貴方の望みと歩くまで   作:ぞんぞりもす

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九話

 ゲントビリアは訓練に外勤、戦闘と休むことなく活動を続けたすえ、後方支援部の倉庫の一角で眠った。体を打ちつけるようにしてベッドに倒れ込み、意識はそれきり途絶えた。

 あんな勢いで薄い布団に衝突して痛くなかったのかな、とルトナダは遠目にその光景を見た。

 

 ゲントビリアが倉庫に来てしばらくたち、今はルトナダも休憩がてらベッドに腰かけている。

 

「……」

 

 一歩踏み出した外にはおびただしいほどの光と音が存在している。でも、この倉庫はそういったもののすべてを切り離していた。見る人が見れば異様とすら思いかねない空間は、ルトナダの心を落ち着かせる数少ない癒やしの空間でもあった。

 

 

 振り返れば安らかな寝顔があって、その顔に安心を覚える分だけ反射するみたいに恐怖も芽生えた。

 かつて何度もそうしてきたように瞼に触れる。すでに瞼は閉じていた。

 

 

 いつかこうする日が来るのだろうか。それとも自分が先だろうか。

 

 

 おそらく後者だろうな、とルトナダは思う。瞳を閉じてもらうことは叶わないだろうけれど。それがいいことなのか悪いことなのか考えて混乱した。良かったし、悪かったのだ。

 

 看取ってもらうことはできずとも、自分を思ってくれている人(ゲントビリア)がいる状態で去れることは幸福だ。戦場で一番軽いものは命だ。誰の何にもなれなかった何人もが眼の前で消えていった。それと違うのはいいことだと思う。

 看取らなくてもいいのだという安心もある。それもいいことだと思う。

 

 逆に、ゲントビリアの先を思うと不安になる。後追いしそうだし、塵となるから離れてくれと言っても聞かない可能性が高かった。ゲントビリアを一人残して消える想像に胃が圧迫された。名前をつけられない漠然とした感情の痛みは、はっきりと把握できた。

 前までは目をそらせる程度の感覚だったのに、戦場で生きていれば仕方ないくらいの感覚だったのに、今では、今ではすっかり――。

 

 

 

 ブーツの底に隠し、何重にも防寒をしている足先が冷えていた。指先も温度を失っていた。手のひらから伝わるぬくもりが心地いい。両手でゲントビリアの頬を包んだ。血流に乗った熱は心もあたためてくれた。

 何かに似ている。一緒に食べた肉まんが思い起こされた。

 

 ゲントは食べるのが早く、ビリアもルトナダよりは早い。肉まんに限らず自分だけいつも取り残された。

 立ち寄った公園のトラッシュボックス、燃えるゴミと書かれた籠にくしゃくしゃの紙を入れ、ビリアは伸びをする。

 

「見回りなんて言っても散歩みたいなものだよね」

 

 夜が東の空に迫って、ロドス本艦に戻る道すがら、なんとなく立ち寄った屋台で買った。夕日を背負ったビリアは異様に濃い影色をしていて、本人から切り離されたように、影だけが楽しげに踊っている。

 

「戦いとか倉庫の整理だけじゃなくて、たまにはこんなのもいいね。前までは外にずっといるのがしんどかったけど、中にいるのが続くと外が恋しくなるの、不思議」

 

 逆光で見えないけれど、ビリアはきっと笑っているだろう。ゲントとビリアの笑顔はまったく違う。ゲントは皮肉るみたいに唇の片方をつり上げて笑い、ビリアは朗らかに目尻を下げる。同じ顔でも受ける印象はぜんぜん違う。

 ロドスに来たばかりのころ表情変化の少なさを直そうと思い、まねしようとした時期があるが、どれもうまくいかなかった。

 

「なんか、食べ歩きってこんなに穏やかなものなんだなって思うと、変な気分。戦場ではきっとこうはいかなかったでしょ?」

「戦場で指すところの食べ歩きは……そもそも造語ですが、おそらくもっと殺伐としたものでしたし、食料の奪い合いのようなニュアンスを含むと思います」

「そんな人気店のいち押しメニューみたいな。ウエイトレスさん全員死体だけど……。食べ歩きの要素なんてないよね」

 

 戦場の生々しさが肉体に染みているから、穏やかそうな話を振られても血生臭くなる。水を吸ったスポンジから勝手に水が滴るみたいに、肉体から命が滴る。ルトナダの手の中で小さく紙が鳴いた。

 

「でも実際問題、争奪戦をしないとありつけなかったんだよね」

「も、もっと他の話をしましょう……! 食べ歩きの!」

 

 ふかふかでほかほかだった生地はすっかり冷えていた。ぱさついた生地を口に含み、中身まで届かず、もう一口食べ進めた。中身も冷たくなっていた。

「えー?」なんて言っていたビリアは黙り込み、腕を組みながらゆっくりとルトナダまで歩く。

 

「歩くってなんか、優しい雰囲気があるよね。食べ歩きの語感っていうか、のんびり感がさ、いいよね。言葉に広がりがあるって言うの?」

 

 すり切れた感性が熱を帯びた。

 大切なのだと気づいた日から、なんて言うと安っぽい映画の言葉みたいだけれど。気がつけば、大きくなり続ける荷を抱えていた。

 

 焦って、どうにか言葉を探した。ビリアの感性に添う言葉はどれだけ長い時間となりにいても育たなくて。使う言葉は似るのに、ガワだけ意識したところで根っこが違うから、偽装がバレた感じになって叩きのめされる。

 

 ルトナダは夕焼けを遮って正面に立つビリアに肉まんを差し出していた。力んでいた。冷え固まった生地は凹み、中身の茶色が飛び出ている。

 

「た、食べてください。食べて感想を言いましょう。私と貴方で一つずつ肉まんを褒めて、先に言葉が見つからなかったほうが負けです」

「えぇ……? なにそれ」

 

 代わる代わるルトナダのを食べても勝負はつかなくて、来た道を戻ってもう一個買った。「何やってるの」と呆れたように笑う顔は、もう、脳内を跳弾するいろんなものにかき消された。

 食べる回数は同じなのに、口の大きさが違うからまた置いてけぼりになって。トラッシュボックスに水気の多い包装紙を一緒に捨てて、家路を急ぐ周囲の人よりも少しだけゆっくり帰った。見慣れた横顔が生まれ変わったような気がしていた。

 

 

 

「……いろんな時間がありましたね」

 

 視線の先には安らかな寝顔がある。

 

 ロドスで過ごした時間は短い。けれど戦場清掃をしていたときよりも彩りが豊かだった。いずれ色褪せ、最終的には戦場と同じ無彩色になるとしても、色褪せていく過程をこそ人は愛おしく思うのかもしれない。

 

 過去が蘇るにつれ、耳鳴りは音を増した。記憶のほとんどは薄灰色だった。鮮やかなものだけを抽出しようにも無理がある。

 涙を流してくれる心はずっと前に置き忘れた。泣いてなんていられなかった。

 

「……」

 

 吸い寄せられるように寝顔に顔を近づける。思えば、こんなふうに近くで、それも正面から見つめ合ったことはない。横顔ばかりだったように思う。

 

 眉毛ってこんな形だったんだ、睫毛が思っていたよりも長い、自分より赤い唇だ、とか。ぺたぺた手を這わせた。記憶とまったく違う顔の輪郭に戸惑っていた。

 ロドスに来て久しぶりに鏡を見たときも、自分ってこんな顔だったのかと驚いた。あまりちゃんと見たことがない。

 

「貴方の部屋には……鏡もないんでしたね」

 

 じゃあきっと何も思っていないのだろう。あとで勝手に買ってこようかな、なんて思った。この際だから、いっそどでかい姿見を買おう。そうしてゲントビリアの独房みたいな部屋で勝手にファッションショーでもしてやろう。

 

「そんなスペース……ないかな。まったく。どうして部屋を移ったりしたんですか」

 

 毎朝完璧に昇ってくる太陽は、冴えない顔すら照らしてしまう。何も知らない顔で襲い来る完璧な日常を、二人は耐えなければならなかった。

 ルトナダは自身の額をゲントビリアの額に重ねた。

 

 ただ、ここにいる。それだけで十分だった。

 

 ついこの前ビリアがそうしてくれたように頭を抱きかかえた。遺言に揉まれ、すでに遠くの標識を見るみたいにぼやけている記憶が、再び鮮やかさを取り戻す。

 心臓が重く、緩やかに全身へ血流を巡らせる。拍動を感じてほしかった。自分の影がゲントビリアを覆っていた。

 

 

「すみませーん」

 

 不意にアーミヤの声がして、ルトナダはがばっと体を起こした。中途半端に腰を曲げていたため、背筋を伸ばすと痛んだ。

 やってはいけないことをしている気がして、見られてはいけない、見られたら恥ずかしい、なんて戦場とは違う種類の焦りが募る。今までなんとも思っていなかったことが特別なことになりつつあった。訳が分からなかった。

 

 やはりロドスと戦場では、安心を求めるという行為そのものは同じでも、何かが異なっている。

 

「あれ……? ここにいるって聞いたんですけど……ルトナダさーん? ゲントビリアさんも一緒にいますかー?」

「あっ……は、はい!」

 

 背後から声が近づいてくる。張り上げた声は自分でも驚くほど掠れていた。

 頬や耳にまとわりつく倉庫の空気はいやに冷たく感じられた。自分が火照っているせいだ、と気づいたらさらに焦りは加速した。

 

「あ、そちらにいらしたんですね! 開けてもいいですか?」

 

 カーテンの前で足が止まる気配がする。ちらと振り返ると、端に手がかかっていた。

 

「は、はい……!」返事しながらばたばたと体を動かした。額を重ねるだけのつもりだったのに――というかそれすらも勢いづいてやっちゃったことだったのに――気がつけばシーツに体を乗せてゲントビリアに体を重ねていて、あれ、こんなはずじゃなかったのにと思考が窒息した。

 

「あっ――」

 

 カーテンを開くと同時にアーミヤは目を丸くした。そのまま無言で見つめ合う。

 

 アーミヤの後ろから頼りない光が差した。倉庫の電灯は電球が汚れているせいなのか、いつも心細い光を放っている。そんな光でも、ビリアの目に当たらなければいいな、と意識より先に体が動く。

 アーミヤは不思議そうな顔で後ろを振り返ってから「あ、すみません……」と中に入ってカーテンを閉めた。

 

「眠っていらしたんですね……すみません。気づかなくて」

 

 所在なげに佇む彼女を見て、幼いな、と思う。臍の下で手指がもじょもじょ動いていた。カーテンの端をちょこんとつまんだ心境のままここに来てしまったみたいだ。

 これで企業のトップなのだから驚いてしまう。感染者であることを理由に普通の生活ができないと思っていたけれど、そんなのは言い訳にすぎないのかもしれない、とつくづく思う。

 

「えっと……その。ゲントビリアさんに戦闘訓練のことで相談したくて来たんですけど……日を改めたほうがいいみたいですね。お疲れみたいですし」

 

 アーミヤがどうにか時間を捻出してここを訪れたのは容易に想像できた。その苦労を苦笑一つで流せるのだから敵わない。他人のために捧げる人生が染みついていることをルトナダは羨ましく思った。

 

「よろしければ言伝を預かりましょうか? ちょうど休憩していたところですから」

 

 ルトナダは体をそっと動かしながらベッドから立ち上がる。おずおずと「私、お邪魔じゃないですか……?」と上目遣いで見つめられ、一度逃がした熱が戻ってきた気がした。

 

 

 

 アーミヤの用事自体はかんたんに済んだ。ゲントが渋るだろうが、集団行動も作戦の一部だと言えば従うだろう。

 これで終わりだろうと気を緩めるルトナダをよそに、アーミヤはもうちょっと残りたがる素振りを見せたので、一緒にいることにした。

 

 しきりに居住まいを正すアーミヤの動きでパイプ椅子がきぃきぃ鳴く。金属部がところどころ錆びた粗末な椅子だった。ルトナダは視界の端でその動きを捉えながら、何か話したほうがいいのだろう、と考えたけれど、何を話せばよいのか分からず、じっと斜め下の床を見つめる。

 

 

「安らかな寝顔でした」

 

 出し抜けの言葉にアーミヤが「へ」と顔を上げる。ルトナダは倉庫の隅に目をやった。四角く切り取られた空間にアーミヤも目をやる。

 

「あぁ……ゲントビリアさん、ですか?」

「拍動を感じました」

「ふふ、とてもくっついていましたもんね」

 

 アーミヤはやわらかく笑った。

 背筋がむず痒くなったけれど、ルトナダは身動き一つせずに視線をいなした。

 

「ゲントには戦場を渡り歩いたせいで癖がついています。私と一緒にいても、ロドス本艦が移動している時の風鳴りや微細な振動を気にする素振りをよくしますから。常に一本、警戒の芯が彼を貫いているように感じられるのです」

 

 アーミヤは少し考えてから「戦場で気を抜けば命を落としますからね。そうした環境に昼夜を問わず身を置けば……はい」と頷いた。

 

「ですから、安らいだ顔を見ると、どうしても不安になるのです。私もまたゲントと長い間一緒にいました。無論ビリアがそういった顔を浮かべているのはよいことですし、彼が船をとても居心地のいい場所だと感じていることの証左に他なりませんが……。戦場に安寧はほとんどなく、空は鬱屈としていて、暗澹とした気配が地の果てまで色濃く漂い続けていました」

 

 腿の上で重なったルトナダの手が震えた。

 

「そのような場所でしたから、どうしても、安らかな顔に不安が募ります。ゲントでもビリアでも。そのような顔を浮かべていては、この先、必ず命を落とすことになる……と」

 

 アーミヤは相槌を打たず、じっと一点を見つめていた。

 アーミヤを含めたロドスのオペレーターとルトナダは雑談をほとんどしない。だが、楽しそうな人たちを不思議に思って遠目から観察することはままあった。

 

 自分よりも口下手な人はかなり少ない、とルトナダは思う。その口下手さゆえに、外交も戦闘もこなしてしまううら若い有望な少女を黙らせてしまったのだ。口を開くことはできるが、適切なタイミングで適切な話題を振ることができていない。

 となりを見た。依然としてアーミヤは静かだった。

 

「申しわけありません」

 

 ロドスに来てから何度も謝罪した。言葉尻にまで血の通った流暢な声だった。

 

「世間話をするために残ったように見えたのですが、口が重いようだったので、私のほうから話題を振ってみようと思い……申しわけありません。あのような話題ばかりで。私には――」

 

 俯いた視界には、自身の生白い手があった。視界を上から下へ遮って、別の小さな手が伸びてくる。両手が両手に包まれた。剣を振るのに慣れた手ではなくて、戦闘も政治も知らないようなやわらかい手だった。

 包まれたままの手がゆっくりと持ち上げられ、アーミヤの胸の前で止まる。自然とルトナダの顔は上を向いた。

 

「ゲントビリアさんって、戦場の悪意に敏感なんです。ブービートラップとかにもすぐに気づいてくれて、何も言わないで解除したり注意を促してくれるんです。言葉はアレなんですけど……。でもリスカムさんやフランカさんがすごく嬉しそうに話してくれて。

 相手の作戦の意図を読み取ることにも長けていますし、こちらの指揮や作戦の意図もすぐに汲み取ってくれます。戦場に身を置いた時間が長いからこそ、生き残るためにたくさんの戦場を考えてくぐり抜けたからこそ、経験にすべてが裏打ちされています。私たちはそれを頼りにしています」

 

「その人が」とアーミヤは笑った。

 

「少しでも気を抜いた仕草をしてくれているのなら、よく見てあげてください。というか見ないと損ですよ。覚えていてあげてください。ここはもう安全なんですから」

 

 少しずつ変わりゆく自分に戸惑った。変わろうとしないゲントビリアに腹が立ったし、でも、彼の言い分も分かるから無理強いはできなくて。人の尖った部分を見抜くための鋭利な感性を包みこんであげられるのは、もしかしたら自分だけなのかもしれない、と思ったらそれはそれで悪い気がしないし、どうしたらいいのだ。

 

 結論が出ないままこねくり回した難しさをそのままにして、あるいは先送りにして、ルトナダの世界は回り続ける。今日だって結論は出ない。ゲントビリアの望みから自分を抜いたら、いったい何が残るのだろう。

 でも、変わることを強制するでもされるでもなく、覚えていてあげて、と言われたことが新鮮だった。

 

 ふと、ゲントビリアから覚えていてもらいたいのかもしれない、と思った。ゲントビリアを頑なに健常者扱いしてきたけれど、違いを明確にすることによって釘で記憶に縫い止めようとしていたのだろうか。忘れられてしまうことが、嫌だったのだろうか。

 

 覚えていてほしいのですか?

 

 自分の胸に手を当てても心は返事をしなかった。

 翌朝になれば考えが変わってしまうのかもしれない、と気づくと裁縫の針が刺さったような鋭い衝撃が胸に走る。流れ落ちるのは血だろうか、涙だろうか。それともまた別の、腐った体液だろうか。

 

 

 

 同じ問いだとしても、人の返答は変わる。昨日まで考えていたことが翌朝になってまるっきり変わってしまうなんてこともある。不安定に移ろう人の思考と感情が、自分にもきっと備わっていた。

 記憶は頼りない。一本の細い線が自分とゲントビリアを結んでいるだけだ。それが途切れることが怖いのかもしれない。怖いのかもしれないし、翌朝、途切れてしまえばいいのにと考えが変わってしまうことも怖かった。そう思う前に、もっと彼の記憶に残りたい。

 この思いだって翌朝にはもしかしたら――。

 

 倉庫の一角はいまだに静かだった。薄いカーテンは停滞した倉庫の空気じゃびくともしない。

 

「よく見てあげてください」と言ったアーミヤに視線を戻した。

 

 揺れ動く感情を抱えたまま明日を迎えてもいいのだと、許された気がした。

 見えないものを包むように胸に手を当てたまま、ルトナダはアーミヤを見上げて笑う。自然体の笑みだった。

 

「ゲントは、悪意への敏感さ――この場合は観察力と置き換えることが妥当だと思いますが――の他に、運にも恵まれているのですよ」

 

「運……?」虚を突かれたのかアーミヤは目を丸くする。ルトナダは御伽噺で語られる海のような瞳を見つめる。

 

「罠を踏んでも不発に終わり、修理のために必要な物品がちょうどよく見つかり、そのようなことがままあるのです。言い知れぬ力がはたらいているのだ、と私は長いこと信じていました。ゲントビリアが感染者にならなかったのも、そういった理由からでしょう」

 

 戦場には常に、悪意と源石とアーツがあった。物語の主人公のように、作り出された人格は恵まれていた。

 

「覚えていてください。ゲントビリアはきっと貴方たちを、ロドスを――」

 

 ルトナダが言い切る前に、アーミヤは首を振って言葉を遮る。目を丸くするのは今度はルトナダの番だった。

 

「もうお二人には助けてもらっていますよ」優しく笑いかけ、続けた。「ゲントビリアさんがルトナダさんと出会えたのも、もしかしたら運がよかったからこそなのかもしれませんね」

 

 ちょうどアーミヤのポケットから音がした。彼女は端末を手に取り、倉庫の一角に目をやった。手早くメッセージを打ちこんでから「すみません」とルトナダを見る。

 

「行かないといけないみたいなので」アーミヤは名残惜しそうに扉を向いた。「せっかく出会えたんですから、もっと……大切を大切にするためにも、いろんな話をしたほうがいいと思いますよ」

 

 振り返りざまに言い残して、若きトップは去っていった。廊下から差す細長い光が途絶えるまで、ルトナダは扉を見続けた。

 アーミヤはこんなふうに、たくさんの人が過ごすテラをよくしてきたのかもしれなかった。

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