魔都精兵のスレイヤー   作:マーベルチョコ

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第30話 柱式特別訓練

杏寿の訓練が始まってから2日と半日が経って、日万凛たちはやっと七番組の寮に帰って来られた。

 

「ハァ……!ハァ……!ハァ……!」

 

「し……しぬぅ……」

 

「はぁ…!はぁ…!げほっ!げほっ!」

 

「………」

 

全員が土と汗で汚れており、何人かはその場で倒れて動けないでいた。

日万凛たちは約2日半の間、杏寿が教えた特殊な呼吸法をしながら休まずに走り続け、途中で現れた醜鬼も倒していった。

休憩も無しに走り続け、食事はなく水は各組を通る際に渡されたが、その時に渡してくれた組員たちは日万凛たちを可哀想な目で見ていた。

 

「よく頑張った!3日はかかると思ったが予定より早く終わったな!」

 

引率していた杏寿は全く疲れた様子を見られず、初日と変わらない状態だった。

 

「こ、これでとりあえずは……終わりなんですよね?」

 

「やっと休める〜……!」

 

全員がその一言に安堵した表情をするが杏寿は不思議そうにする。

 

「何を言ってるんだ?まだ修行をするぞ!」

 

『………』

 

また日万凛たちは絶句し、限界が来て今度は全員が倒れた。

 

 

その後、修行を漸く終えた日万凛たちは寮の温泉に入って疲れを癒していた。

 

「はぁ〜……体が溶けるぅ〜……」

 

「ゔぁ〜……」

 

杏寿との訓練を受けていた全員が温泉に浸かると間抜けな声を出してしまっていた。

 

「………」

 

「サハラよ。そんな風に寝ながら浸かると溺れてしまうぞ?……サハラ?本当に寝るな!溺れてしまうではないか!?」

 

「(ブクブク……)」

 

サハラは3日間動き続けて疲労と眠気が限界まできていたサハラは湯船に浸かると寝るように浮き上がったが次第に沈んでいって八千穂がすぐに持ち上げたがそのまま寝てしまった。

 

「傷は私が全て治したけど疲労までは無理だからごめんね」

 

湯船に浸かった瞬間に寝てしまったサキに肩を貸しながらカイコが謝る。

 

「みんな相当疲れているね……こんな状態の八千穂たち初めて見たよ」

 

全員の様子を見て天花は杏寿の訓練がそこまでか過酷なのかと次の訓練に少し不安を覚えてしまう。

 

「だが、この訓練で日万凛と八千穂は全集中の呼吸を習得できた。得るものが有って良かった」

 

寧の頭を洗ってあげていた京香が嬉しいそうに話す。

杏寿の訓練に参加した5人のなかで日万凛と八千穂は全集中の呼吸を習得できていた。

 

「うーん……ひまりん達だけできるようになって羨ましいなぁ。私もあんなに辛い訓練したのに」

 

「朱々もあと少しのところでしょう?このまま訓練を続けていれば習得できるって煉獄さんに言われたじゃない」

 

「それに私様たちは幼い頃に呼吸の訓練をしたからのう。下地ができておったのかもしれんな」

 

すると、風呂場の入り口から声が掛けられた。

 

「2人の基礎ができていたおかげで全集中の呼吸をすぐに習得できた。教えてくれた師が優秀だったのだ」

 

全裸の杏寿が立っていた。

背が高く、筋肉がついており逞しい体つきだが女性特有の丸みがあり正に美丈夫だ

それを隠そうともせず堂々と入ってきたために何人かが見惚れてしまう。

 

「杏寿さん、夜雲と特別訓練は終わったのですか?」

 

「うむ!蝦夷組長が寝技の訓練をしたいと頼んできたのでな!快く引き受けた!充分、実のある訓練だった!」

 

夜雲はセクハラ魔のため皆と風呂を一緒に入ることは禁止されているが、その際に夜雲は杏寿の体を堪能しようと2人になろうとして個別訓練を頼んだ。

杏寿以外の全員がセクハラするつもりだとすぐに分かったが、そこら辺は鈍い杏寿は快諾してしまった。

 

「夜雲はどうしたんですか?」

 

「訓練を終えると動かなくなってしまってな。和倉少年に処置を頼んだ」

 

しかしセクハラしようとした夜雲だったが、杏寿の寝技を防げずに力尽きてしまった。

その様子を見に来た優希はあの飄々としていた夜雲がぐったりと白く燃え尽きた状態を見て驚いたほどだった。

 

「あの夜雲組長のセクハラを意図せず防ぐなんて……」

 

「煉獄さんの前だと彼女も無力になるんだね」

 

全員があの下心満載の夜雲をただの善意で無力化した杏寿に驚いてしまう。

 

「話は変わるが東妹たちはいい師匠に教わっていたんだな。本来あのマラソンでは呼吸の基礎を学ぶものだ。それを続けながら何年も呼吸の訓練をして習得する。2人は基礎ができていたからこそすぐに習得できたんだ」

 

杏寿もマラソンを終えただけで呼吸を習得できるとは思っておらず、日万凛と八千穂に感心しており、賞賛した。

 

「それに今回のマラソンは鬼殺隊が行っているものを更に厳しくしてより濃密にした。習得できなかった3人も基礎は出来ているはずだ。このまま呼吸の訓練を続ければいずれ習得出来るだろう」

 

今はまだ習得出来ていない朱々とサキも近いうちにできると保証する。

 

「君たちを指導できる時間はそこまでないが私も精一杯努めさせてもらう。共に頑張ろう」

 

『はい!』

 

杏寿の激励に答え、また次の日から訓練に励んだ。

未習得の朱々たちは引き続き全集中の呼吸を習得するための訓練を続けて、日万凛と八千穂は戦闘の中でも使えるように実戦に近い形での訓練を始めた。

 

「八千穂!呼吸に集中するあまりに能力発動が疎かになっているぞ!動きに組み込みこんで必要な時を見極めるんだ!」

 

「了解じゃ!」

 

「日万凛は身体能力に直結する!先ずは能力にどう影響があるかを模索していけ!」

 

「はい!」

 

杏寿の指導を元に日万凛たちは着実に力をつけるため訓練を続けた。

 

 

そして数日がたち日万凛たちの指導を終えた杏寿は組長陣との訓練になり、以前戦った場所に来ていた。

 

「ハッキリ言って組長である君たちに今更全集中の呼吸を教えようとは思わない。以前の模擬戦で思ったが君たちの戦いは完成されていると思っている。後はそれを磨き続けるだけだと」

 

杏寿は持っていた木刀を京香たちに向ける。

 

「だから私たちはひたすら模擬戦をしよう!より実戦に近い方が見えてくることもある」 

 

「なるほど一理ありますね。総当り戦のように1人ずつしますか?」

 

「いや乱戦でいこう!六道と八雷神が協力しているのであれば多方面への対処する力を鍛えないといけない」

 

全員が了承するなかで夜雲が手を挙げる。

 

「ねぇ煉獄さん。どうせなら賭けしない?」

 

夜雲が悪い笑みを浮かべて提案する。

 

「と、いうと?」

 

「戦って最後まで残った人が他の人に命令できるっていう……いわば王様ゲームってやつ!」

 

夜雲の提案を聞いて、京香と天花はまた下心が丸分かりの提案にまたか……といった顔をする。

 

「ふむ……稽古にそのようなことを持ち込むのは些か不純だと思うが、蝦夷組長はその方がやる気が上がるのか?」

 

「うん!もうすっごく!」

 

「ならばそのおうさま?ゲームとやらをやろうか!」

 

純粋な杏寿は模擬戦と先の寝技の訓練でも夜雲の企みに気づかず、今回も訓練のためだと信じて疑わない。

 

「杏寿さんがそう言うなら私は従います」

 

「はぁ……こうなったら反対はできないよ。だけど私の体はケンくんのものだから手を出してきたらねじ切るからね」

 

「もう!ライバルは今いないんだから楽しもうよ♡天さん♡」

 

誰よりも楽しそうにする夜雲は思いついたように京香の後ろに控えていた優希の方を向く。

 

「もちろん奴隷くんにもその権利はあるからね。京香が勝ったら誰に甘えるか考えておきなよ♡」

 

「え!?い、いや!俺は京香さんの奴隷なんでそんなこと考えませんよ!!」

 

「なんだ和倉少年甘えたいのか?君の境遇は剣至から聞いている。もし姉君のことを思って寂しいのなら胸をかそう」

 

「い、いや……反応に困ります……」

 

杏寿の善意100%の言葉に優希は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

そして全員が定位置につき、優希も京香の能力で変身すると京香が跨りながら話す。

 

「優希、今回がお前の本格的な訓練に参加だ。ハッキリ言ってこの組長陣の訓練は今までのと一線を画す。気合いを入れていくぞ!」

 

「はい!!」

 

京香の檄に優希も改めて気合いを入れ、その様子に杏寿も笑みを浮かべる。

 

「皆んな準備はいいな?」

 

全員がうなづき構える。

 

「それでは始めようか!」

 

そう言うと杏寿は身を屈めて夜雲に突貫して木刀を振り下ろし、夜雲はそれを腕に纏った風で防ぐ。

 

「わおっ!いきなり熱烈だね!」

 

「蝦夷組長が一番やる気があるからな!それに答えたい!」

 

「もちろん()()気は充分だよ!」

 

夜雲が風を纏った拳と蹴りを繰り出し、それに杏寿も炎を纏った木刀で攻防を繰り広げる。

2人が互いに強い一撃を放とうとした瞬間、横からスレイブ化した優希に乗った京香が割り込み2人に斬撃を放ち、2人は距離を取った。

 

「京香も混ざりにきたの?」

 

「乱戦が今回の訓練だ。もちろん割り込みさせてもらう!」

 

広範囲の攻撃を仕掛けて2人同時に相手するが夜雲はまた風で防ぎ、杏寿は京香が優希に乗っていることでできている高低差を利用して掻い潜って近づく。

足である優希に向かって木刀を振るう。

優希は攻防の連続について行けずに迫り来る木刀に反応できない。

木刀が当たりそうになった瞬間、優希たちと杏寿の間の空間が歪む。

 

「っ!退け!!優希!!」

 

杏寿は即座に飛び退き、京香の言葉を聞いた優希も慌ててその場から退く。

次の瞬間、空間が引き裂かれ衝撃が発生する。

 

「私のことも忘れて貰ったら困っちゃうな」

 

天花が杏寿と優希の少ししかない空間に狙い撃ちして攻撃を仕掛けてきた。

そして夜雲、杏寿、京香たちの近くで複数の小規模な空間の断裂を起こして攻撃してくる。

京香は優希に天花の視界から外れるように指示して、距離を取らせる。

 

「優希、今は防御と移動だけを徹しろ。無理に攻撃しようとするとこの中では反撃に合うぞ」

 

「分かりました!」

 

再び四つ巴の戦いが始まる。

夜雲と天花は距離を取って攻撃しようとするが近接戦のスペシャリストである杏寿と強靭な足役であるスレイブ化優希に乗った京香にすぐに近づいて炎と桜の斬撃が閃く。

それでも範囲攻撃をして牽制するが3人は怯まず突貫、または退避することで対処する。

杏寿は避けながら天花に向かってイトクモを放ち、手首に巻きつけるとその膂力で自分の方に引きつける。

天花は姿勢を崩されながらも能力を発動して一瞬で移動する。

しかし、既に杏寿は天花の瞬間移動先に向かって走っていた。

 

「……っ!?(勘づかれた!?)」

 

天花は瞬間移動する際に移動先を目視する癖があり、青葉との戦いでもそこを突かれた。

杏寿は前回との戦いからその癖を見抜いた。

天花に向かって走る間に竜巻が杏寿と天花を襲う。

 

「私を忘れないでよね!」

 

天花は転移して避けることができたが、杏寿は呑み込まれてしまう。

しかし、竜巻の中で踏ん張って刀を思いっきり振り下ろし、その剣圧で竜巻を真っ二つに切り裂いた。

 

「マジで?」

 

あまりの光景に口元をヒクつかせて驚いてしまう。

そこに転移してきた天花が反撃をしてきて2人の攻防が始まる。

木刀を振り下ろしたことで隙ができた杏寿に今度は京香と優希が攻撃を仕掛ける。

京香の木刀を受け止めると優希の首を掴むと足払いで片腕を払い除けて優希のバランスを崩すと、その勢いを活かして腕力で投げ飛ばす。

 

「ふんッ!!」

 

「うわっ!?」

 

「くっ!?」

 

咄嗟に京香は優希から飛び降りると今度は杏寿が仕掛ける。

強い連撃に京香は追い込まれていく。

 

「京香さん!」

 

追い込まれていく京香の助けに行こうと走り出したことに杏寿は気づき、京香の木刀を払い除けると腕を振りかぶる。

 

炎の呼吸 壱ノ型 不知火

 

炎の剣戟が京香と優希を襲う。

京香は防ぐことができたが結城は頭に一撃を貰ってしまい、その場で倒れてしまう。

 

「ぐあぁっ!」

 

「和倉少年のその状態は強力で堅固だがそれに慢心してはいけない。戦い方をこれからも学んでいきなさい。京香、もっと和倉少年との戦い方を模索しろ。今みたいに格上との戦いになると和倉少年は足枷になってしまう」

 

「そうですね。今後の課題です」

 

京香は強烈な一撃を貰ってしまい気絶してしまった優希を抱えて、安全なところまで避難させる。

 

「折角花開いた能力だ。頑張りなさい」

 

「はい、ありがとうございます。それではここからは私個人で戦います」

 

京香は改めて木刀を構え、杏寿も構え直した。

 

 

気絶していた優希が目を覚まして、痛む頭を抑えながら立ち上がると目の前には荒れていた魔都がより荒れ果てていた。

 

「優希、目を覚ましたか」

 

「京香さん!すいま……」

 

まずは早くも倒されてしまったことを謝ろうと京香の方を向くとその顔は青痣と片目が腫れ上がっており、服もボロボロになっていた。

 

「その顔どうしたんですか!?」

 

「ん?訓練でコテンパンにやられてな。ここまでやられたのは久しぶりだ」

 

どこか楽しそうに話す京香に優希は呆気に取られる。

その横を見れば先に脱落した天花がカイコの能力で治療されていた。

 

「ごめんなさい。すぐに治療したいけどこっちの訓練で治療の精度を上げるために1人ずつしているの」

 

「気にしないでくれ。もうすぐあちらも終わるだろう」

 

京香が見る先には悔しそうに倒れる夜雲と彼女に木刀の切先を向ける杏寿の姿があった。

 

「前回よりいい勝負だったが私の勝ちだな!」

 

「む、むねん……」

 

2人ともボロボロの状態だ。

 

「それでは傷が癒えたらもう一戦といこうか!和倉少年は全員の傷が癒えるまで戦いの立ち回りを共に考えよう!」

 

「で、でも煉獄さんの傷も治さないといけないんじゃ?」

 

「なに!このくらい傷は時間が経てば治る!私のことは気にせず続けるぞ!」

 

杏寿のタフネスに優希は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

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