異世界サモナー、神話の怪物達と現代で無双する~俺と契約した最強召喚獣たちの愛が重すぎる~ 作:鬼怒藍落
子供の頃から、英雄に憧れていた。
漠然と自分の中にあるのは、仲間と共に悪を打ち砕くそんな像。
何度でも立ち上がり、全ての困難を超えて、仲間と共にいられるそんな――最強の英雄に憧れた。
どうしてかは分からない。
ただ格好いいなって、俺も仲間と一緒にそうなれればいいって、何も知らないガキが願った理想像。
何の才能もなかった俺を拾ってくれた、俺を必要としてくれた仲間達を英雄にするために、俺は。
『なぁ逢魔、勝とう――ここで攻略して、俺達は』
十年前、十五歳での出来事。
俺達イリーガルはその時にあったSランクダンジョンの攻略に向かった。
その圧倒的な難易度から立ち入り禁止措置が発令される寸前のこと、俺達はなんとか許可を取り――そのダンジョンに挑んだ。
攻略は順調。
ギルマスを除く全メンバーという少数精鋭で挑んだ俺達は、異界型だったそれを難なく進んでいき、ボスまで辿り着きそのダンジョンを攻略した――筈だった。
『あ、食べルつモりだッたのニ――でモ、いイヤ』
そしてその時に現れたのが、それだった。
真っ黒く何のパーツのない貌、同じ黒の体躯は人型ではあるが所々関節が曲がっていて、その躯で目立つ巨大な爪は気味が悪い。モンスター……いや魔物という物が生息するダンジョンにいても、そいつは明らかな異種であり、あまりにも怪物。
その貌には口がないはずなのに――頭の中に機械音の様な言葉が届き。
『原典を――貰えルかラ!』
その絶望が、俺達に襲いかかってきた。
目の前でダンジョンが鮮血に彩られる。
急に現れたそれに、前衛の仲間が二人殺された。そのたびに聞こえる嗤い声。どこまでも、奪うこと殺戮を楽しむそれは遊ぶように死体をぐちゃぐちゃに食い潰した。
壁を床を天井を縦横無尽に駆け回り、いつの間にか四人も死んだ。
原典というのが何を意味するか分からないが、最初の視線は俺に向いていたのに――狙われてるのは、殺されるのは仲間だけ。
ぼこぼこと脈打つ躯を変形させながら、最適な形で無情に奪うその化け物。
そんな変異するという特性を持っているのに、爪だけが変わらないのが不気味で――だけど次第に怒りと、俺の中で何かが湧いて。
『ふざッけんな!』
ずっと眠っていた俺の根源が、後に原典と知る物が覚醒したんだ。
湧いてくる力、凄まじい情報量と、自分のものではない人生を一瞬で追体験しながらも、俺はその時に英雄の力を手に入れた。
『アはハあハ! やっぱり原典だ! こノ世界で見ルなんて、欲しイホしぃよ!』
使い方は分かる。
この力なら殺せると確信する。
だけど、悪意の染まったそいつは殺した仲間を盾に生存を狙う。
異界型を攻略したせいで、残された時間は少なくすぐに決めなければダンジョンと共に消失するだろう。
それを相手も分かってるのか、時間を稼ぐように立ち回るが――インドラの力からその程度で逃げれるわけがなかった。
『痛い、痛イ――すゴイネ! でも、もう三人ダけだヨ? 頑張ッテ?』
一撃掠るだけで躯を削る。
いくら逃げようにも追撃する雷が、相手を逃がさない。
空には雷雲が浮かび、その全てを操れる俺は決してこいつを許さない。守らないと、俺の仲間を、大切な奴らを――だから、もっと力を寄越せ!
数秒ごとに研ぎ澄まされて、何かに浸食されていく。
だけど、それでも構わない――少しでも仲間を、大事な皆を、未来に残すために、俺はどうなってもいいから、勝たせろと。
願う度に強くなる。
渇望するごとに、魔力が増す。
限界なんてない、俺の願いに呼応するだけ力が応えてくれて――俺はそいつを倒すことが。
『あっ限界なンだァ。ねェぇインドラ、ボくは……デミ・ニャルラ。君と違ってボクは人造の原典だかさぁ、頂戴? そしたら本物になれンだァ!』
――出来なかった。
過度な力を望んだ影響か、視界が赤く染まって呼吸が苦しくなる。
劣勢だったはずなのに、俺を見て嗤うそいつは――名前を名乗って口を開いて。
『守られて、ばかりじゃ――駄目、だろ!』
その瞬間に、俺の親友に貫かれた。
今まで傍観していた親友は、持っていた剣で敵を貫き、最後の指示を飛ばす。
『一樹! 転移石使って、逢魔と逃げろ! 俺はこいつを抑えるから!』
『なっ、貴方はッ、行きますよ逢魔!』
『ふざっけんな、それは駄目、だろ――おい、親友!』
『ほんと悪い。ごめんな、逢魔――頑張れよ』
それが、イリーガル崩壊の日。
俺が……全てを無くした、英雄はいないと悟った――最悪の日だった。