〜龍次side〜
「やっと着いた……」
これからお世話になる家にやっと着いた。築3年の綺麗なマンションで、学校から15分程のところにある。一人暮らしすることになった俺には願ったり叶ったりなところだ。こんなきれいな場所、家賃も高かったろうに両親には感謝してもしきれない。
本当は両親は俺と一緒に来たかったらしいのだが、なにせ父親も母親も共働きで、仕事があるからとのことで一人暮らしすることになった。まあ俺も自分の生活を見直すいいチャンスだと思っている。
「にしても、随分かかっちまったな…。」
すっかり日は暮れて、今はもう9時を回ってしまっている。今日はもう何もできそうにない。
「そういえば、明日は確か理事長に挨拶で、明後日が入学式だったっけ…。」
まだ来たばかりだと言うのに、慌ただしすぎだ。
「…っと、それより、大家さんに挨拶に行かないと。こんな夜遅くだけど大丈夫だろうか?まあ一応連絡入れといたが…。まあいい。さっさと行くとするか。」
俺は大家さんのところへと向かった。
「よかった、大家さんが優しそうな人で。」
こんな夜遅くに訪ねたというのに、嫌な顔ひとつせず丁寧に接してくれた。
それはさておき、今日できる分だけでも荷解きをしておこう。明日1日で全部終わらせるのはキツいからな。
〜翌日〜
今日は始業式みたいで、昼頃に尋ねると多くの生徒が部活をしていた。
「やっぱり男子生徒は少ないな。」
辺りを見回すと、おそらく9:1ぐらいの割合でしか男子がいない。もしかしたらもっと少ないかもしれない。だがそれは元女子校だから仕方のないこと。それよりも由々しき事態があった。
「それよりも全体的に生徒が少ないな……。」
そう、全体的に敷地に対して生徒が少ないのだ。いくら1年生が入学式前だからと言っても少なすぎる。
「今はそれどころじゃねえな。さっさと理事長室に行って手続き終わらせねえと。」
俺はすぐに運動場を後にした。
〜理事長室前〜
事前にもらっていた地図を頼りに理事長室まで来た。さすがに広いな。
「さて、行くとするか。」
コンコンコン
「どうぞ、入ってください。」
中から若い女性の声が聞こえてくる。
「失礼します。」
ガチャ
ドアを開けると、そこには立派な部屋が広がっていた。
「いらっしゃい、琴宮 龍次君。」
部屋の奥にいかにも身分の高そうな女性が立っていた。
「この度は入学許可を頂き、ありがとうございます。」
一応社交辞令っぽいことを言いながら、ぺこりと差し障りのない程度に頭を下げる。
「そう畏まらなくていいですよ。どうぞ、お座りください。」
「失礼します。」
俺は言われた通りに高級そうなソファに腰掛けた。理事長が目の前に座る。
「改めて、初めまして。私は南 こゆき。見ての通り、個々の理事長をやっています。」
「琴宮龍次です。………いえ、それとももう宮地 龍也(みやじ りゅうや)と名乗った方がいいのでしょうか?」
「そうね、そうなるわね。」
俺はこの学園では偽名を使うことを予め申請していた。というのも、俺の名前を知っている人間がいればおそらく部活に勧誘してくることが考えられるからだ。
「でもいいのかしら?偽名だと部活動の大会には出場できないのだけれど………。」
「構いません。元々部活には入るつもりはありませんから。」
「そう………。もったいないわね、そんなにスポーツに向いている体つきをしているのに………。」
おそらくこの人は知っているのだろう。いや、知っているに違いない。おそらく中学校の方から伝わっているだろうからな。
でも、もう俺は部活はやりたくない。バスケを捨てるということではない。ストリートでもなんでも続けるつもりだ。だが、もう部活はしたくない。
「いいんです。そっちのほうが気が楽ですから。」
「……分かりました。こちらからは強制しません。だけど、部活をやりたくなったら言ってね?力になるから。」
南理事長が期待の眼差しを向けてくる。
「………はい。その時はお願いします。」
その時が来ることはおそらくないだろう。だが、ここで再び言い返せば会話がループしかねないから当り障りのないように返しておく。
「それじゃあ明日からのことを話すわね。」
「はい。」
「明日は入学式と、クラスメイトとの顔合わせがあって…………………。」
この後、いくつかの確認事項を行った。それほど時間はかからず、2時ごろには家に帰っており、日が暮れるころにはもう荷解きが終わっていた。
~翌日~
入学式も無事終わり、(俺は背筋を伸ばしたまま少し俯いて寝ていたのだが、)これから1年間過ごす教室へと生徒が集まっている。俺は1年2組になった。
入学式で分かったことなのだが、やはりこの学校は全体的に生徒が少なく、男子に関して言えばとてつもなく少ない。
学校の経営とかは大丈夫なのだろうか?まあそれは俺が気にすることではないのだが。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、先ほどまで同じ出身中学校同士でお喋りしていた生徒たちが席に座る。
ガラガラガラ
教室のドアが空き、俺らの担任と思われる先生が入ってくる。身長は少し低めだが、バランスのいい体つきをしている。
「はーい、席について………ってもうついてますね。」
先生が前に立つ。
「みなさん、入学おめでとうございます。皆さんの担任になりました、瀬野 美月(せの みつき)です。1年間みなさんと共に学校生活を楽しく送っていきたいと思います。担当教科は数学です。」
瀬野先生が黒板に名前を書きながら、テンプレ通りの自己紹介を進める。
「あれ、皆さん緊張してますね~。まあ仕方ないか!それじゃあひと通り自己紹介をしてもらいましょう。」
先生の一言に教室がざわめく。俺はというと、偶然にも一番後ろの席を割り当てられ、その恩恵にあずかって机に突っ伏している。
「名前と趣味、あとはなにか一言。今日は顔合わせだからそこまで詳しく言わなくていいですよ!それじゃあ出席番号1番の相田(あいだ)君からお願いします。」
こうして自己紹介が始まった。
皆が自己紹介をしている間も、俺は机に突っ伏していた。
先生が出席番号と名前を呼び、名前を呼ばれた生徒は前へと行って自分の紹介をする。そういう形式で進んでいた。
他の生徒の名前は今覚える必要もないだろうと高を括っていたのだが、とある女生徒の名前が呼ばれた瞬間、俺の体はその名前に反応してしまった。
「次は出席番号19番、西木野 真姫(にしきの まき)さん」
「はい」
小学校を卒業してから約3年、全く変わらないその声に、俺の耳は反応した。
机に突っ伏すのをやめて顔を上げると、そこには3年前と変わらない赤くて少しウェーブのかかった髪をした女の子が立っていた。
3年前と比べて体つきは女の子らしくなっていて、顔も大人びていた。
「初めまして、西木野真姫です。趣味はピアノ。1年間よろしくお願いします。」
何も内容に印象のない自己紹介だったが、俺にはインパクトが強すぎた。
『また、会えるわよね?』
3年前のあの言葉が、鮮明に蘇ってくる。
(まさかこんな形で真姫と再会することになるとはな………。と言っても、あっちは俺のことに気付いてなさそうだけどな。)
嬉しさと寂しさがこみ上げてくる。
もう一度真姫と話したい。あの頃みたいに笑いたい。でも俺はあいつに合わせる顔もなければ再会を喜ぶ資格もない。
(この3年間で…いや、この半年で俺は本当に変わってしまったんだな………。)
先ほどまで感じていた喜びも、今となってはすべて虚しさへと変わってしまった。
(ごめんな、真姫。約束を破ることになっちまって………。もう俺はお前に合わす顔がない。)
心の中で謝りながら、教壇から自分の席へと戻る真姫を見つめていた。
設定(一部オリジナル)
琴宮龍次 プロフィール
身長:193cm(まだ成長期止まらず)
体重:87kg
趣味:バスケ 料理
好きな教科:数学
苦手な教科:歴史
好きな食べ物:辛いもの 肉 おつまみ
嫌いな食べ物:甘いもの しょっぱいもの
音ノ木坂高校 設定
全校生徒:420人
3年生:40人×4クラス 男子30名 女子130名
2年生:35人×4クラス 男子25名 女子115名
1年生:30人×4クラス 男子15名 女子105名
クラスの設定をするため、すこしオリジナルを入れました。