荒れ果てた大地で幼い剣至が傷だらけの状態で地面に倒れていた。
傷のせいで動くことができないが必死に手を伸ばす。
その先には剣至より幼い少女が倒れていた。
「かおる……!おきろ!おきてにげろ……!」
剣至が呼びかけるが少女は気絶しているようで動かない。
もがく剣至と少女の下に近づく人物がいた。
その人物は少女に近づき、足で蹴って仰向けにすると自らの血で濡れた手を少女に向かって振り下ろして心臓に突き刺した。
「やめろ……!やめろぉぉぉ!!」
○
「……はっ!」
六番組の天花の自室に泊まった剣至は冷や汗をかきながら目を覚ました。剣至は汗を拭いながら隣に腕に抱きついている眠る天花を起こさないようにベッドから起き上がる。
ソファに座り込み、目を抑えながら疲れた表情をする。
「また眠れなかった?」
白シャツだけを着て前を大きく開けた扇情的な天花が起きてきて剣至の隣に座ると肩に頭を乗せて体を預けてくる。
「大丈夫?今日はキョウちんのところ行くのやめておく?」
「……いや、大丈夫だ。眠れてない訳じゃない。ただ…‥眠りが浅いだけだ」
そう言って背伸びをすると頭を預けていた天花は頭をどけて、首に腕を回すと顔を近づけてくる。
「最近は無くなってきたと思ったのに……やっぱり七番組に人型が現れたって聞いたから?」
「……どうだろうな」
少し目を伏せながら言う剣至の表情を見た天花は更に顔を近づけてキスをしてくる。
「んっ…ちゅっ…ちゅぅ…♡」
「……いきなりどうしたんだ?」
「ケンくんが辛そうだったから、慰めてあげようと思ってね」
そう言いながらキスを続け、剣至はそれを甘んじて受け入れる。
だんだんと熱が籠ってくるキスをする天花の体に腕を回して上下を入れ替える。
「ケンくん……?」
「その気にさせたのは天花なんだからな?責任取れよ」
「うん♡」
目をとろんと蕩けさせた天花と再びキスをしようと顔を近づけると扉をノックする音が聞こえて2人の動きが止まる。
「ここまでだな」
「むー……」
天花は頬を膨らませて不満気な顔をするが仕方ないと思い、身支度を整える。
「入っていいよ」
「失礼するのじゃ……って何で武藤がここにいるんじゃ!?」
入ってきていきなり叫び出したのはツインテールが特徴の六番組副組長 東 八千穂である。
「何でって、自分とこの組長が俺を連れてきたんだよ」
「組長!ここは魔都を管理する魔防隊六番組の組寮じゃ!何で連れてきてるんじゃ!?」
制服に着替えた天花が何とも思っていないように返事をする。
「ケンくんが鬼殺隊で唯一の魔都担当だからなのと魔防隊との交渉役だからね。それと……」
剣至の担当と役割を説明されて納得しかける八千穂だが天花が更に付け加える。
「ケンくんが私の恋人で一緒に過ごしたかったからかな♪」
「思いっきり私情ではないか!」
ツッコむ八千穂を尻目に剣至と天花は身支度を整え、仕事に向かおうとすると部屋を出る際に天花が剣至の耳元で呟いた。
「続きは夜にね♡」
そう言って仕事に向かう天花とそれが聞こえていたのか八千穂は剣至を睨みながら続いて出た。
剣至は少し疲れたようにため息を吐いて部屋を出た。
○
仕事を終え、私服に着替えた天花と八千穂はリビングで寛ぎながら剣至を待っていた。
これから七番組に向かうために準備をしていたのだ。
準備を終えた2人は剣至が来るのを待っていた。
「遅いのー。何をしてるんじゃ?」
「国から人型醜鬼について知らせがあったからね。鬼殺隊も色々と動いているんじゃないかな?」
そう話していると剣至がスマホを片手にやって来た。
「悪い、少し他の柱と話してた。待たせたな」
「ううん、待ってないよ。待つのもケンくんだと思うと不思議と愛おしく思えるんだ」
「……」
そう愛おしそうに言う天花とまた惚れ気を見せる上司に八千穂はジト目になる。
ふと八千穂は剣至の格好に気がついた。
「何じゃ?武藤は隊服で行くのか?」
剣至の格好は天花たちの私服と違って隊服と羽織を着て、腰には日輪刀を携えていた。
「あぁ、必要になるかもしれないしな」
剣至の言葉に首を傾げる天花と八千穂だが特に深掘りせず、立ち上がる。
「じゃあ行こうか?」
○
天花がワープゲートを七番組に繋げて、そこを通ると目の前にはタオルで腰を隠した男性と女性が立っていた。
突然現れた剣至たちに驚いた表情を見せる。
「こんにちは。七番組は元気だね」
特に気にせず、挨拶をする天花に男性、和倉 優希は拳を構えて警戒する。
「侵入者か!?」
「魔防隊六番組よ!」
同じくタオルで体を隠していた八千穂の妹、東 日万凛が優希を落ち着かせる。
「六番組組長の出雲 天花」
「副組長の東 八千穂じゃ」
すると優希は2人の後ろで控えていた剣至に目を向け、それに気づき自己紹介をする。
「鬼殺隊の紅柱、武藤 剣至だ」
「きさつ……?」
鬼殺隊のことを知らないのか不思議そうにする優希と日万凛に続けて話し出す。
「取り敢えず日万凛ちゃんと君は服を着なさい。それと京香を呼んでくれるか?」
「はい!」
2人は自分の格好に気づき、恥ずかしそうにその場から離れた。
その2人を尻目に天花が話しかけてくる。
「彼が噂の奴隷くんか」
「どこからどう見ても普通の青年だったけどな。あれが京香の能力に関係があるなんて信じられん」
「………何で日万凛とあの男は裸だったんじゃ?」
「さあな?そういう関係なんじゃないか?」
「なっ!?」
剣至の言葉に八千穂は酷く驚いた表情になる。
○
七番組の居間に集まり、七番組組長 羽前 京香がソファに座りその対面天花と剣至が座った。
それぞれの副組長と組員はそれぞれの組長の後ろに控えていたが八千穂は少し優希を睨んでいた。
「うん、奴隷くんは美味しいコーヒーをいれてくれるね。ね、ケンくん」
「すまん、砂糖とミルクあるか?結構多めで頼む」
「相変わらず甘党だな剣至………それで本題は何だ?世間話をしにきた訳ではないだろう?」
京香が質問すると天花は本題を話だした。
人型醜鬼の登場により魔防隊の組ごとでバラバラに動くのではなく、組同士で連携を深めるようにと国から連絡があった。
更に人型醜鬼は七番組を襲った1体だけでなく複数いるらしい。
そのことを話していると八千穂が人型醜鬼に負けた日万凛を執拗に煽り出したのだ。
悔しさで八千穂を睨む日万凛を見て、京香が組員同士の実力を把握するためと建前にし日万凛にリベンジの機会を与えるために魔都交流戦にしないかと提案してきた。
それを快く天花は受け入れ、天花の話は終わる。
「私の話はこれで終わり。次はケンくんからね」
「そうだな。この話をするだけなら鬼殺隊の剣至が来る必要はない。何のようだ?」
京香が質問すると剣至が話し出す前に優希が我慢できずに手を上げた。
「あ、あの鬼殺隊って何ですか?」
その質問に全員が優希を見る。
「そうか優希には話していなかったな。鬼殺隊は魔防隊と違い、国から作られた組織ではないし知らないのは無理はない」
「和倉くんだよな?ざっくり言うと鬼殺隊ってのは魔防隊と同じ人々を守る組織だ。管轄が魔都と現世といった違いあるけどな。」
「現世?確かに醜鬼も現世に現れる事あるけど、それも魔防隊が阻止してくれるはずじゃ……」
疑問に思う優希に剣至が付け加える。
「俺たち鬼殺隊が相手してるのは醜鬼だけじゃない。敵は『鬼』だ」
「鬼って醜鬼のことでは?」
「違う。日本には醜鬼以外の鬼がいる『人喰い鬼』がな」
日本には世間一般に知られていないが魔都災害にも脅威がある。
それは人を喰らう鬼だ。
見た目は醜鬼のように化け物ではなく人に近い外見をしている。
そして最も違う特徴が知恵を持っており、世間の影に隠れて人を襲っている。
その脅威から人々を守るのが鬼殺隊だ。
彼らは現世を中心に活動し、日々鬼を狩っている。
「そんな組織が……でも何で世間には知られていないんですか?」
「魔防隊のように広く報せていないのもあるが鬼殺隊が相手をしているのは狡猾な鬼だ。もし広く知られれば人々は疑心暗鬼に陥ってパニックになる可能性がある。だから鬼殺隊は表舞台にはあまり立たない」
京香の説明に優希は納得した。
「それで剣至。用とは何だ?」
「人型醜鬼について聞きたい。実際に戦った京香たちから直接聞きたいんだ」
剣至は京香から戦闘になった人型醜鬼について聞き出した。
容姿、性格、戦い方、京香たちが知る全てのことを聞く。
そして京香の仇である一本角の醜鬼について聞くと京香は拳を強く握り締め、眉間に皺が寄る。
誰が見ても分かるくらいに怒気が京香から溢れる。
それを見た剣至と天花は目を細める。
「ふぅ……こんなものだ。私が戦って感じたのは」
「そうか」
話が終わって天花と剣至は立ち上がる。
「帰るのか?では次に会うのは魔都交流戦でだな」
京香はそう締めくくるが剣至は否定した。
「いや、久しぶりに稽古付けてやるよ。外に出るぞ、京香は着替えてこい」
「は?」
突然のことに呆けてしまう京香たちだが剣至は立ち上がって外に向かおうとする。
「京香、なに呆けているんだ。さっさと準備しろ」
「あ、ああ!」
有無を言わせない雰囲気に京香は珍しく慌てた様子で準備を始める。
その光景に七番組の面々は目を見開いて驚いていた。
部屋を出ていく剣至の後を追いかける天花と八千穂は話し出す。
「組長、武藤は何を考えているんじゃ?」
「ケンくんはお節介をやこうとしているんだよ。ほんと優しいね」
そう言う天花はどこか嬉しそうだった。
組寮の前に集まった京香たちの前には木刀を2本持った剣至とそれを見守る天花たちが待っていた。
剣至は木刀を投げて京香の前に突き刺す。
「来たか。木刀を取れ」
「待て剣至。稽古するのは構わないが何故急に……」
まだ戸惑っている京香だが剣至は何も言わず、いきなり京香に木刀を振り下ろした。
突然の攻撃に驚きながらも木刀で防ぐが剣至の一撃が重く片膝をついてしまう。
「ぐっ!?」
「どうした?軽く振るっただけだぞ」
剣至は更に木刀を振るって連撃を繰り出す。
京香も反撃しようとするが剣至はそれが分かっているかのように攻撃させない。
「京香さんが防ぐことしかできないなんて……!」
初めて剣至と京香の戦いを見る優希はいつも醜鬼相手に圧倒する京香だが今は防戦一方だった。
「あれが鬼殺隊最強の1人、武藤 剣至さん。その剣は組長以上よ」
「ぐっ!俺も奴隷として参加すれば……!」
優希は悔しそうに追い詰められる京香と更に攻撃が苛烈になる剣至を見て呟く。
「参加しても変わらないと思うわ。それ程までにあの人は強いのよ」
日万凛の言葉に優希は言葉を飲むことしかできなかった。
防ぐことしかできない現状を打破しようと一度大きく飛び退いて木刀を構える。
「いくぞ……!」
京香は大きく息を吸って踏み込むと一気に近づいて木刀を振るった。
しかし、剣至はそれも分かっており体を僅かに動かしてかわすと京香の木刀を弾き飛ばして首元に木刀を添えた。
「雑念が多すぎる。剣筋がブレブレだ」
木刀をはなして京香から弾いて木刀を拾いにいく。
京香は人型醜鬼の襲撃と同じで何も出来なかった悔しさで俯いて、唇を噛み締めていた。
「お前は相変わらず熱くなりすぎだ。怒りは力をくれるが飲まれるなよ。煉獄師匠が言ってたろ、『心を燃やせ』って。もう一度よく考えろ」
木刀を渡してまた京香から離れる。
京香は剣至から言われたことを噛み締めて、心を落ち着ける。
(確かに今の私は仲間がやられたことで心だけでなく全身に怒りが満ちて力が暴走していた。……剣至には感謝しなければな)
京香は木刀を正面に構えて深呼吸をする。
(心を燃やせ……)
かつて師匠に言われた言葉を思い出し、心に炎を灯す。
そして人型醜鬼に襲撃され倒された仲間と醜鬼たちの襲撃に遭い自分以外が死んでしまった惨劇を思い出す。
心の炎が全身に駆け巡り、力を与える。
「屈服の時間だ!」
その言葉と共に京香は剣至との距離を一気に詰める。
迫り来る京香に剣至は僅かに笑みを浮かべた。
剣至に近づくにつれて京香は深く独特な音の呼吸する。
「京香さんの呼吸が……桜が舞い散るような音が……」
優希がそう呟くと京香の木刀から桜の花弁が舞い散るようなイメージが現れる。
「桜の呼吸、壱の型
それに対して剣至も血の呼吸を繰り出す。
「血の呼吸、弍の型 昇る血飛沫」
京香の振り下ろされた一撃と剣至の振り上げられた一撃が衝突し、木刀は粉々に砕け散った。
「……漸く呼吸を使ったか。お前は頭に血が上ると呼吸を忘れて技が荒くなる」
「済まない…頭が冷えた」
そう言って京香は頭を下げるが剣至はその頭を乱暴に撫でる。
「全く世話がかかる妹弟子だよ、お前は。……同じ師匠の下で育ったんだ。時々は兄弟子の俺や
その言葉に京香は少し恥ずかしそうにしながらも微笑みを浮かべていた。
普段見せない京香の様子に優希たちは驚きを隠さずにいた。
その様子を見ていたのは天花たちも同じだった。
「ふむ、あの凛々しいと噂の羽前組長も武藤の前ではあんな様子を見せるとはなぁ。組長、あの2人はどんな関係なんじゃ?……組長?」
返事をしない天花を見ると妬ましそうに2人を見ていた。
「京ちん、あんな顔をして……いいなぁ、ケンくんにあんな風に撫でられて……妹プレイもありかな?」
「はぁ……」
いつもは理路整然としている天花が色ボケ脳を発動させてしまい、八千穂はため息を吐いた。
用語集
・鬼殺隊
古くは平安時代から作られた人喰い鬼から人々を守るために鬼を狩る組織。
人喰い鬼の首領、鬼舞辻無惨は大正時代に多くの犠牲の元に討伐され、鬼殺隊は悲願を達成して解散した。
しかし、新たな鬼の首領『月ノ皇』が現れたことで再度結成された。
・柱
鬼殺隊を支える最強の10人で日本各地を守っている。
本来は9人が柱の上限だが、魔都を管轄、魔防隊との連絡係として10人目の柱が作られた。
・血の呼吸
紅柱(あかはしら)、武藤 剣至が作り出した呼吸。
元は水の呼吸だが炎の呼吸を合わせて使用し、どんな状況でも対応出来る柔軟で流麗な動きに強力な一撃を放つことが出来る。