それから何事も起こる事なく半年が過ぎる、病院の手術室の前にて鹿目家一同が揃う
「大丈夫かなママ」
「大丈夫、ママは悠仁とまどかの二人も産んでくれたんだ、大変なのは間違い無い、見守ろう。二人ともまだ成長中なんだ、小まめに休憩を取るんだよ」
「そう言う父さんこそ大丈夫か?母さんが手術室に入って以降、軽食すら摂っていない」
「心配を掛けるね、でも大丈夫。せめてママの戦いが終わるまで夫である僕は此処に居なくちゃいけない」
鹿目知久は一度言ったことは決して曲げない、本来なら手術室に入り遠目からでも見守りたい気持ちを抑え、まだ幼い俺達の為に外に出てくれている。
前回まどかの時は、興味が湧かず祖父母の家に居た。あの時の選択程今世で後悔した事は無い。
無理を言って、まどかと共に参加している以上、父さんの意志は尊重せねばならん。
「ちっ、頑固者が」
「悪いね」
「少し外の空気を吸いにコンビニに行く、まどか行くぞ」
「えっ、でも……」
「お兄ちゃんの言う通りにしなさい、まだ時間は掛かるだろうから」
「………分かった」
少し疲れの色が見えるまどかを連れ、外に出る。
コンビニ飯なぞ喰えたものでは無いが背に腹は代えられん。
手術室には若しもの時の為に消毒液漬けにした斑尾と頼鹿を配備している、二人の目を通し母さんの様子を伺う。
今まで見た事が無い程顔に力が入っている、脂汗を滝のように流し戦っている。
無粋だと承知しているが、医者がヤブだった場合の策はいる。
魔女等の邪魔を入らせぬ為、夜刀衆と炯眼衆はフルで出動させた。無論、裏梅達も含めている。
「っ!とっとと!」
精神的に疲労し足が縺れたまどか、転ぶ前にまどかの腰を抱き寄せる。
「長く座り過ぎたな」
「ごめんお兄ちゃん、ありがとう」
触れている間に反転術式を流し、まどかの体力回復を目論む。
「?何かちょっとスッキリしたような」
「転びかけた拍子に眠気が飛んだのだろう」
「それとはちょっと違う気が……」
「何にせよ、母さんの事を見届けるなら好都合だ、違うか?」
「そう…だね、気の所為かも」
まどかは鈍感に見えて母さん譲りの洞察力や勘の良さがある、仮に警察や探偵になれば間違い無く一流になれる素質がある、しかし元来の性格が向いておらん。
まどかはカウンセリングといった寄り添う方が良いだろう。
思考する内にコンビニに着き、軽食等を購入していく。
「他に入用は無いか?」
「うん、大丈夫」
「そうか」
病院へ戻り、待ち続ける。呪物として過した千年という時間より今のこのたった数時間が長く感じる。
暇を潰すのは慣れていた、その筈。にもかかわらず今世は短くも長くも感じる。コレが人という事なのだろうか?
平安の頃、裏梅と共に過した時間を思い出す。久しく感じていなかった………悪くない。
母さんの様子も依然として苦しそうではあるが、深刻な状況では無い。
「待っているぞ、母さん」
小声呟いた言葉は、病院の廊下に吸い込まれた。
どれ程時間が過ぎただろう、赤児の泣き声を聞き一斉に立ち上がる。手術室から安堵の空気が漂う、二人とも無事のようだ。
疲れ切った母さんと赤児が移動式ベッドに乗って出てくる、いの一番に父さんが駆け寄った。
「ありがとう、ありがとう!詢子さん!」
「涙で顔が凄い事になってるよ、もう三度目だってのに」
眠る赤児を見ながら、普段見せぬ取り乱した表情をする父、
宿儺もまどかも初めてみる父の姿に気圧されながら、ほっと胸を撫で下ろす。
「思ったより平気そうで何よりだ母さん」
「一仕事終えた母に掛ける言葉がそれかよ」
「ママっ!」
「待たせたね、まどか。可愛げのある娘でママ嬉しいぜ」
「減らず口も健在か」
旦那と娘とは対象的な応対をする息子。でも見れば分かる、私の為に普段通りを装っている。
悠仁と結婚する人は察しが良くないと無理だね。
「御家族の方、申し訳ありませんがそろそろ…」
「あぁ!、すいません。ゆっくり休んでママ」
「また明日にでも顔を出す」
「ママ、おやすみなさい」
「おやすみパパ、悠仁、まどか、気を付けて帰るだよ」
斑尾と飛然を護衛として置き、撤収する。
安心したのか、まどかは目を擦りふらつき始める。仕方ない、かれこれ10時程は気を張り詰めていたのだから。
「まどか、車の中で寝ときなさい、悠仁も寝てて良いからね、着いたら起こすからさ」
「ごめん、パパ」
「相分かった」
気が緩む今、事故に遭う確率も高いだろう。返事だけして、道中は父さんと話すとしよう。
帰路に着く鹿目家の面々、宿儺の望んだ平穏の時間
妹に纏わりつく運命という名の終幕まで後