走り続ける歓びを   作:散髪どっこいしょ野郎

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√T

「────ハァッ……!」

 

 

 満ち足りていた。

 

 GⅠウマ娘となったハルウララと走れる。それだけでもう死んでもいいぐらいに幸福だった。

 

 

「また負けたー……でもでも、次はぜったい勝つからね、トレーナー!」

 

「ああ。楽しみにしている」

 

 

 一日のシメのレースも終わり、ハルウララは自室へ帰っていく。俺はいつも通り、水道に血液を吐き出した。

 

 

「ゲホッ、ご、ふ」

 

 

 さて、そろそろ帰るか。

 

 

「────あ、れ?」

 

 

 立てない。力は込めているのに、体が言うことを聞かない。

 

 流石にいつまでもこうしているわけにはいかない。だからとりあえず、トレーナー室まで移動しなければ。

 

 それからは這う這うの体でトレーナー室に向かい、しばらく休憩することにした。目撃者がいなかったことがせめてもの救いだ。

 

 一体何故こんなことになったのか。体の治癒速度が追いつかなくなったということか?

 

 

『────、────』

 

 

 声は殆ど聞き取れない。……そろそろ、俺の役目も終わりを迎えかけているのかもしれない。

 

 

──────────────────────

 

 

 朝、目が覚めて感じる違和感。

 

 ────俺は、誰だ?何故こんな所にいる?

 

 記憶領域にあるのはハルウララについて。両親の顔も思い出せる。しかし、自分に関する情報だけが一向に出てこない。

 

 ハルウララは俺の担当ウマ娘、つまり俺はハルウララのトレーナー。

 

 ひとまずそれだけを確認してベッドから起き上がる。それと、あと一つやらなければならないこと。

 

 ……走ろう。走らなければ。

 

 

──────────────────────

 

 

「トレーナー、やっぱり痛い?」

 

 

 全身が粟立つ。能力の代償は今のところ誰にも知られていない筈。それなのにどうしてハルウララは──いや、こんだけ付き合いが長ければ気取られるのも必然か。

 

 

「……なんで分かったんだ?」

 

 

 誤魔化すのをやめた。予感だが、そうしたところで無意味だと思ったからだ。

 

 

「トレーナー、時々すごく苦しそうにしてたから」

 

 

 これでも演技力には自信があった方なのだがな。しかしバレたところで今更引けるわけがない。

 

 

「……ああ。確かに痛い。だが走るのをやめるつもりはない」

 

「…………そっか」

 

 

 コイツの性格上バレたら速攻で止めにくると思っていたが、意外と大人な対応だった。仮に止められたところでやめるつもりはないが。

 

 

『────、────』

 

『────もう、やめて』

 

 

──────────────────────

 

 

「よし、今日はここまでだ。最後に一本戦えるか?」

 

「……いいよ」

 

 

 今日もトレーニングは終わり、俺は走る。

 

 不思議だ。今までなら喜んで走ってくれたハルウララが、そんな物憂げな姿勢で挑むとは。まあ、普通ならこんなデメリットが発覚すれば及び腰になるのも当然かもしれない。

 

 

「トレーナー」

 

「なんだ?」

 

「辛かったら、やめてね?」

 

「悪いが、それはできない」

 

「…………分かった」

 

 

 レースはいつだって全力で挑むからこそ楽しい。相手は最強のハルウララ。不足は無い。

 

 

「────」

 

 

 一気に降ろす。体があげる悲鳴はいつからか遠い夢のことのように感じるようになっていた。要するに、痛覚が麻痺していた。

 

 ──スタートまであとコンマ一秒。

 

 ストライドを広く取り、俺は絶速の一歩を踏み出した。

 

 

──────────────────────

 

 

 一歩ずつ歩む毎に、役立たずの脚が壊れていく。

 

 息を吸う度に、肺が破れていく。

 

 それだけじゃない。視界は薄まり、感覚は途切れ途切れに。

 

 それでも、走る。

 

 これが俺の生き甲斐だ。これだけは誰にも譲れない。

 

 最終直線に入り、思いっきり加速する。追走するハルウララより更に先へ、踏み込む。

 

 

『────もう、やめて────!』

 

「────え?」

 

 

 ────あ。これはマズい。

 

 折れた脚で踏み込んだのがよくなかった。体は沈み、支えを失い勢いよく前につんのめる。

 

 回る。

 

 地面に激突する頭部。大仰じみた動きで回転する俺の体。

 

 転倒した。薄れゆく意識の彼方で、担当ウマ娘の声が聞こえた。

 

 

──────────────────────

 

 

 明晰夢を見ている感覚だった。

 

 辺りは一面真っ黒だが、自由に動けて自由に話せる。だからといってどうにかなるわけでは──

 

 

『ありがとう』

 

「は?」

 

 

 声のした方向へ視線を向けると、そこには多くのウマ娘がいた。無名、有名に関わらず引退した選手たちがいた。

 

 そしてその傍らで佇んでいるのは四足歩行の見たことがない動物。理由は不明だが、その動物のことを愛おしく思う。

 

 

『私たちと一緒に走ってくれて、ありがとう』

 

「……でも、俺は自分のために」

 

 

 最初から最後まで俺は自分のエゴに従うだけだった。確かに『走れ』と囁かれて闘争本能を刺激されたのは事実だが、ここまで無茶をしといて走ることを選んだのは紛れもない俺だ。

 

 

『それでも。今まで本当にありがとう。だから、これからはあなたが、自由に走って』

 

「……おい、待てよ。待ってくれ」

 

 

 彼女たちは笑っていた。安心したように、満足したように、……走った後のように。

 

 消えていく。四足歩行の動物も、ウマ娘たちも。

 

 

『さようなら。そして、いってらっしゃい』

 

「────!」

 

 

 ダメだ。お前たちが消えたら、俺は──!

 

 手を伸ばしても届かない。全ては光の中に──

 

 

「……ハル、ウララ」

 

 

 目覚めると、俺は病院の一室にいた。すぐ横でハルウララが眠っていた。

 

 

──────────────────────

 

 

 医師の説明によると俺の体は全体が複雑骨折しているとのこと。加えて内臓も衰弱&損傷され尽くしており、生きてるのが不思議なくらいとも言われた。

 

 それでも尚俺の体は治っていく。この現象については医師が頭を抱えていたが、なんとなくこれが最後だろうなという確証があった。

 

 その証拠に──声が完全に聞こえなくなった。

 

 数ヶ月入院したのち、俺は再びトレーナーとして学園に戻ることに。ご丁寧に記憶も全て元通りになっていた。ちなみに、代償を秘匿していたことについては理事長とたづなさんにこってりと絞られた。

 

 

「なあ、ハルウララ」

 

 

 今、俺はカフェテリアでハルウララと共に食事を摂っている。どうしても伝えたいことがあった。

 

 

「なあに?」

 

 

 モグモグと咀嚼するコイツに、改めて頭を下げる。

 

 

「ありがとう、な」

 

 

──────────────────────

 

 

「ほらほら、行くよ!トレーナー!」

 

「ああ」

 

 

 俺はサシで勝負の舞台に立っていた。もうあの頃のように『降ろす』ことはできない。

 

 それでも、嬉しかった。これからは自由に、人として俺は走れる。

 

 

「いちについて──」

 

 

 交流があったウマ娘たちにはもうあの頃のような速度で走ることはできないと伝えてある。技術(スキル)を教えられないのはやや残念だが、それ以上に。

 

 

「よーい、どん!」

 

 

 人の持てる力全てを振るって駆け出す。一気に遠ざかる、アイツの背中。

 

 ハルウララは強くなった。そして俺は弱くなった。

 

 だがそれも些細なことだ。なぜなら、

 

 

「────ははっ」

 

 

 走る事はこんなにも楽しいのだから。

 

 

 

 

この後のエピローグ(超短め)を選ぶとするならどちらがいいですか

  • 今までの無茶の代償で彼が死ぬ話
  • ご都合主義ハッピーエンド
  • 両方
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