証拠を盗め。
如月が高校に向かい、丸山達を追い詰めるための証拠を集めに行っている時間。丸山達は今日のことについて、チャットで話していた。人の人格を咎め、破壊したことを喜ばしそうに話す姿は、見れば誰もが悍ましいと評するだろう。
「そういえばあいつ、名前なんだっけ……まぁいいや、あいつホントウケるよねー!!」
「ホントだね!! 追い詰めたらなんでも言うこと聞くとか、超ダサいじゃん!! 男のくせに!!」
「次は何言ってみる? あいつ、言ったら何でもすると思うけど」
丸山達は自分達の非道な行いを全く悪びれず、それどころか次の脅迫のことまで考えている。このまま行けば貞義は、今度こそ完全に立ち直れなくなるだろう。
「他の奴らみたいに、金とか要求してみる? 多分あいつ、持ってきてくれるよ。アタシら稼いでるけどさ、あいつに奢らせるのもアリじゃない?」
「でも、あいつ金持ってるかな~? なんか、貧乏臭い雰囲気だったよ」
「無理そうならスマホとか取ってやろうよ、売れば金になるだろうし!!」
さもそれが当然かのように、犯罪の計画を立てる丸山達。純粋かつドス黒い悪意は、みんなの高校をどんどん蝕んでゆく。
「あーやっば、もうこんな時間だわ。明日は私『仕事』だし。じゃあまた明日ね、ユミ」
「はーい、じゃあまた明日ね!! リカちゃん!!」
「それじゃ、おやすみー」
全員がチャットを切り、電気を消して眠りにつく。被害者のことなど、何も考えずに。
その頃、如月は準備を整えて夜の高校の前に立っていた。人気のない静まり返った学園の前に、冷たい目をして高校を見つめる男。警察がいれば、職務質問を受けることは間違いないだろう。
「さて、どこから忍び込むかだが……」
校門を超えた先には、懐中電灯の明かりが見える。警備員が巡回しているのだ。迂闊に入っていけば、一瞬で捕まってしまうだろう。
「裏門にも警備員がいるな……それなら、やっぱりこうするのが手っ取り早い」
そう呟いた如月が、高校の周りの鉄格子に足をかけた。それを一歩ずつ落ちないように、慎重に登ってゆく。
「よし……ここから降りよう」
警備員に見つからないよう、防災倉庫の裏にロープを降ろして、それを伝って降りる如月。警備員が懐中電灯で校庭を照らしているが、如月には気付かずに去っていった。その様子に、如月は一旦安堵する。念の為に如月は、ロープを回収しておいた。
「しかし、気を抜いてはいられないな。次はまず職員室に入らないといけない……」
これも簡単なことでは無い。貞義が一緒にいられない以上、如月はぶっつけ本番でこれを行っている。常に、推測で物の位置を考えて動かねばならないのだ。
「物音を立てるのは論外だから、やっぱりここは……これしかないな」
如月は白い布を取り出して、それに校庭の砂を大量にかけた。それを被ったまま、匍匐前進で移動する。遅くはなるが、これなら安全だ。もし足音がしたら、そこに止まって擬態する。
「……異常なし、と。ふぁ~あ」
欠伸をしながら、警備員は身を翻して学園内に消えていった。地面の色が変わったところで、布を脱ぎ捨てて職員室へと向かう。
「必要なのは監視カメラの映像、そして生徒のクラス表だ……『マルヤマ』達が、普段どこにいるのかを知らないとな」
一階を軽く見渡す。職員室らしき場所がないと見て、二階へと駆け上がる……
「最悪の場合、もう記録が消されてる可能性まであるが……まだ消してないことを祈っとこう」
隠れながら進む姿は、さながら怪盗のようだ。もっとも今回は記録を盗むことが目的なので、あまり間違ってはいないのだが。
「さて、職員室は……あっちにもう一つ建物が見えるな、あそこかもしれない」
そう呟いて、如月は最大限警戒しながら進む。そして如月は、職員室を探して駆けてゆく……
「あった、ここだな……?」
如月はドアを開けようとしたが……ドアにはしっかり鍵がかかっていた。
「セキュリティはバッチリか……だけど、それくらいは想定してあるさ」
取り出したのは、ピッキング用の鉄の棒。それを鍵穴に入れて、如月がガチャガチャと動かす。しばらくすると、鍵が開く音がした。
──ガチャン。
「よし……ッ、足音!?」
「今、こっちから鍵の音がしたような……まさか侵入者か?」
「くそ、職員室の中に隠れたが……ドアが開いてるのがバレたら、絶対に入ってくるよな」
如月は隠れる場所を探して……掃除用具のロッカーのドアを開けて、その中に隠れた。案の定ドアが開いて、警備員が現れる。
「窓は開いていない……ドアの閉め忘れか? 一応見回りしておくか」
「……ッ」
「やはり異常なし、と……一応、ドアの鍵を閉めておこう」
──ガチャリ。
ドアが閉められた音がした。一応少しだけドアを開けて、周りを見渡し……監視カメラの映像を見るための、モニターがある場所を探す。
「あった、ここだな……!?」
あからさまな場所を見つけて、確認する。棚の中に、たくさん時刻や日付が書かれた箱が置かれており、間違いなく目当ての物だった。大きく赤い字で『持ち出し禁止』と書いてある。
「最近の日付は……よし、これだな? SDカードタイプか、それなら好都合だ……!!」
もしも記録が消されていたとしても、専門家に頼めば修復してもらえる。それ一つだけを抜き取り、何事もなかったかのように元に戻しておいた。これでバレるのは遅くなるはずだ。
「あとは生徒の記録だが……あった、これだな」
丸山、その名前を必死に探す。いくつかあるが、女子生徒であることは確定している……女子生徒に絞って、更に貞義の同級生に絞る。
「……いた。こいつだな」
丸山 冬子、16歳。丸山で女子生徒、そして関わる機会の多い同級生は、この者だけだ。2-1、それが丸山のクラスだ。如月は同時に住所も確認して、メモをした。
「さて、先生の鍵を一つ拝借して……一応記録を書いておこう。2-1の担任の名前で、借りた記録を書いて……と。ドアをまた開けるのは愚行だし、もう一度ロープを使おう」
如月はまたロープを取り出して、それを窓から出して降りる。今度物音を立てれば、今度こそ見つかるだろう。
「……いないな。よし」
さっきの移動で構造を把握した如月は、スムーズに高校の中を進んでゆく。そして、2-1のドアに鍵を差し込んで回す。
「ここだな……目当ては丸山の席とゴミ箱だ」
まずはゴミ箱を漁る。何か、メモのようなものがあるかもしれないと踏んでいるのだ。
「あった、これは……メモ帳?」
そこには……なんと、売春によって稼いだ金の額が書かれていた。貞義が言っていたとおり、三人いる。
「いじめた奴らは三人か……丸山20万円、ユミという女が18万円、リカという女が23万円ね。稼ぎの額を見るに、常習犯だな」
もうめぼしい物はなさそうだったので、丸山の机の中を漁る。すると、そこからノートが出てきた。
「中身は……いじめた奴の反応? なんて量だよ、それも楽しそうに書いてやがる……こっちも常習犯か、アバズレ共め」
そう吐き捨てて、それも鞄に詰め込む。他にないかと漁ると、また何か出てきた。
「こいつは……売春して買ってもらった相手のリストか。呼び方とかを書いてあるんだな……ここに置いてあるのは、親にバレないためってとこか? とりあえず、こいつも持っていくか」
もう何もなさそうだったので、如月はバレずに退散するために、侵入した場所に戻ろうとする。
「……警備員がたくさんいるな。どうするか」
そこで火災警報機を見つけて、如月が笑い……そのスイッチを押した。
──ジリリリリリリ!!!
「な、なんだ!?」
「火事だ!! 消防を呼べ!!」
「消火器を手に取るんだ、みんな!!」
耳障りな音が学校中に響き渡る。警備員達はもちろん聞こえた方に走ってくるが……その間に如月は、全速力で走って使った物を回収。そして、鉄格子を登ったあと……ロープで鉄格子から降りて脱出する。作戦は成功だ。
「さて、あとは証言か……彼が喋れる状態になっているといいんだがな」
「火元はどこだ!?」
「火事なんて起こってないぞ!?」
如月はそう呟きながら、喧騒の響く学園を後にした。
次の日。如月は貞義の様子を見るために、神谷の家に来ていた。手にはお菓子の入った袋を持っている。
「こんにちは、神谷さん」
「あぁ、如月さん!! どうぞ上がってください、貞義も如月さんに会いたかったでしょう」
「それは貞義くんに聞いてみないとわかりませんが……やぁ、貞義くん。元気かい?」
貞義は相変わらず虚ろな目をしているが、こちらにお辞儀をした。昨日に比べれば、大分落ち着いたようだ。
「ほら貞義、如月さんだぞ。挨拶しなさい」
「……こん、にちは」
「あぁ、こんにちは。そんな君に朗報だ、証拠をバッチリ掴んだよ」
それに真っ先に喜んだのは、神谷の方だった。
「本当ですか!? それはどこに!?」
「ここです。ご覧下さい」
「……こんなことまで!? なんてことだ、こんなことを野放しにしているなんて!!」
そう言って怒りを露わにしている神谷の横で、貞義はボーっとそれを見つめ続けている。
「貞義くん。これを見て、なにか思ったかい?」
「いたい、つらい。もうこうこう、いきたくない」
「そうだね、最もな意見だ。しかし……俺には辛い君を救うだけの力がある」
ようやく本題。今の貞義は発狂していない、強い憎しみさえ持ってくれればいいのだ。
「もう、いい」
「君は一つのことをやるだけでいい。丸山達を憎むんだ」
「にく、む?」
子供のように首を傾げる貞義。それに如月が、大きく頷く。
「そうだ。自分の尊厳を粉々にされた挙句、この者達は犯罪に平然と手を染めていた。そんな奴らに復讐をしたくはないか? 自分だけこうなっているのを、不公平だとは思わないか?」
「ふこうへい……?」
「そうだ、不平等だ!! 万人に等しく、冷酷に適用されるべき法律が、奴らにだけ知らんぷりをしているんだ!! こんなふざけた話があるか!? そして今、君という被害が目の前にある!! こんなことを許しておけるものか!!」
怒りを露わにしながら、貞義の怒りを同時に煽った。貞義もそれに感化されてか、如月から見て少しだけ目が鋭くなった。
「そんなの、ダメ。ゆるせない」
「そうだ、丸山達を許すな!! 憎むんだ、君にはその権利がある!! 丸山達なんかに殺されてやるな、死ぬべきなのは奴らの方だ!!」
「貞義、どうだ? 奴らが憎いか? やり返したくないか?」
その熱意を感じ取って、神谷も説得に回る。すると、開いていた貞義の口が強く結ばれる。
「ぼく、あいつら、ゆるさない……ぜったい」
「そうだ、それでいい!! それだけで、君は奴らに復讐できる!! 後は俺に任せろ、奴らを地獄のどん底に突き落としてやる!!」
「私も協力しましょう。できることがあれば、なんでも仰ってください」
如月はそう言われて、神谷に笑顔を見せた。
「ありがとうございます、心強いです。それでは……私では難しいので、これをお願いできますか?」
「……わかりました。任せてください」
「決行日は明日ですので、この場所に貞義くんも連れてきてください」
「はい、わかりました!! 貞義。すぐ戻るから、いい子で待ってろよ?」
神谷はそう言って、家を飛び出していった。貞義は、父に手を振って見送る。
「それじゃあ俺も、そろそろ帰って準備をする。明日を楽しみにしておいてくれ」
「よろしく、おねがいします」
「俺を信じて待っていてくれよ」
そう言って、如月はしばらく貞義と雑談して過ごし……神谷が紙を持って帰ってきた。
「お待たせしました!! 待たせてごめんな、貞義!!」
「ありがとうございます。被害を受けた生徒達の証言、大切に使わせてもらいますね」
「これくらい、貞義が元気になるならいくらでもやりますよ。どうか、よろしくお願いします」
「もちろん、明日を期待して待っていてください」
そう言って如月は、二人に手を振って家を出た。そしてまた、冷徹な目に戻って高校の丸山達を見据える。
「お前たちは明日までの命だ。精々、今のうちに娑婆の空気を味わっておくんだな」
そう言って如月は、最後の準備をするために事務所に向かった。
次の日……丸山達は如月が指定した場所に、ノコノコやってきた。
「うっわー、マジで最悪なんだけど。脅迫状だよね、あれ」
「アタシらが通報できないように、やったこと全部書いてあるし。どうやって知ったのか知らないけど、キモすぎでしょ」
「ここだよね、適当にあしらって帰ろう? 今日も私、仕事あるし……」
自分達の悪行を棚に上げて、如月を非難する丸山達。そんな丸山達だったが、三人はすぐにぞっとするような感覚を覚えた。後ろから、異常な気配を感じ取ったのだ。その気配の正体はもちろん……
「よう。貴様が丸山だな? お前がリカで、お前はユミだったか。全員知っているぞ」
「な、何よアンタ!? どこの誰!?」
「お前らに名乗る名前などない。俺は、貴様らを裁きに来た」
凍てつくような声と目でそう宣告する如月に、丸山達はあくまで非難を続ける。
「馬鹿なこと言わないでよ、ここは法治国家ですけど!? 私刑とか馬鹿じゃないの!?」
「貞義くんや勇気くん、俊哉くん……数えればキリがないな。このようなことをやって、どうせバレないとでも思っていたんだろう? 貴様らにだけは言われたくないな」
「な、なんでそれを……大体、証拠なんてないでしょ!! 証拠出しなさいよ!!」
リカがそう叫んだが、如月は余裕そうな表情を崩さない。
「ほう。出せばいいのか?」
「出せるなら出してみなさいよ、無理でしょうけど」
「それなら、自分の目で確かめるといい。自分達の愚かさをな」
そう言って、如月は……監視カメラの映像を再生した。
『何やってんの、貞義くん』
『な、なんだよ!? 何の用だ!?』
『お前さぁ、いちいちムカつくのよねー』
自分達しか知らないはずの真実が、目の前にある。その事実は、丸山から冷静さを失わせた。
「返せぇっ!!」
「誰が返すものか。この映像は貞義くんのものだ」
『許して欲しい? じゃあ、脱ぎなさいよ。今すぐに、ここで』
映像は無慈悲に真実を示している。丸山は必死に抵抗しているが、如月には追いつけない……
「まだあるぞ、これもだ」
『ほら、金出しなさいよ。それとも、またお前で遊んであげよっか?』
『は、はいぃっ……!!!』
次々に再生されていく、卑劣な犯罪の記録。追いかけ疲れた丸山が、息を切らしている。
「さて。ここまで見て、わかったか? これが世に出れば、貴様らは逮捕されて……少年院行きだろうな」
「デ……デタラメよ、こんなの!! アンタが編集とかしたんでしょ!? AI音声とか使ったに決まってる!!」
「そうだよ、絶対嘘だ!!」
それでも認めない丸山達に、如月はため息を吐いた。
「はぁ……それなら、もっと見せてやるまでだ。こちらの手札はまだある」
「えっ!? それは……なんでアンタが!?」
「ここに書いてある内容。いじめの計画書のようだな、巻き上げた金額まで書いてある……言い逃れはさせんぞ」
丸山達は更に怯んだが、それでも諦めずに抵抗を続けている。
「ち、違う!! そんなの、いくらだって捏造できるじゃない!!」
「それなら、これはどうだ? 見覚えがあるはずだぞ」
「なっ!? その紙……捨てたはずなのに!?」
売春の記録と、それによって稼いだ金額。言い逃れのできない、確たる証拠。
「いじめどころじゃない。未成年の売春は重罪だ……その上、陰惨かつ非人道的ないじめもある。もう16歳を超えているし、貴様らは少年刑務所で懲役刑が妥当なところだろうな……証言もここにたくさんある。貞義くんや、お前の被害を受けた人達の証言だ。証拠品とも一致している……抵抗は無駄だぞ」
「バ……バカね!! それが真実だったとして、何なの!? 今までバレてないのにはね、相応の理由があんのよ!! 親は放任主義、学校は隠蔽してくれてる!! アンタが何言おうと、絶対にバレないわ!! 無駄なのよ、アンタの努力は!!」
「……それを待っていた」
如月が不敵な笑みを浮かべて、突然そう言った。
「は? 何言って……」
「お前たちの言ったことは全て録音した。この罪状が、全てわかっている以上……これも真実として捉えられるだろうな。学校の面子は丸潰れ、お前の味方はゼロだ」
「なっ……な……ふざけるなぁぁぁ!!!」
丸山達が叫びながら、如月に向かっていこうとしたが……そこに横から、また人が現れる。
「待て!! それ以上は許さんぞ!!」
「まる、やま……」
「神谷!? それと……男? まさか父親!?」
丸山達が声のした方向を見ると、神谷と貞義がそこに立っていた。如月が神谷に結果を伝える。
「上手くいきましたよ。追い詰めたら全部吐きました」
「そ、そうだ……アンタ、それ持ってるってことは窃盗犯でしょ!? 通報したら、アンタも共倒れじゃない!!」
「残念だったな、この証拠品は私が持っていく。如月さんの協力は今日までだ」
最後の逃げ道すら潰され、丸山達が絶望する。
「そ、そんな……」
「アタシ達、捕まるの……? いや、いやぁぁぁ!!」
「ゆ、許してっ!! 気の迷いだったの、もうしないから!!」
必死の命乞いは、誰にも届くことはない。聞き入れるものなど、ここにはいない。
「そんな美味しい話、貴様らのような者にはないぞ」
「諦めて裁きを受けるんだな」
「ぜったい、ゆるさ、ない……」
三人が立ち上がり、背を向けて逃走しようとする。しかし、それを黙って見ている如月ではない。
「お、覚えてなさい……次会ったら、許さないから!!」
「次などない。絶対に逃がさんぞ」
「ここは通さん!!」
完全に逃げ道を塞がれて、後ずさりする丸山達。もう命乞いすることしかできず、ありとあらゆる手段を使いはじめた。
「ひっ、ひぃぃ……そうだ、お金!! お金あげるから、許してよ!!」
「アタシ達ナイスバディでしょ!? 無料レンタルされてあげても……」
「ゆる、さない」
しかし、貞義には全て響かない。如月はそれを鼻で笑い、貞義の肩に手を置いた。
「無様だな。さぁ、報いを受けろ……!!」
「これは……黒い何かが……!?」
「な、なに、なんなのよぉ!?」
丸山達がうるさく喚く中、如月は冷徹に呪文を詠唱する。
「呪怨には呪怨あるべし。悪逆には悪逆あるべし。因果応報、人を呪わば穴二つ」
「やめっ……」
「これが裁きだ!! 天罰覿面!! 呪詛返シ!!!」
貞義の体から黒いものが飛び出て、丸山達三人に降りかかる。その瞬間、三人が気絶した。
「……ふぅ、これでおしまいです。請求書は後でお送りしますね」
「本当にありがとうございました……!! このご恩は忘れません!!」
「忘れて構いませんよ、僕のことなど。あとはお任せします……貞義くんも、元気でな」
貞義は呪いが全て抜けたからか、晴れやかな顔をして言った。
「うん!!」
「貞義!? お前、元に……!!」
「お父さん、お腹空いた!! なんか食べて帰ろう!!」
「ああ、どこでもいいぞ……どこがいい? そうだ、うな重でも食べるか? そうだ、それがいい!!」
神谷は泣きながら喜んでいる。その様を見ながら、如月は笑い……無言で立ち去った。
丸山達は目覚めたあと、体中の倦怠感に耐えながらも仕事に向かった。あそこまでやられても、仕事を諦めない様子は、貞義や如月が見れば呆れ果てるだろう。しかし……丸山達はしわくちゃになった服を着て、ふらつく足取りでなんとか歩いていた。理由は単純、『契約相手』が途中で理性を失ったのだ。
「あ、あのオッサン……契約違反して、あんなことしてくれやがって……絶対に、許さねぇ……!!」
「マルちゃん、痛いよぉ……」
「くっそぉぉ!! そうだ、警察行かないと!!」
自分達が犯罪を犯しているのに、当然のように警察に頼り始めた丸山達。交番に到着して、丸山達は警察官に被害を訴えようとした。
「あの、警察さん!! 私たち、実は無理やり連れ込まれて……」
「あなた達は……丸山とその仲間だな? お前たちに逮捕状が出ている」
「はぁっ!?」
丸山が驚愕の声を上げる。しかし、警察は容赦しない。
「いや、やだやだっ!!」
「逃げるな、お前達を逮捕する!!」
「いやぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
こうして、丸山達は逮捕され……裁判にかけられた。結果は無論有罪。懲役刑の判決を受けて、刑務所を出たあとも、社会的抹殺を受け……その後のことを知る者はいない。言えることはひとつ、まともな人生を送ることはできなかったことだけだ。そして、高校も無事では済まない。
「次のニュースです。○○私立高校が、廃校となる事が決定されました。警察への取材によりますと、女子生徒三名によるいじめを、学校ぐるみで隠蔽していたとのことです。これについて学校側は、『深く反省しています、申し訳ございませんでした』と供述しており……」
その後、貞義は新しい高校に転校して、今度こそ幸せな学園生活を送った。撮られた写真の一枚には、大会優勝のトロフィーを持って、満面の笑みを見せる貞義と仲間たちがいた。
「ぐっふ、がはぁっ……!!」
如月が血を吐き出す。目の前の景色が歪んでいって、凄まじい吐き気が如月を追い詰め続ける。如月の肩に、悪魔の羽のような刻印が刻まれて、その場に崩れ落ちた。如月は激しく咳をしながら、血痰を吐いている。
「ゴホッ、ゴホ……!! ごはっ、あ……これで34個目か……あと何個耐えられるかな」
自分の心配ではなく、まだ継続することを前提に話す姿は、最早狂気すら感じさせる。そしてすぐに、苦痛に慣れたかのように無表情に戻った。
「……とりあえず薬だな、さっさと飲もう」
そう言って、刻印の影響で目の前がよく見えない如月は、ふらつく足取りで薬を飲みに向かうのだった。
勧善懲悪。