「それでは柱合会議を始めましょう」
輝耶の一言で全員が顔を上げる。
「まずは柱の皆んなが変わらず元気でいてくれて良かったわ」
「お館様も変わらず、御壮健で大変喜ばしいことです」
左慈が代表として輝耶に挨拶をすると輝耶は微笑む。
「今回、柱合会議を開いたのは剣至が皆に知らせたいことがあるらしいの。剣至、いいかしら?」
「はい」
剣至が立ち上がり、魔都での八雷神との戦闘、そして侵入してきた紫黒との会話で出てきた月ノ皇との関係を話した。
そのとき月ノ皇の名前が出た瞬間に全員の空気が変わった。
「その八雷神と月ノ皇が関わりがあるのは確かなのか?」
「わざわざ月ノ皇の名前を出す必要があると思いますか?」
左慈の質問に剣至が答えると李和も会話に入ってくる。
「だが、その紫黒とやらが接触してきたのはお前に興味があったからだ。そのためなら月ノ皇の名前を出す可能性がある」
「まぁ……確かに」
李和の言葉に剣至は一理あると考える。
紫黒とは少ししか接触していないがまるで蛇のように狡猾なのは分かった。
せっかくの手掛かりだというのに暗礁に乗り上げてしまった感覚に剣至は苦い表情になる。
そこに輝耶が声をかける。
「……恐らく八雷神と月ノ皇は関係があると思うわ。もし関係がないにしても八雷神は明らかに敵。人々の命を脅かす存在よ」
輝耶は柱全員を見渡す。
「我々鬼殺隊の目的は人々の命を守ること。敵が月ノ皇であろうとなかろうと関係ありません。あなた達のその刃に人々の命がかかっています」
『御意』
輝耶の言葉に柱の全員が真剣な表情になって傾聴する。
その目には先までのバラバラな雰囲気はなく、全員がその目に覚悟を秘めている。
「これは私の勘だけど今後は魔都を中心に事が進むと思うの。今は剣至が魔防隊と連携係になっているけど今後は皆んなも魔防隊と協力して欲しいわ。直近では一番組と剣至が調査に乗り出してくれることになっているわね?」
「はい、りうさんが組長をやっている組です」
その言葉に輝耶は少し悲しそうにする。
「そう……あの人が……狩矢さんによろしく言って貰えるかしら」
「御意」
「それと先の話で八雷神と戦う前に醜鬼化した人間と接触したと話していたけれど……その後は先程話した通り、何事もなく彼女たちは逃げたのね?」
「……はい、八雷神との戦闘の最中、いつの間にか逃げていました」
剣至は目を伏せて答えて、輝耶はそれを黙って見ていた。
「そう……分かったわ。では、他の報告をお願い」
その後も会議は続き解散となったが、李和が剣至を呼び止めた。
「武藤、こっちに来てくれ」
「はい?」
李和が案内したのは中庭から離れた一室で、そこには輝耶が待っていた。
「剣至、来たわね。それじゃあ本当のことを話してちょうだい」
「……やっぱりバレていましたか」
「おい、武藤」
「いいのよ、李和さん」
注意しようとした李和を輝耶が制して、剣至に優しく微笑みかける。
「恐らく、醜鬼化した人たちは善人で多少いざこざはあったものの和解して、その人たちを助けることになった……ってところかしら?」
「……相変わらず凄いですね。殆ど当たりですよ」
輝耶の的確な指摘に剣至は驚き呆れてしまう。
産屋敷の人間が持つ桃由来の能力ではない異能はその神がかり的な勘の鋭さだ。
その勘のおかげで鬼殺隊はいくつもの危機を乗り越えてきた。
「それで何故嘘をついたのかしら?」
「……あの場で醜鬼化した人たちを逃したなんて言ったら十灼と藤川さんが何をするか分かるでしょう?」
「それもそうね」
輝耶は苦笑いしながら答えた。
「今は魔都で匿っているのかしら?」
「はい。七番組、六番組と協力しています」
「なるほど………わかりました。この話はここにいる3人だけにしておきましょう。他の皆には時期をみて話すとするわ」
その後、解散となり剣至は李和に屋敷の出口まで見送られていた。
「輝耶様の調子はどうですか?」
「最近はリハビリの調子が良くてな。もう少しすれば車椅子無しでも歩けると医者から言われた」
「それは良かった。それならこの窮屈な生活も変わりそうですね」
「歩けるからといって変わるかは分からないがな」
2人は他愛もない話をしていると李和が真剣な表情になって話かける。
「魔防隊との件だが暫くは他の者が連携するときは武藤もついていってくれ。東や藤川さんだと何が起こるか分からない」
「……ですよね。了解です」
協調性が著しく低い2人のことを考えて剣至は少し嫌そうな表情をしてしまう。
するとさっきまで会議をしていた中庭から騒がしい音と怒声が聞こえてきて、2人は顔を見合わせて声がする方に向かった。
「いい加減にしろよ!!東!!」
「……」
左慈が額に青筋を浮かべて十灼に詰め寄っていた。
詰め寄られてる当の本人である十灼は涼しい顔で左慈を見返していた。
「お前はお館様に対して敬意がなさ過ぎる!それでも柱か?」
「柱は産屋敷一族に媚びへつらう存在じゃない。鬼を滅する隊士を率いて人々を守る存在だ」
「その隊士を率いて人を守るのに統率が必要だ。そのためにお館様をトップにして今の鬼殺隊があるんだろうが」
「……意見の相違だな」
十灼は話は以上だ、と言わんばかりに左慈の横を通り過ぎて帰ろうとするとその態度についに堪忍袋の尾が切れた左慈が腕を振るった。
腕を覆い隠すほどの袖から5本の刃が飛び出す。
左慈の腕は生身の腕ではなく機械の腕になっており、その手甲の指部分は刀身が緑色の刀になっていた。
その指先を十灼に向けて睨む。
「止まれ。ここで叩き直してやる」
「……やるか?」
十灼も腰に差してある黒刀を鞘から抜こうとすると剣至と李和が間に入って2人を止めた。
「ストップ!ストップ!2人とも落ち着いて!」
「左慈さん、ここはお館様の屋敷です。暴れるのはまずい」
それでも2人は止まる気がないのか殺気が高まっていく。
「お前らも止めるの手伝えよ!?」
「触らぬ神に祟りなし」
「えっ!?ぃ、いやぁ〜……」
剣至はそう言うがヴァルは十字をきって、隆治は目を逸らした。
このままじゃ本当に戦いになると思い、剣至は十灼を引っ張って連れ出した。
「おい!武藤!東をどこに連れて行く!?」
「俺がちゃんと言い聞かせておきます!俺たちはこれで失礼するので!それでは!!」
「おいゴラァッ!!待てぇッ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
李和が腕を振って襲い掛かろうとしてくる左慈を止めて、怒号が響くが剣至たちは産屋敷邸を去って行った。
○
剣至たちは隠に連れられて産屋敷邸から離れた街中で解放された。
「ふぅ……相変わらず場所が分からなくなるな。隠部隊にも能力者がいるのは聞いているがここまで場所が分からなくなるのはすごい能力だ。……で、これからどうする?飯でも行くか?」
「鬼を滅しにいく」
そう言うと十灼はスタスタと剣至から離れていくがそれを慌てて追う。
「ちょっ……!待てよ!お前最近追い込みすぎだぞ。お前の部下から聞いたよ。休んでいるところを見ていないって」
「休んでいる時に休んでいる。問題ない」
「……そうか?余裕がないように見えるけどな。お館様の屋敷でもそう見えた」
その言葉に十灼は立ち止まっ人が行き交う方を見る。
「剣至、お前はこの光景を見てどう思う」
十灼が見る方向には家族が買い物をしており、学校終わりの学生たちが談笑しており、仕事終わりの人が居酒屋に入ろうとしている、いわゆるありふれた日常があった。
「年間で鬼に襲われている人の数は千人を超える。俺たちが気づけていない人がいるかもしれない。人々の命が突然失われているんだ。そう考えるだけで怒りが収まらない」
その言葉に剣至も同意見であった。
魔都災害も含めると犠牲者の数は更に増える。
日本全国に鬼殺隊隊士は存在しているがそれでも全ての場所に目は行き届かないし、鬼殺隊は事が起こってからしか対応ができない。
基本、剣至は魔都に駐留しているがしばしば現世に応援として赴いた時には被害にあった人達を見て、手に血が滲むほど悔しく思う。
「そんなの俺も同じだ」
「だったら分かるだろう?俺たちは休んでいる暇なんてない」
真剣な目で話す十灼に対して、剣至は心配そうな目で見る。
「だけど俺はお前も心配だよ。いつか折れるんじゃないか……って。八千穂や風舞希さんもそう思ってるよ」
2人の名前を聞いた瞬間、十灼は少し気まずそうに目を逸らした。
「……少しは自重する」
「よし!じゃあ飯に行こう!何食べたい?」
「蕎麦だ」