冬の約束   作:びーびー

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ちょっと短めのつなぎの回。


メッセージ

 

 衝撃の出会いから一夜が明けた。

 葛葉は昨夜ABOから誘われた犯罪の準備に勤しんでいた。

 

 「んー……」

 

 勤しんでいるはずだった。

 ABOたちが準備に走り回る中、葛葉だけがかれこれ数分携帯電話としかめっ面でにらめっこをしている。

 

 「昨日は、ありがとうございまし「よし、行こう」っお、あ、やべっ!」

 

 ABOからの声かけに必要以上に驚いてしまい、指が携帯電話の画面に振れる。

 慌てて確認すると葛葉の携帯電話の画面にはシンプルな飾り気のない1文が相手にすでに送信されてしまっていることが表示されていた。

 

 「っく、っとナイス!」

 

 「ライス!」

 

 語感だけで選んだような言葉を発しながらABOが上の階から降りてくる。

 そのまま外へ出るABOについてしゃがみこんでいた葛葉も立ち上がる。

 ちらりと未練がましそうに自分の携帯電話の画面を見るが、未練を断ち切るようにそれをズボンのポケットにねじ込む。

 今朝からの葛葉の悩みの種が蒔かれたのは昨夜、とおこを病院まで送り届けアジトに戻ってきた後のことだった。

 不破やABOを筆頭にした仲間からの追及をかわしていた葛葉の携帯電話にとおこからのお礼のメッセージが入っていたのだった。

 

 『たのしかったです。困ったときはいつでもよんでください。ゆきだるまさんと、カメラマンさんにも楽しかったってつたわるといいなあ』

 

 仲間の喧騒から明日の用意をすると言って物置に離れた後に確認した携帯電話にはそんなメッセージが残されていた。

 迷惑をかけてしまった相手からの、彼女の人柄がつまったようなメッセージに葛葉は困ったような笑みを浮かべる。

 しばらくそのメッセージを眺めた後、返事を返そうとしたところでアジトの喧騒が静まっていることに気づく。

 

 「ん?」

 

 不審に思い顔をあげた葛葉は、物置のわずかに空いた扉からこちらを伺う鴉たちと目が合う。

 

 「彼女じゃなーい!」

 

 バカ騒ぎに先手を打つために口から出たその言葉はかえって彼らという火に油を注ぐ結果となった。

 結局昨日はとおこにメッセージを返すことができず、既読無視のような形になってしまっていた。

 

 

 そして話は冒頭に戻る。

 自分が迷惑をかけてしまった相手であり、しかも一晩既読無視をしてしまう形になったとおこに対する返信に葛葉は頭を抱えていた。

 ABOの運転する車の助手席に乗り込み、今日の仕事の現場へと向かう。

 運転席には昨日から引き続き雪だるまスタイルのABOが運転をしており、待ちゆく人々の視線をかっさらう。

 ABOは運転をしながら鴉のメンバーに指示を飛ばしており、手持無沙汰になった葛葉はポケットから携帯電話を取り出し、先程のメッセージを確認する。

 

 『昨日はありがとうございました』

 

 あまりにも短く、そっけないその一文はさすがに迷惑をかけた相手に送る文としては落第物だった。

 

 「あのさ、改行ってどうやんの?メッセージの」

 

 「えぇ?わかんない。エンターとかじゃないの?」

 

 ABOの答えに頭をかきながらメッセージを考える。

 そもそも文章を考えることが得意では得意ではない葛葉は、文章を打っては消し、打っては消しを繰り返す。

 

 「あぁぁ、えぇぇ……」

 

 「なんか待ってんの?」

 

 携帯電話を握りしめて呻いている葛葉の様子にABOから苦笑いがこぼれる。

 

 「いや、まぁちょっと。いいよ運転に集中して」

 

 「ははははっ。いいよ。オッケー」

 

 そう言ってABOは前を向き、また仲間と無線で交信し始める。

 そうはいっても隣で延々とうんうんうなっているのだから始末が悪い。

 

 「うぅぅぅん」「ストレスがたまっていってる!」「次は、次は手際よく……おかしいか?」

 

 そんな葛葉の様子にABOも葛葉を悩ませている相手が誰だかに察しが着く。

 

 「あれって市民の人?普通の」

 

 「あぁ。なんか救急隊らしい」

 

 メッセージを送ることに夢中になり、昨日はついぞABOたちに教えなかった彼女の情報を漏らしたことにABOも生暖かい目を葛葉に向ける。

 そんなドライブを続けることすこしして葛葉はようやくメッセージを完成させる。

 

 『昨日はありがとうございました』

 『時間いっぱい使ってもらったのに何もできなくてすみません』

 『次は手際良くやるのでまた行ってもいいですか』

 

 「……これで伝わったか?」

 

 文章は幾分固いがそれでも初対面の人間に送るには十分なメッセージだろう。

 そう自分を納得させようとするが、それはそれとして何度もメッセージを口ずさみおかしいところがないかを確認する。

 

 「もう着くよー」

 

 ABOの言葉に葛葉が視線をあげると今日の現場が近づいていた。

 だいぶ長い時間をメッセージの確認に当てていたことに自分でも驚きながら携帯電話をポケットにしまう。

 車は山を下り、崖下の砂浜へと降りていく。

 

 「ちょっとわかりづらいけど俺の位置情報を目印に集合して」

 

 そうABOが無線で呼びかけた通り、今日の現場は普通は到底足を踏み入れる場所ではない。

 一般人なら崖下に転落死一直線の場所だが、そんな場所でもロスサントス有数のギャングたちはボスのもとに集う。

 

 「しかしまただいぶ辺鄙なところに来たねぇ、葛葉」

 

 すらりとした体躯に優し気な顔立ち。

 一見するとまるで俳優のような男もまた鴉の証である黒い衣装に身を包み葛葉のもとへと歩み寄る。

 

 「叶」

 

 「どうだった。昨日はあれからちゃんとフリーサできた?」

 

 「お前さぁ……!」

 

 叶と呼ばれたこの男こそがある意味昨日の惨状を作り出した張本人と言ってもいいだろう。

 彼は昨日の夜のどたばたには参加していないはずだが、どこからか情報を仕入れたのだろう、いわゆるイイ笑顔を葛葉に向ける。

 その叶の若干煽るような言葉に不破がいち早く反応する。

 

 「ってかフリーサ人気すぎて埋まってるくない、いつも?」

 

 「分かるー!」

 

 葛葉は不破の言葉に昨日のことを思い出したのか、力強く頷き同意を示す。

 あまりにも必死に頷き過ぎたせいか、彼は不破の表情を見逃していた。

 それは昨日と同じ、不破は人をからかう時の目をしていた。

 

 「デートする羽目になるもんなそりゃ」

 

 今まで心の友と言わんばかりに頷いていた葛葉が不自然な姿勢で固まる。

 狙いすまして投げられた一撃は葛葉にとって致命の一撃だった。

 

 「あ、ごめん。内緒だったね」

 「彼女じゃねぇっつてんだろ!」

 

 そう言って殴り合いが始まる。

 犯罪前のギャングとは思えない。

 傍から見たら男子高校生がじゃれているのかと思う雰囲気の彼らだったが、一本の無線が入りそれも一変する。

 

 「よし、いけるよー」

 

 軽い調子で無線に流れたABOの声。

 その声を合図に彼らのゆるい雰囲気はまさにギャングといった雰囲気に塗りつぶされる。

 

 「飛ぶぞっ!」

 

 葛葉の言葉を合図に彼らはそれぞれ動き出す。

 あたりは彼らの黒い衣装を隠すように夜の帳が落ちていた。

 

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