走り続ける歓びを   作:散髪どっこいしょ野郎

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求めるものは、「最強」という名の称号

「……っ」

 

 

 痛み止めを服用しているが正直気休めにしかならない。

 

 連日に渡る走行により、俺の体は絶命四歩手前ぐらいにまで追い込まれていた。時間経過で治っていくのをいいことに無茶をし続けたツケが来ている。

 

 それでも表面上は取り繕えているあたり『声』の力は強大だ。少し我慢をするだけで日常生活は送られる。

 

 多少の苦痛ごときが足を止める理由になど成り得ない。俺は元よりこのためだけに生きてきた。

 

 

──────────────────────

 

 

「あけましておめでとう、トレーナー!」

 

「ああ。おめでとう」

 

 

 今日もハルウララは元気はつらつだ。新年から行われるトレーニングにも集中して取り組んでいる。クラシック期に入ったことを自覚したのか、以前のように蝶を追いかけて学園を飛び出すようなことはない。

 

 プランとしては身の丈に合ったオープンレースから挑んでいく方針。

 

 腹切りラインは今のところは遠い。ゆくゆくはGⅠも狙っていくつもりだ。

 

 

──────────────────────

 

 

『ハルウララ一着!ハルウララ一着です!』

 

「……へえ」

 

『走れ、走れ』

 

 

 手始めに昇竜ステークスに出走させたところ、割と余裕で一着を獲れた。未勝利戦で燻っていたとは思えないほどの走りだった。

 

 これなら早々に重賞を狙っても……いや、時期尚早が過ぎるか?

 

 なんにせよ俺の求める実力に近づいているのは事実。

 

 

「やったー!一着だよ、トレーナー!」

 

「ああ。よくやった」

 

 

 ……本当に、コイツは心から楽しそうにレースに挑む。ほんの少しだけ嫉妬してしまうのは、大人げないだろうか。

 

 

──────────────────────

 

 

 満たされていた。

 

 

「いちについて……よーい、どん!」

 

「フッ────!」

 

「いっくぞー!」

 

 

 ハルウララと共に走る毎日。それだけでこの世の全てを手に入れたかのような満足感。

 

 勿論、指導に活かすために力はある程度セーブしてある。それでも尚、走るのは楽しい。

 

 当然代償は払うことになる。骨折などはもう当たり前の通過儀礼と化していた。それでも尚、走るのは楽しい。

 

 長年に渡る渇きを俺は今ようやく癒している。そんなイメージだ。

 

 

「ハァ……ハァ……ッギィ……ッ」

 

 

 勝負あり。バレないように取り繕わなければ。しかし全身に走る激痛を誤魔化すのは大分難しかった。

 

 

「……よ、かっ、た、ぞ。ハル、ウララ」

 

「ホントに?わたし、速くなってるかなぁ」

 

 

 実際ハルウララは強くなっている。フォームも無駄の無いものになっているし、トップスピードも速くなった。

 

 そしてなにより、今回俺が体得し、見せた技術(スキル)──名付けるなら『神速』を習得している。

 

 

「二人ともお疲れ様です!ドリンクどうぞ!」

 

 

 そう言って俺たちにドリンクの容器を差し出したのはナリタトップロード。できるなら彼女とも走ってみたいが……あまり高望みしすぎるのもよくない。

 

 なぜナリタトップロードが俺たちに付き合ってくれているのか。それはハルウララの人徳によるものだ。

 

 ハルウララに勝ってほしいと願っているのは俺だけじゃない。今や学園の半数以上がコイツを応援してくれている。

 

 それに連なる形で俺も有名人になった。笹針を刺していないのにもかかわらずウマ娘と同等以上の速度を出せる存在。有名にならない方がおかしいというものだ。

 

 結果、俺とハルウララの併走はこの学園の恒例行事となっていた。たまにハルウララ以外のウマ娘も走ってくれるようになったのは棚ぼただ。

 

 

「助かる。……なあ、ナリタトップロード。俺と走ってみないか」

 

「トレーナーさんと、ですか?お体の方は……」

 

「大丈夫だ」

 

「ええっ!?トップロードちゃんとトレーナー、走るのー?いいな~。わたしも走りたーい!」

 

「お前は休んどけ。休息をとるのもトレーニングの内だ」

 

 

 力を温存していたことであと一レースぐらいならいけそうだ。万が一喀血するようなことがあったら全てがおじゃんだが。

 

 ナリタトップロードとのレースは……とても心躍るものだった。

 

 

──────────────────────

 

 

「ゲホッ、がふっ、か──」

 

 

 ()()()()。力の制御は上手くいっている。

 

 痛みさえ我慢すればいくらでも降ろせる。鼻血や吐血辺りの問題もレース後の誰もいなくなった時間帯にまとめて引き受けるように『設定』したことで周囲には発覚していない。

 

 本来であれば歩くことさえ叶わないほどの重傷を負っても尚、こうして生活できるのは正に神がかった能力だ。

 

 ──しかし、いつまでこれが続くのだろう。俺が死ぬまでか──いやそもそも、

 

 俺に未来なんてものがあるのか?

 

 

『走れ、走れ』

 

 

──────────────────────

 

 

『勝者はハルウララ!強い!』

 

「…………」

 

 

 青竜ステークスにも出走させたが、オープン戦なら有名どころのウマ娘とかち合わない限りほぼ敵無しと言ってもいいだろう。

 

 ファンの数は多い。重賞を狙っても問題なく出走できる。

 

 

「ただいまっ!」

 

「よくやったな、ほれ、人参ジュース」

 

「いいの!?いっただきまーす!」

 

 

 ……惜しい。

 

 今のコイツが駄目とは言わないが、より絶対的な比類なき闘争心をつけさせたい。本気にさせたいのだ。

 

 気長に行こう。take it easy……というのは、果たして誰の言葉だっただろうか。

 

 

──────────────────────

 

 

「──で、xにこれを代入する」

 

「……あっ!そういうことなんだ!」

 

 

 補習になれば走る時間が短くなる。走る時間が短くなれば俺の本懐が遂げられなくなる。

 

 ということで開いた勉強会により、ハルウララの学力は赤点ギリギリレベルにまで改善した。

 

 レース関係の座学も盛り込んである。俺が教えた技術(スキル)を上手く活用してもらうためだ。

 

 ……そろそろ、出してみるか?重賞に。

 

 

──────────────────────

 

 

 ユニコーンステークス。

 

 今のハルウララがどこまで戦えるかの試金石として出走させた。

 

 

「……やるな」

 

 

 存外にやるものだな。ハルウララは惜しくも二着だった。

 

 これで証明された。アイツは重賞でも戦っていけるほど強い。まああれだけ技術(スキル)を盛って惨敗するようであれば俺の伝え方に問題があるというもの。

 

 ──ウマ娘には、到達しうる限界がある。

 

 本格化したウマ娘はその者の競走人生の中で身体能力が抜群に抜けている。しかし逆に言ってしまえば到達点、成長限界というものは確かに存在する。

 

 ハルウララはまだまだ育つ。しかし仮に、ピークを過ぎる時が近づいていたとするならば──俺の技術(スキル)でカバーしなければならない。

 

 成長曲線がどこまで及ぶかは分からない。今が最盛期だとするならば、色々と考える必要がある。

 

 

──────────────────────

 

 

「えっほ、えっほ……」

 

「よし、あと二周だ」

 

「分かったー……」

 

 

 レースばかりしていても育たない部分はある。口惜しいが、普段のトレーニングは技術的なものよりもフィジカル関係のものが多い。

 

 

『走れ、走──』

 

 

 声はいつも通り聞こえて──いる?

 

 

「……どうした?」

 

『走れ、走──』

 

 

 聞き間違いではなかった。『声』は、その声の言葉尻は──どこか不明瞭になっている。

 

 

「トレーナー?」

 

「────ッ、あ、ああ。悪い。終わったか?」

 

「うん」

 

「よし、じゃ帰る支度するか」

 

 

 トレーニングに使った物を片付け、後は帰るのみとなった。……しかし、ハルウララは黙って俺を見つめている。

 

 

「……どうした?」

 

「トレーナー、痛い?」

 

 

 冷や汗がどっと湧いて出る。まさか、気取られたのか?よりによってコイツに?

 

 

「……何の話だ?」

 

「……なんでもない」

 

 

──────────────────────

 

 

 ハルウララと別れた後、自室に戻る気にもなれずなんともなしに学園内を散策していた。

 

 

「…………」

 

 

 気づけば三女神像の前に立っていた。しかしこれは偶然ではないような気がする。

 

 ふと、土台に目をやると一部が泥で汚れていた。

 

 

「…………」

 

 

 噴水の水を少しだけハンカチに染み込ませ、汚れを拭き取る。

 

 俺は神の愛は信じないが神の罰は奉ずる主義だ。善行は積んでおくに越したことはない。

 

 ──そして、意識が暗転する。

 

 

「──あれ?」

 

 

 『声』が聞こえない。こんなことは生まれて初めてだ。

 

 辺りはいつの間にか真っ暗になっている。足下さえ視認できないほど濃い闇だ。

 

 

「…………あ」

 

 

 そこには、ウマ娘がいた。四足歩行の見たことがない動物がいた。

 

 

「そうか。そういうことか」

 

 

 俺に走れと囁く声。彼女たちの無念が、託されなかった力と共に俺へと受け継がれた。

 

 故に、走れる。故に、治る。

 

 だが……何故だ?

 

 どうしてお前たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 意識が浮上する。

 

 

「…………俺、は」

 

 

 どうやら少しの間気を失っていたらしい。

 

 ……何か。何か、重要なことを忘れている気がする。気絶している間何かとても大切なことを知った気がするのに、記憶には靄がかかるばかりで一向に思い出せなかった。

 

 

『走れ、走──』

 

 

──────────────────────

 

 

 クラシック戦線は終わり、俺たちはシニア期に入る。ここからが本番だ。

 

 だがシニア期に移る直前、ハルウララは突拍子もないことを言い出した。

 

 『有記念に出走したい』と、確かにそう言ったのだ。

 

 有記念。年末の大一番。明らかに適性外の距離とバ場だ。

 

 だから俺は試すことにした。アイツの覚悟を。

 

 

「なあ」

 

「ん?どうしたのー?」

 

「お前、本気なのか」

 

「本気って?」

 

「有記念に出るって、本気で言ってるのか」

 

「もちろん!あんなにすごいレースだもん!わたしも走りたいんだ!」

 

「……厳しくなるぞ」

 

「大丈夫!わたし、がんじょーだから!」

 

 

 ……どこかズレてる感は否めないが、とりあえず出走したいと言うのならそれに向けてトレーニングを積む。妥協はさせない。

 

 

──────────────────────

 

 

「やったー!トレーナー!初めてのじゅーしょーだよ!」

 

「ああ……そうだな。うん……よく、やった」

 

 

 返事が曖昧になった理由は、コイツが予想以上の好走を見せたからだ。

 

 (いくらユニコーンステークスで二着になったとはいえ)掲示板入りできたら万々歳だと思っていたのだが、今回の根岸ステークスで勝利を収めるとは思わなかった。

 

 これならGⅠも……狙えるか?

 

 狙うか?──フェブラリーステークスを。

 

 

──────────────────────

 

 

「いいか?下り坂を走る時は──っと、こんな感じだ」

 

「分かった!ほっ────、と!どうかな!」

 

「ああ。よくできている」

 

 

 痛い。痛い。痛い。苦しい。苦しい。苦しい。

 

 そんな負の感情をまとめて吹き飛ばすほどに、走ることは楽しかった。

 

 

『走れ、────』

 

「…………?」

 

 

 日を追う毎に声は不明瞭になる。今までこんな風になったことはなかった。

 

 何はともあれコイツは有記念を走ると言った。適性の壁は経験を重ねることでしか乗り越えられない。

 

 勝ち目は薄い。それどころか実際に出走できるかどうかも危うい。しかしそれが諦める理由にはならない。

 

 目前に迫るはフェブラリーステークス。初のGⅠ。

 

 出す指令はいつだって変わらない。勝て。ただそれだけだ。

 

 

──────────────────────

 

 

「たっだいま~!」

 

「おう、よく頑張った」

 

 

 結果は、三着。初のGⅠにしては上出来だ。この調子で行けば俺が求めた″最強″のハルウララに更に近づくだろう。

 

 

「ねえトレーナー。『くやしい』ってなんだろう?」

 

 

 ウイニングライブが終わり、学園に戻っている最中ふとそんな問いを投げかけられた。

 

 聞けば今日同じレースに出走した友人が、ライブ直前に『悔しくて笑えない』と言っていただとか。

 

 ハルウララは楽しいから走る。勝ちたいから走る。どれだけ敗北を重ねようと、挑戦し続ける底無しの明るさがある。

 

 しかしその反面、負けたことに対する執着、貪欲に勝ちを求める精神が足りていない。

 

 これはいい兆候だ。敗北を知り、『悔しさ』を知ったその先に新たなステージが待っている。

 

 故に、

 

 

「それはお前が独力で見つけるものだ。人に教えてもらうものじゃない」

 

「どくりょく?」

 

「……自分の力ってことだ」

 

「うぅー……分かんないよぉ……」

 

 

 それから学園に戻るまで、ハルウララは頭を悩ませていた──が、次の日にはケロッとしていた。ハングリー精神をつけさせるいい機会だと思ったのだが。

 

 

──────────────────────

 

 

「フッ────!」

 

「うらららららら~っ!」

 

 

 今日はコーナーを曲がる時に息を入れるテクニック──名付けて『円弧のマエストロ』を習得させた。

 

 今日も今日とてトレーニング。俺の有する全ての技術(スキル)を有記念までに修めさせたい。

 

 基礎能力は仕上がっている。後は適性の壁が懸念材料だ。

 

 

「はぁ……はぁ……トレーナー速すぎるよー!ちっとも追いつけなーい!」

 

「年季が違うからな」

 

 

 俺は今も飢え続けている。あまねく勝利に、闘争に。どれだけ走ってもこの渇望は一時的に癒えるだけ。

 

 全身に走る激痛にも慣れてきた。今なら骨折した状態でも愛想笑いができる。

 

 コイツ以外のウマ娘とも走ることが増えた。敵に塩を送る、というわけではないが望まれるなら俺の技術(スキル)を教えている。

 

 そのかわりコイツと共にトレーニングをしてもらったり、走り方を教えてもらったりもする。ウィンウィンの関係というわけだ。

 

 強いウマ娘が増えることは喜ばしいことだ。レースのエンターテイメント性も上がるというもの。

 

 話は変わるがハルウララのファン人数は順調に伸びている。レースで好成績を残しているのもそうだが、ハルウララの人柄も人気に影響していた。

 

 ファン投票で有記念に出走できればいいが……そんなに上手くいくものか?

 

 

──────────────────────

 

 

「……何故だ?」

 

 

 春のファン感謝祭の日を迎えたのはいいものの……アイツはありとあらゆる分野の企画でドンケツになっていた。

 

 これでも重賞ウマ娘。地力は十分に育っている筈なのだが……。

 

 

「頑張ったねハルウララー!」

 

「応援してるぞー!」

 

 

 幸いにもウケはいい。ここで有に出走できる分のファンを稼いでおきたいが……流石にそれは高望みが過ぎるか。

 

 

──────────────────────

 

 

「……わたし、何がいけなかったのかな……」

 

 

 俯くハルウララ。話は数十分前に遡る。

 

 

『お願いしまーす!』

 

 

 ある日。商店街に足を運んでいると後援会の方々とハルウララがチラシらしき物を配っている所に遭遇した。 

 

 見てみればそれはハルウララが有記念に出走できるように投票をしてほしいとの″お願い″だった。

 

 俺が何か言うよりも先に、ハルウララの友人がその場に居合わせ激昂。

 

 その怒りは尤もだ。一年の節目に行われる大レース。出走するウマ娘は並々ならぬ思いを抱いて戦いに挑むのだから。だから、『楽しそう』などという理由で走りたがるコイツに怒りを向けるのも当然と言える。

 

『本気じゃないウララちゃんに走ってほしくない』。そのウマ娘はそう言って、走り去ってしまった。

 

 そして、今に至る。

 

 

「本気ってなんなんだろ……。楽しいから走るじゃ、ダメなのかな……」

 

 

 いつかぶち当たる課題ではあった。いい機会だ。コイツにも、自分を考える時間は必要だろう。

 

 

──────────────────────

 

 

『走れ、────』

 

「ごぼ……っ、かふっ」

 

 

 おびただしい量の出血を前にしても、俺の心は凪いでいた。

 

 

『走──、────』

 

「……なあ、どうしたんだよ」

 

 

 曖昧になっていく声に問いかけても返事は無い。

 

 口元を(すす)ぐ。その中で感じた違和感──。

 

 ──治るのが遅くなっている?

 

 走りきる毎に声が薄れていくことは最近になって分かった。しかしこの人知を超えた治癒能力が低下しているのは初めてだ。

 

 

「……ふう」

 

 

 どの道走るしかない。俺はもうとっくに手遅れだ。

 

 

──────────────────────

 

 

「よくやったな」

 

 

 迎えたエルムステークス。念願の一着を獲ったのだが……ハルウララの様子はいつもとは違う。なんというか……大人になった?

 

 

「トレーナー」

 

「……なんだ?」

 

「わたし、ホントの本気で有記念に出たい!……だから、また″じーわん″に出してほしいんだ」

 

 

 思わず目を丸くする。コイツなりに色々考えてきたのか。

 

 

「……ふっ」

 

「もー!なんで笑うのー!本気で言ってるんだよー!」

 

「悪い悪い。いや──お前も成長したなと思ってな」

 

 

 実力はついている。であれば、コイツの最も得意とする距離とバ場を選ぶべきか。有対策は継続するとして。

 

 

「……わたし、成長してる?」

 

「ああ」

 

 

 学力もついた、集中力もついた、走りも速くなった。そして精神もスポーツ選手らしいものになった。蝶を追って練習をほっぽり出していたとは思えないほどの成長ぶりだ。

 

 トゥインクル・シリーズはフィナーレを迎えようとしている。そこで俺が選んだレースは、

 

 

「JBCスプリントに出よう。一着を獲ればあの子も本気だって分かってくれるだろう」

 

「分かった!よーし、がんばるぞー!」

 

 

──────────────────────

 

 

 アイツの走りを見ていて不可解なことがいくつかある。

 

 楽しそうに走るアイツの姿。出会った当初は嫉妬に塗れていたが、今になって考えてみるとそれ以外の感情も混じっていたように感じ取れる。

 

 ヘロヘロで、誰よりも遅かったアイツ。そんな走りにあてられて、俺は何を思った?

 

 トレーナーになるまでできるだけ合理的に生きてきた。今までの俺ならば、ハルウララの担当になろうとなど考えなかった筈。

 

 共に走ってくれそうだから手を組んだ?確かにそんな打算があったのは事実。

 

 しかしそれだけだろうか。もっと、アイツの走りに対する何かが心付いた気がする。

 

 まあ、そんな思考も今となっては些末事だ。

 

 JBCスプリント。勝ってこい、ハルウララ。

 

 

──────────────────────

 

 

「────」

 

「────」

 

 

 遠くから眺めているだけなので会話は聞き取れないが、例の友人とはなんとか和解できたようだ。

 

 GⅠレースを勝利に収め、例の友人然り世論然りハルウララを有記念に出すことを認める風潮ができた。マスコミの取材にも出走することを伝えたためもう後戻りはできない。

 

 相手は並々ならぬ強豪揃い。適性も大きく外れている。俺が教えてきた技術(スキル)をフルに活用しても勝てるかどうか……。

 

 それでも、俺の担当は諦めない(ハルウララ)

 

 

──────────────────────

 

 

「よし、今日はもう終わりだ」

 

「え~?まだまだ走れるよ?」

 

 

 今までなら疲労で動けなかったであろう量のトレーニングを前にしてもコイツは元気いっぱいだった。

 

 力は十分。速度も良好。後は適性の壁を乗り越えるのみ。

 

 そういうわけで俺たちは連日学園の芝コースで勝負を繰り返していた。

 

 慣れない芝に、慣れない距離。だんだんと適応してきているがそれでも心もとない。

 

 だが、無理をさせて故障を起こすようなことはあってはならない。

 

 勝負の日は近い。そのための調整に勤しむ今日この頃だった。

 

 ……俺は、ハルウララに勝ってほしい。それは出会った当初から変わらない。

 

 

──────────────────────

 

 

「それじゃ、行ってくるね!」

 

「……ハルウララ」

 

「なに?」

 

「勝ってこい。それだけだ」

 

「──!うん!ぜったい一着とってみせるから!」

 

 

 いつも通り、やる気に満ちた様子でアイツは挑戦の舞台に上がった。

 

 

──────────────────────

 

 

 ──レースが始まった。

 

 

「……よし」

 

 

 ひとまずは中団につけている。後方から様子を窺うレースとなった。

 

 第一コーナーと第二コーナーを過ぎてもペースは保たれている。適性の壁は打ち破ったと言っていい。

 

 ……?

 

 ──俺は、自分のレース以外どうでもいいって思ってたんじゃなかったのか?

 

 今日までハルウララを鍛えてきたのも、アイツの道程を導いてきたのも、全部、自分のためだったんじゃないのか?

 

 俺の一番の目標は最強のハルウララと戦うこと。それ以外、興味も無かった筈なのだが……

 

 

「っ、あ」

 

 

 第四コーナーカーブを曲がり、アイツは加速する。

 

 中山の直線は短い。差しでどれだけ追い上げられるか。

 

 喉が渇く。観客のどよめきが歓声へと変わる。

 

 アイツの姿が見える。ヘロヘロだったあの頃とは違う、全力全開の形相と回転する脚。

 

 どれだけ負けてもアイツは折れなかった。気丈に、ひたすら前を目指し続けて。

 

 その熱はやがて周囲を巻き込んでいく。

 

 

「……そうか」

 

 

 ──ああ、そうか。俺は、お前の走りに魅せられていたんだ。

 

 ウマ娘を享楽の道具としか思っていなかった俺が、まさかこんな感情を抱くとは。

 

 気づけば言葉が口を衝いていた。

 

 

「……がんばれ」

 

 

 ──がんばれ。がんばれ、ハルウララ。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 

 あしがおもい。トレーナーといっしょにつけたスタミナがどんどんへっている。

 

 なんこーなー、だったっけ。わかんない。わかんないけど──いくのはいま!

 

 トレーナーとやくそくしたんだ。()()()()()()()()()()()()()わたしをきたえてくれたんだ。だから、だからぜったい、

 

 

「勝つ……ッ!」

 

 

 すえあしをばくはつさせる。どんどんまえへ。みんなをおいぬいていく。

 

 あとふたり、あとひとり、あと──

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 止まない大歓声。地下バ道で俺はアイツを待っていた。

 

 

「トレーナー……」

 

「……ああ」

 

 

 ハルウララは二着だった。

 

 大健闘に沸く会場。しかしどう言い繕ったところで負けは負けだ。

 

 

「わたしね、楽しかったんだよ?だけ、ど、最後、追い抜け、なくて……」

 

「……よく、やった」

 

 

 そう言ったのを皮切りに、ハルウララは泣き崩れた。

 

 時間を巻き戻すデウスエクスマキナなんてものは存在しない。これが、コイツの夢の結果だ。

 

 

──────────────────────

 

 

「ほらほらトレーナー!トレーニング行くよ!」

 

「……ああ。ちょっと待ってろ」

 

 

 あの頃と比べ随分と重くなった体を引きずり、俺はアイツの元へと向かう。

 

 ハルウララのレースは、アレだけじゃない。これから先も多くの戦いが待っている。俺もそれに連なる形で走るのみだ。

 

 

『────、────』

 

 

 声は殆ど聞こえなくなっている。それに応じて治癒能力も微弱なものへと成り下がりかけて(とはいえ臓器を治すレベルのトンデモ能力なのに変わりはないが)。

 

 

「見ててね、トレーナー!」

 

 

 そう言いながら、自由気ままにコースを走るハルウララ。俺はそれを眺めながら、薄く笑った。

 

 

 

この後のエピローグ(超短め)を選ぶとするならどちらがいいですか

  • 今までの無茶の代償で彼が死ぬ話
  • ご都合主義ハッピーエンド
  • 両方
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