2人の斬撃がぶつかり合い、衝撃で土煙が舞い上がる。
土煙が辺りを包み込んで2人の姿が見えなくなる。
すると土煙の中で赤と桜色の剣閃が何度も閃き、打ち合う。
姿は見えないが縦横無尽に動く剣閃だけで2人がどれだけ激しく戦っているかが剣術に対して素人である優希たちにも分かった。
「凄いです……まるで花火みたいに光ってる」
「いやー刀同士での戦いだとあーなるんだね。ヤクモさんとの戦いとはまた違う激しさだ」
前に戦った夜雲も感慨深そうに感想を言うとある事に気づく。
「そう言えば、えーとっ……名前なんだっけ?」
「あっ、失礼しました!七番組用務員の和倉 優希です!
「知ってるかもだけど五番組組長の蝦夷 夜雲だよ。よろしくねー。それで奴隷くんは……」
(聞いたのに名前で呼んでくれないのか)
「今回は京香と一緒に戦わないんだ。能力で一緒に戦うって報告で聞いたけど」
「最初は自分も一緒に戦うと思っていたんですけど……」
杏寿との模擬戦の前に優希は一緒に戦うと申し出たが京香はそれを断った。
『優希、悪いが今回は私一人で戦いたい』
木刀を受け取った京香は笑みを浮かべて待つ杏寿を見据える。
優希はその目がどこか迷いがあるように見えた。
「多分、京香さんは何かを見つけたいんだと思います」
「ふーん……」
優希にそう言われて夜雲は二人の戦いに視線を戻す。
土煙の中で戦っていたが京香が弾き飛ばされて出てくるとそこに杏寿が木刀を振り下ろし咄嗟に受け止めるが力負けして京香は膝を地面についてしまう。
「ぐッ!?」
「速さも技のキレも成長しているな。嬉しいぞ」
「っありがとうございます……!」
「だが迷いがある。何を迷っている?」
「……っ!」
京香は杏寿の木刀を押し退けて距離を取るが、杏寿は追撃せずに京香を見据える。
「京香、私達が振るう刀は人々を護るものだ。それは仇が違ったからだといって迷うものなのか?お前は何故刀を持って鬼共を斬る?」
京香はそう言われて煉獄家で過ごした日々を思い出した。
○
幼い頃京香は故郷が襲われて唯一の生き残りとなり、当時一番組組長だったりうに保護されて、仇を討つためと魔防隊が運営する学校に入学しながらりうの下で師事を受けていた。
そして京香の剣の才能を見込んだりうは昔からの仲である煉獄家な全集中の呼吸を教えて貰えるように頼み、京香は煉獄家で修行することになった。
しかし、この頃の京香は故郷を滅ぼした醜鬼に対する怨みで心が支配されており、醜鬼を滅ぼすための力をつけようと自分のことを顧みないでいた。
そして、厳しい修行と苛烈な自主練により京香はとうとう倒れてしまった。
「ぅっ……」
「目を覚ましたか」
煉獄家の一室で寝かされていた京香が目を覚まし、横には当時の炎柱であり杏寿の父である杏弦が座っていた。
「道場で倒れていたのを剣至と十灼が見つけてくれた。また無茶をしたな」
「……申し訳ございません。もう大丈夫です」
京香は立ち上がろうとすると杏弦が軽く肩を抑えるだけで布団に倒れてしまう。
「全く力が入っていない。体が限界の証拠だ。何を焦っている?」
「……焦ってなんかいません。ただ……」
京香は布団を握り締める。
その表情は憎しみに溢れていた。
「あの醜鬼を殺すための力を身につけようとしているだけです……」
一本角の醜鬼に殺された両親、友達、故郷の人々の無惨な姿を思い出して更に怒りと憎しみが増す。
限界を超えた修行をするのは一刻も早く一本角の醜鬼を殺すためとその怒りを修行にぶつけていた。
杏弦は京香の表情と布団を握り締めている拳を見る。
竹刀、木刀を振って何度も潰れた血豆は治りきらず、布団には血が滲んでしまっている。
「危ういな」
「えっ?」
「鬼殺隊の隊員の多くは鬼、醜鬼に家族や大切な人達を殺された者たちだ。お前のように憎しみを持った隊員も多くいる。しかし、そのままではお前が振るう刀はいつかお前だけでなく周りをも斬るぞ」
「………」
その真剣な目に京香は何も言えなくなり、杏弦は京香の側に置いてあった彼女の木刀の柄を見る。
血が染みており無茶な修行をしているのは見て分かる。
「お前は多くの才能を持っている。剣の才能に厳しい修行に付いてくる胆力、そしてそれをやり通そうとする覚悟も。このままいけばお前は確実に強くなる」
「……ありがとうございます」
自身を教えてくれる師匠の褒め言葉に京香は素直に嬉しくなり、少し微笑む。
「……昔、父が私に教えてくれた。多くの才を持つ者はその力を人の為に使わなければいけない。人を救けることが力持つ者の責任だと。私は父にそう教わった」
そう言われて京香は自分の気持ちを振り返る。
「お前は何の為に刀を振るう?仇を殺すためか?それとも人々を救けるためか?」
杏弦は京香の肩に手を置いて、普段は見せない笑顔を少し見せる。
「いつかお前が答えを見つけてくれることを願っているよ」
○
師匠である杏弦の言葉を思い出した京香は目を閉じて静かに呼吸を整えると木刀を構え直す。
「杏寿さん、それは……これで答えます!」
京香は走り出して木刀を振るう。
その一撃は先までのものより、明らかに速さと洗練さが上がっていた。
(先よりキレがあるな!)「確かに受け取ったぞ!京香!!」
2人の打ち合いはより激しさを増していくなかで、徐々に京香の攻撃に杏寿は防ぐのに手一杯になり始める。
京香が使う桜の呼吸は花の呼吸の派生である。
柔軟な剣技に速度と力強さが加わり、鋭い一撃と連撃が特徴になっている。
それにより形勢は少しずつ京香に傾いていたが、それで杏寿は終わらない。
京香の一撃を受け止めた瞬間に木刀を逸らして、受け流すと京香の背後に回り込んで切り付けるが京香は木刀を背中に回して受け止める。
そして地面を蹴って杏寿の一撃を利用し、宙返りすると杏寿に反撃するが受け止められる。
「フッ、昔を思い出す。よく剣至、十灼と共に稽古したな」
「大抵杏寿さんと十灼が勝って、私と剣至はよく怪我をしていましたけどね……!今回は勝たせて貰います!」
再び距離を取ると2人は構え直して同時に駆け出す。
桜の呼吸、伍ノ型
炎の呼吸、伍ノ型 炎虎
鳥が羽ばたくように鋭い斬撃と烈火の虎が噛み付くような斬撃がぶつかる。
凄まじい衝撃が響くなか2人は笑みを浮かべて目を見合わせていた。
更に続けようとした瞬間、木刀にヒビが入り2本とも粉々に砕け散った。
「ここまでか」
「引き分け、ですね。……杏寿さん」
「どうした?」
「私は……剣で人を救けます。もう迷いません」
「……そうか!」
京香は迷いが晴れた顔で杏寿の質問に答え、その決意表明に杏寿は嬉しそうに笑顔になった。
○
全員との模擬戦闘を終えて、改めて全員の前に杏寿は立ち、これからの訓練について話し始める。
「さて、皆んなの実力は大体わかった。時間が限られているため前半後半と分かれて私は指導しようと思う。前半は組長を除く全員、後半は組長だけを指導しよう。それで早速だが前半組の目標は全集中の呼吸の習得だ。この特訓で必ずものにしよう!」
『はい!!』
杏寿の掛け声に元気よく答えて、杏寿も満足そうにする。
「それではまずランニングといこう!コースは魔都を10周だ!」
その言葉に京香以外が絶句した。
「あ、あの魔都って東京と同じ面積があるのですが……」
「そうだな!距離としては申し分ない!それに道中醜鬼がいれば殲滅も出来て一石二鳥だ!なあに今からなら3日もあれば終わるだろう!」
日万凛の質問に杏寿は大したことはないといったように答える。
組長陣と非戦闘員以外は顔が青くなる。
「あ、あの!流石にそれは厳しすぎるるんじゃないかと……!」
優希が流石に待ったをかけるが杏寿は首を横に振る。
「甘いぞ!和倉少年!敵が強くなる以上、確実にこちらも強くならなければいけない!ならばこちらも厳しくいく!今回の訓練でこの内容は全ての組に連絡済みだ。それに道中は私が引率する!それでは早速行くぞ!!」
そう言って杏寿は日輪刀を腰に差して走り出す。
日万凛たちは戸惑ってはいるものの走り出して杏寿についていく。
「ひゃー……すっごいスパルタ」
「八千穂たち、無事に帰って来れるかな?」
「し、心配です……」
夜雲、天花、寧々がそう心配するが京香は平然としていた。
「安心しろ。これは鬼殺隊もやっている最初の訓練だ。魔都ではないが東京を何回も周るんだ。私も幼い頃やった。懐かしいものだ……」
『………』
懐かしむ京香を見て、流石の全員が引いてしまい黙ってしまう。
こうして杏寿の地獄の訓練が始まった。
用語集
・桜の呼吸、伍ノ型 飛燕桜閃
ツバメが飛ぶように鋭い一撃の斬撃