呪詛返シ請負人   作:とも667

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 噛まれるべきは、お前らの方だ。


噛みちぎる噛ませ犬

次の日。大樹は昨日恐怖に震えていた姿が嘘のように、元気に学校へと登校していく。話した内容をよく知らない新野は、何を話したのかが気になってならなかった。

 

「行ってきます、お母さん!!」

 

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

「大丈夫!! 僕もう負けないよ!!」

 

 大樹はそう言って笑い、小さな拳を握ってみせた。立ち向かう勇気に満ち溢れた顔に、新野は安堵して大樹を送り出す。そして小学校に到着した大樹の前に、昨日の子供達が姿を現した。その顔には、この前のいじめの快感から来る悪魔の笑みが、べったりと張り付いている。

 

「あいつ、しばらく来てなかったのに、また来たぞ!!」

 

「ぎゃははは、バカだな~!! またいじめてやろうぜ!!」

 

「おい腰抜け!! 俺たちに恐れをなして、今日まで来れなかったんだろ? 今日は前とは比べ物にならないくらいのことをしてやるぞ~!?」

 

 表情を見ずとも、言葉だけで込められた悪意と嘲笑が見えるほどの声。しかし大樹は怯まない、昨日の約束があるからだ。そんなことをされて、子供達も黙ってはいない。

 

「なんだよ、無視すんな!! 生意気だぞ!!」

 

「返事しろよ、さもないともっと嫌がることしてやるぞ!!」

 

「オラッ!!」

 

「うっ……」

 

 ──ドガッ!!

 

 背中を蹴り付けられた大樹が、前のめりに倒れ込む。しかし、両手を地面につけて転ばずに耐えてみせる。

 

「なんだよつまんねぇな、転べよ!!」

 

「バーカバーカ、なんとか言ってみろよ!!」

 

「……じゃあ言うよ」

 

 大樹が口を開く。しかし、その声色に恐怖や悲しみは含まれていない。明らかに昨日と違う様子に、子供達の中の一人が一歩後ずさる。

 

「な、なんだよ……?」

 

「お前らの言う通りになんか、絶対になるもんかー!! あっかんべーっ!!!」

 

「なにぃ!? お前、調子乗んな……おいっ、逃げんじゃねぇ!!」

 

 大樹はそう吐き捨てて、教室へと全速力で駆けていった。いくらイジメが楽しかったとはいえ、先生の目の前でそれができる程の勇気が、この卑怯者達にあるはずもない。精々、その場で地団駄を踏むのが限界だ。

 

「くっそぉ……あいつ、調子に乗りやがって!! 絶対に許さねぇぞ!!」

 

「ユウマくん、時間が……!!」

 

「うわっやばい、急げぇ!!」

 

 目先のイジメに夢中になり、危うく遅刻しかける子供達。その無様さは、大樹が見ていればさぞ胸が空くことだろう。しかし、それを見ていたのは大樹ではなかった。

 

「いたな。あいつらがターゲットと見て、間違いなさそうだ」

 

 如月はそう呟いて、三人の顔をしっかり覚える。これから、奴らに罠を仕掛けるのだから。間違えるわけにはいかないのだ。

 

「大樹くん、よくやってくれた。これで奴らは冷静さを完全に失っただろう……これで、俺の罠にも嵌めやすい」

 

「……そこで何をしている!?」

 

「うわっ、ヤバい……!!」

 

 そこに運悪く、規定の時間に校門を閉めに来た体育教師が通りかかった。仕事であるとはいえ、やっていることは完全に不審者だ。疑われるのも無理はないと言えるだろう。思わず逃げ出しそうになってしまうが、ここで全速力で逃げたら、完全に不審者だ。なんとか抑えて、言い訳を考える。

 

「逃げるな!! とりあえず通報を……」

 

「あぁ、待って待って!? 僕はその、保護者代行なんです!! 大樹くんの!!」

 

「……今日は参観日ではありませんが」

 

 またもや痛いところを突かれて、如月は柄にもなく相手から目を逸らし、ダラダラと汗を流している。言い訳を必死に考えているが、その間にも体育教師は通報の準備をしているようだ。

 

「……そうだ!! 前に、大樹くんがこの学校でイジメに遭ってしまったので、忙しい自分の代わりにと雇われたんです!!」

 

「そういえば、そんなことを聞いたような……」

 

「すみません、すぐに帰りますので……!!」

 

 そう言って如月は、その場を逃げるように後にした。とりあえず通報は避けられたようだったので、如月は胸を撫で下ろす。

 

「はぁ、危なかった……とりあえず、早く仕込みを始めないとな」

 

 そう言って如月は、仕切り直して放課後に向けた準備を始めた。

 

 

 

 それからしばらく経って、放課後。帰り道を歩いていた大樹の顔が、ぱぁっと明るくなる。如月が来たのだ。

 

「お兄さん!!」

 

「また会えて嬉しいよ、大樹くん。さて……作戦決行といこうか?」

 

「うん、絶対やっつけようね!!」

 

 その言葉に如月は大きく頷き、大樹に作戦を説明する。その顔に冷たさは見えず、隣を同じ歩幅で歩きながら大樹に説明をしている。

 

「まず、奴らの狙いは大樹くん一人だ。俺がいたら、まず近づいてこないだろう。俺は隠れているから……君が引きつけてくれ」

 

「わかった、任せて!!」

 

「俺はその間に……罠を完成させる。奴らは昨日で味をしめているから、恐らくまた犬を使うだろう。それを逆手に取ってやるんだ」

 

 大樹は如月の作戦に、真剣に耳を傾けている。二人は身長も年齢も圧倒的な差があるが、今は誰がどう見ても志を共にする『仲間』であった。

 

「どうやってやっつけるの?」

 

「それは見てのお楽しみさ。大丈夫さ、俺を信じてくれよ」

 

「うん、わかった!! それじゃ、大作戦開始だね!!」

 

 そう言って笑う大樹に合わせて、如月も笑って返す。如月が物陰に隠れて、大樹一人で帰り始めた。そこに、案の定子供の三人組が来た。朝のこともあって、かなり怒っているようだ。その証拠に、いきなり大樹は顔を殴られた。尻餅をついてしまったが、大樹は転ばずに睨み返す。

 

 ──ズガァッ!!

 

「オラァ!!」

 

「ぶっ……なにすんだよ」

 

「よくもあんなことしてくれたな、許さねぇぞ!!」

 

 前の大樹なら怯えていた言葉も、今の大樹には通用しない。何事も無かったかのように立ち上がり、また帰り始める。

 

「お前らに興味ない。お家に帰って、おやつ食べる」

 

「ふざけんじゃねぇ!! 畜生、ヒカル!! あの時と同じ犬取ってこい!!」

 

「わかった!!」

 

 ──タッタッタッタッ……

 

 三人のうちの一人が、ユウマの命令で切り札の犬を取りに行った。これなら絶対に怖がる、そう踏んでいるのだ。ユウマは勝ち誇ったような顔をして、子供とは思えない程嫌らしい声で、大樹に言う。

 

「どうだ~、怖いかぁ? 怖いよな? お前が悪いんだぞ? 今日は容赦しねぇぞ、リード外して噛みつかせてやる!!」

 

「もう怖くなんかない!! かかってこい、やっつけてやる!!」

 

「ユウマくん、こいつムカつく!! 犬来たら全員でボコボコにしてやろう!!」

 

 これまでの大樹に通じたことが、尽く通じないことに全員イライラしている。それは彼らから冷静さを奪い、あの犬への期待を最大まで高めてくれる。そして、しばらく歩いていると。

 

 ──スタタタタタ……

 

「おーい、連れてきたぞ!!」

 

「ギャウッ!! ギャウギャウギャウギャウ!!!」

 

「サンキュー、ヒカル!! どうだ怖いだろ、前と同じ犬だぜ!?」

 

 連れてこられた犬は、凶悪な牙を露わにしながら吠えている。この者の言う通りリードを外せば、すぐにでも獲物に飛びかかって噛み付くだろう。

 

「こ……怖くなんか、ないぞ!! こい!!」

 

「グルルルルルッ!!!」

 

「そうかよ、それなら……そら、行け!! あいつに噛み付け!!」

 

 ユウマが怒りを込めてそう叫んで、大樹を指さした。大樹は額から汗を垂らしながらも、構えた握り拳を崩さない。そして、大樹が犬に飛びかかられる前に、隠れて着いてきていた如月が声を出した。

 

「……ジョン。『待て』だ」

 

「ワウッ!?」

 

「はぁ? おい、動けよ!! 噛み付くんじゃなかったのか!?」

 

 子供達は口々に不満を叫んでいるが、犬はその場から動こうとしない。どこまでも冷静な足取りで、如月が大樹を守るように立った。暖かい声で、大樹に呼びかける。

 

「さて。よく頑張ってくれたな、大樹くん。後は、俺に任せろ」

 

「なんだよ、お前!? 先生じゃないだろ、おまわりさんに通報してやるぞ!!」

 

「したいならすればいいさ。もっとも、この場の状況証拠から考えて……お前らが補導されるのが関の山だろうがな」

 

 打って変わって、どこまでも冷たい声色。背筋が凍りそうな声に、子供達が思わず怯む。犬は相変わらず動かずにいて、いくらユウマが言ってもびくともしない。

 

「くっそぉぉ、行けって言ってんだろ!! 何やってんだよ!!」

 

「タネが知りたいか? 教えてやるよ」

 

「お前がなんかしたのか!?」

 

 この凶暴な犬が、如月の一声で止まった理由。如月はスマートフォンを取り出して、そこから音声を鳴らした。

 

『ジョン。おすわり』

 

「ワン!!」

 

『ジョン。お手』

 

 スマートフォンから鳴る音声に、ジョンは忠実に反応している。その音声は、子供達にとっても聞き覚えのある声だった。

 

「ジョンを飼ってる家の人の声……!? なんで!?」

 

「簡単なことだよ。飼い主さんには悪いが、命令を全て録音させてもらった。ジョンは、彼の言うことにだけは忠実なようだったからな。これなら止まると思ったんだ」

 

「すごい……!! すごいや、お兄さん!!」

 

 大樹は尊敬の声を上げて、子供達は悔しそうに歯軋りしている。しかし、今回の目的は飽くまで彼らに呪いを返すことだ。如月にとっては、ここからが仕事の本番。捨て台詞を吐き、逃げようとする子供達の逃げ道を塞ぐ。

 

「く、くっそぉ!! 覚えてろ!!」

 

「次は絶対いじめてやるからな!! ……えっ!?」

 

「貴様らに次なんて無い。ここで大樹くんに呪われて、地獄に堕ちろ」

 

 底冷えするような、ぞっとする声。両親に叱られた時よりもずっと恐ろしい声と表情に、子供達の顔が思わず引きつる。どこに逃げようとしても、一瞬で回り込まれてしまって逃げられない。子供達は冷や汗を流しながら、尻餅をついた。

 

「な、なんなんだよ……何する気なんだ!?」

 

「……AI音声って、知ってるか? 最近は成長がめざましいよな、もう本人の声と聞き分けがつかないくらいだ」

 

「えっ……どういうこと?」

 

 怯える子供から、素っ頓狂な声が出る。その意味を、奴らはすぐに身を持って理解することとなった。如月がスマホのボタンを押すと……また、音声が流れる。本人の声と、全く同じ声で。

 

『ジョン。目の前の三人を食い千切れ』

 

「ワウッ!! ギャウギャウギャウギャウッ!!!」

 

「う、うわぁぁぁぁぁーっ!?!?」

 

 犬は飼い主の声に従って、言われた通り目の前の三人へと向かっていった。子供達は逃げようとしたが、如月と大樹に逃げ道を塞がれてしまった。

 

「逃がすと思うか?」

 

「絶対許さない!!」

 

「ひっ……!!」

 

 子供達はこの時、初めて死の恐怖が迫ってくる感覚を味わった。顔が一気に青ざめて、ズボンの股の部分に染みができる。命令を受けた野性の牙が、それを使おうとしていた側に牙を剥いた。牙が濡れたズボンに突き刺さり、思い切り引っ張られる。

 

 ──ガギィッ!!!

 

「ひぃぃやぁぁぁぁっ!? うわっ、わぁぁぁぁぁ!!!」

 

『そのまま噛み千切れ』

 

「グゥルルルルルッ!!!」

 

 ──バリバリバリィィ!!!

 

 小便に濡れたズボンが、刺さった牙に為す術なく引き千切られた。敵の血肉を噛めなかった野性は、再び目の前の獲物に牙を剥き直す。それもそのはず、野生の狩りとは……敵を食い千切り、完全に動かなくなるまで殺し尽くすことなのだから。

 

「ぎゃあぁあぁぁぁぁーっ!!!」

 

「や、やめて、こないで……ひっ、ひぃぃ……!!」

 

「グオォォォァァァ!!!」

 

 ──ガヒュッ!!!

 

 牙が間一髪、空を切る。子供の一人は、運良く攻撃を躱すことに成功した。しかし……それをそのまま許しておくほど、今の大樹は優しくない。大樹は、躱した奴に拳を振り上げて殴りかかった。

 

「うぉぉぉぉーっ!!」

 

「や、やめてっ……ぐべっ!!」

 

 ──ドゴォ!!

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃあーっ!!!」

 

 ──ドガガガガガッ!!!

 

 最初の一発で地面に倒され、そこから大樹の拳の雨が降り注ぐ。一心不乱に小さな拳を、敵に叩き込み続けている。その間に逃げようとしている者を見つけて、如月が逃げ道を塞ぐ。

 

「逃がさないと言ったはずだ。ジョン、『おいで』」

 

「ワンッ!!」

 

「わっ、わぁぁぁぁぁ!! ごめんなさい、お願いだから許してください!!」

 

 子供の精一杯の命乞い。しかし、如月は飽くまで冷徹に答えた。

 

「それを決めるのは俺じゃない。彼だ……どうする、大樹くん。何もせずに逃がしてやるか?」

 

「やっちゃえ、ジョン!!」

 

「だそうだ、残念だったな……ジョン、『食い殺せ』」

 

 無慈悲な命令に、ジョンが従う。目の前の獲物に牙を剥き出しにして、思い切り噛み付きにかかる。恐怖の声を上げる間もなく……無慈悲な牙が、ついに子供の足に突き刺さった。まだ浅い刺さりだが、それでも子供に激痛を齎すには十分だ。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!! いだいいだいいだいイダイイダイぃぃぃぃっ!!!」

 

「グゥルルルルッ……!!!」

 

「このやろうっ、このやろーっ!!!」

 

 大樹はズボンを食いちぎられた方も殴りに行き、ボコボコに殴り倒していた。そこで如月が、突然ストップをかけた。

 

「ジョン、『待て』。大樹くんも一旦ストップ」

 

「ワウ?」

 

「えっ? お兄さん、なに?」

 

 敵は最早、全員が満身創痍。泣き乱している者もいるし、恐怖に怯えている者もいる。そこで如月は、とある問いを口にした。

 

「貴様ら、理解したか。貴様らのやったことの重みが。どうせ罰されないとタカをくくり、犯罪行為をした自分達の罪の重さが」

 

「ゆ、ゆるしてくださいぃ……」

 

「ならば誓うか。この者に、今まで貴様らが行ってきた行いの全てを懺悔することを。そして、心の底から謝罪の気持ちを持つことを、誓うか?」

 

 相変わらずの底冷えする声。しかし、命が惜しくてたまらない子供達はそれに頷くほかなかった。助かりたい一心で、大樹に心の底から謝罪する。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!! だから、もう殴らないでくださいっ!!!」

 

「うぁぁぁぁぁん!!! ごめんなさぁぁぁいっ!!!」

 

「よし……最後の仕上げだ。お前たちが大樹くんに与えた呪詛は、貴様らが受けてもらう。それが道理だ」

 

 謝罪しながら恐怖に泣き叫ぶ子供達に、如月がそう宣告する。大樹の額に手を置いて、呪文のような物を唱えはじめた。

 

「お兄さん、何するの?」

 

「これで終わりだ、見ててくれ……呪怨には呪怨あるべし。悪逆には悪逆あるべし。因果応報、人を呪わば穴二つ」

 

「わっ……なになに!?」

 

 大樹の体から、如月の呪文と共に禍々しい黒いオーラが立ち昇りはじめた。そのオーラが大樹から抜けた瞬間……如月が、叫んだ。

 

「呪いを受けろ!! 天罰覿面!! 呪詛返シ!!!」

 

「ぎゃっ……」

 

「がっ……」

 

「うぐっ……」

 

 それを言われた全員に、黒いオーラが降りかかり……全員が気を失って、倒れ込んだ。

 

「……仕事は成功だな。大樹くん、よくやったな」

 

「うん、ありがとう!! 最後、何やったの?」

 

「君にかけられた呪いを、全部奴らにぶつけた。これから先、奴らは『呪い』に永遠に苦しむだろう」

 

 大樹にそう言って、その場を去っていく如月。

 

「お兄さん、どこ行くの?」

 

「次の仕事さ。また会えるといいな」

 

「……うん!! 約束だよ!!」

 

 如月は大樹に手を振りながら、事務所へと帰っていった。大樹は如月が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた……

 

 

 

 如月が呪詛返シを行った、三日後。学校のホームルームにて、先生が全員に言う。

 

「えー、皆さんに悲しいお知らせです。ユウマくんと、ヒカルくんと、それからトウヤくんがいなくなってしまいました。理由はお父さんやお母さんが悪いことをしてしまい、この街から逃げてしまったようです。皆さんはそうなりそうだったら、先生や大人に相談してね?」

 

「「はーい!」」

 

「それでは、授業をはじめます。起立、礼、着席……」

 

 突然の犯罪、それからの夜逃げ。恐怖を使って追いかけていた者達が、今度は逆に追われる身。突然の破滅の原因に気づいているのは……

 

「……ありがとう、お兄さん」

 

 大樹くん、一人だけだ。

 

 

 

 時間は遡り、如月が事務所に帰ってすぐ。洗面所で、如月が激しく咳き込んでいる。

 

「ゲホッ、ゲホ!! ゴフッ、ゴっは……ぐぶっ!!」

 

 血の混じった痰が、洗面所の排水溝にこびりついている。痰を吐き出すためにうがいをして、薬を飲んで症状を押さえつける……これが、如月の日常だ。

 

「……人を呪わば穴二つ。誰がやっても、例外は無い」

 

 奴らは大樹を呪った。だから、酷い破滅を迎えることになったのだ。そして、こちらも奴らを呪い返した。つまりこのままでは、大樹くんの一家も破滅する。しかしそうはなっていない。ならば、その呪いはどこに行ったのか? その答えは……

 

「これで『刻印』は32個目……随分と増えたな」

 

 呪いを表す刻印。それは痣のようになって、体に傷の痕を作っている。今回の物は、犬の牙が刺さったような痕だ。

 

「被害者は復讐をしただけだ。だから理不尽な呪いは、俺が持っていこう」

 

 呪いを受ける度に、如月の体は蝕まれていく。しかし如月は、自分の力を使うのをやめない。これは、自分にしかできないことだから。

 

「……さて。なんか食って、薬飲もう」

 

 そう言って、如月は……また無表情に戻り、キッチンの方へ歩いていった。




法則は誰にでも平等かつ、残酷である。
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