少年の身体は産まれながらに完成されていた。
名のある魔術師の家系ではなく、先祖に高名な英雄を持つわけでもなく、ただの一般家庭の産まれ。しかしその肉体は明らかに人間としての範疇を超えた性能を有していた。
一般人ながらに我が子の異常性を感じ取った少年の両親は、未だ幼いその才能を殺さぬため、数々の名だたる現代の武術家に息子を弟子入りさせた。
しかし、どんなに名のある師であっても、彼を一月と教えることは無かった。ある者はただの一月で全てを教えたのだと訴え、ある者は自身を超える圧倒的な才能を目の前に打ちひしがれ、ある者は未だ幼い少年が大成する前に殺そうと考え、返り打ちにあったのだった。
そしていつものようにまた新しい師の元へ送られた少年は、そこで魔術に出会うのだった。
新たに少年の師となった老人は魔術師だった。身体強化の魔術を駆使し、魔術を知らぬ一般人相手に武術教室と銘打って門を開き金を巻き上げる所謂詐欺師というものだ。
老人にとっては目の前の十かそこらの歳の少年もまた、ただの金蔓でしか無い。そう思って手合わせをした老人は愕然ととした。これまで何十年と培ってきた己の武術も魔術の使えない一般人では決して届くことのない身体強化を使った体術も、目の前の少年の純然たる身体能力の前には無力だったのだ。
魔術師として、その圧倒的な肉体に興味を持った老人は少年の身体を調べ上げた所、彼には魔力があった。しかし、悲しいかなそれを活かす魔術回路は魔術師の中でも中の下といった程度のものだった。
この様では使えるのは身体強化のような簡易魔術のみだろうと、老人は考え………じゃあもういっそ身体強化に全振りすれば良くね?と己が使える身体強化魔術の基礎を少年に教え、有る事無い事出鱈目理論も含めて少年に吹き込んだ。
今までの自身の常識から外れた、初めての経験に少年は夢中になった。
詐欺師の老人を人生最高の師と仰ぎ、老人の理論を元にさまざまな身体強化魔術を生み出した頃にははや数年、少年は青年とも呼べる年齢になっていた。
そろそろ就職も考える年齢になった青年は自らの師にその話をすると、時計塔の知り合いが何だのと、青年の知り得ない話をしながら、仕事を紹介してくれた。
血液検査や身体能力テストなど、細々とした試験や検査を通して見事青年は仕事にありついた。
そして、青年は強烈な吹雪が吹き荒れる標高6000メートルの雪山をその足で踏破し、人理継続保障機関フィニス・カルデアへと足を踏み入れるのだった。