異世界サモナー、神話の怪物達と現代で無双する~俺と契約した最強召喚獣たちの愛が重すぎる~   作:鬼怒藍落

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第132話:不死殺しの巡礼者

 

 これは、バロールという女の始まり。

 ――そして彼に出会うまでの旅の記録だ。

 

 ミソロジアに生を受けて、(わたくし)が初めて見た景色は……人が倒れて並ぶ、礼拝堂。

 生まれてからずっと、なにかを見ることを許せなかった私に初めて許された景色は、とても冷たいそれと……(にび)色をした(くら)い空だった。

 いつも通りの世界で声を聞いていただけなのに、初めて目隠しが外された時に視界に映る者達の全てが倒れて、不思議な顔で眠ったのを今も覚えている。

 

『……貴方は、不死を終わらせるために生まれたのですよ』

 

 いつも付き添ってくれた侍女の方が、私にそう教えてくれた。

 どこか別の世界にいたとされる『バロール』という名の死を振りまく魔眼を持った神の一柱。それが、私の持っている原典という物らしいと。

 

『貴方は、私達に死を与える希望なのです』

 

 幼い私は、死というものを知らなかった。

 だからだろう。

 それを与えるのが私に許された役目だと思って、ずっと誰かに死を与える毎日。

 ずっと目を封じられた世界で、人が倒れる瞬間の安らかな顔だけを見て、過ごす日々……それが当たり前で、日常でずっと誰かを殺していた。

 

『あぁ、聖女様。どうか俺に、終わりを』

 

 そう願う人を視て、倒れて運ばれるのを見送って。

 

『やっと、死ねる――もう、苦しまないんだ』

 

 知識のみで教えられた涙を流して、安らかな顔で倒れる人に祈りを捧げて。

 

『ありがとう、ありがとう――もう生きなくて、いいんだ』

 

 疑問に思うことは無かった。

 それが当たり前で、私はなにか大切なことをしてるのだろう。

 たまにしか視ることの出来ない、私が住んでいる神殿で侍女と二人で誰かを看取るそんな日々が、ずっと続くと思っていた。

 

『聖女様、私はもう一緒にいられません』

『……どうして、ですか?』

 

 私の世界にあるのは、暗い視界と彼女の声。

 それがなくなるというのが嫌で、自然に声が震えてしまった。

 

『私は、貴女以外に何も思えないのです。不死に耐えられないのです』

 

 そこで初めて知る不死病という存在。

 初めて教えられた病は、私が住んでいる地方にずっと昔から存在していた呪病だった。聞けばそれは人間がずっと求めていたとされる不老不死、人の終わりとされる死から逃れるという悲願を叶えてくれる祝福の病……とされていた。

 

 どうやら私は、それを治療する――いや、終わらせる役目を持っていたらしい。

 なんで? とは思った。それは人の悲願……つまり願いの筈なのにと。

 心底不思議がっていただろう私に、優しい彼女は答えてくれた。不死というのは、それだけ人間には荷が重いものだと。

 

『一人にしてしまう、私を許してください――優しい貴女を、残してしまう愚かな私を呪っても構いません――どうか、不死病を終わらせてください』

 

 そこで彼女は、いつものように私の枷を取ったのだ。

 初めて視るのは、今まで見たことのない表情。今まで看取った人達とは絶対に違うそれに、私はなにかが痛かった。

 

『……私は、貴女と過ごした三百年程、ずっと幸せでした。思ってはいけないのに、家族が出来たようで、忘れられない思い出なんです――だから、貴女に感謝を』

 

 ……そこで、初めて私は抱きしめられた。

 強くもう死んでしまう体で、私を抱きしめて撫でてくれて、ありがとうってそう言われて。

 

『大好きですバロール様、どうか――貴女に呪いを与える私を許さないでください』

 

 それが、彼女との最期の記憶。

 私を導き育てくれた大切な、名の知らない母親というものとの別れの話。

 それから私は、ずっと一人になった神殿で生きていた。

 文字は原典のおかげで読めるから、ソレを頼りに保管されている書物で知識を得て、不死病の事を知った。旅の果てに訪れる不死者を看取って、そこで外の世界と苦しむ不死者の事を知り、いつかの約束のために外に出て――旅を始めた。

 

 大切な侍女の服を着て、神という化け物の立場を隠して、話を聞いて、人を看取って、何よりその旅の中で死に触れた。

 

 死というものの怖さを人に聞いて、だけどそれが大切なものだとも知り……尚更だが、不死病というものを――ただ終わらせることしか出来ない私を嫌った。

 ……一人でしか入れないそんな私を、何より奪うことしか出来ない怪物を。

 

 色んな物語を知り、人を知り、旅の中で命を知った。

 そんな中で、天使という神の使いの存在も知った。人を救い、導き、助け、隣人となる存在だと――だから私はそれらを嫌った。

 救う存在なら何で不死者がいるんだろうと、導くなら助けるなら隣人となるなら――どうして、死を奪われた人を救わないんだろうって。

 

『ありがとうございます。やっと俺は、皆の所に行ける。ありがとう、ございます』

 

 その日も、私は誰かを看取った。

 名の知らない、青年だった。だけど、話を聞けば百五十年は生きてたらしく、自分の事を知ってる者がもういなかったらしい。

 

『お姉ちゃん、ごめんね……一人残しちゃって。でも、ありがとう』

 

 その次に看取ったのは、偶然訪れて数十年滞在した村の子供。

 優しい子でずっと私と過ごしてくれた。

 だからだろうか、関わった時間が長いから――妙にその言葉が私の中に残った。

 なんだろうか、私は一人が当たり前で――不死者を見送らなきゃいけないのに……どうして、その日から息が苦しいんだろう。

 

 不死病の原因は分からない、ずっと探しても誰に聞いても、何を調べても。

 旅して、看取って、生きて――探して。

 一人、歩いて。

 

『そういえば、私――最後に誰かと一緒に物を食べたのっていつでしたっけ?』

 

 ふと、思ったのはそんな疑問。

 どうしてか口に出したその言葉は、きっと思っちゃいけないものだった。

 本当に無意識だった。だって、それを知れば、思ってしまえばきっと私は――。

 人の営みを知っている。一人で生きてきた私は、誰かの笑い声をずっと覚えている。不死病の患者は孤独に耐えれないことを何度も聞いた。

 知っている、知っているんだ。

 ……私はおかしいって、私は人じゃないのだから、原典を持って生まれた時点で人じゃ無いから耐えて当たり前で、それが役目で――誰かを助けなきゃいけなくて。

 

『寂しい、ですね』 

 

 ――その言葉は知っていた。だから一番嫌いだった。

 言わないようにしていたのに、言っちゃ駄目だと思ってたのに。

 あぁ、なんで。

 

『――なんで、神様は私を生んだのでしょうか』

 

 こんな力はいらなかった。

 人に死を与えるなんて傲慢で最悪で……優しくない力なんて欲しくなかった。

 寂しいなんて感情、知りたくなかった。こんな感情を知るぐらいなら、私は旅になんて、人となんて関わりたくなかった。

 

 こんな瞳、こんな力、こんな私なんて、全部――消えれば、いいのにな。

 潰せばなにかが変わるんだろうか、この瞳さえなくなれば……私は苦しまずにいられるのだろうか? あぁ、なんてそれは素晴らしい。

 

 だから私は一人になれそうな場所を探して食べ物を切るためのナイフで――最も嫌いなこの瞳を――その瞬間の事だった。

 誰かが空から落ちてきて、私の前に現れたのだ。

 

『――どこだよ、ここ』

『ッ貴女、私の視界に入らないでください!』

『……あ、え? 悪い?』

『なんで――死なないの、ですか?』

『あれ、めっちゃ悪口言われてるのか俺?』

 

 それが、彼との出会いだった。

 これから先、ずっと一緒に生き私の全てを捧げられると思えるレイマという青年とのそんな始まりだった。

 

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