後日、剣至は1人で七番組を訪問していた。
目的は寧が発見した新たな人型醜鬼こ人相をすり合わせするためだ。
「これが新しい人型醜鬼……」
剣至は寧が書いた人相描きを見て呟く、寧の画力によりやたら乙女漫画チックな状態になっているものをジッと見る。
「力作です!」
「……より詳しいものは後日作らせる」
渾身の力作に胸を張る寧だがそのまま状態ではあまりにもなので京香は剣至にだけ聞こえるようにそう言った。
「……(違うか)あぁ、頼む」
内心でそう呟き顔に出ないようにする。
すると京香が話しかけてくる。
「剣至この後は予定があるか?良ければ食事をしていかないか?皆も話を聞きたそうにしているしな」
京香の誘いに特に予定がなかった剣至は快く受け入れた。
「おー、この料理美味いな。全部和倉くんが作ったのか?」
「はい!喜んで貰って嬉しいです!」
「凄いだろう?うちの奴隷は」
七番組の管理人出た料理に舌鼓を打っていると恐る恐ると優希が質問してきた。
「あの、質問いいですか?」
「どうした?」
「京香さんとはどういった関係なんですか!?」
少し前のめりになりながら質問してきた優希に剣至と京香はキョトンとした顔をする。
敬愛する京香と友人以上の仲良さが見える剣至が気になっていたのだ。
「関係って、まぁ普通の兄妹弟子だな」
「私が最初に呼吸を学んだ師匠が同じだったんだ。3年間、寝食を共にした」
「こいつ最初は野良猫みたいに警戒しててな。打ち解けるのに相当苦労したよな」
「むっ、そうだったか?」
昔の話を始め、恥ずかしそうに頬を少し赤らめる京香だった。
「そう言えば
「……そうか、師匠にも挨拶をしないといけないしな。次の休暇は煉獄家に行くとしよう」
少ししんみりとした表情をする京香だがすぐに切り替えて話題を変えた。
「話は変わるが優希と日万凛が全集中の呼吸を学びたいと言っていてな。教えてやってくれないか?」
優希と日万凛が姿勢を正して剣至を見る。
「和倉くんは兎も角、日万凛ちゃんはお兄さんから教えて貰えるだろ?」
「えっ、お前お兄さんもいたのか!?」
剣至の言葉に優希は驚き、日万凛は険しい表情になった。
「アイツは教えてくれませんよ!」
突然の大声に剣至と京香以外は驚く。
「そうだな、アイツは教えないな。性格悪いし」
場の空気を戻そうとそう笑いながら言う剣至に京香はうなづいた。
「わかった。少ししか時間はないが出来る限り教えよう」
剣至は全員を連れて修練場に着く。
「大川村ちゃんは今回の訓練はパスな」
「な、なんでですか!?寧が非戦闘員だからって仲間ハズレは酷いです!」
寧が怒り出すが剣至が宥める。
「いやそうじゃなくてだな。まだ体が出来上がっていないのに全集中の呼吸の訓練をすると体を壊してしまうんだ。下手すると体が爆散する」
『爆散!?』
剣至の話に京香を除く全員がまた驚く。
「体を鍛えないと全集中の呼吸に耐えられない。まだ大川村ちゃんは鍛えが足りないんだ。だからまた今度な」
「……はい、わかりました」
そう言いながら頭を撫でると寧は不満そうにしながらも頷く。
「よし、じゃあ今回は3人が訓練するってことでいいか?」
『はい!』
優希、日万凛、朱々が元気よく返事をする。
「京香、呼吸練習用の瓢箪はあるのか?」
「勿論だ。各種揃えているぞ」
京香が指さす先には通常の大きさの瓢箪から子供の身長ほどもある巨大な瓢箪があった。
その中の一つで普通の大きさの瓢箪を手に取る。
「まずは全集中の呼吸の仕組みを説明しよう。俺たちが使う呼吸は酸素を大量に血中に含ませて筋力を強化する特殊な呼吸方法だ」
「アスリートが本番前に深呼吸するのと同じ原理ですか?」
「その通りだが吸い込む酸素量が桁違いだ。極めればこんなことが出来るようになる」
剣至は独特な音させながら息を吸い込み、瓢箪に息を吹き込むと簡単に割れて弾け飛んだ。
「わっ!?」
「きゃあっ!?」
「瓢箪がこんな簡単に?」
「うっそ〜……」
4人は驚き、剣至は割れた瓢箪を置くと次に風船を渡した。
「まっ、最初だから今日はこの風船を使おう。この風船を膨らませてみてくれ」
「よかった。いきなり瓢箪を割れって言われるかと思った……」
朱々が少し安心したように呟くと京香は不適な笑みを浮かべる。
「ただ膨らませるんじゃないぞ。
京香はそう言い、風船を咥えると一呼吸で一気に風船を膨らませた。
「す、すごい!」
「流石です!組長!」
皆、京香にならって風船を膨らませていくが一息で膨らませるのは難しく、僅かに膨らませることが出来たのは日万凛だけだった。
後日、再度訓練を請け負うことを約束して剣至は七番組を後にした。
○
その日は剣至と天花が揃ってオフの日で2人は六番組の組寮でソファに座って寄り添いながら映画を見たりなど普段多忙なためゆっくりとした時間を過ごしていた。
今は天花が剣至にぴったりとくっついて甘えていた。
「ふふ、ケンく〜ん♪」
剣至も天花の頭を撫でたりと愛でていた。
すると個人用のスマートフォンに着信が入った。
画面を見るとそこには『山城 恋』と表示されていた。
それを見た剣至は少しため息を吐いてスマートフォンを手に取ろうとすると天花がその手を掴んで止めた。
「今は私との時間でしょ?んっ♡」
そう言ってキスをしてくる天花はとにかく気をそらしたくて仕方ないように見える。
しかし、それでも着信音は鳴り止まず、止まる気配がない。
「………」
「……ごめん」
鳴り止まない着信音に天花はキスを止めて剣至を不満そうに見つめてくる。
剣至は一言謝りを入れて天花から離れて電話をとる。
「はい、もしもし……いや、俺今日は休日だし。……何でだよ?今日は天花と一緒に……それはずるい、おい、もしもし?……勝手に切りやがって」
剣至は申し訳なさそうな顔になり天花の方を振り向く。
「あー……天花、その……さ。山城総組長から呼び出しくらってさ……」
言葉を途切れさせながら話し出す剣至に天花は転移して目の前に現れると抱きついて首筋に吸い付いた。
「ちゅ〜……」
「ちょ、おい天花?」
剣至の首に赤い跡がつくと口を離し、剣至を睨むように見上げる。
「私、山城総組長との
天花はそれだけを言うと剣至とは目を合わせず、そっぽを向いてソファに座った。
剣至は気不味そうにしながらも部屋を出て、魔防隊の中心となっている十番組へと向かった。
天花が不機嫌なため車を使って移動していると上空から何かが移動する音が聞こえて車を止める。
すると剣至の目の前に綺麗な黒髪を持ち、見た人に圧倒的な雰囲気を与える魔防隊総組長、山城 恋が降りてきた。
「遅いわよ、剣至」
「車で来たんだ。文句言うな」
普段の不遜な態度とは違い、どこか悪戯っ子のような様子で剣至を責める。
「それで恋、寮に行かなくていいのか?俺を呼びつけたんだろ?」
「貴方を呼んだ理由は体を動かしたかったからよ。最近、事務作業やら政府との仕事が多くて鈍ってしまいそうなのよ」
恋は剣至から少し離れると力を解放し、恋を中心に突風が吹き荒れる。
「貴方と私が戦ったら寮がなくなっちゃうわ」
好戦的な目を向けてくる恋に剣至は少しため息を吐きながら、車を降りて刀を腰に差して真剣な目を向ける。
「仕方ない……付き合ってやるよ」
「さぁ、楽しみましょう」
その直後、十番組寮から少し離れた場所で大きな爆発が起きた。
横転した車に背中を預けて地べたに座った剣至は肩で息をしながら熱くなった体を落ち着けていた。
顔と体の至る所が汚れており、激しい戦いだったのが分かる。
「んーっ!スッキリしたわね」
剣至の目の前では上着を脱いでラフな格好で同じく汚れた恋が背伸びをしていた。
その表情はとてもスッキリしたものだった。
「はぁ、休日だってのに何でこんなに疲れないといけないんだ」
「あら、家でゴロゴロするよりよっぽど充実したんじゃないの?それとも……」
恋は座り込む剣至の目の前に行くと見下ろしながら見つめる。
「天花と一緒の方がよかったかしら?」
その目には僅かに嫉妬心が燻っているように見えたが剣至はそれを敢えて無視して視線を横にずらす。
それが気に入らなかったのか恋は目を細めると剣至にドカッと跨って肩に両手を置く。
「ちょっ、おいれ……ガボっ!?」
すると突然の浮遊感の後に暖かい湯に溺れかける。
顔を水中から出すとそこは温泉だった。
「げほっ、げほっ!ここは……」
「十番組寮の温泉よ」
声がする方を向くといつの間にか服を脱ぎ、全裸となった恋が立っていた。
「疲れた体を癒していきなさい。私も……」
恋は妖艶な笑みを浮かべて剣至に近づいていった。
「勝手に癒されていくわ♡」
「はぁ……」
剣至は何度目かのため息を吐いた。