冬の約束   作:びーびー

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おかえり

 

 その後、葛葉は刑務所から釈放されては犯罪を繰り返した。

 自らが囮となりながら金持ち役を逃がし続けたため犯罪自体は成功に終わるが、葛葉は捕まることが多かった。

 そしてなぜか捕まった先には決まってとおこが待ち構えており、叱られながら治療される葛葉の姿は警察署内で幾たびも見られることになる。

 

 「あー」

 

 そして今、葛葉はまた囮となって金持ち役を逃がし、警察に捕まっていた。

 聞こえてくる無線の内容だとどうやら無事に金持ちは逃げられそうなので深く息をつきパ トカーの後部座席に体を沈める。

 運転席と助手席では警官が窓を開けながらのんきな会話を楽しんでいる。

 

 「……ここでさ、一人1000万ずつ受け取って、俺をここで下ろすってのはどう?」

 

 「あり!」

 

 「数字は違うけどな」

 

 葛葉の何気ない冗句に二人とも乗り気な反応を見せる。

 実際に夢の中ということもあり、この町の警官には汚職警官もそれなりの数がいる。

 

 「数字は違うって……」

 

 呆れる葛葉の視界に黒い鴉が一羽近づいてくる。

 大型バイクを手足のごとく乗り回し、パトカーのすぐ横にぴたりと付けてきたその男は、先程の犯罪で警察の攪乱役としてバイクを乗り回していた叶だった。

 

 「なーにしてーんの?」

 

 「うわっ!」「やばい!」

 

 叶の登場に慌てふためく警官達。

 何しろ彼らが連れているのは叶のボスである葛葉だったからだ。

 

 「ふつーに助けて」

 

 葛葉の声で葛葉が乗っていることに気づいたのだろう。

 先程の優しそうな好青年といった雰囲気を脱ぎ捨て、叶はハンドルから片手を離し、腰からサブマシンガンを取り出す。

 すぐさま発砲を始める叶から逃げるように警官たちは速度をあげる。

 

 「普通に撃たれてる!」

 

 「守ってー!」

 

 強化されたボディを撃ち抜けていないからか車両はまだ走り続けているが、運転する警官たちは無線に悲鳴を投げつけながら一目散に警察署へと向かっていく。

 思ったより装甲が固かったのか、それともバイクを運転しながらで狙いが付けづらかったのかパトカーはついに警察署の裏手まで到着する。

 普通であれば警察署には警官が多く在中しているため、警察署近くまでくればギャングの奪還も引いていくはずなのだが。

 

 「まだ追って来てる!」

 

 「うわっ、撃たれた……!」

 

 叶は引くことなく執拗にパトカーへのアタックを続ける。

 ついには一人に銃弾が貫通して直撃する。

 運転手が撃ち抜かれ、パトカーは警察署の中庭に入ったところで停車する。

 

 「イケるぞ!あと一人だけ!」

 

 「……」

 

 「あぁっ!」

 

 葛葉の声に反応したのかパトカーを降りて応戦しようとした一人も叶の正確無比な射撃で肩を撃ち抜かれ地面に倒れ伏す。

 辺りにはサイレンの音が鳴り響き、応援が到着するのも時間の問題だろう。

 

 「っ葛葉を助けた!誰か迎えに来てほしい!」

 

 無線にそう叫んだ叶はパトカーから葛葉を引っ張り出して担ぎ、警察署の外に走り出す。

 サイレンは徐々に近づいて来ているがどうやら応援到着前に現場から離れることができたらしい。

 叶は葛葉を担ぎながら仲間たちと情報をやり取りしつつ、手近な車を奪う。

 

 「今、ちっさいバンみたいなのに乗ってる。どこかで葛葉を受け渡したい」

 

 「バンね、了解。ちょっと待って……」

 

 叶の言葉にハルが答える。

 どうやらハルも付近まで来ていたらしく合流を目論んでいるようだった。

 

 「バン、見えた。後ろ追っかけられてないね」

 

 「追われてない、了解。追われてなさそうなら、このままアジトまで連れて帰る」

 

 「了解」

 

 そこで無線を切り、叶は深く息をつく。

 一か八かのところではあったがボスを奪還できたことは大きい。

 今後、警察はメンバーの奪還対策で警察署などにも人員を配置しなければならなくなり、現場に来る警官が減る可能性が高い。

 

 「ナーイス!」

 

 「よかったぁ」

 

 そうして葛葉たちはアジトまで到着する。

 ハルは残されたメンバーの救出を指揮するために現場に戻っていき、アジトには葛葉と叶が残される。

 

 「いや、本当にナイス」

 

 「葛葉がいるって知らなくて、警察に妨害のために話しかけに言ったら奥から聞きなれ          

 た助けてって声が聞こえてきたからね」

 

 「まじで助かっごほっがはっ」

 

 叶にお礼を言う葛葉の口から激しく咳が出て、葛葉は自身の腹部を押さえる。

 捕まった時の怪我が若干悪化してきているようで、呼吸が荒くなっていく。

 

 「病院行こっか」

 

 「病院?……大丈夫か?」

 

 「大丈夫大丈夫」

 

 何かを思い悩むような葛葉の様子を流しながら叶は葛葉を自分の車に乗せ換える。

 それからしばらくして葛葉たちは病院の入り口まで到着し、車からまだ何かを思い悩むような葛葉を担ぎあげ、叶は病院の自動ドアをくぐる。

 タイミングがいいのか悪いのか、自動ドアをくぐった先でとおこがこちらに背を向けて立っているのが見え、叶はイイ笑顔をしながらとおこに近づいていく。

 先ほどまで犯罪の結果を葛葉に報告していた叶が突然静かになったため、不審に思って顔をあげた葛葉の視界には叶が自分をとおこのもとへ運んでいく姿が映っていた。

 

 「あっ……」

 

 「あ、おかえりなっ」

 

 葛葉の気まずそうな声が聞こえたのだろうか、とおこ呆れた様子で振り向き、葛葉を担いだ叶の姿を見ると言葉を区切る。

 

 「あ、違った。違った!」

 

 「……おかえり?」

 

 「違う違う違う!」

 

 最近は何度もとおこのもとへ治療に来ているからなのか声を聞いただけで反射的にこぼれ出た言葉に頬を赤く染めながらも叶から預けられる葛葉をベッドに寝かせてとおこは治療を開始する。

 葛葉としても男だらけのギャングでやってきたせいなのか女性からお帰りと言われることに慣れておらず戸惑った声をあげる。

 叶は葛葉をとおこに預けると治療の邪魔にならない距離まで離れて生暖かい目を二人に向け、事態の推移を見守り始める。

 

 「……ただいまぁ」

 

 「おかえりなさい」

 

 葛葉のぎこちない言葉に思わず笑みをこぼしながらおかえりと返し、とおこは診察を進めていくが、思ったより酷いけがの状態に眉をしかめる。

 

 「ここ最近、……何回。どれだけ悪いことしてるんですか、皆さん」

 

 「いや、事故っただけっすよ。車で……」

 

 「事故、ですか?そうですか」

 

 明らかに嘘とわかる葛葉の言葉にとおこの手が止まる。

 またもわかり切った嘘で誤魔化そうとする葛葉に軽くため息をついて、葛葉を半眼で見下ろす。

 刺激の少ない消毒液に伸びていた手が動き、その隣に置いてある刺激が強めの消毒液を手に取り治療が再開される。

 

 「痛い痛い痛い痛い!」

 

 「こらー!どうせ悪いことしたんでしょ!」

 

 「したよ!したよ!悪いことしたよ!」

 

 「だめだって言ったのに!……もう」

 

 とおこの言葉が効いたのか、治療の痛みを食いしばって耐えているのかはわからないが葛葉の声は少しトーンダウンする。

 事故っただけ?

 とおこの目には何発かの銃弾が葛葉の体をかすめていったであろう傷が彼の体に刻まれているのが映る。

 前回来た時より増えていたその傷は、葛葉がそういう危険な現場を踏み続けていることを示していた。

 もちろん彼がギャングのボスをやっているのは自分で選んだ道であり、とおこにそれを止める権利はない。

 ただ、それでも。

 

 「やるんだったら、ちゃんと……」

 

 怪我をしないようにしてください。

 言葉にできないその思いをとおこは胸の中でつぶやく。

 ギャングのボスに対する言葉ではないかもしれないが、それでもとおこはそう祈り続けるのだろう。

 慌ただしい病院の空気の中で二人だけが取り残されたかのようにゆったりと時間が流れる。

 それからしばらくして葛葉の治療は終わる。

 

 「ありがとう、ございます」

 

 「……ご飯とか、大丈夫ですか?」

 

 「ご飯大丈夫っす……」

 

 二人の間を妙に照れくさい雰囲気が流れている。

 とおこが心配してくれるのが、妙に照れくさく、そして嬉しい。

 そんな気持ちを切り替えるように葛葉は声を張る。

 

 「人質取られてるんですか、最近?」

 

 「取られてないですよっ!取られてないです!」

 

 「本当っすか?」

 

 「本当ですよ!」

 

 そんなじゃれ合いをしながら葛葉は自分の服を整える。

 多少傷がついたりしてぼろになってはいるがアジトまで帰るにはこれで十分だろう。

 どうやら叶は先に車のところに戻ったようで、葛葉も叶のもとへ向かうためにとおことともに治療室を後にする。

 

 「本当に取られてないっすか?」

 

 「はい。取られてませんよ?」

 

 「人質ビジネスやってないんすか?」

 

 「だからやってないって!最初からやってないってば!」

 

 葛葉のからかうような声色にとおこの口からも自然に笑い声が漏れ出す。

 傍から見たらどこのカップルだと、そう突っ込まれるようなやり取りをしながら二人は病院のエントランスまで歩いていく。

 

 「え?じゃあ、俺が人質に取ったのが最後っすか?」

 

 「そうですよ?」

 

 何を当たり前なことを、と言わんばかりのとおこの答えにより、ほんの少しの驚きとそれを超える言葉にならない感情が湧き上がり、それが葛葉自身の表情を緩ませるのを感じる。

 にやけてしまった自身の表情をとおこから背を向けることで必死に隠そうとするが、それをすればするほど表情が、声がにやけてしまう。

 

 「へー」

 

 突然自分に背を向けた葛葉を不審に思い、彼の顔を覗き込もうとするがそれよりも早く葛葉は興味がないような言葉を発して病院の外に小走りで走り去ろうとする。

 

 「何ですか!何ですか!こらー、待てー!」

 

 追いすがるとおこの前で叶が回した車に葛葉が乗り込みドアを閉める。

 助手席側の窓を開けようかと目で訴えかける叶に葛葉は前方を指差すことで車を発進させるように指示をする。

 

 「お大事に!……もう!」

 

 開けかけた窓ガラスの隙間からそんな呆れと優しさが混ざりあった声が聞こえてきて、それもすぐに風の音に消える。

 

 「よかったの?」

 

 「……」

 

 横目で助手席の葛葉の様子を伺うが、彼は口元を手で覆い険しい表情をしている。

 長い付き合いなので葛葉がどういう状況かをおおよそ把握している叶は笑いをこらえながらスマートフォンを操作する。

 

 「スマホ、開けます?」

 

 「ん?あぁ」

 

 そう言って葛葉がスマートフォンを開くと一枚の画像が叶から送られてくる。

 被写体の二人がカメラの方を向いていないということは隠し撮りされた物であろうそれは、おそらくとおこが葛葉の診察をしている場面を写したものだった。

 

 「お前、ふざけんなよー!」

 

 「一応撮っておきました、ボス」

 

 写真の中のとおこは照れた表情で笑みを浮かべており、葛葉は恥ずかしいのかそっぽを向いている。

 万が一当人たちにその気が無くても、この写真を見た人ならば甘酸っぱい青春を思い起こすであろうその写真。

 人によって評価が変わる写真かもしれないが、少なくとも葛葉には不評のようだった。

 

 「タイトルは、おかえり」

 

 「だるすぎる!」

 

 「みんなには内緒にします」

 

 「助けてもらった手前、なんも言えないけどだるすぎる!」

 

 葛葉の叫びを置き去りに車は一路アジトへと向かう。

 その車内では葛葉の話題そらしに叶が乗る形で写真のことは一旦置いておいて今回の犯罪の反省会が開かれることになる。

 なんといっても今回のMVKは叶だろう。

 警察を相手取って葛葉を奪還したその戦闘センス、運転技術はロスサントスの中でもトップクラスであることは疑いがない。

 そんな話をしながらアジトまで戻ってくると、アジト前には鴉のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

 「ナイスー!」

 

 「「「「「「「「「ナイスー!」」」」」」」」」

 

 葛葉の声を皮切りにメンバーたちが互いの健闘を称え合う。

 一仕事終えたあとの充実感からか皆の表情は明るい。

 あの逃げ方が良かった。あそこを守ってくれたのが良かった。

 そんな風に互いを褒め合ってからしばらくたって騒ぎも少し落ち着き始める。

 そんな中叶が声を出しメンバーの注目を集める。

 

 「みんなにも1個だけ言わなきゃならないことがある。みんなスマホを出してくれ」

 

 その叶の言葉にメンバーは特に疑問も持たずにスマホを取り出す。

 唯一違和感を覚えたのは葛葉だった。

 言葉を口にする前に叶がちらりと葛葉の位置を確認したこと。

 どこかで、つい最近聞いた覚えのある言葉。

 嫌な予感が脳裏に警鐘を鳴らし始めるのと同時に葛葉は叶の方へと駆けだす。

 

 「おーい!おいおいおい!ちょちょちょっと待て!」

 

 しかし、それは少し遅かった。

 叶がスマホをタップした瞬間に鴉のメンバー全員のスマートフォンが着信を告げる音を鳴らす。

 

 「待て待て待て!」

 

 葛葉は叶に掴みかかるが、メンバーはそれぞれのスマートフォンに集中しており、まるでこちらを気にする様子を見せない。

 そこには先程叶が撮影した葛葉ととおこの写真が映し出されている。

 

「みんな、混乱してるんだこいつ!」

 

 「なんだこれ?」

 

 「なんか来た!」

 

 「何?何?ボス?」

 

 アジト前は途端に先程以上の騒ぎが巻き起こる。

 皆が葛葉に向かって叶から届いた写真を見せながら騒ぎ立て始める。

 

 「シリアスな時にイチャイチャするのやめてもらっていいっすか?」

 

 「違う違う違う違う!」

 

 「まじで仕事してもらっていいっすか?」

 

 「おいまじかよ!ボスー!」

 

 「最悪……!」

 

 はやし立てるメンバーの前で葛葉は頭を抱える。

 ノリがいい連中ではあるがノリが良すぎることは欠点でもある。

 このまま放っておいては町中に有る事無い事が広がってしまいかねない。

 

 「記憶を、消すしかない!こいつらの!」

 

 「抱え込むなよ!」

 

 「相談してくれよボス!」

 

 「勝手に、叶に連れてかれただけ……っ忘れろー!」

 

 そう叫びながら葛葉は手近なメンバーに殴りかかるが、皆避けてばかりで葛葉と一定の距離を保ち続けている。

 

 「俺、嬉しいよボス!」

 

 「かわいいとこあるんだから!」

 

 「彼女出来たなら言えよぉ!」

 

 「出来てねぇよ!」

 

 男子高校生のようなノリではしゃぎ続けるメンバーとそれに噛みついていくボス。

 鴉たちの祭りは夜が更けるまで続いた。

 

 

 

 

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