雪山の傾斜にポツンと佇む、無機質な人工物の入り口からカルデアへと足を踏み入れた青年は、入ってすぐ目の前の廊下に少女がうつ伏せで倒れているのを見つけた。
早足でその場に駆けつけた青年は、ひとまず少女を仰向けにして息をしていることを確認し、肩を揺すって目を覚まさせる。
「おーい、大丈夫ですかー?」
「……んぁ……後3時間……」
「長ぇな」
少女の寝言を無視して肩を揺らし続けていると、白いモコモコとした怪生物がどこからともなく走って現れ、勢いそのままに未だ目覚めない彼女の顔面へとダイブした。
そしてそれに続いて、この白い怪生物を追ってきたのか、メガネをかけた少女が小走りでこちらへ向かってくる。
「ああ、フォウさん!こちらにいましたか……って、そちらの方はどうされたのですか!?今ドクターをお呼びして」
近づくにつれて倒れている少女を認識したメガネの少女がそういうや否や青年の腕の中で眠っていた少女が目を覚ます。
「んあ?……ふぁあ、よく寝た〜」
「って、どうやらただ寝ていただけのようですね。あの、お体は大丈夫でしょうか?」
「ん?………ふぇあ!?ご、ごごごめんなさい今退きます!」
メガネの少女の問いかけで完全に目が覚めたのか、青年の腕に抱かれた状態の自分を認識した少女は慌てふためきながら身を翻し、顔を赤くして立ち上がる。
ひとまず体に異常がないことを確認して、お互いに自己紹介をした。
「俺はリオン・アルスベル、リオンで良いよ。カルデアに入ってすぐに人が倒れてるもんだから驚いたぜ」
リオンがそう言って自己紹介をすると当の本人は恥ずかしそうに頬をかいた。
「うぁ、その節はご迷惑をおかけしました………私は藤丸立香!みんな同い年くらい……だよね?ここに来てすぐにしゅみれーた?っていうのをやったんだけどその後の記憶が曖昧で……」
「ん?シュミレータ?なんだそれ?俺は受けてないぞ」
「あれ?」
「というかこんな雪山登らされて、そんなもん受けろなんて正気か?」
リオンが一人やべぇなこの職場と感慨に耽っていると、まだ自己紹介をしていなかったメガネの少女が声を掛けてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください、今、登ったとおっしゃいましたか?」
「ん?ああここまで徒歩だぞ俺は。本当に今着いたばっかなんだよ」
「登った……?この猛吹雪の中を……?」
「ねぇねぇ、貴女の名前も教えて!」
「…っは!し、失礼しました。私、マシュ・キリエライトと申します」
「マシュちゃんね、よろしく!私のことは立香で良いからね!」
自身の故郷から遠く離れた地で歳の近い同性の存在が嬉しいのか、立香は何処か嬉しそうにマシュと話している。
そうして、最初に出会った廊下でそのまま駄弁って5分程経った頃、黒のファーがあしらわれたモスグリーンのコートという金持ち以外着ない服を着たいかにも魔術師っぽい男が現れた。
「ああマシュ、ここにいたか、そろそろミーティングだ、そこの二人もマスター候補の最後の二人だね?なら君たちも一緒に」
「あの、お二人は今カルデアに到着したばかりで、体調に問題があるかもしれませんし、一度ドクターに診ていただいた方が良いかと」
先程まで倒れていた立香と猛吹雪の中弾丸登山をしてきたリオンを心配してか、マシュがそう切り出してくれた。
「ふむ、それでは仕方ないな。この廊下を真っ直ぐ進んだ先に医務室の看板が見えるはずだ、そこでドクターに診てもらいたまえ」
そう言い残して、コートを翻しながら男は廊下の先に消えていった。
「そういうわけですから、お二人はこのまま医務室へ向かってください。私は聞いての通り用事がありますので、またお会いしましょう」
「いろいろとありがとうね!」
そしてマシュも先程の男と同じ方向へと小走りでかけて行った。
取り残された立香とリオンは二人、医務室を目指して歩く。
「「………」」
歩いている二人の間には先程までとは打って変わって会話は無い。
リオンは単純に産まれてこの方同い年の女の子と関わる機会が無かったので何を話せば良いかわからないから黙っている。
立香の方は学生だったこともあり、同年代の異性との会話もそこそこ慣れているが、ついさっきまでリオンの腕の中でぐーすか眠っていたのを思い出して恥ずかしさに悶えて話せないでいた。
「あ、医務室の看板ってこれじゃ無い?」
「みたいだな」
とうとう無言のまま医務室へと辿り着いた二人は、気まずさを紛らわせるためにも、医務室の扉を開くのだった。