冬の約束   作:びーびー

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冬の約束

 

 突如葛葉の意識が浮上する。

 終わったはずだと葛葉が辺りを見渡すと、そこには一面の銀世界。

 

 「おっ……雪だぁ!」

 

 見渡す限り雪に覆われたロスサントスの街に葛葉は戻ってきていた。

 どうやらまだわずかにロスタイムがあるらしい。

 無線を確認すると、鴉のメンバーは全員入ってきている。

 

 「雪っていいよな、見た目。寒いの苦手だけど」

 

 そんなことを呟きながら雪道をゆっくりと歩き始める。

 少し歩くとガレージに辿り着いたので歩きから自分の車に乗り変え滑りやすい雪道を 走り出す。

 

 「みんなどこー、今?」

 

 「アジトいるぜー!」

 

 「おけー。ちなみに雪玉って作れないっけ?」

 

 「雪がパラパラ過ぎて無理じゃね?」

 

 「水で濡らせばイケそうだけど出来上がるのは氷玉だな」

 

 鴉のメンバーはアジトに集合しているらしいので葛葉も素直にアジト方向に車を向ける。

 どうやらいろいろなグループがこの残されたロスタイムではっちゃけているらしく街中では爆発音や銃声があちらこちらで響いている。

 ふと思いついて雪玉について鴉のメンバーに尋ねてみるも、この雪質では難しいらしいという回答。

 さすがに氷玉を使った雪合戦などはやりたくもない。

 

 「上手く、いかねぇよな……」

 

 残った未練を吹き飛ばすように窓を全開にして走っていると、病院の前を通りかかる。

 何やら騒がしい病院前の駐車場からは聞きなれた声が聞こえてきて、思わず葛葉は車を止め耳をすます。

 

 「雪、投げれないかなー?」

 

 救急隊のメンバーが集まって雪を見て騒いでおり、その中には見慣れた金髪の少女は雪をすくって固めようとしては雪は彼女の指の隙間から零れ落ちてしまう。

 

 『じゃあ、雪が積もったら……雪合戦しましょ?』

 

 葛葉の脳裏にかつてとおこが言った言葉が木霊する。

 こちらに気づかないものかとしばらく車を止めているが、とおこは救急隊のメンバーと楽しそうにはしゃいでおり、こちらに気づく様子はない。

 

 「ま、救急隊の時間か、今は」

 

 先程まさにそうあれと自分が願ったことだが、それでもこうして気づいてほしいとも願う自分の間抜けさを鼻で笑い、葛葉は車を発進させる。

 クリスマスが近いからかクリスマスソングが車のラジオから流れるのを口ずさみながら葛葉はアジトへの道を走り続ける。

 

 

 

 時刻は夜に差し掛かる。

 夢の日々のロスタイムももうそれほど残されてはいないだろう。

 先程まで救急隊とはしゃいでいたとおこも今は少し離れた場所で深々と降り続ける雪を見上げていた。 

 

 「……覚えて、ないかな?」

 

 ずっと晴れだったロスサントスでした儚い約束。

 葛葉もとおこも雪が降るとは思っておらず、叶わないものだと思っていたが、奇跡は最後に起きた。

 それでも雪が降りしきる中でとおこは一人夜空を見上げている。

 一つ目の約束、雪だるまを見ることは叶えてくれた。

 それならば二つ目もと考えるのは都合が良すぎるだろうか。

 

 「そもそもギャングとか、救急隊とかこの街でそんなに気にしますか?」

 

 あんなに一緒に銀行を探して走り回って。

 あんなに一緒におしゃべりをして。

 恥ずかしいのを我慢して、ボイスまで録ってあげた。

 それなのにギャングだ救急隊だで約束を破るのはずいぶん勝手ではないか。

 葛葉との日々が鮮やかな色彩とともにとおこの脳裏に流れる。

 そんな楽しい日々を過ごしたからこそ、この空の下で隣に葛葉がいないことが寂しく、目から一つ また一つと熱い雫が零れ落ちていく。

 

 「そっちが、その気ならっ……!」

 

 滲んだ視界でスマートフォンを操作し、とおこは自身の前に広がる夜景を、雪景色を撮影する。

 『押して引くんだよ』

 辺りはずいぶん静かになっている。

 いつの日かアルランディスが言っていたアドバイスを思い出しながら葛葉の連絡先を呼び出す。

 写真を送るのが押すに値するなら、その写真に何も言葉を添えないのは引くになるだろうか。

 軽い音ともに葛葉のもとに写真が送信される。

 あえて写真には何も添えないメッセージが既読になったのを確認して、小さく笑う。

 

 「お疲れさまでした。また会いましょう」

 

 その言葉を最後に辺りは完全な静寂に包まれた。

 

 

 

 とおこからのメッセージに葛葉がいち早く気づけたのは先程からちらちらとスマートフォンを見ていたからだった。

 もしかしたら誘いがあるんじゃないだろうかと見ていたスマートフォンには一枚だけとおこから写真が送られてきていた。

 病院の駐車場から撮ったであろう雪に包まれた夜景。

 その写真を見た瞬間、葛葉は動き出す。

 

 「お前ら!鴉、たれ!」

 

 「ボス!」

 

 鴉のメンバーに言葉を投げつけて、アジトの外へと走り出す。

 後ろからはメンバーたちの声が聞こえてくるが、それに構わずアジトの中を駆け抜けて、外に止めてある車に飛び乗る。

 

 「行かなきゃ!」

 

 「ボス!どこに行くの!?」

 

 「もしかして、病院か!?」

 

 夢のロスタイムはだいぶ過ぎている。

 ここから病院までの距離を考えても間に合わない可能性のほうが高い。

 それでも、葛葉はアクセルを踏みしめる。

 

 「行かなきゃ!」

 

 あの時、病院前でとおこに話しかけておけば。

 こちらからメッセージを送っておけば。

 もっと前に病院ではっきりととおこに思いを告げておけば。

 

 「間に合え!」

 

 全部日和った自分が悪い。

 ギャングと救急隊、そんなこと気にする必要はなかったのだ。

 鴉は欲するものをすべて手に入れてきたのだから。

 

 「間に合え!」

 

 思えば最初からとおこには恥ずかしいところを見せてばかりだった。

 最後くらいは、しっかりしたところを見せたい。

 

 「間に合え!」

 

 何よりも今、葛葉自身がこんなにもとおこに会いたいと思っている。

 

 「雪が降ってんだ、今!」

 

 音の消えた世界を葛葉が疾走していく。

 他でもない自分に言い聞かせるように叫びながら車のエンジンは回転数を上げる。

 

 「間に合っ!?」

 

 一瞬の浮遊感。

 雪道を高速度で走っていた葛葉の車はスリップし、電柱に叩きつけられる。

 運転席の葛葉はその衝撃で車外に投げ出され、数メートル吹き飛んでやっと止まる。

 全身が痛みを発し動くこともままならないまま葛葉は這いながら病院へ、とおこのもとへ進む。

 

 「なんも……上手くいかねぇ……!」

 

 葛葉の目元から零れ落ちたのは血か涙か。

 自身の情けなさに声を震わせながらも、進むことだけはやめない。

 思えばとおことの出会いから、そして今に至るまで完璧にことを運べたことはなかった。

 だからこそ……

 

 「最後まで、なんも上手くいかねぇ!」

 

 慟哭。

 そうとしか表現できない葛葉の叫びが響いた瞬間、世界は終わりを迎えた。

 

 「あぁ……!」

 

 世界が、そして葛葉自身が黒に覆いつくされていく。

 

 「なんもうまくいかねぇ……」

 

 そうして葛葉の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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