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葛葉の意識が再び浮上する。
先程の雪が積もった路上よりだいぶ温かく柔らかいものが頭の下にあるのを感じ、うっすらと目を開く。
「わっ!」
「……とおこさん?」
葛葉を覗き込むように様子を伺っていたとおこと目が合い葛葉は内心で首をかしげる。
ついにとおこを夢にまで見るようになってしまったのか。
そんなことを思いながら身体を起こす。
先ほどまで身体を襲っていた痛みはなくなっているが、ぼろぼろになった服はそのまま残っている。
辺りを見回すが、周囲は暗闇としか言えないような景色が続いており、その中でとおこと葛葉が二人で座っている。
「ここって……?」
「何でしょう?延長戦の延長戦、みたいな?」
「……は?」
とおこの言葉に葛葉は固まる。
延長戦が先ほどまでの雪のロスサントスだとすれば、延長戦の延長戦ということは。
そこまで思い至って葛葉が周囲を改めて見回すとちょうど二人の目の前には暗闇の中で唯一明かりを放つスクリーンのようなものが設置しており、今はスクリーンにFINの三文字が映し出されている。
「……とおこさん」
「ハイ?」
「どこから見てました?」
「イエナニモミテナイデスヨ?」
そんなことを言いながらそっぽを向くとおこの顔はスクリーンの明かりに照らされて赤く染まっているのがわかるほどに紅潮していた。
その顔に何か良くないところを見られたのではと、遠ざかろうとするとおこの腕を掴んで自分の方に引き寄せながら葛葉はとおこに追及する。
「写真を送ってくれた時はまだロスサントスですよね?」
「あの、えっと、その、写真のすぐ後には私は終わっちゃって」
「は?じゃあ俺がアジトから走り出すところから……?」
呆然とした顔の葛葉にとおこは頷くことで答える。
実際とおこは写真を葛葉に送った後すぐにこの場所に来ており、混乱する間もなく目の前に広がったスクリーンで葛葉がアジトから走り出すところから、雪道を這って進むところまでを見つめていた。
「……馬鹿にしてるでしょ!最後まで情けなく地面に這いずってるところとか!」
「そんなことないですよ!全然、そんなことないです!」
「嘘だー!」
「嘘じゃないです!格好良かったですよ!」
「どこがよ!俺だったら笑っちゃうけどね!」
葛葉の言葉にとおこは赤面しながら言葉に詰まる。
そのとおこにやっぱりと葛葉は頭を抱えてしまう。
当の本人を前にして格好いいところを言うとなるとだいぶハードルは高いが、自身の黒歴史とでも言おう物をまさかとおこに見られていた葛葉はそこまで考えが回らない。
そんな葛葉の様子に、とおこはひとつため息をついて指を折って一つずつ数え始める。
「その、鴉の人たちと最後を過ごすより私に会いに来てくれようとしたとことか、身体が怪我してるのにそれを押して私に会いに来てくれようとしたとことか」
「……とおこさん?」
「夕陽が似合うところとか、スポーツカーが似合うところとか「あのとおこさん、そのへんで!」」
ここまでストレートに褒められるとは想定していなかったため、錯乱していた葛葉も冷静さを取り戻す。
そして冷静さを取り戻したからこそ、先程とおこに膝枕されていたことや今べた褒めされたことを思い出し、顔を赤面させる。
「「……あの」」
意図せず言葉がかぶり、葛葉ととおこはお互いに話す順番を譲り合うが、埒が明かないと考えたのか葛葉が手を上げて自分が話すことを示す。
「……とおこさん、そのさっきのとか、誰にも言わないでくださいよ」
「はい。私の中で、私一人で大事にとっておきます」
「……あと、雪合戦出来なくて、すいませんでした」
「そんな!……会いに来てくれようとしていたのは見てましたし」
慌てたように手を振るとおこのしぐさに首を振って葛葉は続ける。
「本当は雪が降り出した時に、一回病院行ってたんですけど、ただまぁちょっと日和ったっていうか、声かけれませんでした」
「葛葉さん……」
「だから、だから次は!次こそはちゃんと迎えに行きますからもう一回、約束しても良いですか?」
そう言って葛葉は目を閉じる。
葛葉なりの精一杯の言葉にとおこは優しい笑みを浮かべながら少しだけ葛葉との距離を縮め耳元に顔を近づける。
「……私、悪いことはできないからまた救急隊かもしれませんよ?」
「大丈夫です。それでも迎えに行きます」
「皆さんからからかわれちゃうかもしれません」
「気にし……なくはないっすけど、黙らせます」
その葛葉の答えを聞きとおこは両手で葛葉の頬を支え、伏せていた顔を上げる。
互いの顔の近さにお互いに顔を赤くしながらもおでこ同士を優しく重ね、とおこはささやくように葛葉に返事を返す。
「でしたら、葛葉さん改めて私からもお願いします」
「はい」
「いつか、また。雪が積もったら雪合戦しましょう?」
「はい。絶対!」
再び約束が結ばれた瞬間、葛葉ととおこ、二人の身体が光を放ちだす。
この延長戦も時間が来たらしい。
少しずつ白く、消えていく手足を見ながら二人は同時にそれを理解する。
「とおこさん!また、ね!」
「はい、葛葉さん!また、ね!」
いつかの時とは違い互いに心からの笑顔で別れを告げる。
ほどなくして、二人は白い結晶へと変わり、ロスサントスに降り注ぐ。
またいつの日か、冬が来るのを待ちわびながら。