ご注文はうさぎです!Re 作:新生兎丸
チノちゃんかっわいい~!
二次元から飛び出してこないかなと思う今日この頃
気づけば私は、ベッドの上でジンさんに後ろから抱きすくめられていた。
どうしてこんな状況になったのか、記憶の糸を辿ろうとするけれど、うまくいかない。背中から伝わるジンさんの高い体温、耳元をかすめる熱い息遣い、そして鼻腔をくすぐる彼特有の香りが、私の思考を甘く痺れさせていく。
「チノは……本当に可愛いね」
鼓膜を震わせる、低くて甘い響き。
たったその一言だけで、胸の奥がじんわりと幸福感で満たされていく。それ以外の何も考えられなくなるほどに。
ジンさんの腕が、逃がさないと言うようにさらに強く私を包み込んだ。
私は彼に体重を預け、心臓の鼓動を背中で感じながら、震える声で問いかける。
「ジン……さん……。私を……その、ちゃんと『女の子』として、見てくれているんですか……?」
恐る恐る口にした言葉に、ジンさんはふっと短く笑った。
「当たり前だ。俺がこれまで、どれだけ我慢してきたと思ってる?」
直後、首筋に鋭い熱が走った。ジンさんが軽く歯を立てて、私の肌を噛んだのだ。
「ひゃうっ……!?」
予期せぬ刺激に、自分でも驚くほど上ずった声が出てしまう。首をすくめて身悶える私を、ジンさんは楽しむように見つめていた。
「い、いきなり……何をするんですか……っ」
「ごめん。でも、チノがあまりにも可愛くてさ。つい……ね?」
悪びれる様子もなく、彼はまた甘い言葉を重ねる。
「もう……。そうやって、私の欲しい言葉を全部知っているみたいに言うのは……ずるいです……」
抗いたいのに、体はもっと彼を求めて熱くなっていく。私はただ、彼の腕の中で翻弄されることしかできなかった。
ジンさんの大きな手が、ゆっくりと、私の太ももをなぞるように触れた。
指先から伝わる熱に、心臓が跳ねる。
「チノ……いいか?」
確認するように囁く彼の瞳は、熱を帯びていて、私を射抜く。
私は自分でもはっきり分かるほど呼吸を乱しながら、縋るような思いでジンさんの方へと向き直った。
「はい……。私の、全部……あげ、ます……」
重なり合うほどに顔が近づき、互いの熱い吐息が混ざり合う。
視界が彼の影で覆われ、唇がゆっくりと重なろうとした、その瞬間――。
「っ……!!」
弾かれたように目を見開くと、そこには見慣れた天井があった。
窓の外からは、朝を告げる小鳥たちの穏やかなさえずりが聞こえてくる。
「ゆ……め……?」
冷めやらない体の熱を抱えたまま、私は慌てて自分の首筋に手をやった。ジンさんが確かに歯を立てた、あの場所。
けれど、鏡に映る肌には赤みひとつなく、跡形もなくなめらかなままだった。……付けられたはずの印なんて、最初からどこにも存在していなかったのだ。
「な、なんて夢を…………っ!」
ぶり返すような熱気と、あまりにも破廉恥な自分の妄想。
私は燃えるように熱い顔を両手で覆い、シーツの中に潜り込んだ。夢の中のジンさんの感触がまだ指先に残っているようで、しばらく心臓のバクバクが止まりそうになかった。
何度も深呼吸を繰り返し、ようやく暴れる心臓をなだめて部屋を出る。
「朝ごはん、作らなきゃ……」
火照った顔を冷ますように階段を下りていくと、よりによって、そこには珍しく早起きをしたジンさんの後ろ姿があった。
「おっ、おはようチノ。今日は俺が当番だから、まだ座ってていいぞ」
「あ、あれ?……そう、でしたっけ? ありがとうございます……っ」
努めて平静を装い、彼から視線を逸らして席に着く。けれど、エプロン姿のジンさんがフライパンを振る背中を見ていると、どうしても先ほどの夢が脳裏をよぎってしまう。
「メニューは卵焼きと、ウインナーと味噌汁。定番だけど……いいか?」
「――っ!?」
その言葉が耳に届いた瞬間、夢の中のジンさんの甘い吐息と、太ももを撫でた手の感触が鮮烈にフラッシュバックした。
「ふ、不潔です……っ!!」
「えええっ!? なんで!?」
いきなりの罵倒に、ジンさんはお玉を握ったまま、何がなんだか分からないといった表情で固まっている。私はその驚愕の顔を直視できず、弾かれたように席を立ち、逃げるように階段を駆け上がった。
「て、手はちゃんと洗ったぞー!? 消毒もしたし!!」
背後から聞こえてくるジンさんの切実な叫びが、さらに私の罪悪感と羞恥心を煽る。
(すみませんジンさん……! そういう意味じゃないんです、不潔なのは私の頭の中なんです……っ!)
私は自室に飛び込み、バタンとドアを閉めてそのままへたり込んだ。
ココアと千夜と一緒に学校へ向かう道すがら、俺は今朝の出来事を思い出しては、不思議そうに首をかしげていた。
「チノ……今日の朝、めちゃくちゃ機嫌悪かったよな……」
俺のぼやきを聞いて、千夜が「あら」と口元に手を当てた。
「また何かしたの? ココアちゃん」
「千夜ちゃん! どうして真っ先に私を疑うのさーっ!?」
「ふふ、ごめんなさい。この間のこともあったばかりだったから」
千夜は苦笑しながら謝っていたが、俺の胸中は穏やかじゃない。
ココアじゃない。あの拒絶の矛先は、間違いなく俺に、ピンポイントで向けられていた。
朝食の席でもそうだ。
「ソース、取ってくれるか?」と頼めば、「じ、自分で取ってください……っ」と素っ気なく返される。仕方なく自分で取ろうとして、少しだけ彼女の近くに寄っただけで、チノはあからさまに肩をビクッと震わせて俺を避けたんだ。
……え? 俺、ココアと同じことしてんの?
ココアがパズルを勝手に完成させてチノを本気で怒らせた、あの日の光景が脳裏をよぎる。まさか、俺も無自覚のうちに、チノに嫌われるような何かをしてしまっていたなんて……。
「……どうしよう、マジで終わったかもしれない……」
「じ、ジンくん!? どうしたの? なんでそんなに泣きそうなの?」
俯いて絶望する俺の表情を、千夜が珍しく本気で心配した様子でのぞき込んできた。
「どうしたのか分からないけど、大丈夫だよ、ジンくん! 私はいつだってジンくんの味方だからねっ。よしよし~」
そう言って、ココアが「お姉ちゃん」を自称するように俺の頭を無邪気に撫でてくる。
「ううぅ……マジで何か嫌なことしちゃったのかなぁ……。どーしよぉ…………」
普段なら「ガキ扱いするな」と軽口のひとつでも飛ばすところだが、今の俺にはそんな気力すら湧いてこない。それほどまでにチノの拒絶はショックだった。
「じ、ジンくんがココアちゃんにされるがまま……? しかも、すごくしおらしくなってるわ……!?こ、これは相当な重症ね。でも大丈夫よ、ジンくん。何かあったら私も力になるから」
便乗するように、千夜までもが優しく俺の頭を撫でてきた。
右と左から交互に、あるいは同時に。
いつもの俺なら「おい、お前らいい加減にしろ」とツッコミを入れる場面だ。なのに、今の俺はされるがままに項垂れることしかできない。
………………。
…………いや、ココア。
「どうしたのか分からないけど」って言ったけど、お前、さっき一緒に朝飯食ってたよな?
あの至近距離で、俺がチノに避けられていた現場にいただろ……?
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