異世界サモナー、神話の怪物達と現代で無双する~俺と契約した最強召喚獣たちの愛が重すぎる~ 作:鬼怒藍落
――アスモデウス。
それは、悪魔学によれば激怒と情欲の魔神とされている色欲を司る存在であり、元は熾天使だったとされるモノ。その存在を記す『ゴエティア』という書物では、幾何学や天文学などの秘術を操る大いなる王だとも。
そしてその語源は――ゾロアスター教の悪魔アエーシュマで、その呼び名
それが、ルミア・アスモデウスという女の原典。
産まれながらに完璧とも言える絶世の容姿を持ち、破壊と滅びを与えるだけの悪魔の始まりだ。数多の国を滅ぼした、目に映る全てを堕落させた。
本能が、原典がぼくを苦しめ全てを跪かせた。
情欲に付随する魅了の呪い、それは万物に作用し異性同性関係なく壊したことを覚えている。制御の出来なかった呪いの力、ご主人のおかげで抑えられていたそれ。
普段なら絶対使わない力だけど、いいものが見れたので今だけは曝け出そう。
「さぁ、ベルゼブブ……君の運命は破滅に向かう、破壊と美徳のフルコースをどうか味わってくれたまえ」
原典解放したことによってペットの龍が喚ばれて喜んでそれが咆哮を上げれば、周囲に黄金が溢れ出した。そしてそれは、形を変えて様々な武器に変化する。
「一つ覚えか?」
「いいや残念ながらこれは、魔力産じゃないからね。食べられないと思うな」
「錬金術……いや、貴様の秘術の応用か」
「あたり、流石に博識だね」
わざとらしくパチパチと、拍手をしてから武器を浮かせて相手に放つ。
意思を持った生き物のようなそれらは、飛翔し避けるベルゼブブへと向かい、鬱陶しく思っただろう相手がナイフで防いだ瞬間に、当たった物質を蝕んだ。
一瞬で黄金の塊に変化してそれでもまだ足りないのか、相手の手まで飲み込もうとするのだが、すぐに察知したのかナイフを捨てる。
「ぼくとしてはそのまま黄金になって欲しかっただけど、空気が本当に読めないね」
「ぬかせ……だが、我の道具を壊した責任はとらせるぞ?」
「なら大事にすればいいのにね……で、見てる君ら? 龍の子が頑張ったんだから君達も頑張りなよ」
そして、ぼくは軽く周りを鼓舞する。
全ての存在を魅了するぼくの魔力は、他者の魔力にすら作用する特性を持っていて、ぼくが一声かけるだけで魔法発動の効率は上がっていくのだ。
バフとも違うその強化はぼくの原典解放が続いてる限り続く能力、ぼくが気にかけるほどに強化されるこの力でご主人の仲間達の魔力が跳ね上がる。
「うん、言われなくてもね……でも巻き込むかもよ?」
「心配はいらないさ、ぼくに惚れた魔力が牙を剥くことはないから」
「よく分からないけど、遠慮なくやっていいって事だよね?」
「うん。龍の子も氷娘も侍女子も……あとおまけの吸血姫もだけど、遠慮なくあの蠅男ボコればいいよ、叩けば治るだろうし」
大体の魔道具はそうすれば治るので、作戦は決まり。
ぼくの魔力特性のせいで思考の誘導が少し入っちゃうけど、この場合は好都合だろうからそこは無視ってことで。
展開される暴食の食卓の上、氷娘が空を飛び回復してきた龍の子が何度も槍で攻撃を仕掛ける。侍女子は持ち前の機動力を活かして跳び回る。
ベルゼブブは、食卓の上で使える魔法を使って応戦するが、その出力がだんだん落ちてきた。
焼くための焔は弱火となり、洗うための水は少量へ、斬るため包丁も錆び始めて、それどころかベルゼブブに叛逆し始めた。
「毒婦が……節操ないな」
「それがぼくだ、跪く方が悪い」
黄金の武器の雨、四人からの苛烈な攻撃に蠅の魔王は次第に苛立ちを募らせる。
ご主人に聞いていたけど、やっぱりぼくは暴食には相性がいい。三竦みの関係というわけではないが、魔力を多用するベルゼブブにぼくの特性が有効で助かった。
ベルフェが暴走しないことは知っているが、彼女とぼくは致命的に相性が悪いので敵対しなくて本当に良かったと思う。逆にベルフェは暴食の能力絶対無理だし。
「はぁ……仕方ない急ぐかあまり魔力を使う気はなかったのだがな」
すん……と、相手の表情が抜け落ちる。
周囲の食卓が急速に閉じて、そして結界魔法に使われていた魔力が全て彼の体に戻る。魔法というのは決まりがあるのだが、原則として魔法を使えば魔力は空間に霧散する。ご主人やあの半魔の様なものでなければ一度使った魔力は操れないんだけど。
「魔法を食べるのって自分のにも使えるんだね」
「それはそうだろう? この世の全ては等しく餌だ。まぁこれは王の負担になるのでな、使う気はなかったが……王を守るのが優先だ」
……圧が増す。
空気が重くなる。
それどころか、飢餓感すら覚えるほどにお腹が空き始めた。周囲の空間が軋みだし、海に大きな穴が開く。自然に存在する魔力を根こそぎ奪った彼は、こう告げる。
「
服装が替わった。
紳士のような装いから、騎士ような姿へと。
その額に炎の帯を巻き頭には大きな角が二本生えたかと思えば、獅子の尾が伸びる。その様子には心当たりがあった、それは悪魔としての本来の姿であり、原典にて語られたバアル・ゼブブそのもの。
「では……ゆくぞ?」
人差し指を立てたかと思えば、彼はゆっくりとそれを天に向ける。
そうすれば、彼の純白の翼が黒く染まっていき……。
「
終わりを告げる喇叭が聞こえる。
百を超える天使が輪を作って空から落ちてきた。
それが楽器を吹きさえすれば――世界に光が満ちて、一つの柱がご主人を守る繭へと狙いを定めて。
「ッベルフェ!」
「ふぁ~あ、運んできたばっかりに酷じゃない? まぁ、やるけどね? これも霊真を守るためだよ【
戻ってきて休んでいただろう彼女に声をかけ、終局を放つベルゼブブに必殺を叩き込ませる。それは、相手の無意識を制限する彼女の魔法、命を繋げる心臓の活動を制止させるそれは相手へと命中し……命を絶つ。
「ッ終わりか、まぁいい目的は達した」
それだけ告げれば、瀕死の彼はその場から最後の力で飛び始めて……ご主人の元に一瞬で移動して、繭を解除した。
「王よ、貴方を呪う嫉妬の魔力は喰らったぞ――また相まみえたら、その時は共に……食事を」
それだけ告げたかと思えば、彼はぼく達に向き直る。
「次に我が顕現するまでの間、王のことを任せたぞ? 不甲斐なかったら喰らう。そして龍の小僧よ、これを持って行け」
彼が投げるのは最後の力で召喚した一本の槍。黒く禍々しくも聖なるオーラが溢れるそれを投げ渡したかと思えば、笑顔で告げる。
「これからも我等の王の友でいてくれ、それは貴様の役に立つはずだ。ではまたな」
そして、黒く染まった羽で自らを包み、バアル・ワイルハントに戻った彼は、そのままご主人の中に消えていった。