返事は下手に書くとネタバレしそうになるので最低限のことだけさせてもらっていますが、読む度にモチベーションが上がります。
ありがとうございます。
紫黒たちを逃してしまった剣至だが、すぐに切り替えて何か手がかりがないか探す。
「あいつらの術の痕跡か、何かっ……がっ!?」
突然言葉が詰まり、その場に蹲って心臓あたりの服を握りしめて苦しみだす。
「がっ…!は、ぁっ…がぁっ!?」
仰向けになり曇天の空を見上げるが剣至の視界は徐々に赤く染まっていった。
目の瞳孔部分だけが綺麗な緋色だったが、全体が血が滲むように赤く染まっていく。
それと同時に心臓を鷲掴みされたかのようのような痛みが大きくなっていき、それと同時に心臓から熱された鉄が液体となって広がっていく感覚が走る。
(ま、まずい…!何分鬼になっていた?限界が……!)
剣至は苦痛で朦朧とする意識の中で手を振るわせながら懐に手を伸ばす。
「うがぁあっ……!?」
しかし、更に強い苦痛に襲われて動かせない。
(このままじゃ……!)
「剣至!無事かい!?」
「武藤さん!」
その時、りうと治療を終えた木乃美が到着した。
苦しむ剣至を見て、側に駆け寄ると剣至の様子を見て木乃美は戸惑う。
「武藤さん!どうしたんですか!?敵に何かされたんですか!?」
「これは……」
戸惑う木乃美だが、りうは心当たりがあるのか眉間に皺を寄せる。
すると薄れる意識の中で剣至は必死に何かを伝えようとする。
「む、胸ポケットに…!薬が…」
「胸ポケット?」
剣至の胸ポケットには筒状の膨らみがあり、それに気づいた木乃美が手を伸ばそうとすると剣至が爪が鋭くなった手を木乃美に振りかぶって襲おうとする。
「剣至やめな!」
鬼の形相に変貌した剣至を見逃さなかったりうは手足を拘束して地面に押さえつける。
「ガアァァッ!!」
「木乃美!今のうちに薬を首元に打ち込んだ!」
「は、はい!」
剣至の豹変に戸惑う木乃美だが必死に押さえつけるりうに従って、剣至から簡単に打ち込める注射型の薬を取り出して首元に押し込んで中身の薬を注入した。
薬を打ち込むと剣至らすぐに暴れるのをやめた。
「ハッ…ハッ…ハッ…りうさん……ハッ…迷惑、かけてすいません」
「まったく……世話のかかる弟子だよ」
意識が正常に戻った剣至は息を整えながらりうに謝罪した。
「多々良さんも……ありがとう」
「い、いえ……」
木乃美は剣至の変貌にいまだに戸惑っており事情を知っていそうなりうに質問する。
「師範、さっきの武藤さんの様子は……」
「木乃美、このことは誰にも言うんじゃないよ。絶対にだ」
有無を言わさないりうの様子に木乃美は首を縦に振ることしかできなかった。
○
紫黒は刀が振り下ろされた瞬間、背後にいた白旺に肩を引かれて共に門をくぐって、剣至から逃げることができた。
八雷神の拠点に着いた紫黒だがどこか上の空で斬られた黒蛇を手で持って眺めていた。
(あの目……)
紫黒は逃げる瞬間の迫ってくる剣至を思い出した。
鬼気迫る表情で刀を振り下ろすときの目は獰猛で殺意に溢れており、紫黒はそれを思い出すと体が僅かに震え出す。
「戻ったか。……紫黒?」
迎えにきた壤竜があそこまで追い詰められて恐怖で震えているのかと思い、紫黒を心配して顔を覗き込むとその表情は恍惚としていた。
「最高だったなァ♡」
「………」
あの時、剣至の眼光に背筋がゾクゾクとした感覚が走った。
紫黒は人間の中で一際強い情動もっていた剣至に強い興味を持っており、今回の剣至を見て更に興味がそそられた。
「いいなぁ♡やっぱり欲しいなぁ♡」
トリップしている紫黒を無視して同じく戻ってきた白旺に話しかける。
「ふぅ……白旺、大丈夫か?」
「問題ない。傷ももう癒えた」
立ち上がって乱れた服装を整えているとセンソウが現れる。
「白旺、戻ったか」
「師匠!申し訳ありません。あの鬼が情報を漏らして、その目撃者である柱も始末できませんでした」
白旺はすぐさまセンソウに頭を下げて謝る。
自分の不始末に申し訳ないようだった。
「いや、お前が無事でよかった。しかし、お前をそこまで苦戦させる柱とはな……今の柱は中々手強いようだ」
しかし、センソウは特に問い詰めようとはせずに白旺を労り、彼女を退けた柱に少し感心していた。
「……普通の柱には負けません。それにあの柱にも血鬼術を使えば勝ちます」
剣至のことを思い出して白旺は悔しそうに呟き、センソウは負けず嫌いの弟子に仮面の下で苦笑いを浮かべる。
しかし、白旺の言葉が気にかかった。
「普通の?その柱は何か違ったのか?」
「はい、あの柱は途中から鬼に変身していました」
「………」
その一言にセンソウは黙って神妙な雰囲気になる。
「師匠?」
様子がおかしいことに気づいた白旺が声をかけるとセンソウはいつもの様子で話し出す。
「まだ傷も癒えていないだろう。汚れを落として休むんだ」
そう言ってセンソウはその場から離れて奥へと姿を消した。
言われた通り剣至に斬られた傷はいまだに完治しておらず、最初よりはマシになっているが火傷のような痛みがまだ残っている。
白旺は斬られた箇所を忌々しく見て、仮面を外す。
尊敬している師匠の期待に答えられず、不甲斐ない自分とそれを邪魔した剣至に怒りが募る。
「武藤 剣至……次は必ず殺す」
雪を彷彿させる色白の肌で美しい顔が怒りで歪んでいた。
○
霧の鬼の事件、白旺の襲来から数日が経ち、剣至は一番組の魔都にある寮で作業をしていた。
傷は全て治っているが少し顔色が悪いように見える。
客用の部屋で書類を作成しているとドアがノックされる。
「はい?」
「多々良です。お茶を持ってきました」
「入ってくれ。お茶ありがとう」
木乃美がお茶を持って入ってきて剣至に渡す。
ふと作業をしていたパソコンとその隣にある大量の書類を見て、申し訳なく思う。
「すいません。私の分の書類も書いて貰って」
「いいって。現世で起きた鬼と醜鬼に関して起きた事件は魔防隊と鬼殺隊だけじゃなくて国と公安にも送らないといけないし、やり慣れている俺が書いた方がいい。変なこと書くと公安の奴らがしつこく迫ってくるからな」
申し訳なさそうにする木乃美に気にするな、と言いながら剣至は少し背伸びして体を解す。
そこで木乃美は少し疑問に思ったことを質問する。
「公安にも送るんですか?」
「そうだな。りうさんから教えて貰ってないか?」
「す、すいません。勉強不足で」
「いや、ここらへんのことは組長になってからのことだから知らないのは仕方ない。ざっくり説明するけど今の日本で魔都に関して守っているのは大きく分けて3つの組織だ。魔都での脅威を排除、管理と桃の管理を担う魔防隊。現世での醜鬼、鬼からの人を守る鬼殺隊。そして外国の脅威から人を守る公安。この3つだな」
剣至が報告書を作成しながら説明すると更に疑問が増えた。
「外国から?魔都には時々外国の諜報員が侵入して桃の強奪があるって報告書には書いてありますけど、現世でもそんなことが?」
「うーん、まぁそんなところだな。多々良さんはさ。今の世の中、何が一番価値があると思う?」
「え、えーっとあんまりニュースとか見ないんですけど……やっぱり石油とかですかね?」
少し苦笑いしながら答える木乃美に剣至は目を合わせずに言う。
「人だ。いや、能力者か」
「え?」
「桃を食べて能力を持った人間はどの国も狙っている。特に高位の能力者はな。桃は日本が厳しく管理しているから外国に出回る数も限られている。なら、今いる能力者を狙った方が早い。外国には能力者を専門に狩る部隊もあるって噂だし。魔防隊は魔都、俺たち鬼殺隊は醜鬼と鬼でそこまで手が回らない。それで公安が外国の脅威から人を守っているんだ。……現世で起きた鬼や醜鬼の事件は国と公安にも知らせないといけない決まりだから毎回書く量が多くて大変だよ」
「そうなんですね。勉強になります」
雑談はそこで終わったが木乃美は帰ろうとせずに剣至に声をかけた。
「あの、何か手伝えることありますか?報告書を全部やってもらって申し訳なくて」
「じゃあそこの資料をまとめて貰っていいか?」
「はい!」
木乃美はテーブルに広がった資料の片付けを始めた。
暫く2人は作業をしていたが木乃美が時々、剣至に一瞬視線を向けるがすぐに戻してしまう。
それに気付いていた剣至はもう一度話しかける。
「まだ聞きたいことがあるみたいだな」
「えっ!?いや、その……」
「俺のあの時の状態についてだろ?」
「……はい」
木乃美は言いにくそうにしながらも返事をする。
剣至はパソコンを閉じて立ち上がる。
「ちょうど終わったし、お茶を飲みながら話そう。多々良さんにも知らせないといけないしな」
木乃美にもお茶を出して、テーブルを挟んで向かい合う。
「少し長くなるから」
「ありがとうございます」
剣至はお茶を一口飲んで一息つく。
「俺が鬼に変身できる理由を話すには俺の昔話をしないといけないんだ。俺が鬼殺隊に入った理由も」
剣至は少し悲しそうな表情で自分の過去を話し始めた。