現世に着いた剣至と木乃美は最初に行方不明者が消えた現場周辺を順番に訪れた。
「ここで最後か」
「はい。周りにあるカメラも全部確認したんですがここら一帯が田舎なのでカメラも少なく行方不明者の姿が入っているものはありませんでした」
辺りは田舎で山や畑、田んぼしかなく建物や街灯も少ない。
夕方や夜になれば暗くなって周りが見えなくなってしまうだろう。
「争った形跡もないから一瞬で攫われた可能性があり、か。確かに何もないな。次は鬼殺隊隊士が消えた場所に行こう」
「はい!」
次に向かった場所は鬼殺隊隊士が消えた場所近辺に向かった。
その途中の街路樹を見た剣至はあることに気づき立ち止まる。
「どうしました?」
「ここ見てくれ刀傷だ」
そこには言われた通り一筋の刀傷があった。
「ここらで戦ったのか」
「ここら辺を調べますか?」
「そうだな」
2人は辺りをくまなく調べていくと茂みの中で日が当たらないところに古い血痕を見つけ、それを採取して隠に渡し、検査に出した。
「あれで何か分かるといいんですけどね」
「隊士のものかもしれないし、鬼または醜鬼のものかもしれない。それに古い物だったからあまり期待できないかもな」
2人は次に一番組組員の行方が消えた場所に向かった。
「ここで組員の反応が消えました」
「確か魔防隊は出動した際には居場所が分かるようにしているんだよな?」
「はい。魔都で行方が分からなくなっても捜索できるように出動した際には例外なく居場所が分かるようになっているんです。それなのにここで突然その反応がなくなってしまって……」
木乃美は少し悲しそうな顔をして俯き、それに気づいた剣至が質問する。
「行方不明になった人とは親しかった?」
「……私が入隊した時からお世話になっていた人でとても良くしてくれました」
木乃美のやるせない気持ちが分かり剣至は向き合うと労るように声をかける。
「まだどうなったか分からない。他に何かないかよく探そう」
「はい!」
その後も2人は辺りを捜索したが結局何も見つからなかった。
「…….ここは空振りか」
「……そうですね」
さっきとは違い、何も得られず少し落ち込む木乃美に剣至は元気つけるように話す。
「もう暗くなる。次は夜間の警邏だ。その前に何か食べて行こう。何か食べたいものとかあるか?」
「え?でも調査と警邏を優先した方がいいんじゃ……」
「腹が減ってたら集中も続かないし気が滅入る。しっかり食べよう」
剣至の気遣いに気づいた木乃美は胸の奥が暖かくなり、笑顔になって応える。
「じゃあラーメンが良いです!」
「よっしゃ。ここら辺で美味いラーメン屋とかあるかな?」
○
その日の夜に2人は別々で警邏に出たが特に怪しいことは起こらず、朝になってしまった。
木乃美は夜遅くまで警邏していたためかいつもより若干眠い目を擦りながら、居間に行くと既に起きていた剣至がコーヒーを飲みながら調査資料を見ていた。
「おはよう。よく眠れたか?」
「おはようございます!はい、よく眠れました。それとすいません。昨日は武藤さんは徹夜で警邏してくれたのに私だけ先に休んでしまって……」
「いいって。多々良さんは魔防隊であるけど高校生なんだ。学生生活も大切にしないと」
昨夜は日付が変わる頃に次の日に学校がある木乃美は帰らせて、代わりの鬼殺隊隊士が警邏に加わった。
「おはようございます。どうぞ温かいお茶です……」
「あ、おはようございます!お茶、ありがとうございます」
すると木乃美の背後から老婆がすぐそばに湯呑みを置いていった。
「ここって鬼殺隊に協力してくれる民宿なんですよね?」
「ああ、『藤の家』って言ってな。民間の人たちが鬼殺隊に協力してくれてこうやって拠点として使わせてくれてるんだ」
藤の家は鬼殺隊に救われた人たちが無償で拠点として使わせてくれているのだ。
「よし、じゃあ早速始めるか。鍛錬、少しの間だけでもやるんだろ?」
「はい!お願いします!」
2人は併設されている道場に移動して、約束通りの鍛錬を始めた。
内容は実戦形式で能力と刀は使わず、肉弾戦のみで行なう。
「ほらほら!また攻撃がワンパターンになってきたぞ!臨機応変に対応しろ!」
「っ!はい!!」
剣至は指導をしながら木乃美の攻撃を受け止める。
木乃美は自身のオリジナルである拳法で様々な型で攻めていくが剣至はそれを全て見切ってしまう。
そして木乃美の攻撃を見切って、襟元を掴もうとするとそれに気づいた木乃美が避けようと体を逸らすと、偶然木乃美の胸を鷲掴んでしまった。
「あっ」
「ひゃあっ!?」
木乃美は突然のことに驚き、顔を赤くして胸を両腕で隠す。
鷲掴んでしまった当の本人は物凄く申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にすいませんでした!」
「い、いえ……私の避け方が悪かったのありますから」
「それでも年頃の女の子の胸を揉んでしまったのは不味い……天花にバレたら何を言われるか……」
剣至の一言に木乃美はふと疑問に思った。
「天花……出雲組長のことですか?なんで出雲組長が?」
「あー……そうか。あんまり他の組とは交流がないのか。別に隠すことでもないから教えておくと俺と天花は付き合っているんだ」
「えぇっ!?そうなんですか!?」
木乃美は今年から高校生になったばかりで更に魔防隊の仕事も忙しく、友人たちとの関係は良好だが、そういう色恋沙汰は周りの男子たちが魔防隊の副組長という色眼鏡で見てしまい、あまり無かった。
そのため木乃美は剣至と天花の関係を聞いて天花が剣至を送った後の様子を見て、あれは恋人にしていた仕草なのだと分かり初心な木乃美は顔を少し赤くする。
「そ、そうなんですね……流石、大人です」
「まぁ、そんな大それたことではないし。改めて本当に申し訳ない」
剣至が再び謝り、木乃美は許してくれた。
その後木乃美は学校に行き、剣至は調査に出掛けた。
剣至は昨日訪れた魔防隊組員が消えた現場に再度訪れて、そこから少し離れた人がいない場所まで移動し調査を始めた。
「やっぱりあったか」
ようやく見つけた痕跡だったがその顔は複雑そうだった。
「多々良さんに何て言えばいいやら……」
その手には古い血で黒く変色した魔防隊制服の一部が握られていた。
その後、学校が終わりいなかった間の進展を聞いて、木乃美はショックを受けていた。
「そんな……」
「まだ検査結果が出ていないから誰のかは分からないけど、覚悟はしておいた方がいい」
木乃美自身も覚悟していたつもりだが、いざ実際に突きつけられると悲しみに打ちのめされてしまう。
その後も夜間の警邏をすることになり、2人は別れたが木乃美が浮かない表情をしていることが気に掛かっていた剣至は予定を変えて木乃美の巡回ルートに来ていた。
「確かここら辺に……いた」
暫く探すと河原で座り込む木乃美の姿を見つけた。
剣至は何も言わずにその隣に座ると木乃美は一瞬驚くがすぐ川の方を見つめる。
「落ち込んでいるのか?」
「……はい。同じ組の人が殉職するなんて初めてなんです……魔防隊は危険な仕事だと分かってはいますけど……こうも突然なんですね」
魔防隊でももちろん死傷者が出るがその数はほんの極少数だ。
通常の醜鬼が殆どで強力な特殊醜鬼は極稀にしか現れない。
そのために木乃美は周りの親しい人間が死んでしまうという事態が初めてだった。
「酷なことを言うぞ。死んでしまった者は仕方がない。死んだら何もできない。人の命なんて思った以上に儚いもんだ」
剣至の言葉に木乃美は目を伏せる。
「だけどな。生きている俺たちは別だ。生きている俺たちは死んでしまった人たちの意思を引き継げる」
剣至は月で照らされた河を真っ直ぐに見つめる。
「俺と同期に入隊した奴らは殆ど死んだよ。残っているのは2、3人だ。俺の目の前で、俺の腕の中で死んだ人たちもいる。まだ生きたかったはずだ。やり残したことがあるはずだ」
剣至は過去に命を落とした仲間たちを思い出す。
戦いの中で散っていった仲間たちの最期を見た。
その度に剣至は強く思った。
「俺はその度に思うんだ。死んでいった人たちの意思は俺が受け継ぐ、と」
「意思を……受け継ぐ……」
「鬼殺隊に入隊する人間の多くは大切な人を鬼に殺されている。大切な人を鬼に殺されて復讐するために戦う、これ以上悲しい思いをする人を出さないために戦う、次の世代が平穏な生活を送れるために戦う、結局のところ皆んな人のために戦っている。俺はその意思を引き継ぐ」
共に戦った仲間たちは皆んな必死だった。
仇である鬼を滅するため、大切な人たちを守るため、未来を護るために刀を振るっていた。
その道半ばで倒れていった者たちは全員が悔しそうだった。
剣至は彼らを見送るたびにその意思を、思いを胸に刻んでまた刀を振るう。
「それが生きている俺ができることだと思ってる」
「………」
剣至の話を聞いて、木乃美は自分の胸の中で繰り返し、いなくなってしまった先輩のことを思い出していた。
先輩に教わったこと、説かれた心構えを思い出し胸に刻む。
「………ありがとうございます。……先輩の意思を私は引き継ぎます」
木乃美はその目に決意を新たに入れ直し、前を向く。
その顔を見て、剣至はもう大丈夫だと思い安心する。
その時、鬼殺隊から配布されているスマホに着信が入り、電話に出る。
「どうした?……そうか!他の地区を見回っていた隊士から醜鬼の反応が出たと報告があった!今はその隊士が対応しているらしい」
「すぐに向かいましょう!」
2人はその場から風のように走り出して現場に向かった。