星見雅(偽) 作:─────
目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。
「……知らない天井だ」
こんなにぴったりのシチュエーションなのだから、この有名なセリフを言わずにはいられない。
……すると、視界の端で青いものが動いた。
「あっ!」
そちらへと目を向けると、そこにいた蒼角と目があった。
恥ずかしい、誰もいないと思っていたのに、こんなふざけたセリフが他人への第一声になるなんて。
「ナギねえ!ボス〜!起きたよ〜!」
蒼角は柳さんと雅を呼びながらトテトテと走って行く。
今の私にはその大きな声を注意する体力も、彼女を呼び止めてこの場所はどこかと聞く体力もなかった。
──────────
「……ここは?」
「病院です。あなたはあの後、多量の出血とエーテル侵食によって意識を失っていました」
柳さんは、私にそう言うと少しだけため息を吐いた。
「……先日行われたあなたと、星見雅のドッペルゲンガーとの戦闘、我々はその一部分を見ていました。そしてあなたが昏睡していた三日間、あなたの戦闘能力と戦闘中の言動に対して六課内でのあなたの今後の処分に関して協議を行いました」
「……そうですか」
「えぇ、結論から申し上げますと──」
「今まで、ありがとうございました」
私は六課には居られないのだろう。
一時的とはいえ、あそこまで言ってそれを聞かれていたのならもうおしまいだろう。
すると、柳さんの後ろから出てきた雅がこちらへ近づいて来る。
「お前には、これからも私の影武者として働いて欲しい」
「……は?」
「聞こえなかったか?お前には──」
「聞こえた、聞こえたけど……。見てたんでしょ?なら、私は適任じゃないってわかるでしょ」
「いや、私の影武者は後にも先にも、お前をおいて他にはいない」
何を言っているのだろう、この人は。
私をおいて他にない?私は彼女に一度殺意を抱いた、それを見ていたというのに?
困惑する私に、雅は言葉を続ける。
「お前の殺意は、私が押さえつけてしまったお前自身の全てだった。故に、今後はもう少し……私を信頼して欲しい」
「……?」
「お前の苛立ちの責任は私にある。それをぶつけられた程度で折れるような弱い私ではない。……どうかもう一度、私と共に──」
「馬鹿じゃないの」
口を衝いて出たのは、私自身が思ったよりも冷たい一言だった。
「……お前が嫌いなんだよ」
「抱こうとも仕方のない感情だ。……それはおそらく、単純な嫌悪ではないと思う」
「お前とは違う」
「わかっている。今後は目を背けないと約束する。……お前に不満があれば耳を傾ける」
あぁどうしよう、こうなった時の彼女は頑固だ。
それでもきっと、私が彼女のそばにいてはいけない、断るための言葉を探していると
「……六課の協議の中で、あなたの六課所属に異を唱える人は一人もいませんでしたよ。暁さん」
聞こえてきた柳さんの言葉に驚いて彼女の方を見ると、彼女はこちらを見て微笑みながら、いつも通り彼女の愛用の眼鏡の位置を直したところだった。
「えっと、その……、これからも、よろしくお願いします」
「……!わーい!やったぁ!」
「あっ!?」
恥を忍んで六課に居続ける決意をし、それを言葉にした次の瞬間、腹部に鈍い衝撃が走り意識が遠のく。
私が最後に見たのは、満面の笑みで飛び込んだ蒼い弾丸とそれを止め損ねた柳さん、そして……微かに笑う雅だった。