暴虐には、暴虐を。
ここは打樋の自宅。今日は土曜日なので、学校は休み。打樋は楽しそうに、親に自分が晴輝にやったことを話していた。
「でさぁ、なんて言ったと思う? 『やめてぇ』だってよ、ヒャハハハハハハ!!! ウケるだろ!?」
「あはははは、そんなにムカつくの? そいつ」
「そりゃそうだよ、あいつが俺の行動に余計な口出しして、上から目線で言ってきやがったから、完膚なきまでに叩き潰してやったんだ!! 俺は悪くないぞ!!」
そう言って、飽くまで自慢げにいじめの記録を語る打樋。そして親もそれを叱るのではなく、微笑ましそうに見ている。これを如月が見れば、間違いなく唾棄するだろう。そんな時、外にいた父親が手紙を取ってきた。
「おーい泰、お前に手紙が来てるぞ」
「は? 誰からだよ」
「わからん。とりあえず読んでみろ」
そう言って手渡された手紙を、怪しみながらも打樋が開く。そこには、如月からの予告が書かれていた。
『打樋 泰へ。お前の悪行を俺は知っている。貴様らがいくら言い訳しようとも、俺たちはお前を許さない。今から貴様を呪いに行くから、覚悟しておけ』
『P.S 人混みには気をつけるんだな。きっと俺がいるぞ』
「……意味わかんねぇ。呪いだぁ? そんなもんあるわけねぇだろ、アホらし……もしかしてあいつが書いたのか? うわっ、ダッセー」
そんなことを言いながら、打樋はその予告状をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に放り投げた。しかし、それは穴に入らずに落ちてしまう。
「あ、落ちた。結局なんだったの、泰?」
「意味わかんねぇ手紙。捨てといて」
「はいはい」
打樋の母親によって、予告状がゴミ箱に押し込まれる。これが真実だとは、誰も思っていない。
「それより聞いてくれよ。あいつさぁ、面白いのが……ハサミで『髪切って』やったら、めっちゃ悲鳴上げるんだよ。血も出てきたし、もう爽快だったな~」
「はぁ、やるのはいいけど……もう少し隠れてやれよ、隠すのだってタダじゃないんだぞ?」
「へいへい、気をつけまーす」
予告状を無視して、打樋達は狂気の会話を続けている。自分達への報いが下るなど、全く思っていない様子で、傲慢に言い続けていた。
そして、次の日。打樋はゲームセンターに遊びに行きたいと思って、一人で都市部の中心のゲームセンターに行こうとしていた。そこで……何か、おかしな声が聞こえてきた。電車の喧騒の中で、やけにはっきり聞こえる声で。
「『
「……何言ってんだ? 厨二病か?」
「『
はっきり聞こえてくるそれに、打樋が思わず近づく。しかし、それの正体はわからない。次の駅に到着して、打樋はここが自分が降りる駅であることに気づいた。急いで降りて、電車を見る。
「なんだったんだ、今の……」
そう呟いた打樋は、一つの可能性が脳内を過ぎるのを感じた。昨日の『おかしな手紙』に書かれていた内容。
『今から貴様を呪いに行くから、覚悟しておけ』
「いやいや、あんなの嘘に決まってる。きっとあの野郎が書いたんだ、ダサすぎだろ」
そう吐き捨てて、打樋が歩を進める。そして、駅の中の人混みをすり抜けてゆく。そんな時だった。
「さて、1番出口は……あっちか」
「『引きて祓えば装うなかれ』」
「ッ……またか!?」
やけにはっきり聞こえる、おかしな声。人混みの中の喧騒に掻き消されず、何故か聞こえてくる……
「『汝、許しに報復を』……」
「おい!! お前なんだろ、吉川!? 出て来やがれっ!!」
「『信頼に裏切りを』……」
そう言っても出てこない。声がどこから聞こえるのか掴めない。不気味に思った打樋は、その場をさっさと離れることにした。
「チッ、付き合ってらんねぇよ。クソが……」
『P.S 人混みには気をつけるんだな。きっと俺がいるぞ』
「……そんなわけねぇ。呪いなんてない、有り得るわけねぇんだ!!」
自分に言い聞かせるようにそう言って、打樋はゲームセンターへ向かっていく。しかしその間にも、人混みを通ることになる。
「ッ……いねぇな?」
警戒しながら、打樋が進む。決して呪いを信じたわけじゃない、気味の悪いストーカーが嫌なだけだ。自分に言い聞かせて、歩いていく。
「どうやらいないようだな。ようやく撒いたらしい」
「『希望に絶望を』……」
「ッ!? どこまで追ってきやがるんだ……!? くそっ!!」
──タッタッタッ……
打樋は悪態をつきながら、ゲームセンターへと走る。あの中にまでは入ってこれまい。人もそこまではいないはず、もし来たら捕まえてぶん殴る。そう決めて、打樋は逃げるように走った。
「はっ、はっ……!!」
ゲームセンターに辿り着いて、打樋は周りを確認し、ほっと一息つく。
「よし、撒いたな……さて、始めるか」
打樋がアーケードゲームを始める。しばらくやって、打樋が立ち上がって呟いた。
「……喉乾いたな。ジュース買おう」
そう言って、打樋はゲームセンターの中にある自販機コーナーに行った。炭酸ジュースを買うために130円を投入して、ボタンを押す。その時だった。
「『光ある者に闇を』……」
「なっ……!! どこだっ!! どこにいやがる!?」
「なんだなんだ、急にどうした?」
いきなり声を張り上げた打樋に、自販機コーナーで休憩中の者達が反応する。しかし、怪しい者と言える者はどこにもいない。打樋はそれにどうしようもなく、恐怖を覚えてしまった。迷信を、信じてしまった。
『今からお前を呪いに行くから、覚悟しておけ』
「ち、違う……呪いなんかない!!」
「呪いってなんだ……?」
全員がザワついている。後ろのジュースのことも忘れて、打樋はゲームコーナーに走った。集中すれば、あんなもの聞こえない。聞こえてきたら、今度こそ捕まえる。そう思って……
「来るなら来やがれ、クソが……!!」
「『生あるものに暗い死を』……」
「そこかぁぁぁッ!!!」
──ズガァァッ!!
打樋はそう叫んで、拳を振りかぶる。目の前にいた、一人の男を……殴りつけた。
「ぐっはぁぁ!?!?」
「ヘッ、ざまぁみやがれ!! 正体見せやがれ、呪い野郎が!!」
「な、なんなんですか!! 急に殴ってくるなんて!!」
目の前にいたのは、背の高い男だった。打樋はこいつが言ったと確信し、脅してでも吐かせようとする。
「とぼけんじゃねぇ!! なにが『生あるものに暗い死を齎すもの』だ!!! テメェの考えた口上に、興味なんざねぇんだよ!!!」
「なんだ、何の騒ぎだ!?」
「俺はそんなこと言ってねぇぞ!! 言いがかりも大概にしろ!!」
あくまでとぼけるつもりか。そう思った打樋が、もう一発振りかぶる。
「それなら、殺してでも吐かせ……」
「おい、こいつをつまみ出せ!!」
「なっ……!?」
打樋は大量の人に囲まれて、出禁の紙を渡されると……外に放り投げられた。
「グハッ!? ち、畜生……俺をコケにしやがって、覚えてやがれっ!!!」
そう吐き捨てて、店の前に唾を吐き……打樋は別の店へと行こうとする。その時……
「『生あるものに暗い死を齎すもの』……」
「えっ……そ、そんな!! 嘘だろ!?」
「『悪因には悪果あるべし』」
ゲームセンターから、いなくなった者はいなかった。今さっき、追い出されたからわかる。あの喧騒に紛れて逃げていたのか? どうして俺に見つからずに逃げられたんだ? そんな考えが、打樋の中でぐるぐると巡る。その理由を一言で片付ける方法を、打樋は知っていた。知ってしまっていた。
「呪い……俺への、呪い……?」
「『善因には善果あるべし』」
「く、来るな……来ないでくれぇぇ!!!」
──ダッダッダッ……
打樋は情けなくそう叫んで、その場から逃げ出した。どこに逃げるのかもわからないまま。そうだ、家に帰ればいい。家に帰れば、奴も追ってこれまい……そのはずだ。打樋はそう思い込もうとしたが、追いかけてくる声がそれを許さない。
「はぁっ、はぁっ……!!」
「『呪詛には呪詛を』」
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!!!」
──ダッダッダッダッ!!
力でも法律でも、どうにもできない。呪いは超常現象だ。誰も何もしてくれない、最悪の状況。どこで、誰が言ってきているのかもわからない。だからこそ、打樋は家に帰ろうと走る。しかし、声はどこまでも追ってきた。
「来るんじゃねぇ、クソ野郎!! ぶっ殺すぞ……!!」
「『報賀には報賀を』……」
「やめろって言ってんだろ……!!」
次はどこからやってくるのか。どこからこの声を届けてくるのか。最後まで言われたら、自分はどうなるのか。なにも分からない、その事実が打樋の恐怖を煽る。
「『因果応報』」
「来ないで、くれ……死にたくねぇ……!!」
「『人を呪わば穴二つ』」
恐怖が限界を突破した打樋が、その場にしゃがみ込んで……叫んだ。
「俺のそばに近寄るなァァァァーッ!!!」
「なんだ、大声出して……」
「おいどけよ、邪魔なんだよ!!」
──ダダダダダダッ!!!
打樋は心の底から恐怖しながら、必死で家に帰っていく。それを冷たい目で見つめる、人混みの中の目立たない服装の男が呟いた。
「……下準備は終わったな。これだけでは終わらんぞ、打樋泰。貴様には地獄すら生ぬるい」
そう言って目立たない服装の男……如月は、その場を静かに去っていった。
時間は何日か前に遡り、事務所に帰った如月は何をしていたのかというと……まず、打樋に関しての噂を集めた。そこまでできるなら、この辺りでは有名なのではないかと思ったのだ。
「あった。これが奴の父親の会社だな?」
そこから更に情報を集めて、その辺りの一帯にいる『打樋』を調べた。それも平屋ではなく、二階建てなどの大きめの家を。すると、絞り込むことができた。
「後は、ここにこの手紙を届けに行くのと……目立たない服装。それと奴にこっそりつける、小型のGPS装置と……あと盗聴装置だな」
如月は次々に必要なものを準備して、深夜三時。みんなが寝静まっている時間に、こっそりと手紙を入れていき……如月は、紙の裏に頑丈な盗聴装置をつけておいた。くしゃくしゃに丸めても、壊れないくらいに頑丈なものを。
「これでいい。明日には見つかって、奴が手に取るはずだ。明日は燃えるゴミの日ではないし、大丈夫だろう」
そして、その二日後。盗聴した通り、電車に乗り込んだ打樋にGPS装置を貼り付けておく。満員電車なんだ、指一本が腕に触れた程度でバレはしない。そこから呪文の詠唱を開始し……ゲームセンターにて。
「『生あるものに暗い死を』……おっと」
「そこかぁぁぁッ!!!」
「ぐっはぁぁ!?!?」
如月は、殴られてしまった人には申し訳ない気持ちになったが……心の中で謝りながら、打樋が間違った相手に集中している間に、こっそり立ち去る。それから物陰に隠れて、つまみ出されたタイミングでまた詠唱を始めた。
「『生あるものに暗い死を齎すもの』……」
「えっ……そ、そんな!! 嘘だろ!?」
「『悪因には悪果あるべし』」
打樋が逃げていくのを見ながら、如月は呪いの言葉を口にしていく。そして、必要な部分を全て詠唱し終わった頃に、打樋が恐怖のあまり叫んだ。
「俺のそばに近寄るなァァァァーッ!!!」
「ハッ、無様だな……」
「おいどけよ、邪魔なんだよ!!」
バレないように距離を取って、逃げる打樋を見つめる如月。怯えて逃げたのを確認し……次の日。吉川に会いに行った。
「……すみません、如月ですが」
「あぁ、如月さん!! どうぞ入ってください!!」
「お邪魔します」
そう言って家の中に入り、如月はお茶やお菓子を出された。
「どうぞ、如月さん」
「いえ、お構いなく。作戦は成功しました、あと一言で奴を呪うことができます」
「本当ですか!? よかった……!!」
ユミと吉川が胸を撫で下ろす。如月は、最後の条件のために必要なことを言った。
「最後に必要なのは、晴輝くん本人です。なんとか連れ出せませんか?」
「多分、私たちが付き添いの元なら……少しくらいは」
「お願いします。善は急げですので」
そう言われて、二人が頷く。
「わかりました。それでは、連れてきます」
「学校裏の路地裏。そこに打樋を誘導しますので」
「そちらはお願いしますね」
それに頷いて、如月は学校前に歩いていく。そして、放課後。打樋が出てきた……昨日のことを引きずっているのか、辺りをキョロキョロ見回している。音波収束装置を使って、打樋に呼びかけた。
「おい、打樋泰」
「なっ!? お前は……どこだ、どこにいやがる!?」
「お前と戦いたい。こっちに来い、それとも逃げるか?」
そう言うと、打樋は挑発に乗って走ってきた。如月は声で打樋を誘導していく……
「こっちだ、打樋」
「待ってやがれ!! ぶち殺してやるッ!!!」
「やってみろ、できるものならな」
打樋が追ってくる。彼らはもうすぐ来るはずだ、それまで追いかけっこを続けよう。如月はそう思って遠回りさせる。
「ついてこい」
「待ちやがれっ!!」
「どうした、こっちだぞ?」
打樋はまんまと誘導されて、規定の位置に来た。そこには、盲目となった晴輝と……ユミと吉川も立っている。
「待たせたな、打樋。ここが終点だ」
「お前らは……やっぱりテメェか、晴輝!!」
「違う。お前をやったのは俺さ、打樋」
如月も出てきて、怒り狂う打樋に冷たい視線を送る。
「貴様はもう終わりだ、諦めろ!!」
「ふざけんな、お前が悪いんだろうが!!! 俺が気持ちよく授業中に寝て、トイレでスマホ触ってたってのに……勘のいい先公どもに連れ戻されて愚痴った俺に、『アホじゃねぇの』だとォ!? テメェに言われる筋合いねぇんだよォォォ!!!」
「そんな下らないことの報復のために……こんな惨いことを!? 貴様は……!!」
如月が吉川を制止する。打樋は怒り狂い続けているが、如月は飽くまで冷たい声で答えた。
「確かに、それは晴輝くんの口調に問題があったかもしれない。しかし、暴虐を振るう理由には全くならない。平和的な解決手段など、いくらでもあった。それを一切無視し、最悪の犯罪行為に走った時点で晴輝くんの非はゼロだ。残念だったな」
「言いたい放題言いやがって!! 殺してやる、晴輝みたいに目を潰してから、殺してやるッ!!!」
「殺されるのはお前だ!!」
晴輝がそう叫んで、如月が肩に手を置く。打樋が全力で殴りかかってきたが……もう、遅い。
「黙れ黙れ黙れぇぇぇッ!!! 死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「天罰覿面!! 吹きて放てよ、呪詛返シ!!!」
「がっ……」
打樋の拳はギリギリで届かず、晴輝から出た黒い物が全て降りかかり、その場で倒れ込む。
「……終わったか」
「やったの?」
「あぁ、終わったよ。よく頑張ったな」
そう言って、如月は晴輝の手を握る。晴輝は口角を上げて、ニッコリ笑った。
「そっか……これで学校にも行ける!! ありがとう!!」
「どういたしまして。あと、こいつは学校前に置いていきます。何れ回収されるでしょうし、手袋をつけていれば指紋は出ませんから」
「何から何まですみません、本当にありがとうございました。なんとお礼を申し上げたらいいか……」
そう言われたが、如月は首を横に振る。
「いえ、仕事ですので。また請求書をお送りしますね、それでは……また機会があれば」
「ありがとうございましたー!!」
「さよなら、如月さん!!」
三人に手を振りながら、打樋を肩に載せて……如月は去っていった。
次の日。打樋は自分の家で療養していたが、酷い体のだるさに襲われていた。一階のソファに寝転がって、ほぼ動けずにいる。
「くそっ、動けねぇ……なんでだ……!?」
「酷い風邪だって言われたけど、急にこんなになるなんて……不幸ねぇ」
「あいつがなんかしたんだな、クソが!! ふざけんな、俺がなんであんな目に……」
──パリン。
そんな音がして、窓ガラスが割られた。打樋の父も母も、打樋自身もそちらを見る。すると、そこから複数人の目出し帽を被ってナイフを持った、男たちが現れた。
「な、なんだお前たちは!?」
「死ね、打樋家」
「は? がっ……ぐぎゃあぁぁぁぁ!!!」
──ザシュアッ!!
──ズジャアァァ!!
一瞬で、部屋が地獄に変わった。自分の父が、夫が、滅多切りにされて、滅多刺しにされている。父が動かなくなってしまい、母は窓から逃げようとしたが……銃を取りだした男に撃たれて、地面に倒れる。
──パン。
「がっ……や、やめてっ……」
「貴様らのせいだ」
「ぎぃぃあぁぁぁぁぁっ!!!」
──ズシュアァァッ!!
──ザシュシュシュシュッ!!!
打樋はそれに、本能的な恐怖を覚えた。目の前に刃物があるという恐怖。それを持った者が、こちらに殺意を向けてきている恐怖。そして何より、これから殺されるという恐怖。その瞬間、気づいた。これが晴輝が感じたものだったのだと。しかし、もう遅い。暴虐の精算は、この恐怖をもって、今行われるのだ。逃げることは許されない。
「や、やめてっ……嫌だ……!!」
「お前も死ね」
「どうして、なんで……俺を殺すんだ!!」
打樋は答えを知っている。知ってしまっているのに、口にしてしまった問い。答えはもちろん、一つだけだ。
「お前が気に入らない。お前が悪い」
「いや、だ……!!!」
「死ね」
──ズシュアッ。
無慈悲な刃と、肉を引き裂く音。鮮血が飛び散って、絶叫が響いた。無慈悲な刃は、その声が止まるまで振り下ろされ続けた。自分がかつてやったように。そして、次の日のニュースにて。
「では、次のニュースです。打樋さん一家三人を殺害しようとしたとして、殺人犯の三人グループが逮捕されました。調べに対し、男たちは『間違いありません』、『打樋社長に個人的な恨みがあった』と、容疑を認めているとのことで、警察は計画的な犯行と見て調べています」
「また、打樋さん一家は一命を取り留めましたが、脊髄損傷による半身不随や、出血多量による脳への障害などが残っているとのことです。また警察の調べによりますと、『打樋社長が経営する会社に不正な取引や、パワハラの記録が多数見つかった』とのことで、事件との関連性を調べています。それでは、次のニュース……」
帰ろうとした如月は、今までにない程の症状に襲われていた。誰もいない路地裏で、声を殺しているが……血が体中から溢れてきている。血反吐も無論、吐いている。
「がっ、ぐぉっ……うがあっ……!!」
ここまでだとは思っていなかった。このままでは、死んでしまう。そう思って、如月は緊急用に入れている薬を取り出した。血反吐を吐きながらも、それを無理やり飲み込む。
「ぐっ、おっ……んぐ、ゴホッゴホ!!! がっ……はぁ、はぁ……」
少しフィードバックが落ち着き、如月がなんとか立ち上がる。
「……血を拭いとこう、騒ぎになる」
血をできる限り拭き取り、ふらつく足取りでなんとか歩いてゆく。胴体に一際大きな、ナイフで刺された痕のような刻印が刻まれる。
「次やったら、俺は……」
死。如月は、それが間近に迫るのを感じていた。しかし如月は……それでも仕事を止める気はない。
「この力は、あんな奴らの、ために……あるわけじゃ、ない……証明、するんだ……」
うわ言のように呟きながら、家に戻る。しかし、家の方が騒がしいことに気づいた。サイレンが聞こえる……何がどうなっているんだ。そう思って、見てみると。
「……ッ!!」
燃やされている。如月が帰ってきたのは、家が全焼している真っ最中だった。
「あ、如月さん!! 誰かがここに火をつけてるの、私が見ちゃって……あれ、誰かわかる?」
「アクティング……」
「え? 如月さん!?」
如月はそれだけ言うと、家を無視して走っていった。アレが本当に最後通告だったのだと、如月は今気づく。しかし、立ち止まってはいられない。走りながら如月が呟く。
「上等だ。最後の勝負と行こうぜ」
如月はそう言って、遠くの敵を……いや、敵達を見据えた。冷たい目ではなく、深い憎しみの籠った……感情的な目で。
「……クソ野郎共が」
そう言いながら、如月はまだふらつく足を無理やり動かして、血の味を飲み込んで走っていった。
次回、最終決戦開始。