実力至上の学校に入学しました(いいタイトルが浮かばないので仮題) 作:シュンちゃん
作戦実行の場はケヤキモール裏手の搬入口付近に決まった。ここなら時間さえ合えばどちらにとっても邪魔は入らないだろう。隠れやすそうな壁やそこそこの高さの屋根もある。これくらいなら登って待ち伏せても問題ないだろう。下から見ても見つからない位置を確認し、ついに決行の為の呼び出しの手紙を出す。こっちから仕掛けないと待ち伏せのしようが無いからだ。手紙は明日読むようにしてストーカーに渡す。なので勝負は明後日。
「にしても随分入念に準備するのね」
「そりゃあ1回ミスったら全部パァだからねぇ、それに準備にし過ぎることなんてないさ。不測の事態に対応する二の手三の手も大事だ」
「今回はその二の手三の手は用意してあるの?」
「抜かりなく。あんまり使いたくないけど」
「何するつもり...いえ言わなくていいわ」
失礼な。殺すようなことはしない、多分。
そんなことよりも明日へ向けて英気を養うために、今日はちょっと奮発して良いお店に3人で入った。最初は遠慮していた2人だったが、神室さんには巻き込んでしまったお詫び、佐倉さんにはストーカー被害を労る為として、少し強引に店に押し込んだ。やはり体力は大事。食こそ一番のパワーの源だ。
ストーカーへの手紙は俺が考え、佐倉さんに書いてもらった。彼女っぽい文章を考えたが、流石に字体は真似出来ないので、女の子らしい字に書き換えてもらった。それを封に入れ、家電屋に向かう。どうやら今日もせっせと労働に勤しんでいるようだ。
「すいませーん」
「どうかされましたか?」
来たのは別の店員さんだ。この人にお願いしよう。
「あの、この手紙をあちらの店員さんに渡して貰えますか?」
「?それなら呼んでくるのでご自分で渡せばいいのでは?」
「この後急ぎで別の用事があるので、出来れば店員さんにお願いしたいんです。ダメですか?」
「はぁ...まぁ渡すだけならいいですよ」
「ありがとうございます!ではお願いします!」
手紙を手渡し、早足で家電屋から離れる。これで準備は整った。全ては明日にかかっている。まあ余程の事が無ければ失敗とか悪い結果にはならないだろう。ちなみに内容は、
《あなたからの沢山の愛に感銘を受け、1度お会いしたいと考えるようになりましたので、お返事を書かせていただきました。つきましては明日の放課後に伺うので、お話をさせて下さい。雫》
といった感じだ。ストーカーからの手紙をいくつか読んでいて【愛】だの【運命】だの何度も書かれていて語彙力の低さに感銘を受けたもんだ。嘘はついてない。あと【雫】というのは佐倉さんのアイドル名だ。しかし...今年高校生って事は去年まで中学生...どう考えても犯罪だわ。ヤバいわよ!まあとにかくそれも明日で終焉だ。こちらも気合いを入れなければ。
さあ運命の日、決行の日だ。
放課後になると早速ケヤキモールに向かう。俺と神室さんは家電屋付近まで佐倉さんと移動し、そこからは物陰に隠れて2人の後を追うように移動し、予定していた場所にストーカーを誘い込んだ。ここからは佐倉さんの勇気が試される時間だ。俺と神室さんも所定の位置でカメラを起動させる。
「それで...話ってなんだい?雫」
「もう、こんなの寄越さないで下さい!迷惑です...!」
そう言って持っていたカバンから大量の手紙を吐き出した。以前見せて貰った時より量が増えている。よくそんなに書く暇があるもんだ。
「どうしてそんなことを言うんだい?僕は君の事が好きなんだ。本当に...本当に好きなんだ。雑誌で君を初めて見た時からね」
やはりストーカーは佐倉さん、いや雫のファンだったんだろう。推しの子が自分の職場の近くに来ればお近づきになろうとして暴走しているといった感じだろうか。はた迷惑な話だ。それと手紙の件を否定しないあたり、あの気持ち悪い大量のラブレターもやはりストーカーが差出人ということになる。
「いやあ、初めて君を見た時の僕の興奮を、きみは分かってくれるかな? 君みたいな天使を、僕はこれまで見たことがない!そしてその天使が、僕の手の届く所に来てくれた!」
「...どうして私の正体を...知っているんですか...?」
「そんなの見ればすぐわかるさ。眼鏡をしていようと髪型を変えようとね。君が僕の店を訪ねて来た時は、嬉しさのあまり泣きそうになったよ」
ストーカーは理解しているのだろうか?自分の行動全てが佐倉さんに嫌悪感と恐怖を植え付けていることを。自分のアプローチが最初から間違っていた事を。
「僕がどれ程君が好きなのかは理解してくれたと思う...。好きだ、好きなんだ。愛していると言っても過言じゃない! この気持ちを抑えることは無理だよ!」
前言撤回。理解してないな、うん。
「それにしたって酷いじゃないか...これは僕達の愛の結晶じゃないか!」
ストーカーは地面に散らばった手紙を指し叫び出した。
「僕達の愛の結晶をこんな風に扱うなんて...。いくら雫...いや、愛里でも許されないことがあるんだよ?」
「どうして私の部屋知っているんですか!...どうして、どうしてこんなものを送ってきたんですか!?」
「......」
「答えて下さい!」
「......決まっているじゃないか。僕たちは心で繋がっているんだよ」
答えになっていない。おそらく言えないのだろう。犯罪ギリギリの方法で知ったのか。それとも別の方法か。
「さて、そろそろ一つになろうか愛里。大丈夫、痛くないから......」
「いっ...いやっ!!」
ストーカーは佐倉さんに近づく。佐倉さんも距離を取ろうとするが、すぐ壁にぶつかってしまう。まだストーカーは明確に手を出していない。証拠を取れないのでまだ動けない。もう少しだけ耐えてくれ...!
「ふぅ...ふぅ...愛里...」
腕を握った瞬間をカメラに捉えた。証拠を得た以上じっとしている訳にはいかない。
「愛里!!ガッ!?」
速攻で意識を刈り取る。人間は頭蓋を揺らすと脳震盪を起こし、さらに揺らすと簡単に気絶させられる。訓練された人間なら不意を突くにも苦労するが、ただの一般人相手なら簡単だ。屋根から飛び降りながら頭に蹴りを打ち込む。拳より蹴りの方が威力があるし、余計な力を使わないので楽なのだ。佐倉さんを掴んでいる手も離し、地面に崩れ落ちる。
「神室さん、連絡急いで」
「わかってる」
神室さんに連絡を任せ、佐倉さんの元に。
「佐倉さん、大丈夫?」
「う、うん」
「落ち着くまで座ってて」
「その人、大丈夫かな?」
「気にする事ないよ。犯罪者なんだし。手加減はしたけど死んでも文句言えないよ」
「えっ?」
「ん?あっここ日本だった」
アメリカでは犯罪者に発砲とかよく聞いたけど、やっぱこ感覚が違うのにはまだ慣れそうにない。
「先生と警備員がすぐ来るから待ってろって」
神室さんは連絡を終えそう報告してくれる。
「結局一撃で落としたけど、他の方法はなんだったの?二の手三の手ってやつ」
「あれね、金的とスタンガン」
ポケットから小型のスタンガンを取り出す。市販品だからそこまで威力はない。
「金的...股間を蹴り飛ばすアレよね?やっぱ痛いの?」
「男にとってはやられたら命の危険がある。実際死亡例がある」
「えぇ...」
「ちなみに死因はショック死になっている。アメリカでは内蔵扱いだから売却して金にしたってニュースもあった」
まさに金の玉。
「...聞かなきゃ良かったかも」
しばらくしてやってきた大人達に事情を話し、証拠の手紙やら映像やら下手人を引き渡して今日は解散になった。明日改めて話をすることになった。
話をすると言っても実際あった事を全て話し、学校側、お店側から謝罪を受けた。慰謝料として俺と神室さんに300万、被害者の佐倉さんには500万が渡され、必要ならカウンセラーもつけることになった。本来ならもっと少ない額だったが、例の映像を使いこう脅した。
『この映像をニュースに流せ。国が力入れてる学校でストーカーは問題だ』と。実際ストーカーは犯罪だし、問題だ。だが大事にしたくない学校は先の金額に増額し映像を買い取り、学校側のミスと今後の戒めとしてニュースにする事にした。
まあとにかく、ストーカー問題も終了だ。
ストーカーをどれくらい気持ち悪い人間にしようか悩みましたが、どうせここでしか出ないのでこんな感じです。