シーツの中に潜り込んだ。夢の中のジンさんの感触がまだ指先に残っているようで、しばらく心臓のバクバクが止まりそうになかった。

 

 何度も深呼吸を繰り返し、ようやく暴れる心臓をなだめて部屋を出る。

 

 「朝ごはん、作らなきゃ……」

 

 火照った顔を冷ますように階段を下りていくと、よりによって、そこには珍しく早起きをしたジンさんの後ろ姿があった。

 

 「おっ、おはようチノ。今日は俺が当番だから、まだ座ってていいぞ」

 

 「あ、あれ?……そう、でしたっけ? ありがとうございます……っ」

 

 努めて平静を装い、彼から視線を逸らして席に着く。けれど、エプロン姿のジンさんがフライパンを振る背中を見ていると、どうしても先ほどの夢が脳裏をよぎってしまう。

 

 「メニューは卵焼きと、ウインナーと味噌汁。定番だけど……いいか?」

 

 「――っ!?」

 

 その言葉が耳に届いた瞬間、夢の中のジンさんの甘い吐息と、太ももを撫でた手の感触が鮮烈にフラッシュバックした。

 

 「ふ、不潔です……っ!!」

 

 「えええっ!? なんで!?」

 

 いきなりの罵倒に、ジンさんはお玉を握ったまま、何がなんだか分からないといった表情で固まっている。私はその驚愕の顔を直視できず、弾かれたように席を立ち、逃げるように階段を駆け上がった。

 

 「て、手はちゃんと洗ったぞー!? 消毒もしたし!!」

 

 背後から聞こえてくるジンさんの切実な叫びが、さらに私の罪悪感と羞恥心を煽る。

 

 (すみませんジンさん……! そういう意味じゃないんです、不潔なのは私の頭の中なんです……っ!)

 

 私は自室に飛び込み、バタンとドアを閉めてそのままへたり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココアと千夜と一緒に学校へ向かう道すがら、俺は今朝の出来事を思い出しては、不思議そうに首をかしげていた。

 

 「チノ……今日の朝、めちゃくちゃ機嫌悪かったよな……」

 

 俺のぼやきを聞いて、千夜が「あら」と口元に手を当てた。

 

 「また何かしたの? ココアちゃん」

 

 「千夜ちゃん! どうして真っ先に私を疑うのさーっ!?」

 

 「ふふ、ごめんなさい。この間のこともあったばかりだったから」

 

 千夜は苦笑しながら謝っていたが、俺の胸中は穏やかじゃない。

 

 ココアじゃない。あの拒絶の矛先は、間違いなく俺に、ピンポイントで向けられていた。

 

 朝食の席でもそうだ。

 

 「ソース、取ってくれるか?」と頼めば、「じ、自分で取ってください……っ」と素っ気なく返される。仕方なく自分で取ろうとして、少しだけ彼女の近くに寄っただけで、チノはあからさまに肩をビクッと震わせて俺を避けたんだ。

 

 ……え? 俺、ココアと同じことしてんの?

 

 ココアがパズルを勝手に完成させてチノを本気で怒らせた、あの日の光景が脳裏をよぎる。まさか、俺も無自覚のうちに、チノに嫌われるような何かをしてしまっていたなんて……。

 

 「……どうしよう、マジで終わったかもしれない……」

 

 「じ、ジンくん!? どうしたの? なんでそんなに泣きそうなの?」

 

 俯いて絶望する俺の表情を、千夜が珍しく本気で心配した様子でのぞき込んできた。

 

 「どうしたのか分からないけど、大丈夫だよ、ジンくん! 私はいつだってジンくんの味方だからねっ。よしよし~」

 

 そう言って、ココアが「お姉ちゃん」を自称するように俺の頭を無邪気に撫でてくる。

 

 「ううぅ……マジで何か嫌なことしちゃったのかなぁ……。どーしよぉ…………」

 

 普段なら「ガキ扱いするな」と軽口のひとつでも飛ばすところだが、今の俺にはそんな気力すら湧いてこない。それほどまでにチノの拒絶はショックだった。

 

 「じ、ジンくんがココアちゃんにされるがまま……? しかも、すごくしおらしくなってるわ……!?こ、これは相当な重症ね。でも大丈夫よ、ジンくん。何かあったら私も力になるから」

 

 便乗するように、千夜までもが優しく俺の頭を撫でてきた。

 

 右と左から交互に、あるいは同時に。

 いつもの俺なら「おい、お前らいい加減にしろ」とツッコミを入れる場面だ。なのに、今の俺はされるがままに項垂れることしかできない。

 

 ………………。

 

 …………いや、ココア。

 

 「どうしたのか分からないけど」って言ったけど、お前、さっき一緒に朝飯食ってたよな?

 

 あの至近距離で、俺がチノに避けられていた現場にいただろ……?

 

 

 




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