しばらく経ち、定期的になった組長会議で各組での合同訓練の成果が報告されていた。
「合同訓練は効率が高いわね。今後も折を見て実施しましょう」
顔に笑みを浮かべて、報告書に上がっている内容を読む。
満足そうな表情を見て、いつも恋の機嫌を伺っているベルがホッと一息ついて安心した。
そのときふと恋は天花と目が合った。
少しの間だけ視線を合わせた2人は少し頬を赤くして、互いに視線を外した。
その場にいた組長たちはその様子に首を傾げた。
(不味いわね……一緒に夜を過ごしたせいでまともに天花の顔を見れないわ)
(総組長の弱みを握ろうとしたのにケンくんのせいで私まで乱れちゃった、恨むよケンくん……)
2人は剣至を共有することに決めて、次にしたのは3人の中でのマウントの取り合いだった。
愛しい男を共有するといっても上の立場を手に入れれば、今後の関係でも有利に進められると2人とも考えついていた。
そして、最も簡単ですぐにマウントを取れるのは情事での自分の優位性を示すことだった。
2人とも剣至のことをそっちのけで自分の方が剣至を誘惑出来ている、興奮させられていると張り合っていたが、ぞんざいに扱われた剣至がキレてしまった。
キレた剣至は天花と恋はいつも以上に攻め立てて2人を骨抜きにしてしまった。
その時の2人はタガが外れてしまい、普段は見せない姿を互いに見せてしまったため顔をまともに顔を見ることが出来なくなっていた。
「……あの総組長、今日は剣至さんはいないんですか?」
いつも組長会議に参加している剣至の姿が今回ないことに木乃美は不思議に思い、質問する。
「剣至は今回、柱合会議に参加しているわ。最近醜鬼と鬼の協力しての襲撃が増えているから柱同士での連携を改めるとのことよ」
恋からの答えに木乃美は残念そうにした。
○
産屋敷邸にて柱合会議が行われており、先日起きた大規模な襲撃と魔防隊との合同訓練についての報告が行われていた。
「なるほど……鬼と醜鬼の協力関係が明確になってきたわね。皆の管轄地区を改めて見直してちょうだい。何か抜け目があれば皆で補いましょう」
『御意』
輝耶の言葉に全員が了解する。
そして、次は合同訓練の話題になる。
「魔防隊との合同訓練の成果は上々みたいね。山城総組長から感謝の言葉をいただいたわ。訓練に参加してくれた剣至、杏寿、沙羅はよくやってくれました。これで魔防隊の総合力は上がったはずよ」
「いえ!ともに人々を守る魔防隊が強くなれるのであれば喜ばしい限りです!私も学べることが多くありました!」
「私も魔防隊との訓練で自分の能力について深く知ることができました」
輝耶の激励に今回のことで学ぶことが合ったと感想を言う杏寿と沙羅に輝耶は満足気にうなずく。
「今後も魔防隊と協力していきましょう。皆もよろしくね」
会議が終わり、それぞれが自分の持ち場に戻ろうとしているとき剣至が十灼に話しかける。
「十灼、少しいいか?」
「何だ?食事はこの前行ったから今回は行かないぞ」
「違うって。……風舞希さんから一度家に帰って来て欲しいってさ。十灼と連絡がつかないから俺から伝えて欲しいって」
「……何故、剣至経由で話がくる?」
「今回は絶対に帰ってきて欲しいからだってさ。俺から言った方が帰ってくると思ったんだろ」
そう言われた十灼だが本人は帰る気がなく、断ろうとする。
「帰る気はない。それよりも鬼を殺すことのほうが……」
「そう言うと思って風舞希さんから伝言がある。『もうすぐお父さんの命日だからいい加減顔を見せなさい』、だってよ」
「………」
父の命日と言われて十灼は何も言えなくなった。
「一度も柊一郎さんの墓参りに行ってないんだろ?あれから8年も経って俺たちは多くの人を助けてきた。もう柊一郎さんの墓参りに行っても許されるはずだ」
「…………」
十灼は黙って考えている様子だったがやがて口を開いた。
○
その頃、組長会議を終えた京香は九番組組長であり、十灼、日万凛、八千穂の母である風舞希が京香と共に七番組にやってきた。
そこで日万凛に九番組の本部でもあり彼女の実家でもある東家に帰ってこいと言った。
東家の当主を決める『東の晩餐』が行われるためだ。
普通ならば現当主の直系の娘である風舞希が当主を引き継ぐが、東家は実力主義であるためか、戦って決めるために『東の晩餐』を行なうとのこと。
「東の晩餐は5日後よ。休暇をとって東家に集合。各組長には話を倒しているわ」
「ちょっと待って!自分は行かないわよ。東の家なんて見たくもない。勝手にやってて!誰が当主しようが関係ないわ!」
今まで虐げられてきた家族のところで興味もない行事に参加するなど嫌だという日万凛に風舞希はため息をつく。
「日万凛、確かに貴女に厳しく接してきたわ。それも貴女の成長を促すため……東の女は逆境の中で成長するのは分かっているのも。遅咲きだったけれど見事に成長したけどまだ足りないわ。今回で更に強くしてあげましょう」
日万凛を見る風舞希の目は母親のものだった。
優希は日万凛から聞いていた家族のこととは少し違っているように見えた。
日万凛からは秀でた能力を持つ姉たちと比べて落ちこぼれだった彼女は家族から蔑ろにされており、逃げるように七番組にやってきたと聞いていた。
しかし、日万凛の母である風舞希を見るに少し教育に厳しい親であるように見えた。
日万凛が返答に困っていると風舞希は優希にしていたマッサージを終えて立ち上がる。
「それにもうすぐお父さんの命日よ。全員が命日に揃うのは難しいのだからこれを機会に帰ってきなさい」
「………ッ! お父さんの名前を出すのはズルいでしょ……!分かったわよ!どうせ東家はぶっ飛ばすと決めてたし!帰るわ!」
「……そう。良かったわ」
日万凛の返答に満足そうにうなづいて、踵を返して帰ろうとしたときに持っているスマホが震えてメッセージを確認すると笑みを浮かべる。
「日万凛、当日は泊まる準備もしておきなさい」
「なんでよ?」
「家族が久しぶりに全員揃うのだから。晩御飯くらい食べなさい」
○
そして『東の晩餐』の当日、日万凛たちは八千穂、天花とともに現世の東家、もとい九番組にやって来た。
久しぶりの実家に緊張しながらも入ろうとするとそこにいつの間にか中学生程の少女が日万凛と八千穂の間に立っていた。
彼女は現当主であり、前魔防隊総組長、更に日万凛、八千穂、十灼の東 海桐花だ。
「『東の晩餐』によう来たのう」
「海桐花様!いつの間に……!?」
海桐花は突然現れて驚く皆を他所に八千穂に抱きついて、分かりやすく褒め称える。
それに対して日万凛には好戦的な目をぶつけて挑発して緊張させるが、京香が励まして日万凛も打って変わって自信をつける。
そんな一悶着もありながら敷地内に向かう。
「今回の晩餐は風舞希か万が一の可能性で
「私様は後学の為です」
「そういうことにしておくかの……ところで八千穂、剣至との仲はどうじゃ?もうまぐわったかの?」
「まぐわっ……!?私様と武藤はそんな関係ではありません!」
突然の海桐花の言葉に八千穂は分かりやすく狼狽え、その様子に海桐花はこれはまだ脈ありだと感じた。
ちなみに天花はニコニコと笑顔を浮かべていたがその会話に顔をピクリと引きつかせた。
「なんじゃつまらん。昔は誰よりも剣至に懐いておったのにのぉ」
「子供の頃の話です!」
「ともかく面子は8人集まった」
「割合は?」
「直系が四人。分家筋が四人。賑やかになりそうじゃ」
中庭に辿り着くとそこには既に6人集まっていた。
「さて早速やるか!東の晩餐を開催する!8人全員が異空間で戦闘不能かギブアップで失格じゃ!最後の1人が吾妻当主となる!」
海桐花が晩餐の内容を説明し終えるとそこに東家の使用人が慌てた様子で入ってきた。
「し、失礼します!」
「なんじゃ?これから東の晩餐を行なうというのに水をさしおって」
海桐花は嫌味を言うが使用人はそれを気にする余裕がないのか慌てた口調で話す。
「と、十灼様がお帰りになられました!」
『!』
「ふっ……」
その言葉に海桐花、麻衣亜、八千穂、日万凛は驚いて目を見開いて驚き、風舞希は僅かに微笑んだ。
扉が開いて、十灼と剣至が共に入ってくる。
十灼自身は特に気にする様子はないがほぼ全員が十灼を見て、自然と息を飲んで注目してしまう。
優希は日万凛から十灼については簡単にしか聞いていなかった。
自分たちの中で最も年上で長男、ある時から家との交流を絶ってその様子は剣至を通してしか知ることが出来ない。
優希が十灼を見ているとその視線に気づいたのか目を向けてくる。
その瞬間、優希は心臓を掴まれたような感覚に陥り、体が動かなくなった。
ただ目を合わせているだけなのに冷や汗が流れて圧迫されているように感じてしまう。
やがて、興味がなくなったのか視線を外すと途端に緊張が解けた。
「緊張するな優希。十灼は無愛想だがいい奴だ」
「きょ、京香さん……そうですか」
十灼と剣至が進んで行くと海桐花が心底嬉しそうに2人に話しかけてくる。
「十灼!剣至!漸く帰ってきおったか!首を長くして待っておったぞ!」
十灼に抱きつこうとしたがするりと避けて剣至に抱きつく形になる。
「うおっ!?」
「なんじゃいけずじゃのぉ。……ふむ、剣至は以前に増して更に強くなっておるの。良きかな♪良きかな♪」
「……どうも海桐花さん」
そう言って剣至の体を触りながら喜ぶ海桐花に剣至は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
剣至を生贄にして十灼は足を進めると今度は風舞希が話しかけてくる。
「お帰りなさい、十灼」
「………ただいま」
「久しぶりに顔が見れて嬉しいわ。今日は泊まっていくのでしょう?」
「いや、俺は……」
いつも無愛想な表情か無表情な十灼が珍しく気まずそうな表情をしながら断ろうとすると剣至の体を弄っていた海桐花が思い出したかのように声をかける。
「そうじゃ十灼!お前も東の晩餐に参加するかの?今なら間に合うぞ?」
海桐花の提案に十灼と風舞希以外の東家全員に戦慄が走る。
十灼が晩餐に参加するということはあることが決まってしまうからだ。
「いいのか?参加したら俺が必ず勝つぞ」
自分を驕るのでもなく、ただ自然に言ってのける十灼に全員が反論することはなかった。
何故ならそれが事実だからだ。
全員が十灼の異常な強さを知っている。
「フッフッフッ……言うのぉ。流石は東の最高傑作じゃ。女であれば能力も得られて無敵なのにのぉ……」
海桐花が心底残念そうに言うが十灼は興味がなかった。
「俺は参加しない」
「残念じゃがそうしようか。どこに行く?参加せずとも見てはいかんか」
「俺は父さんの墓参りのために帰ってきたんだ。晩餐は勝手にやってろ」
十灼と剣至は屋敷の奥へと進んでいく。
「そうね……八千穂、日万凛。先にお父さんに挨拶してきなさい。母様、晩餐はその後でもいいでしょうか?」
「ふむ、良いじゃろう。挨拶を済ましてこい」
十灼たちに続き、風舞希、麻衣亜、八千穂、日万凛も屋敷の奥へと進んでいく。
敷地内の日当たりが良い庭は綺麗に整えられており、そこの一角に墓はあった。
墓には『時透 柊一郎』と刻まれており、十灼たちは全員が墓の前で手を合わせる。
「………」
「……さあ、お父さんに挨拶を終えたわね。お母様のところに戻りましょう」
風舞希の言葉で十灼以外が他の皆が待つ中庭へと戻る。
十灼は墓をジッと見つめて動かず、それに気づいた風舞希が何かを言おうとしたが止めた。
そして十灼以外がいなくなると1人呟き始めた。
「……本当は帰る気はなかった。いや帰っちゃいけないと思っていたんだ。だけど妹たちが頑張るなら兄である俺は見守らないといけないと思ったんだ。だから、今回だけは許してくれ、父さん」
十灼は懺悔するかのように墓に向かって呟いた。