呪詛返シ請負人   作:とも667

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 如月はどうなったのでしょうか。


エピローグ

その後。如月達はその場から離れたあと、障害者たちは事情を話して、警察に保護された。一方如月は、とりあえず近くのボロアパートで寝泊まりすることにした。

 

「……大地震か」

 

 如月がベッドに寝転がり、次の日テレビを見ていると……アクティングのことがニュースになっていた。

 

「流石、あれだけの呪いをぶつけただけはあるな」

 

 これまでにかけられた刻印を、全てぶつけた。だからここまで大きなことが起きたのだ……そのおかげで如月の体は、すっかり綺麗になっていた。

 

「……そういえば、いつまで経っても刻印の効果が来ないな」

 

 何故なのだろう。その呪いもまとめてぶつけたのだろうか? 如月はそう思って、自身の親である所長のことを考えた。

 

「植物人間、ね……」

 

 自業自得の末路だった。そうなって当然だ、死ぬのが当たり前の相手。障害者はみんな助かった、アクティングは二度と再起できない。これでよかったのだと、如月は……自分に言い聞かせていた。

 

「なんで俺……そんなこと、言い聞かせてるんだ……?」

 

 如月は、自分で自分の気持ちがわからなかった。如月はそこで気づいた。自分の目に、涙が溜まっていることに。

 

「う、ううっ、うぐぅぅぅっ……!!!」

 

 溢れ出す涙を抑えられずに、如月が蹲る。如月の心を支配しているのは、憎い相手を倒した喜びでも、達成感でもなく……肉親を殺してしまった、悲しみであった。

 

「なんで、なんだよ……ううっ、辛くなんて、ないはずだろ……どうしてこんなに、悲しいんだよ……!!」

 

 何もしてもらったことなどない。ただ、尊厳を壊され続けて……拷問のようなことをされ続けただけだ。如月はそれでも、今は泣く以外のことができなくなっていた……そこで、如月はよく知った感覚を背中に感じる。大きな黒い十字架が、如月の背中に刻まれた。

 

「うっ、うっ……まさか、これなのか……」

 

 悲しむ必要などない肉親の死を、悼んで悲しみ続ける。それが所長の子供である自分への、最後の『呪い』なのだと、如月は気づいた。

 

「なんて、嫌がらせだよ……クソが……!!」

 

 悲しみたくないのに、どうしても悲しくて。泣きたくないのに、涙が止まらなくて。如月にできたことは歯を食いしばって、声を我慢すること程度だった。

 

「……わかったよ。背負っていけばいいんだろ」

 

 肉親殺しの罪と悲しみを、永遠に背負う。それが俺への呪いだと言うなら、受け入れよう。そう割り切って、如月は立ち上がる。

 

「お前の呪いになんて、負けてやらない」

 

 空に向かって、如月はそう宣言する。これを背負って最後まで生き切る。そうすれば、自分の勝ちだ。如月はそう判断した。

 

「だから……精々地獄の底で、俺の生きる姿を妬んでろよ。クソ女」

 

 如月はそう吐き捨てた後、服の袖で涙を拭い去った。

 

 

 

 それからしばらく経って。如月は事務所を燃やされてしまったので、前やっていた仕事はできなくなっていた。なので、如月はその日暮らしのフリーターをしている。そんな時……これまで助けてきた人への心配が、如月の脳裏をよぎった。

 

「……そういえば、彼らはどうなったんだろうか」

 

 大樹くんは学校に通えているだろうか。友也くんは、作業所に行けているだろうか。貞義くんの精神は、回復しただろうか。晴輝くんは、あれから大丈夫なのだろうか。助け出した障害者の皆さんは、どうしているだろうか。如月がそんなことを思っていた時に……アパートのドアがノックされた。

 

「どなたですか?」

 

「あ、お久しぶりです。ほら大樹、挨拶して」

 

「こんにちは、如月さん」

 

 そう言われて、如月の顔が明るくなる。

 

「大樹くんと新野さん? どうぞ、入ってください」

 

「お邪魔します……あ、実は私だけじゃなくてですね」

 

「えっ?」

 

 如月がドアの方を見ると、みんなが顔を出した。

 

「こんにちは、お久しぶりです!!」

 

「元気にしてましたか?」

 

「あの時はお世話になりました」

 

「私達もいますよ!!」

 

 みんな、自分のところに来てくれた。自分のことを、覚えていてくれた。如月はそれが嬉しくて、涙が出そうになったが……全員が部屋に入ってこようとするのを見て、冷静になった。

 

「ストップストップ!! 全員入ってきたら入り切らないですから!!」

 

「あぁ、そうか……」

 

「田中さんだけ、代表ってことで……ね?」

 

 如月が説得し、元利用者の団体は田中だけになった。このままでは、部屋で満員電車を味わうことになっただろう。如月がほっと胸を撫で下ろす。

 

「来てくれてありがとうございます。といっても、出せるものもないんですが……」

 

「構いませんよ、そんなつもりありませんし。今日は、これを渡したくて来たんです。ほら、大樹」

 

「はい、如月さん!!」

 

 大樹が手渡してきたのは、小学三年生が書いたお礼の似顔絵。クレヨンで書かれたカラフルな顔が書かれた下に、『ありがとう』と大きく書かれている。

 

「……ありがとう。本当に嬉しいよ」

 

「ほら、友也。渡すんでしょ、あれ」

 

「如月さん、その……受け取ってください。僕の工賃で買ったんです」

 

 如月に差し出されたのは、大きな紙袋。中には依頼の時と同じように、レトルト食品やカップ麺が詰まっていた。

 

「ありがとう友也くん、大切に食べさせてもらうよ」

 

「ほら、貞義。見せてあげなさい」

 

「如月さん。これ、あげる!!」

 

 そう言って渡してきたのは、一枚の写真。そこには、県大会優勝のトロフィーを持って、満面の笑みの貞義と仲間たちがいた。

 

「そうか、優勝したのか……!!」

 

「如月さんのおかげです!! ありがとう!!」

 

「いや、君の努力の成果だよ。俺は理不尽から助けただけさ」

 

 如月がそう言って、純粋に貞義を褒める。今度は後ろから、晴輝の声がした。

 

「ほら晴輝、渡してあげなさい」

 

「これ……どうぞ」

 

「これって……遠足の写真?」

 

 目が見えずとも、晴輝くんは幸せそうに笑っている。友達に囲まれて、とても楽しそうだ。

 

「学校の遠足の写真なんですが、目が見えなくても幸せだって言ってくれて……これも、あなたのおかげです」

 

「いえ、僕はそんな……」

 

「謙遜しないでください、如月さん」

 

 田中が、後ろから謙遜を続ける如月に声をかけた。

 

「田中さん……?」

 

「全員が助かったのは、今幸せに暮らせているのは全てあなたのおかげなんですよ。私達は、あなたに感謝してもしきれません……私達も、まともな場所で就労支援を受けられています」

 

「本当に、ありがとうございました」

 

 全員が、自分に感謝している。自分の行いは間違っていなかったのだと、肯定してくれている……それが何より嬉しくて、如月は涙を流し始めた。

 

「……こちらこそ。あなた達がそう言ってくれて、僕も救われます」

 

「そういえば、如月さん。もうあの仕事、やらないの?」

 

「それが……事務所は悪い奴らに燃やされちまってな。もう、やる場所がないんだ」

 

 如月がそう言うと、田中が立ち上がって言った。

 

「それなら!! 僕たちが支援しますよ!!」

 

「えっ?」

 

「僕たちも少ないけどお金を稼いでますから、少しは力になれるかと!!」

 

 田中に続いて、他のみんなも立ち上がった。みんな、自分の恩人を助けたいのだ。

 

「そんな……悪いですよ、お金なんて」

 

「私たちがしてもらったことからすれば、全然安いですよ!!」

 

「私も出資します、あなたが辞めてしまう方が嫌ですもの!!」

 

 そう言って、みんなが如月を応援し始める。

 

「やめないで、如月さん!!」

 

「僕たちみたいに、困ってる人を助けてあげて!!」

 

「できることがあるなら、なんでも言ってください!!」

 

 口々にそう言われて、如月は少し照れ臭くなる。それと同時に、とても嬉しくなった。如月は笑って言う……

 

「ありがとうございます。皆さんが望んでくれるなら、僕も……あの仕事を、もう一度やりたいです」

 

「じゃあ決まりですね!!」

 

「如月さんに、あの仕事をもう一回してもらうんだ!!」

 

 その様子を見て、如月はますますやる気が溢れてきた。それと同時に……とても、感慨深くなった。あの日逃げ出した時……全てを見捨ててしまった時から。

 

「……この力、人助けに使ってよかったな」

 

「え? 何か言いましたか?」

 

「いや、なんでもありません。皆さんのためにも……頑張らせてもらいます!!」

 

 如月がそう言うと、その場の全員が沸き立った。それから……何ヶ月か経った後。如月は新しくなって、前よりもずっと綺麗な事務所の中で、書類仕事をしていた。ファイルに入れた書類達を、机に軽く叩きつけて整える。

 

「さてと、この書類はこれでOKっと……」

 

 そう言って、如月が書類を片付けていると……インターホンが鳴った。誰かが如月に、助けを求めに来た証だ。

 

「はーい、今行きます」

 

 玄関を開けて、如月が来客者を迎え入れる。来客者は例によって、焦っている様子だ。

 

「そんなに焦らないで、なんとかすることは保証しますよ。とりあえず、立ち話もなんですから……中にどうぞ」

 

 そう言われて、来客者が家の中に入った。来客者は椅子に座って、出されたお茶を飲んでいる。如月は雰囲気が落ち着いたところで、客の対面に座り……いつも通り言った。

 

「僕の事務所へようこそ。僕の名前は如月 福司です。あなたの、お名前は?」




次に依頼しに行くのは、あなたかもしれません。

ありがとうございました。
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