* 排球日和 *   作:御沢

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青葉城西高校排球部

トンッ、ってトスの上がる音。バシッ、ってスパイクの決まる音。

やっぱりいい音だなー…なんてしんみりしてる場合じゃない。

 

「六花ッ、あぶねぇ!!」

 

「へ…って、うわぁ!?」

 

―――次にした音は、顔のすぐ真横、壁にボールのぶつかる音だった。

 

 

青葉城西高校バレーボール部。

素晴らしいルックスで他校にもファンクラブがあり、優秀なセッターでもある及川徹を主将におき、及川と“阿吽の呼吸”と称される副主将・エース岩泉一を擁する県内でもハイレベルなそんな部は、今日もまた練習に励んでいた。ちなみに今の代が全国大会に行ったことはない。

白鳥沢学園バレーボール部。怪童牛島若利を擁するそのバレーボール部がこの3年間の宮城県代表を務め続けている。

個人では宮城県内、いや東北には牛島に敵う人はいないだろう。そんな人が主将を務める白鳥沢もまた敵うチームはいない。

 

いや、そんなチームを超えて、県大会に行くために、こいつらは頑張ってるんだけど。

 

 

そんな青葉城西の3年生で、バレー部のマネージャーの私―――溝口六花。名前の通り、バレー部コーチの溝口貞幸は年の離れた兄。兄貴は31歳で、私は18歳だから、13歳っていう結構な年の差だけど。

 

私には、ムカつく双子の妹が居る。

同じ遺伝子が分裂したかなんか知らないけど、顔も身長も髪の色も長さも瞳の色も二重も違うところを探すほうが難しいくらい、見た目はそっくりな一卵性双子だけど、それはあくまで外見の事。

内面は、運動神経こそ私の方が勝るけど、頭脳、性格、態度など全部あっちがいい意味で勝ってる。何の嫌がらせなのか、頭脳は特に優れてて、全国模試10位以内に入るくらい。

彼女―――溝口風花ももちろんバレー部のマネージャー。だけど、チームは違う。

 

チームは、私たちが倒したくて倒したくて、倒せない白鳥沢学園。

 

 

「六花ちゃん、大丈夫ー?」

大丈夫ー?なんてへらへら笑いながらやってくる及川。

「…それ、本気で思ってる、及川?」

「思ってる思ってる!六花ちゃんの可愛い顔が傷ついたら一生かけて償わなきゃって思うくらい!」

「…岩泉、頼むわ」

実力では県内トップといっても過言じゃないくらいの及川、実際はただの変態。ただの甘えん坊。ただの駄目主将。

「待って待って待って岩ちゃん!」

「…と言ってますがどうしましょう、六花さん」

「無視してオッケー、さぁレッツゴー」

 

及川の叫び声と岩泉のボールを投げる音が体育館に響いた。

 

 

満ち足りた顔の岩泉と頭を押さえる及川が戻ってきたころには、私は花巻と松川と談笑してた。

「六花ちゃん…それはないよ…」

「はいはい、ごめんごめん。それより、主将が変なことしてるから、練習中断しちゃってるよ?」

「誰のせいだよ!」

「え、及川」

すっかりシュンとなった及川と3年生が指示を出せば、いつも通りの練習再開。

私はドリンク作りに向かう。ちなみに及川に惚れた女子ばっかりで、仕事にならないとか言って他のマネージャーはお役御免になっちゃった。そんな事、本当にあるんだとびっくりした。

 

「おい、六花、ちょっと来い」

聞き慣れた声に、うんざりした声で返事。

「なぁに、兄貴」

「そんなあからさまな…」

いつも通りの返事といつも通りの表情。兄貴はまた“これだから若い奴は…”って言って、いつも通りショックを受けてる。

「で、何?ドリンク作ってる最中なんだけど」

「すまんすまん。それ終わってからでもいいけど」

選手たちとは違う口調で、しかもなんか私には優しい兄貴。…まぁ、小さいころから見てるから、しょうがないのかもしれないけど。

「いや、いいよ。それで、どうしたの?」

「二階に新しいボールがあるはずだから、取って来てくれねぇ?ちょっと古くなっててさ」

「あー、うん、オッケー。私も思ってたし」

踵を返して、体育館の二階に向かう。

 

「ボール、ボール…あっ、あったあった」

二階の体育倉庫をいじってると、やっと見つけた新品のボール。

とりあえず3つほど持って降りる。上から見ても、やっぱり皆のバレーはすごい。

「…こんなに頑張ってるのにね」

見れば見るほど、皆の事が大好きになって、応援したくなって、白鳥沢が憎くなる。

 

「兄貴ー、ボールあったよー!これー?」

下にいる兄貴が顔を上げる。私が持ち上げたボールを見て、あぁそれだ、って大きくうなずいてる。

ボールを抱えて下りると、下で岩泉が待ってた。

「あれ、どうかしたの?」

「いや、ドリンクがねぇから」

「あっ、ごめん、私作ってる途中だった!ごめん、ボール置いたらすぐ作る。皆に謝っておいて」

急いでボールを置きに行こうとして駆けだそうとすると、岩泉に肩をつかまれる。

何かと思って振り返ると、瞬間ボールを奪われる。

「ボールなら俺に任せとけ。皆がドリンク待ってるから早く頼むな」

「あー…ごめん。頼むね」

「おう」

片手をあげて挨拶をする岩泉に背を向けて、急いでドリンクを作りに行く。

岩泉は面倒見がいい。きっと幼馴染に及川が居たから、と言うのもあるんだと思うけど、きっと本質がそういう人なんだろう。

主将のサポート、という副主将の立場が一番全うできる人だと思う。

 

 

ドリンクを作って渡すと、皆ものすごく飲む。それくらい青葉城西の練習量はすごい。月曜日はオフだけど、その分濃く長く練習する。

「お疲れー。午後も練習あるから、頑張れー」

冷やしたタオルも配ると、気持ちよさげな声があちらこちらで上がる。喜んでくれたり、皆の力になれるのがマネージャーの仕事のやりがい。

 

ふと耳を澄ませば、他の部活の声。野球部か、女バレか。

なぜ私が女子バレー部に入らなかったかと言えば、それは至極簡単。男バレに兄貴が居たからだ。

私と兄貴は、おそらく普通の兄弟よりは仲がいい。13歳差だから、兄貴は私と風花に対して、妹と言うよりはむしろ近所の子供、もしくは娘くらいの感覚で接している。

風花は知らないが、私は兄貴の事は兄だと認識しつつ、やっぱり近所のお兄ちゃんといった感じになる。さすがに父親と言った感じはしないけど。

 

運動神経は、自他共に認めるほどいい私。女バレにも他の部活にも勧誘はされたけど、やっぱり男バレのマネージャーを選んだ。

ただ、入部した時のマネージャーは、私以外皆及川目当てという女子だったので、現在は後輩を含めても私1人という状況。

…及川のどこがいいのかいまいちよくわからないけど。そんな事を言ったら、また及川がうるさいからいわないけど。

 

 

…まぁ、そんな及川も含め、私は皆が大好き。もちろん仲間的な意味で。

「頑張れー!」

声援を送ることで皆の力になるなら、私は喜んで声援を贈る。この声が枯れそうになっても、応援する事をやめない。

そう思えるような仲間。それが青葉城西高校のバレーボール部。

 

 

 

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