* 排球日和 *   作:御沢

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別の方でクロスオーバーをやったので、こっちでも少々。


ハマる瞬間 another

春高の予選も、本選も終わって、どの学校ももう3年生は部活に出ていない。

それはもちろん、我が青葉城最高校バレー部でも同じこと。

及川がいなくなってくれたおかげで、及川目当てのマネージャー志望者は一気に減り、本気でマネージャーをしたい人だけが来るようになった。

後釜も見つかったし、安心して引継ぎが行えた。

 

 

「先輩、これ、どうすればいいんスかー?」

 

―――昼休憩、3年生の教室。

上級生の教室なのにもかかわらず、遠慮なく元気よく聞いて来るのは、1年生マネージャーの花咲由空ちゃん。ゆらちゃん、って読む。私の六花もなかなか読みにくいけど。

「んーとね、これは部室の2つ目のロッカーの中にいれて」

「あざーっす!」

マネージャーっていうよりも、むしろ選手のようなテンションの由空ちゃんは、金田一や国見とも仲良くできるようなそんな子。

うちの代は3年生がそもそも少なかったし、その中でもレギュラーも4人しかいなかったから、なかなか仲が良かったと思う。でも、今の1年生はものすごく多い。そんな中、レギュラーの2人以外の1年とも仲良くしてる由空ちゃんは本当にすごいと思う。

 

まぁ、このテンションの源は、前所属していた部活が関係しているんだけど。

―――元は女子バレー部のWSだったらしい由空ちゃん。男子と女子じゃ場所が違うから、疎遠気味で私はよく知らなかったけど。

1年生だけど飛び抜けたセンスでスタメン入りしてたらしいけど、膝の故障とかでバレーをやめることになっちゃったらしい。

こういう性格だから、表向きは明るいままで、当時の女バレの主将も安心してたけど、私は偶然、彼女がこっそり泣いてるところに出くわしてしまって。

話を聞いてるうちに、もしかしたら後釜にいいかも…?なんて思って、誘えば3日後にオッケーもらえたんで、男バレのマネージャーになってもらった。

 

 

「ではでは、あざーっした!」

大きく手を振りながら教室から去る由空ちゃんに小さく手を振ってると、同じクラスの岩泉がやってくる。

「あれ…新入りのマネージャーの…」

「そうそう、由空ちゃんね。本当に元気よ、あの子」

「あんなん見てると、体動かしたくなるわー」

確かに元気のいい由空ちゃんを見ていると、そう思ってしまうのもしょうがないかもしれない。

 

そういえば…体を動かすのは無理でも…

「…岩泉さ、今度箱根に行かない?」

しばしの沈黙。というか、理解できないという顔。

「箱根って…神奈川か?」

「うん。実はね…」

 

 

―――春高予選前、神奈川の名門・箱根学園のバレーボール部と試合をした。

その時に知り合ったマネージャーの相良香咲。同じ3年生のマネージャー。

実はバレー部ではなく、自転車競技部っていう、すごい自転車をこぐ競技部のマネージャーらしい。

今はお互い、受験勉強が忙しい…と思っていたら、向こうは推薦でちゃちゃっと大学を決めてしまったらしい。

ということで、部活に時々顔を出すとか。というか、まだ後釜が見つからないって嘆いていた。

そんな自転車競技はもう少しでシーズンオフらしいけど、今度小さなレースがあるらしい。全員が出るわけではないらしいけど。

一度レースを見たいと言ったら、今度こないかと誘われた、というわけだ。

 

この事を話すと、岩泉はしばらく唸ったあと、大きく頷いた。

「行ってみるべ!」

「本当?勉強大丈夫?」

「それは六花の方だろ」

「私は大丈夫ですー!まぁでも、気分転換になるよね」

正直、岩泉は自転車には興味なんてないと思う。でも、誘いに乗ってくれたのは良かった。1人で神奈川に行くことはちょっと難しかったし。

 

 

そして、当日。

 

「…なんであんたもいるの…及川。あと、影山くんも」

 

―――仙台駅で待ち合わせをしていると、そこに現れたのは岩泉ともう2人。

主将の及川と、烏野高校のセッター・1年生の影山くん。及川はもしかしたら、と思ってはいたけど、何故影山くん?しかも、私は彼と何の接点もない。中学校は北川第一ではなかった。

「えっとねー、飛雄ちゃんに“岩ちゃん、明日箱根で自転車レース見に行くんだって!しかもうちのコーチの大事な大事な妹ちゃん兼、美人マネージャーと!”って言ったら、後半部分はガン無視されたけど、レースには興味があったみたいでさ」

「急にLINEきて、明日連れて行ってくださいって影山に言われて、断れなかった」

影山くん…。コート上の王様、なんて孤独な感じだったけど、充分先輩に愛されてるんだね。烏野の人たちも、影山くんのこと大好きみたいだし。

「なるほどね。まぁいいけど。多い方がいいって言ってたし」

「今日は…その、あざっす」

まるで猫。そんな印象を持つ子だった。

 

 

箱根は宮城より、若干暖かい…気がした。

香咲のツテで、有名な老舗旅館に宿泊できることになっている。温泉が有名な箱根なので、密かに楽しみだったりする。

「うわーっ、人がたくさん!」

「レース会場はもうちょっと先みたい。香咲と待ち合わせしているの」

「六花ちゃんさ、いつの間にマネちゃんと仲良くなってたの?しかもバレー部じゃないなんて…あんな可愛い娘じゃなかったら、及川さんおこだよ!?」

「あんたのおこ、なんて知らないけど…まぁ、仲良くなれたのは嬉しいよ。違う部活のマネージャーと知り合えるなんて、いい経験になるし」

数歩先を岩泉と影山くんが歩く後ろで、私と及川が話す。彼と話すのは、なんだかんだ嫌いではない。じゃないと、岩泉がずっと一緒にいられるわけ無いのだ。

 

と、少し先に見覚えのある影。春高前にあった時より、少し髪が伸びている気がする。

ウェーブがかかってるのに、下ろしてても綺麗で落ち着いた長い茶髪は誰もが羨む。及川にも似た髪色に瞳の色。若干たれ目気味の目が可愛らしい。美人というよりは、可愛いという言葉の似合うそんな顔立ち。―――要するに、美少女ということ。

「香咲ーっ、久しぶり」

「おーっ、六花!来てくれたんだ!よかったー!…あっ、主将くんに副主将くんもいる!あと…後輩くん?」

バレーをやっているだけあって、みんな身長は高い。岩泉がこの中では一番低いけど、それでも179.3。全然大きい。

3人を見上げながら、後ろからかかる声に答える姿は、マネージャーの鏡。結局引退のタイミングがなく、更には推薦で合格までもらってしまったものだから、やめるタイミングはもうないと言ってる。嬉しそうな顔をして。

それは、私たちにとっては羨ましいことだと思うけど。

 

 

レース開始20分前。私たちを引き連れて、香咲は箱根学園と書かれたテントへと向かう。

「黒田ー、泉田くーん、2人はいるー?」

「相良さん!2人…あっ、いない!」

「はぁ!?真波、葦木場…ンの野郎…」

スポーツ刈りのような髪型の男子生徒と、銀髪のなかなかのイケメンの男子生徒。

口ぶりからして、香咲の後輩なのだろう。

「…やっぱりいないのか。あと20分でしょ?間に合うのかね?」

「真波は遅刻常習犯ですし、葦木場も…」

何やらトラブル発生っぽい。バレーは基本的にバスで移動だけど、自転車は違うのかな?

そんな私の顔を見て、察したらしい香咲がこちらを振り返って苦笑する。

「普通は遅刻なんてしないんだよ?ただ、学校から近いし現地集合にしたの、今回は。そしたらこうなったってわけ」

「なるほど…大変なのね」

「そりゃこっちもだろ」

ぼそっとつぶやいた岩泉が指すのは、おそらく京谷くんのことだろう。

 

なんとか5分前には問題児2人もやってきたらしく、私たちまで安心。

「ごめんね、ギリギリになっちゃった」

「いいんだよ、香咲ちゃん!―――って、痛い痛い!なんで六花ちゃんも岩ちゃんも殴るのさ!?」

及川においては意見が合わない日がほとんどない岩泉と私。今日も例外ではなく、及川にイラついて思わず手が出ていたらしい。

「及川さん…相変わらずですね」

とどめの影山くん。

シュンとした及川に苦笑する香咲は大人だと思う。

 

ふと立ち止まったのは、山を少し登ったところ。

今日のレースはヒルクライムとか言う奴らしい。ちなみに、さっきのスポーツ刈り君は山の専門じゃないらしい。

自転車にもどうやら、セッターやらWSやらMBやらリベロやらのポジションがあるらしい。これに出るのは、大半がクライマーって人なんだとか。

「クライマー…登る人、ってこと?」

「まぁ和訳したらそうだよねー。実際そうなんだけどさ!山を登るのが得意な人を、クライマーって呼ぶの。ちなみにあのしっかりした子―――スポーツ刈りの泉田くんは、スプリンターっていって、まっすぐなところが得意なんだ。知り合いのスプリンターは、スピードマンなんて言ってるかな。スプリンターは山は苦手なんだけど、主将だから今回は出るって言ってたよ」

あの子…泉田くん、主将だったんだ。及川とは大違い。まぁ、責任感が強いところは似ていないこともないかもだけど。

「…うーん、自転車って難しい」

「バレーだって、私からしたらね」

 

 

「相良さん、ちょっと聞きたいんだけど」

ふと声をかけたのは岩泉。

「うん、どうしたの?」

「ここ…コースじゃねぇか?大丈夫なのか?」

そういえば、私たちがいるのはレースで使われるコースの上。

「本当に大丈夫なの?」

「うん、自転車ってこういうのがオッケーなの。めちゃくちゃ近くで応援できるんだ。ハイタッチしたり、背中押したりできるの。あと、長いレースとかだったら、捨てたボトルをもらえたり…自由でしょ?」

イヒヒ、と楽しそうに笑う香咲。その顔を見て、マネージャーをやってる六花ちゃんみたい!と及川に言われて、珍しく岩泉が同調してる。…私も、楽しそうなのか…。

 

やがてやってきた選手たち。香咲は箱根学園の選手に、大声で叫んでいる。

一方私たち。驚きと興奮で言葉が出ない。本当にすごい。

バレーだけじゃなくて、ほとんどのスポーツは、観客はともかくマネージャーですら同じ舞台には立てない。コートの外で応援するしかない。

―――でも、自転車は違う。同じ舞台で一緒に戦える。応援できる。

 

 

バレーをやっていて後悔はしない。もちろんこれからも。

だけど、こういうスポーツがあるって、私も、きっとほかの3人も初めて知った。

「ねぇ、岩泉、及川、影山くん」

「ん?なんだ?」

「…自転車ってすごいよね」

「…うん。すごいよ」

「俺、正直バレーしか興味なかったッスけど…今日、新しいスポーツ知れてよかったって思います」

並んで目を輝かせる私たちに、香咲は振り返って満面の笑みを浮かべたのだった。

「これが、ハマる瞬間ってやつだよ!」

 

 

 

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