突然現れた異形の存在に戦っていた全員が驚き固まってしまう。
「やぁ、降臨だよ」
異形の一体が全員に聞こえるように宣言する。
そのうちの一体美丈夫といった容姿の褐色肌で体の局所しか隠していない甲殻のようなものを身につけている異形と目があった天花は即座に危機感と思考を走らせる。
(アレは不味い……!標的を変更する!)
能力を使用しようとした目標を青羽から異形に変更する。
京香も敵を一本角から新たに現れた異形に変更して身構えている。
天花が能力を使おうとした瞬間、褐色の異形が目の前で拳を振り翳していた。
(はやっ……)
振り抜かれた拳は竜巻のような豪風を巻き起こし、拳の先の地形を吹き飛ばした。
「天花ァ!!」
攻撃に巻き込まれたかのように見えた京香が叫ぶと背後に転移の音が聞こえ振り向くと片腕を抑えた天花が片膝をついていた。
「天花!無事か!?」
「うん。だけど片腕やられちゃった……」
天花の右腕は血を流して大怪我を負っていた。
「戦えるか?」
「まぁまぁってところかな」
軽口を叩く天花だがその内は冷や汗を流していた。
先程の攻撃に天花は見えていなかった。
経験と勘により、ギリギリでかわすことができたが傷を負ってしまった。
天花たちが睨み合う中、髪が蛇のようになっている異形が口を挟む。
「壌竜、標的はそっちじゃないよ。あっち」
黒髪の異形が指さす先には青羽が臨戦態勢で壌竜を睨んでいた。
壌竜は青羽を一瞥すると一瞬で姿を消す。
(くるっ!!)
研ぎ澄まされた感覚で壌竜の拳を髪で覆った腕で防ぐ。
(防げた!これならいけ……!)
対抗できると思った瞬間、体に衝撃が走った。
壌竜の拳を防いでいた腕は折られて、その拳は体にめり込んでいた。
その衝撃は青羽の体を突き抜けて、後ろの地面を抉り割り、そのとてつもない攻撃力が目に見えて分かる。
「かはっ……!!」
「姉ちゃん!!?」
青羽は血反吐を吐き、崩れ落ちるのを壌竜が髪を持ち上げて自分の方を向かせると口には既にレーザーを溜めており、持ち上げた瞬間に放とうとしたが壌竜がその口を手で塞いだ。
暴発するレーザーを壌竜は無表情で受け止めた。
「………!!」
「大した根性だ。いい素材になりそうだな」
壌竜が空いた手で青羽を掴もうとした瞬間、天花が転移して来て青羽とともに再び転移して、壌竜から姿を隠す。
「どうして……」
「一旦はアレらを倒すために協力しよう。想定していたより敵が強い」
天花がそう言った瞬間、ハッとした顔になり青羽にふれると即座に転移する。
次の瞬間、そこに壌竜が現れて天花たちがいた場所を粉砕する。
壌竜は再び天花たちが転移した場所を向くとその場から疾走した。
いくつもの爆砕する音が響き、地響きで洞窟全体が揺れる。
(うーん……壌竜、雷煉と戦った男と戦えるからいつもより張り切っているなぁ。お陰で名乗るタイミングを逃しちゃったよ)
もう一体の異形、紫黒は暴れ回る壌竜を見て内心ため息を吐く。
するとこちらを警戒して見張っている京香の視線に気づいてそちらを向く。
「君は行かなくて良いの?」
「お前を無視して加勢出来るはずなどがない」
「ふーん……」
「お前たちは何者なんだ?」
京香の質問に紫黒は内心ではチャンスだと思い、先程の神らしい威厳のある雰囲気を出す。
「僕たちは八雷神。人を滅ぼす存在さ」
「なに……?」
再び大きな爆発音が響き、京香と紫黒がそちらを向くと爆風の中から天花と青羽が飛び出してくる。
2人とも攻撃の余波で大小様々な怪我をいくつも負っていた。
(攻撃の威力が強すぎて転移してもダメージが入る!このままじゃいずれこちらが負けてしまう!)
天花は冷汗を流して焦り、次の一手を考えていると壌竜が痺れを切らした。
「埒が開かないな」
壌竜は腕を地面に突き刺すと地面、壁、天井の岩石が龍の形になり天花たちを狙う。
高速であらゆる方向から襲いかかってくる岩石の龍に更に追い込まれる天花たちは苦しい表情になる。
その時、天花は背後の土から現れた龍が迫ってくるのに反応が遅れてしまった。
「しまっ…!」
「危ない!」
そこに青羽が割って入り、身代わりになる。
喰いつかれた青羽は天花から引き離されてしまう。
噛みつかれながらも龍の口を破壊して脱出するが傷を負ってしまう。
地面に倒れた青羽の下に天花が現れて状態を見る。
「なんで庇ったりしたの?」
「……さっきの借りを返しただけよ」
そこに洞窟の入り口から声が聞こえてきた。
「青羽姉ー!!ってやられてる!?」
「どういう状況なの……?」
サハラや八千穂たちに倒されたココと波音が特殊醜鬼である『熊』に乗って逃げてきたが天花たちの状況に理解が追いつかない。
「組長たちもいた!!」
「のわっ!?何故敵もこちら側にいるんじゃ!?」
少し遅れて日万凛たちも現れて、完全に魔防隊・青羽一派と八雷神との対立になった。
「あらあら雑魚が沢山出てきたね?壌竜?」
「………柱はいないのか、興醒めだ。一気に蹴散らす」
「殺しちゃダメだよ?全員いい素材になる」
壌竜と紫黒が呑気にそんな会話をしているが京香たちは全員が身構える。
「今は彼女たちと協力して、目の前の八雷神とやらを倒すぞ」
『了解!!』
一触即発の中、全員から少し離れた地面が爆発した。
土煙の中から現れたのは地下に落ちたはずの剣至だった。
剣至は周りを見渡し、傷だらけの天花と青葉が目に入り駆け寄る。
「天花、酷い怪我だ。大丈夫か?」
「ケンくん……うん、彼女……奴隷くんのお姉さん、青羽さんがいなかったら危なかった」
天花は敢えて青羽を庇うように言葉を選ぶ。
剣至は青羽の方を見ると青羽はかつてのトラウマから少し肩をビクリと震わせる。
「その怪我、天花を守ってくれたのか。ありがとう」
剣至が頭を下げて感謝を伝えると青羽、ココ、波音は驚いた表情をする。
剣至は京香に目配せをして、天花たちの前に立って壌竜たちと対峙する。
「全員下がってろ。俺が戦う」
「剣至さん!戦うなら全員でやりましょう!」
日万凛がそう言うと朱々、八千穂、サハラが身構える。
「俺もやります!京香さん!」
体が自由になった優希が京香に言うが京香は首を横に振った。
「下がるぞ優希、邪魔になる。日万凛たちも下がるんだ」
「ですが組長!?」
「下がっていてくれ。巻き込む」
剣至は刀を抜いて壌竜に近づいていく。
「……紫黒」
「はいはい、邪魔しないよ」
紫黒は呆れたように答えると壌竜も剣至に近づいていく。
2人は近づきながら刀の柄を握り締め、拳を固く握りしめる。
「シィッ!」
「フッ!」
距離が近づいた瞬間、2人は一気に駆け出し、刀と拳をぶつけた。
凄まじい衝撃が洞窟内に響いた。
壌竜は続けて拳の連打を繰り出すが剣至は全てを体捌きと刀で防いでいく。
壌竜の天花たちを追い込んだ攻撃より強く、一撃一撃が空気を振動させるほど威力だ。
その全てを捌く剣至は冷静に壌竜の実力を測っていた。
(一撃が重い……!受け止めた手が痺れる!)
表情には出さないが冷汗を僅かに流す。
しかし、それは壌竜も同じだった。
(全ての攻撃がいなされる。それにいなされた瞬間に反撃をしてくる。気を抜けない……!)
壌竜の体にも剣至による斬撃で細かい傷が出来ていたがその顔には笑みが浮かんでいた。
2人の攻防はより激しさを増し、いくつもの爆発と衝撃が洞窟内に響き渡る。
「きゃあっ!?」
「す、凄い……動きが全く追えない」
離れたところで見ていた優希たちはその凄まじい光景に慄いていた。
しかし、京香だけは紫黒から目を離さず監視し続ける。
「………」
「……ふぅん(見るだけってのもつまらないな。……そうだ♪)」
紫黒は青羽の側で控えている一本角の醜鬼をほくそ笑み、気づかれないように髪の蛇を千切って地面の影に潜ませた。
○
壌竜は状況を変えようと動き出す。
一度剣至から離れ、天花たちに放った技を剣至にぶつける。
岩砕群龍
龍の群れが襲い掛かるが剣至は身構えて呼吸を使う。
血の呼吸、伍ノ型
赫い剣閃をいくつも描き、まるで舞うように刀を振るって全てを斬り伏せる。
(今のを凌ぐか!流石だ!)
「これで終わらせる……!」
血の呼吸、参ノ型 血流駿歩
見事な剣戟に壌竜が内心で賞賛するなか、剣至は刀を握る力を更に強くして赤い軌跡を描いて走り出す。
それに喜んで迎え討とうと壌竜も拳を握り締めてその拳に岩石を纏わせる。
血の呼吸、壱ノ型 紅斬り
2人の技はぶつかり爆発したかのような衝撃が洞窟内で響く。
「ケンくん!!」
「待て!天花、危険だ!」
あまりの凄まじさに心配になった天花が前に出ようとするが京香が止めに入る。
やがて土煙が一部晴れるとそこには左腕全体が怪我を負い、血を流す剣至が立っていた。
天花たちは剣至が押し負けたと思い、その顔に緊張が走る。
そして壌竜側の土煙が晴れるとそこには硬い外殻で覆われていた右腕が切り裂かれて血を流し、更には右肩も深く斬られていた。
「くっ……!お前は強いな……」
斬られた右肩を抑えて膝をつきながら壌竜は剣至に賞賛の言葉を送り、剣至は壌竜に対して刀を向ける。
「投降しろ。もう勝負はついた」
「いいや、まだだ……!」
壌竜の表情はまだ負けを認めておらず、好戦的な笑みを浮かべる。
纏う雰囲気がガラリと変わり、威圧感が増す。
再び戦いになろうとした瞬間、2人の間に紫黒が割って入る。
「そこまでー。これで終わりだよ」
平坦な声でスルッと入ってきた紫黒に敵意も戦意も感じることなく、剣至は一瞬惚けてしまうがすぐに身構える。
「紫黒、邪魔するな」
「いいや邪魔するよ。流石にやり過ぎだよ壌竜。形態を変えようとしたでしょ?」
「………」
何も答えない壌竜に紫黒は呆れたようにため息を吐くと警戒を解いていない剣至に向き合う。
「悪かったね。ここらで幕引きとしよう」
「逃すと思うか?」
剣至は剣呑な目で紫黒と壌竜を見据える。
「そんな事言っても君の腕も相当ボロボロだけど治療した方がいいんじゃない?」
紫黒は戦いでズタズタになって血を流す剣至の腕を指さす。
しかし、剣至はそれを気にもせず刀の切先を紫黒に向ける。
「お前たちを倒すためなら腕の一本や二本くれてやる。鬼殺隊の柱を舐めるなよ」
覚悟を決めた目で紫黒たちを見る。
その目を見た紫黒はゾクゾクッとした感触が背中に走った。
紫黒は妖しい笑みを浮かべて獲物を狙う蛇のような目で剣至を見つめる。
「いいねぇ、お前。興味が湧いてきたよ。名前は?」
「敵に名乗る名前なんてない」
「つれないなぁ……それはそれとしてあっちいいの?」
紫黒は剣至の後ろを指さすとその先では一本角の鬼が京香たちに襲いかかっていた。
八千穂や日万凛たちは倒れて動けず、今は京香が相手をしていた。
「僕の力で強化したからね。組長クラスでないと太刀打ち出来ないかもね」
「チッ……!」
剣至が一瞬目を離した瞬間に紫黒たちは逃げた。
「じゃあ、またね」
「また戦おう。鬼殺隊の柱」
「くそっ、待て!」
剣至が追おうとしたがそれより先に影の中に逃げてしまった。
紫黒らは自身の能力で移動しながら話し出す。
「壌竜、手酷くやられたね」
「あぁ、予想以上の実力だった。紫黒、鬼殺隊は強いぞ」
「だねぇ、あの月ノ皇と敵対するだけある。それに……」
紫黒は対峙した時の剣至の目を思い出して、体を僅かに震わせた。
「とっても面白そうなものも見つけたしね♪」
「………?」
紫黒は妖艶にペロリと舌なめずりをして壌竜は不思議そうに首をかしげる。
「しかし良かったのか?本来は組長クラスを一体連れ去る予定だったろう?」
「大丈夫だよ。あの鬼を暴れさせた時に2体連れ去ったから」
紫黒が持つ黒い球体の中には囚われたココと波音の姿があった。