星見雅(偽)   作:─────

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突然だが、私は転生した……と、思う。

気がついたら前世に好きだったゲームのキャラの姿で、こうなる前の最後の記憶が迫るトラックなのだから、私がアブナイお薬でトリップした、なんてことがない限りこれは転生というやつなのだろう。

さて、私の目下の問題点は転生したという大本の問題を除いて二つだ。

一つ目は、私の外見が星見雅であること。

転生して鏡を見た私の第一声は

 

「……は?」

 

この一言だった。

ついこの間まで一般ゼンゼロプレイヤーだった私にとって、星見雅という役割は荷が重すぎる。

これに付随する二つ目の問題は、家庭環境が私の知る星見雅と違うという点だ。

一言で言うなら、酷すぎる。

父は蒸発し、その衝撃で母はほとんど廃人のような生活となっている。

 

「──母上、今日の食事だ」

「ああぁ…」

 

この具合で、しかも苗字は星見ではなく暁。

もしや雅は養子だったのか?などと思いながら生きること十余年。

一応、口調は星見雅に近づけたし、剣術やその他修行は思いつく限り行なっている。

たが、ある日のテレビ特番によって、私の希望はほぼ完全に途絶えた。

 

『やってまいりました!新エリー都密着特番!数々の有名人に密着し、その暮らしぶりを伝えてきたこの番組!今日密着するのはなんと、星見家の坂当主、星見雅さんです!』

 

そこに映ったのは、私と瓜二つの顔をした女。

瓜二つの顔で、私とは全く違う血筋と実力、そして運命を持った女。

私に去来したのは、重い役割から解放された喜びでも、悔しさでもなく……虚無。

なんらかの感情を抱くよりも前に、脳がその情報を処理し切ってしまった。

そして考え抜いた結果、私は今の日々を続けてしまおうと思った。

この日私は、〝星見〟雅ではなく〝暁〟雅として生を歩み始める……そのはずだったのに。

 

──少し出かけます。私の事は気にせず自分らしく生きていてね、雅──

 

そんな手紙を残して母が消えた。

すでにアルバイトで収益を稼ぎ母を養うまでしていた私には生活面での変わりはなかった。だが、やはり長年共にいた人物が目の前から消えたという事実は損得勘定を超えた喪失感を私に残した。

 

───────────────

 

「あれ?雅ちゃんどうしたの?なんか暗くない?」

「私は普段通りだ。そうしようと努めている故、そのように接してくれるとありがたい」

「いやいや、雅ちゃんはウチの名物店員だし、悩みなら聞くよ?給料アップとか?」

「……大丈夫だ。心遣いに感謝する」

 

バイト先でもいつも通りに振る舞おうとはしているが、出来ていないらしい。

私がバイトしているのは小さな居酒屋で、知る人ぞ知るという程度の場所だ。

以前に見たテレビ番組は星見雅が初めて中心に置かれた番組だったらしく、あの放送以降、容姿が星見雅と瓜二つな私は客全体に店長から説明できるくらいに客入りが少ない店でなければ働けなかったのだ。

だが、私が入った事によりこの店は『星見雅のそっくりさんが働く店』として一部界隈で密かにウワサになっている、らしい。

 

「雅ちゃん、アレやってよアレ!」

「……こほん。『星見家次期当主、星見雅だ。今日はよろしく頼む』」

 

言われた通りのいつも通りのセリフを話すだけで、居酒屋にやってきた男たちは歓声を上げる。

この一言は、私が星見雅を初めて見たあのテレビ番組で彼女が最初に発した一言だ。

彼らにとって鮮烈な印象として残っているこのセリフを私が話すことで、私と彼女がどれだけ似ているかがわかり、楽しいのだそうだ。

 

「そういえば雅ちゃんって刀も使えたりすんの?」

「…自己流だが、一通りは扱える」

「おおっ、すげぇ!見せてよ!」

「店内で振り回しては、店の備品を壊す恐れがある故、申し訳ないがそれは……」

「まぁまぁ、そう言わずにさ!……この店って店長が学生時代に使ってた木刀あるんじゃなかったっけ?」

「おう!あるぞ!」

「……店長」

 

店全体の空気が、なぜか私に木刀を持たせるという方向へと向き始める。

こんな狭い店内でそんなものを振り回したら確実に店の備品関連が壊れると思い止めようとするが、誰も私の話を聞こうとしない。

 

「ほら!みんな期待してるぞ!」

「そうそう、カッコいい感じでやってよ!」

「そうだな。私も少し見てみたい」

「ほら、みんなこう言ってるしさ!」

 

店長に促され、渋々木刀を受け取る。

……まて、今聞き慣れない女性の声が混じっていた気がする。

私と同時に他の人たちもそれに気がついたのか辺りを見渡し、そして全員の顔が店の入り口に向けられる。

 

「……ふむ、似ているな。噂を聞いた時はあまり信頼していなかったが、想像以上だ」

 

そこには、私とそっくりの顔の人物、つまり本物の星見雅が立っていた。

 

──────────

 

数分後、私は誰もいない路地裏で星見雅と対面していた。

彼女はなんでも私に話があるらしく、私と目が合った瞬間の第一声が

 

『表に出ろ』

 

だったのだ。

命の危機かと焦ったが、どうやら本人は二人で話したいから外に出ろというつもりで言ったらしい。

とりあえずご本人から直々にここに来るということは、私のせいで悪評が付いたりしたのだろうか?だとしたらこのバイトは辞めるしかないが、そうなると生活が苦しい。

そう考えていると

 

「率直に言う。お前を雇いたい」

「……へ?」

 

変な声が出た。

恥ずかしいくらい変な声が出た。

いつもは癖で星見雅らしい喋り方をしているが、強い衝撃を受けるとこうして素が出てしまう。

恥ずかしさからこの場を立ち去りたい気分だったが、彼女は気にせず話を続ける。

 

「私は多忙な上、対外関係が複雑であるが故に命や財産を狙われることが後を絶たない。……そこで、お前に私の影武者を頼みたい」

「それは、ここで話して良いんですか?」

「…………口調が変わったな?」

「流石に本人の前であの口調のままなのはなぁ、と思ったので敬語にしました。……それで、大丈夫なんですか?」

「だからこそこの場所だ。……それで、受けてくれるか?」

「……えっと、とりあえず店長に──」

「すでに確認を取った。〝頑張れよ〟とのことだ」

「……えっと、それならよろしくお願いします!」

 

私は星見雅ではなかったが、こうして星見雅の影としての人生が始まった。

 

────────────

 

「……ほ、星見執行官?虚狩りの叙勲の方は?」

「……もう一人の私に頼んだ。彼女なら上手くやってくれる」

「?星見執行官って、二人いるんですか?」

「うむ。瓜二つの生き写し、しかし血の繋がらぬ……まるで化生の如き者がな」

 

……私のいない場所で私がドッペルゲンガー扱いされていた事と、その後合流した途端に星見雅以外の二人に悲鳴を上げられたことは水に流すとしよう。

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