剣至は自室にて現世の連絡担当から電話をうけていた。
『1週間後に柱会議を開くとカラスから連絡がありました。所定の時間にこちらにおいでなってください』
「わかった」
剣至はそう言って電話を切って傷が完全に癒えた腕の調子を確かめるように握って開いてを繰り返した。
(相変わらず魔防隊の治療は凄いな……傷跡が一切ない。だけどまぁ一応は機能回復訓練をしておくか)
剣至が病み上がりにも関わらず、訓練をしようとすると突然天花が転移して目の前に現れた。
「天花!?お前、怪我は大丈夫なのか!?」
「魔防隊の医療班は優秀だからね。傷はもうこの通り綺麗さっぱりなくなったよ」
天花は剣至に見せつける肌はいつも通り綺麗な肌だ。
「傷はなくなったけど疲労は残っているだろ?」
「だからね。一番疲労が癒えるケンくんと一緒にいたいなって思ったんだよ」
天花は微笑みながら剣至に抱きついて甘えてきた。
天花のその様子に剣至は少し困った笑みを浮かべて、天花の頭を撫でながら抱きしめた。
「ん……♡ケンくん暖かい♡」
「じゃあソファでゆっくりしようか」
「ベッドでもいいよ?♡」
「流石にそれはダメだ」
○
八雷神が拠点としているとある場所で紫黒と壌竜は留守番だった雷煉とともに捕まえてきたココと波音を卵のような幼体『空折』に与えていた。
「しかし、壌竜もそこまでの深手を負うとはな。全く忌々しい塵共だ」
雷煉は治療が施された壌竜の肩と腕を見て顔を歪めるが傷を付けられた当の本人である壌竜は気にしていないところかどこかワクワクしている表情だった。
「そうか?彼は強かったぞ。鍛え上げられた肉体と精神、そして練り上げられた技術は目を見張るものだった。強者には敬意を払うものさ」
「塵共に何を言っている!?」
雷煉は怒鳴るが壌竜は気にしていない様子だった。
ココ達を吸収して休眠状態に入った空折を見届けて紫黒はその場から離れる。
「紫黒、どこに行くのだ?」
「壌竜じゃないけど僕も鬼殺隊の柱に興味を持っちゃってね。ちょっとチョッカイをかけてくるよ♪」
紫黒は舌なめずりをして楽しそうな顔をした。
○
八雷神との戦いから数日が経ち、柱会議まであと数日となった頃、剣至と天花は夜を一緒に過ご、下着だけを付けた状態で寝ていた。
そこに黒い渦が突然出現し、そこから紫黒が音もなく現れる。
(やっぱり力を抑え込めば魔防隊の結界を通り抜けることができるみたいだね)
そして寝ている剣至を見て、悪戯っ子のような笑みを浮かべて近づいていく。
(いたいた♪寝ている間にちょっとした暗示をかけて、無意識に僕たちの味方をするようにしておこうかな)
紫黒が指先に黒いエネルギーを貯めて剣至の口に手を伸ばす。
もう少しでその指先が剣至の口に届きそうになった瞬間、その腕を剣至が掴んでベッドに上下に入れ替わるように引き倒した。
「あれ?起きてたんだ?」
「お前がこの部屋に入った瞬間に気づいた。それで……」
剣至は紫黒の喉元に短剣を添えて睨む。
「何でわざわざ敵地に忍び込んだ?」
敵意を向けてくるその目に紫黒は再びゾクゾクとした感覚が背中に走る。
「ッ!………君に興味が出ちゃったんだよ。僕のモノにしようと思ってさ」
「ふざけてるのかしら?」
剣至の隣で起きていた天花がドスが聞いた目で紫黒を睨む。
「ふざけていないよ。わざわざここまで侵入しないし。君に興味が出たのは本当さ。で、君の名前は?」
「殺す」
「落ち着け、天花。コイツは重要な情報源……」
視線を少し天花にそらして注意した瞬間、紫黒の手から黒い蛇が剣至に向かって放たれ、僅かに顔をずらして避ける。
しかし、その時に紫黒の拘束が緩んで逃げ出す。
「ケンくん!?」
「大丈夫だ」
「へー、ケンくんって言うんだ。じゃあ僕もそう呼ぼうかな?」
「やっぱり殺す」
「だから落ち着けって」
「ふぅ、しかし中々熱烈に掴んでくれたね。見てこれ、痣が出来てる。傷物にされちゃったなー」
紫黒は掴まれた腕に出来た痣を見せつけて剣至を責める。
「問題ないだろ。お前は本物じゃないんだからな」
「なーんだバレてたか」
「前に会ったときに比べて存在感が違う」
それを聞いた紫黒は改めて剣至の相手の実力を的確に推し量れる眼と一連の動きを認識して更に興味が出てしまい、不気味な笑みを浮かべた。
「流石!あの月ノ皇と戦う鬼殺隊の柱だ」
「何だと?」
その瞬間、剣至から殺気が溢れ出し、紫黒はビリビリとした空気を肌で感じてようやく理解した。
「あー、ようやく分かったよ。何で僕が君に興味を持ったのか」
紫黒は天花を無視して剣至を見つめる。
「君のその目だ。怒り、恨みなどの激情を全てを混ぜ込んだ目。君ほどの激情を詰め込んだ人間は僕は知らない。だから興味を持ったんだよ」
「何故月ノ皇を知っている」
「その殺気、まるで君が鬼じゃないか」
「答えろ。お前らは月ノ皇と関わりがあるのか」
「やっぱり君が欲しいな」
「答えろ!」
剣至は呼吸で身体強化された足で一瞬で紫黒に近づいて胴体目掛けて、短刀を振り下ろすがその前に紫黒の体は泥と変わってしまう。
「今日はここまでにしておくよ。また会おうね、ケンくん」
「待て!!」
泥に短刀を突き刺すが全て溶けてなくなってしまった。
剣至はその場に立ちすくみ、紫黒が消えた床を睨んでいた。
(月ノ皇……)
無意識に短刀を握る力が強くなってしまう。
天花は剣至に声をかけようとするが剣至から漏れ出ている殺気に躊躇してしまう。
「……っ」(まるで抜き身の刀のような殺気……!近づくだけで斬られてしまいそう……!)
剣至は一息つくとその殺気も少し薄まる。
「一端、皆を起こそう。結界に綻びができているかもしれない」
「……うん」
その後、いったん寮にいる全員を起こし、警戒を強める。
そして警戒のため全員が同じ部屋に寝ることになったが剣至は1人刀を持って、隣の部屋のソファに座って、収まらない怒りを落ち着かせていた。
「……ふぅ」(ダメだ。心が落ち着かない……京香のことを言えたものじゃないな)
怒りを抑えようとするがそれ以上に湧き出てしまい、無意識に刀を握る力を強くしてしまう。
そこに天花がゆっくりと入ってくる。
「大丈夫?」
「天花……あぁ大丈夫だ。戦闘が終わって気が知らず知らずのうちに抜けてたのかもな。気を引き締め直した。もう侵入されてもあんな遅れは取らないさ」
(私が心配しているのは敵のことより、ケンくん自身のことなんだけどね)
天花は何も言わずに剣至の側に座り、その膝に頭を乗せた。
「天花?」
「ごめんね。今はこうさせて」
剣至は何も言わずに天花の好きなようにさせて、膝に乗せてある天花の頭を優しく撫でる。
天花は気持ちよさそうにしながら考えてしまう。
(ケンくん……私は君が月ノ皇を討つために君自身が壊れてしまわないか凄く心配なんだよ?)
天花は撫でてくれる手を取って軽く口付けすると愛おしそうに頬擦りする。
(やっぱり私一人より……)
天花は微睡む意識の中で考えていた。
○
後日、剣至は六番組の
外に出ると黒塗りの車が止まっており、それに乗ると前の席には鬼殺隊の諜報、裏方をこなしてくれる隠が男女2人座っていた。
「ご到着お待ちしておりました。紅柱様」
「では規定通りにこちらをお被りください」
差し出されたのは顔を覆う黒い頭巾だ。
剣至は何も言わず、それを被ると男性の隠が話し始める。
「それではこれより意識を奪わさせていただきます」
「我々が責任を持って紅柱様をお館様がいらっしゃる本邸にお連れ致します」
「頼むよ」
女性の隠が剣至の前に手を翳すと、剣至は意識を失った。
次に意識が戻ると剣至は頭巾を外されて、屋敷の広い日本庭園に立っていた。
「……俺が一番乗りか?」
「いいや、お前は最後から2番目だ」
声をかけてきたのは銀色短髪の外国人の顔立ちをしている男だった。
その男は隊服の上にコートを着ており首には十字架のアクセサリーをつけている。
背中にはギターケース程の長方形のケースを背負っていた。
「ヴァルか。久しぶりだな」
「久しぶりだ。剣至はこちら側に来ること自体久しぶりだろう?……っと世間話はこのくらいにして中に行こう。殆ど揃ってる」
2人は中庭の奥に進んでいくなかで剣至が話しかける。
「俺以外に来ていないのは?」
「……いつも通り、東だ」
「あー……」
ヴァルが不機嫌そうに答えると剣至は呆れたように納得した。
やがて中庭に到着するとそこには6人の男女が集まっており、剣至達に気づいた。
「遅いぞ!剣至!」
炎のような髪色で後ろでまとめている髪型をし、炎の刺繍がされた羽織を肩にかけ、溌剌とした気概を感じる女性が剣至に声をかけた。
「杏寿さん!久しぶりです」
「うむ!久しぶりだな!だが遅いぞ!」
「……すいません。どうしてもこっちに来るために門を通らないといけないんですけど手続きが色々と面倒で」
「ならば早めに行動しないとな!次からは注意しなさい!」
「気をつけます」
2人が話しているところに腕を隠す袖の羽織を着た30代後半の男性が話しかけてきた。
「おい武藤、東はどうした?」
「藤川さん、アイツはいつも通りの遅刻ですよ」
「あ"ぁ?」
男は傷だらけの顔で剣至を睨み、ドスの効いた声で唸り声を上げて詰め寄る。
「藤川さん、武藤くんに詰め寄っても意味がないですよ」
「なんだと?」
「言うなら本人に言わないと意味がないですよ?」
藤川を宥めるのは目を布で覆い、淡い黄色の羽織を着たショートヘアの女性だ。
そしてその様子を青色に水の波紋のような意匠があしらわれた羽織を着た10代後半の根暗そうな少年だった。
(藤川さん……相変わらず気難しそう。少し離れていよ)
少し横にずれて剣至から離れる鱗滝の隣では10代のギャルのような格好をした少女が隣の白い羽根で作られたコートを着た女性に異様にキラキラにデコレーションされた刀を見せていた。
「見て翼さん!あーしがデコった日輪刀!かわいーしょっ!」
「可愛いけど……振りにくくないかしら?」
全員がまとまりなどなく各々が時間を過ごしていると唐草色の羽織を着た男が屋敷から出てきた。
「全員揃ったか?」
李和が全員の顔を見ると怪訝そうな顔になり、剣至に質問する。
「武藤、東はどうした?」
「何でみんな俺に聞くんだ?」
「お前はアイツの世話係だろうが」
左慈がそう言うと剣至は苦い表情になる。
「さあ?いつもの遅刻じゃないですか?」
「今すぐ連れてこい」
「どこにいるか分からないのに無理ですよ」
剣至の言葉に左慈は元から怖い表情が更に険しくなり、李和に顔を向ける。
「李和、やはり東は柱から外すべきだ。こうして隊律を乱している」
「……柱を決めているのはお館様です。俺たちがどうこう言える立場じゃない」
李和が不服そうだが仕方ないといった顔に左慈はより不機嫌になる。
その時、沙耶が何かに気づいたのか庭の入り口に顔を向ける。
「来たみたいですよ」
沙耶の言葉に全員が同じ方向を向く。
そこにはこちらに向かってくる1人の男性がいた。
黒髪を後ろで纏めた髪型に額に走る
「遅いぞ、東」
「……」
李和が代表として注意するが十灼は気にすることなく近くの木に寄りかかって目を瞑った。
その態度に李和と左慈の額に血管が浮き上がるほどの怒りを露わにしてしまう。
不味いと思った剣至は十灼の前に立って謝るように促す。
「十灼、一言謝ったほうがいい」
「何故だ?ちゃんと間に合ったじゃないか?」
「態度が悪いんだよ!このままだとまた藤川さんと北條寺さんに呼び出されるぞ」
「知るか。そもそも俺はこの集まり自体も必要だと感じていない」
「お前なぁ……」
十灼の慇懃無礼な態度に剣至は呆れた顔をしてしまう。
その時、部屋の奥から着物を着た少女が現れる。
「お館様のおなりです」
その言葉に全員が並んで膝まつき、輝耶が登場するのを待つ。
やがて車椅子に乗った輝耶が先の少女に押されて現れた。
「久しぶりね、みんな。変わらず元気そうでなによりだわ。それでは柱合会議を始めましょう」