実力至上の学校に入学しました(いいタイトルが浮かばないので仮題) 作:シュンちゃん
5月1日、目を覚ました俺は端末を確認する。そこには昨日と変わりないポイントと律が表示されていた。
「...まさかな」
一旦電源を落とし再起動。してみてもポイントは変わらない。あーあ0ポイントだ。つまり評価も価値も0ってコトォ!?ま、まぁ一応保険は打っておいたし、大丈夫だろう。支度して学校行こ。
いやー今日も騒がしい。いつも騒がしいが今日はいつも以上に騒がしい。
席に着いて端末を弄っていると、手にデカイ筒を持った茶柱先生が険しめな面持ちで教室に入ってくる。
「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたー?」
良かったな池。この学校でなければ君は既に犯罪者だ。
「これよりホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか?気になる事があるなら今聞いておいた方がいいぞ?」
皆戸惑いながらもポイントが振り込まれていない事について声を上げ始めた。まさかだけど、あれだけ好き放題してポイントが貰えると思っていたのか?
「...お前達は本当に愚かな生徒達だな」
突然の豹変に空気が変わった。
「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられたなどという幻想、可能性もない。わかったか?」
一息入れて茶柱先生は俺を見た。
「お前ならポイントが支給されなかった心当たりがあるんじゃないのか?飛鳥」
名指しされた事によってクラスの注目が集まる。
「俺達Dクラスには0ポイント支給されたって事ですかね。何となくこうなる気はしてましたけど」
「何だ、やはり気づいていたのか。まぁそうで無ければあんな『話』もしないか。...しかし、あれだけヒントを与えられて気づけたのが数人とは、嘆かわしいばかりだ」
「...先生、質問があります。腑に落ちない事があります」
ポイントよりクラスの不安をどうにかしようと動く男。平田だ。
「振り込まれなかった理由を教えて下さい。でなければ僕たちは納得出来ません」
そういえば内容を聞いていない。
「遅刻欠席98回、授業中に私語や端末を触った回数391回。わずか1ヶ月で随分とまぁここまでやかしてくれたものだ」
えぇ...いくら何でもやりすぎだろう。このクラスの連中は想像以上に想像以下だな。エンドのDって呼ぶか。広めておこう。
「この学校ではクラスの成績がポイントに反映される。その結果、お前たちは度重なる自らの愚行によって本来振り込まれるはずだった10万ポイント全てを吐き出した。それだけの事だ。入学式の日に説明したはずだ、この学校は『実力』で生徒を測ると。つまりお前達は評価0のクズ、という訳だ」
果たしてこの学校以外で生徒を堂々クズ呼ばわり出来るホームルームはあるのだろうか?あったらそれはきっとここの分校とか系列の学校だろう。ないけど。
死刑宣告にも似た茶柱先生の言葉に、きっとクラスメイトの頭は真っ白になっただろう。
「茶柱先生、僕たちはそんな説明をされた覚えはありません...」
多少動揺しているらしい平田が質問を続ける。
「ふむ、確かにお前の言う通り、そんな説明を私は一切していない。逆に聞くが、お前達は説明されなければ理解出来ないのか?」
「当たり前です。予め説明さえされていれば遅刻や私語もせず、ポイントは減点されませんでした」
どうかなぁ...ヤンキーいるしなぁ...性犯罪者予備軍もいるしなぁ...
「それはおかしな話だ。例えばこれが理不尽なものならばその主張も通るだろう。では聞こうか、お前ら高校生は小、中学校で遅刻するな、私語はするなと言われなかったのか?」
俺は日本の中学校1年ちょいしか通ってなかったから知らんけど、それくらいは常識として備わるはずだ。
「そ、それは...」
「身に覚えがあるだろう。義務教育の9年間、いや、幼稚園保育園でも嫌という程言われてきたはずだ。高校からは義務教育じゃない、お前達は自分の意思で当校を志望、受験し、そして合格した。それについては素直に賞賛する。事実当校の倍率は非常に高く狭き門だ。その門を見事潜り抜けたはずのお前達は、そんな事すら分からないのか?これは自己責任だ。甘んじて受け入れろ」
「さらに私はお前たちに聞きたい。お前たちはおよそ一ヶ月前、十万円支給されたことに対して驚いていたな? そう、当然だ。そして私は、あの巨額はお前たちに対する褒美だと答えたな。そしたらお前たちは勝手に来月からも十万円貰えると錯覚した。愚かにも程がある。どうして高校一年生になったばかりの若者に、なんの制約もなしにそんな大金が与えられると思った? この学校、高度育成高等学校は、知っての通り国主導で作られた。その理念は、次世代に活躍する若者を支援するためだ。──常識で考えろ。何故疑問を疑問のまま放置する?」
10万円というのは数字では少ないかもしれないが、金額という面では1個人が所有するには大きな額だし、この額を稼ぐとなると、一般企業の平社員なら半月程度働かなければならない。そのため、この10万円というのは、数字以上の重さがある。
「ではせめて、ポイントの増減についての詳細を教えて下さい。今後の参考にします」
「それは出来ない相談だな。人事考課、つまり詳細な査定内容は教えられないことになっている。社会も同様だ。例えばお前たちがこの学校を卒業して、どこかの会社に入社するとしよう。その時に詳しい査定結果を告げるか否かは、その会社が決めることだ。──しかし、そうだな。ここまで悲惨だとあまりにも憐れだ。私もお前たちが憎くて冷たく対応しているわけじゃない。一つアドバイスをしてやろう」
ここまでドン底に突き落としておいて出来るアドバイスって無いと思う。
「お前たちが改心して、遅刻や私語を無くし、マイナスポイントをゼロに抑えたとしても、減ることはあっても増えることは無い。つまり来月振り込まれるポイントもゼロだ。だが裏を返せば、どれだけ遅刻や私語をしたとしても関係ない。どうだ? 覚えておいて損はないぞ?」
「先生、それは……ッ」
う、うん。ありがたいアドバイスだけど分かりづらい。このアドバイスの真意に気づける人間が何人いるだろうか。このお通夜みたいなムードの中で。お通夜行ったことないけど。
SHRの終わりを告げるチャイムが鳴るが、茶柱先生は話を終わらせない。いや、終わらせられない。何故なら──まだ本題に入っていないからだろう。
「時間を取りすぎてしまったな。これで学校のシステムは理解出来たはずだ。──これを見ろ」
手にしていた筒から厚手の紙を取り出し、ホワイトボードに磁石で貼り付ける。生徒たちは茫然自失といった様子でその紙を見ていた。そこにはAクラスからDクラスの名前と、現在所有しているであろうポイントが表示されていた。俺達Dクラスはもちろん0。Cクラスは490。Bクラスが650。そして神室さんのいるAクラスが──なんと驚くことに940。1000ポイントが十万円相当に値する、といった感じか?神室さん優秀だったんだ。
「学校側はお前たちの行動に一切文句は言わない。事実、ポイントの使用方法について制限は掛けなかったし、自由に使えとも言っただろう」
そう、だから俺は自由に使い、ポイントを増やせるように準備していた。
「こんなのってあんまりっすよ! これじゃ生活出来ませんって!」
池がクラスの意見を纏めてそう叫んだ。ポイントを全て消費した生徒に至っては、阿鼻叫喚と化していた。
「良く見ろバカ共。それはお前たちだけだ。現に、他のクラスは問題なくポイントが残っているだろう。Dクラスの次に下なのはCクラスだが、それでも一ヶ月過ごすには十分すぎる大金だ」
「先生、おかしいですよ! なんでオレらだけ...」
「だから自業自得だと言っている...と言いたいところだが、中々の着眼点だな池。そう、お前の言う通り...Dクラスだけが何故かゼロポイントだ」
「どうして僕たちだけ、こんなにも歴然とした差になっているんですか?」
平田の問いかけに、茶柱先生は満足そうに一度首肯する。
トップのAクラスとの差は940ポイント。あまりにもおかしい。
「須藤。お前は入学初日、上級生に絡まれたな?」
「あ? 何でンなことを知ってんだよ」
このヤンキー須藤って言うのか。初めて知った。あだ名はヤンキーでいいや。
「良いから答えろ」
「……確かにムカつく奴らに絡まれたけどよ……」
絡まれたのか。でも上級生でも下級生を見下すのか。なんて言うか...なんていうかだよ。あまりにもレベルが低すぎる。その上級生もこいつと同類だろう。ヤンキー多すぎ事件。
「良かったな須藤。あの時綾小路と、彼と一緒に居た女子生徒が後片付けをしなかったら反省文だったぞ」
「……綾小路が……?」
女子生徒?名指しじゃないって事は他クラスの子だろうか?やるじゃないか綾小路。
「ああ、そうだ。綾小路たちはお前が散らかしたカップラーメンを処理した。後で礼を言うんだな」
切れてカップ麺ぶん投げたのか。小学生でもしないよ。
「……それは後で言われなくてもするがよ。その話がどう繋がんだよ」
確かにヤンキー君の言う通りだ。この一件と今回の話に、どう関係が……いや、まさか。
「上級生に言われなかったか? 『不良品』だとな」
「あァ? それが何だよ!」
「そう、須藤は『不良品』だと言われた。ただここで注釈するが、『不良品』はお前たち全員だ。──ここまで言えば、分かるだろう? お前たちがどうしてDクラスに配属されたのかがな」
「俺たちが『不良品』? Dクラスに選ばれた理由? 知らねぇよ、適当じゃねえの?」
「普通クラス分けってそうだよね?」
ああなるほど。よく理解した。
どうしてDクラスが『不良品』と呼ばれているか。
「当校では優秀な生徒から順にAクラスに配属している。逆に不出来な生徒はDクラスだ。まあ、この制度は近年各高校でも内密ながら実施されている所もあるし、大手塾でもそうだろう。つまりこのクラスは、最悪の『不良品』が集まる最後の砦というわけだ。そしてお前たちは──この一ヶ月でそれを証明してみせた。おめでとう、よくやった」
かのギリシアの哲学者、アリストテレスは『人間は社会的動物である』と述べた。これは、人間という生物は他者との接触がなければ生きていけないことを意味している。優秀な人間と、そうではない人間が同じ空間に居たら──良くも悪くも影響される可能性は高い。そして不出来な人間とは、少しのことでは変わらない。 何故ならそれこそが──不出来な理由なのだから。
しかし逆に優秀な人間は対応できるからこそ自分を高める。そして彼らが混じりあった時、優秀な人間はあっさりと堕ちてしまう。
かつて椚ヶ丘中学校においても、同じようなクラス分けが成されていた。優秀な生徒程上に、不出来な生徒程下に。最低評価を受けたり問題を起こした生徒を隔離する底辺クラス、それこそが『エンドのE組』だった。
「しかし同時に感心もした。当校が創立されてから、たったの一ヶ月で十万ポイントを根こそぎなくしたのはお前たちが初めてだからな。お前たちは図らずも偉業を達成したわけだ」
わざとらしく手を叩く茶柱先生。虚しく響く拍手は、俺達を嘲笑うかのようだった。
「だが安心しろ。流石に生徒を死なせるわけにもいかないからな。寮はタダで使えるし、コンビニや自販機、食堂には無料商品がある。それを使えば良い。それかもしくは、ポイントを他の生徒から貰う方法もあるぞ?」
この学校はこの特殊なシステムを有する為か、外界とはほぼ隔絶されている。生徒が死んだとあれば、確実に学校、ひいては政府の責任になりかねないだろう。それを回避する為の最低限の措置というところだろう。
「...良く理解したぜ。これから俺たちは、他のクラスの奴らからバカにされるってことか」
ガンッ! 机を足で蹴ったのはヤンキー君だった。彼の左隣の佐倉さんが怯えてしまうから、とりあえず退学して欲しい。
だが彼の気持ちも分からなくはない。不名誉な偉業を達成した俺たちDクラスが他クラスから、ともすれば上級生からも馬鹿にされるのは必然だろう。
「なんだ須藤。お前も体裁は気にするんだな。だったら上のクラスに昇進出来るよう頑張ってくれ」
「あ?」
「クラスのポイントはそのままクラスのランクに反映される、というわけだ。例えばお前たちDクラスが500ポイント以上残していたらCクラスに。有り得ないとは思うが、仮に950ポイント以上残していたら一気にAクラスだ。どうだ、やる気が出るだろう」
ならもっとやる気が出るような喋りをして欲しいところだ。
「次に残念な知らせがある。──これを見ろ」
茶柱先生はそう言いながら、新たな紙をホワイトボードに貼り付けた。クラス全員の名前と、その横には数字が表示されていた。
「これは以前行われた小テストの結果だ。見ろ、この惨憺さんたんたる結果を。お前たち、中学時代は何をしていた? いやはや、本当、一周まわって笑いが込み上げてくる」
嗤われても文句が言えない数字の羅列。
一部の上位を除き、大半の生徒は60点前後の点数しか取れていない。
一番最下層に位置するのは、俺の0点、は置いといてヤンキー君の14点。正直彼のことはバカだと思っていたがここまでだとは思っていなかった。次点で池の24点。平均点は……65点前後といったところか。
「飛鳥は名前がなかったから0点だが、良かったな。これが成績には反映されない小テストで。もし本番だったら8人はこのクラスから永遠退場だったぞ」
「ちょっ、待って下さい! え、永遠退場って……退学ってことですか!?」
「その解釈で間違いない。──ああ、そう言えば言ってなかったか。これから定期テストで一科目でも赤点を取ったら退学して貰うことになる」
「「「はああああああああ──!?」」」
7人の赤点候補の生徒が驚愕の悲鳴を上げた。
赤点で一発退学かぁ...厳しくない?
31点の菊池という生徒の上で、茶柱先生はわざとらしく赤線を引く。つまり彼以下の七人は退学になっていたのか。そうなると、今回の平均点は62点か。
「ふっざけんなよ佐枝ちゃんセンセー! 退学なんて冗談じゃ……!」
「私に言われても困る。それに安心しろ池。今回はその通達も込めて成績には反映されてないだろ。ここから勉強すれば良いだけのことだ」
「んな……!?」
そーそー勉強すりゃいいだけなんだから。慌てる必要もないでしょ。
「ティーチャーの言う通り、このクラスには愚か者が多いようだねえ」
口をパクパクとする池に、高円寺が尊大にもそう煽った。姿勢は変わらず、足を机に乗せたままだ。
「なんだと高円寺! お前だってどうせ赤点組だろが!」
「フッ。君の目は節穴かな池ボーイ。よく見たまえ。ああ、無駄な労力を減らすため、上から見るが良い」
「はあ? ……えっ、マジかよ!」
高円寺六助の名は、堂々の同率首位に名を載せていた。「バカキャラだと思っていたのに……!」と悔しがる池たち七人だが、そうでもない。
彼は授業だけは真面目に受けていた。多分、そういった線引きを自分でしているのだろう。高円寺はにっこりと微笑む。まるで自分の力を誇示こじするかのように。白い歯が眩しい。キラン。
「それからもう一つ付け加えよう。お前たちがこの学校を志望したのは、高い進学率、就職率を誇る噂を聞いたからだろう。事実、その噂は間違っていない。そして当校は、生徒が望む未来を叶えると、そう謳っている。だが...世の中そんなに上手くいくはずがない。──Aクラスだけが、その恩恵を得られる。それ以外の生徒の将来は確約出来ないとだけ、言っておこう。もちろん、必要最低限のことはする。ただ、それだけだ。あとは自分でやってくれ」
「先生! そんな話は聞いていません!」
男子生徒が茶柱先生に苦情を訴える。
「みっともないねぇ。幸村ボーイ、これは私のありがたいアドバイスだが、男が慌てふためくモノほど惨めなものは無い」
幸村...あっ上位にいる。
「...!?お前はDクラスに割り当てられて悔しくないのかよ!」
「何を悔しがる必要があるんだい? 私は私のことを最も理解している。学校側が私のポテンシャルを測れなかった、それだけのこと。仮に学校側が私に退学しろと言うのなら、私は喜んで退学しよう。その後泣きついてくるのは百パーセント学校側だからね」
『唯我独尊』という言葉は彼のためにあるのだろう。
幸村は高円寺の言葉に食い下がるが、『自由人』の前では為す術もなかった。ここまでで分かったことがある。
このDクラスは──学力だけで生徒は配属されていない。でなければ高円寺の様に点数が取れるものとヤンキー君の様にただのバカが一緒のクラスになることもなかっただろう。それらを考慮するに、恐らくDクラスの生徒は何かしらの欠陥を持っているのだ。だからこその『不良品』。『優良品』に一歩遅れを取ってしまう。俺にも欠陥があるのか。どこだろう?
「浮かれた気分は払拭されたようでなによりだ。それだけでこの茶番劇にも意味はあったのだろうな。中間テストまで残り三週間。勉強するもしないも自由だ。たださっきも言ったが、赤点を取ったら問答無用で退学処分なのでそのつもりでいろ。赤点を回避したければ、必死に勉強するんだな。安心しろ。お前たち全員が赤点を回避する方法はあると、私は確信している。それではSHRは終わりだ。あとは好きに過ごすが良い」
名前書き忘れたので0点です。名前はちゃんと書きましょう。読める字で