惑星間コーラル戦争から数百年の未来。
誰も勝者になりえなかった人類は自らが汚染し尽くした星系を見限り、別の星系に移り住んだ。
移住先に決めた惑星は、人類が数世紀前に旅立った母星である在りし日の地球と同じような環境であり、そこに清浄な生活空間を見出していた。
既に人類の過半は第二の地球へ移住し、大半の人々は惑星間コーラル戦争で疲弊した心身への癒しを求め長い、長い時間を過ごした。
一方、惑星間コーラル戦争の原因であった、コーラルは多方面への応用が利く万能性から、人類文明の飛躍的な発展に寄与すると期待されていたが、星系を何度も焼き尽くした過去からコーラルに関わるとどうなるのかを理解した人類により、コーラルは新しい監視機構の管轄下におかれ、コーラル技術は永久封印指定とされた。
今や多くの人々は惑星間戦争があった過去などを忘れたかのように平和を享受し日々を過ごしている。
アフターコーラル216年
そんな中、平穏な学生生活に飽いてる男子と全てを焼き尽くすイレギュラーが、邂逅しようとしていた。
「突然だが、このクラスに新しい仲間が増える」
そう、ミシガン先生は教壇で俺たちを睨みつけながら言った。
「「「………?」」」
俺達はしばらくの間、ミシガン先生が発した言葉が理解できなかった。
怖い顔をしながら教室に入り『……お前たちに話がある』っと、これから転校生を紹介する雰囲気ではない状態で言われたのだから雰囲気とのギャップで理解をするのに時間が掛かるのは仕方がないことである。
「そ、それは、つまり転校生ってことですか先生!?」
「そんなアニメや漫画の中のような出来事って実際に起きるものなんですか先生!?」
「女の子ですかッ!?美少女ですかッ!?」
「静かにしないか、役立たずども!!」
やっと状況を理解できた馬鹿どもが騒ぎ出したが、ミシガン先生の一喝で黙らされた。
「まずは、転校生の紹介からだ……入って来い!!」
ガラガラと教室の扉が開き、教室に女子が入って来た。
身長は150cm程度。
穢れを知らない純白の髪は短く切り揃えられているが、毛髪の一部が左目を隠している。
また頭頂部からアンテナの様にピンと髪の毛の一部が飛び出てしている。
肌もまたとても白く、まるで物語に出てくるお姫様はこんな肌をしているんだろうと印象付けさせられる。
そして、何よりも――
「初めまして。私の名前は621……いいえ、レイヴンです」
クラスメイト全員……特に俺を含めた男子全員は彼女のポヨンポヨンと揺れる胸部装甲を凝視していた。
(((デッッ!!)))
「……?」
転校生『レイヴン』は、そんな俺たちの様子を見て不思議そうに首を傾げていた。
第壱話「転校生、襲来」
「席は、そうだな……真ん中の席で良いだろう」
「はい」
テクテクと歩きながら胸部装甲をポヨンポヨンとさせ転校生は、俺の隣の席に座った。
「……よろしくね?」
「………」
俺は転校生の挨拶をシカトした。
俺は不良であると自覚している。
髪も赤いショートモヒカンでツッパっていることを強調している。
そして、毎日喧嘩三昧で、どこかしらで殴り合いをしている。
この学校はもちろん、この町で有名な不良でありと自他共に認めている。
そんな、不良である、この俺が、美少女デカパイ転校生と仲良く話すなんてあり得ない。
「今、挨拶をした奴はイグアスという。おい、イグアス!折角隣になったんだから、転校生の面倒を見てやれ!!」
「……はぁ?」
ミシガン先生からそう言われて、俺はつい困惑の声を出してしまった。
まさか俺に話が振られると思っていなかったからだ。
「ケッ、俺が転校生の世話をしろっていうのかよ……俺も舐められたものだな」
「……ほう、俺のいう事を断るというのか?」
「ああ、願い下げだね」
「よう、転校生。お前のような木っ端は知らないだろうが……」
目の前に大人しく座る転校生に、俺はミシガンに殴られてできたタンコブの痛みを感じながら、この場所でのルールを教えてやる。
「ここではご飯、味噌汁の大盛・おかわりは無料。そこに見える強面のババアに言えば、望みの調味料も出してもらえる」
俺達は今、食堂に来て昼飯を食べに来ている。
別にミシガンの鉄拳制裁を受けて大人しく転校生を案内している訳ではない。
断じて、そういう訳ではない。
「うんうん」
「そして、大盛のチャレンジメニュー……通称『壁』があるが……まあ、女であるお前には関係ないだろうな」
俺の話を聞きつつ転校生は目を輝かせて山盛りのご飯とからあげを幸せそうに頬張っている。
……転校生の食いっぷりを見た俺は、チャレンジメニュー『壁』は本当にコイツには関係はないよな?っと少し疑問に思った。
「……何やってんだイグアス?」
「あぁ?……何だ、ヴォルタか」
二杯目のご飯を食べている転校生の姿を見て、まだ食うのかよコイツ……とか思っていたところに190cmはあるだろう大男に話しかけられた。
コイツの名前はヴォルタ。
俺と同じ不良だ。
筋肉隆々で黒い髪は短く切り揃えられており顔も怖い。
まず初代面だと相手に怖がれる可哀そうな奴だ。
ヴォルタは俺達に許可を得ようとせずに同席する。
「それで、この見かけの割に食っている可愛い嬢ちゃんが噂の転校生か?」
「ああ、そうだ……この強面の名前はヴォルタ。こっちのアマはレイヴンだ」
「よろしく、ヴォルタ」
「ああ、よろしく、レイヴン……悪ぶっているイグアスのこともよろしく頼む」
「はぁ?てめぇ、ヴォルタ、何を言っていやがる」
「うん、わかった」
「おい、何なんだお前ら……いや、言わなくていい。反論が面倒だ」
俺はそう言いながら席を立ち、すでに食い終わっている食器を返却台に置きに行った。
ミシガン先生からは面倒を見るように言われているが、何で不良の俺が言うことを聞かなくちゃいけないんだよっと、改めて思い始めるようになった。
(こんな
「イグアス」
「……授業中だ、静かにしてろ」
「教科書見せて」
「……ほらよ」
「イグアス」
「今度はなんだ」
「この部分が分からない」
「……先生に聞け」
「………」
「そんな悲しそうな目で見るな。チッ、いいか?この式にはだな……」
「イグアス」
「………」
「トイレはどこ?」
「男の俺に聞くなよ!?」
「流石に俺もそこまで面倒を見ろとはいっていないのだがな……」
「何であのアマは、いちいち俺に話しかけて来るんだよッ!?」
俺は放課後の屋上でヴォルタに今日一日の出来事を不満を吐き出した。
ヴォルタは棒付きキャンディーを口に入れながら俺の話を聞いていた。
「……それでも、ちゃんと面倒を見てやってんだな」
「なんか言ったか?」
「いいや、何も」
「ケッ、どいつもこいつも……」
「あ、イグアス見っけ」
出入り口の扉が開いたと思ったら、ちょうど話をしていた転校生がやって来た。
ヤツの言葉から察するに、俺を探していた様だ。
「今日は厄日か?」
「いくら何でも可愛い女の子が探しに来たんだから、その言い様はねーだろ?」
「チッ……いくら何でも言い過ぎたか……」
そんなこんな言っていると転校生はテクテクと俺たちの方に近づいてきた。
「イグアス、放課後だよ。帰ろ?」
「……なんでいちいち俺に話しかけてくるんだ?」
「イグアスが私の面倒を見てくれるんでしょう?」
「……どうして、テメーは俺の場所を知ってるんだ?」
「ミシガン先生が『イグアスなら、この時間は屋上にいるだろう』って」
「あの野郎ッ!!」
もう放課後だろうが!!
面倒を見るって、放課後まで含まれてんのかよ畜生!!
そんな言葉を飲み込んでいると、ヴォルタから話しかけられる。
「まぁまぁ、急に大きな声を上げるなよ。突然そんなことをされるとレイヴンも驚くだろう?」
「……転校生、悪かっ――」
「それに、そんな悪い話ではないだろう?こんな別嬪さんを侍らせられるんだから」
「殺すぞ、ヴォルタ?」
「……?面倒を見ているのはイグアスだから、私を侍らせる*1はちょっと違うんじゃ?」
「言葉の正誤は重要じゃねーよ、転校生……」
数学は得意じゃないのに、国語はそうでもないんだなっと密かに思いつつ俺は立ち上がる。
「イグアス、どうしたの?」
「……テメーが言ったように放課後だ。学校でちょっと時間を潰してから今から下校するんだよ」
「一緒にいていい?」
「……好きにしろ」
「嬢ちゃん、これが男のツンデレって奴だ」
「ふんふん、なるほど」
「………」
いつ、だれが、デレたんだよ?
突っ込む気力も湧かず無言で屋上の出入り口に向かう。
他の二人は俺に続く形で後ろからついてくる。
――っと、思ったら、扉を潜ったタイミングで転校生が急に俺の前に出てくる。
そして、正面から俺と向き合う。
……体を反転させた動きで主張された胸部装甲につい目が行きそうになったが、気合で転校生の顔に集中する。
「……階段の近くで走ったり回ったりするとあぶねーだろうが
「イグアスに伝えたいことがあるんだ」
「……なんだよ」
そう聞くと、転校生は――レイヴンはとびっきりの笑顔で俺に向ける。
「イグアス、今日はありがとう」
「……おう」
俺は恥ずかしくなり、言葉に詰まり『おう』としか返せなかった。
「クスッ」
俺の内心を見透かしたかのように微笑むと、彼女は反転をし階段を降りようとする。
……転校生が階段に走るように向かう姿を見た俺は、一応声をかける。
「おい、そんな勢いよく階段を――」
「……あっ」
転校生の声が聞こえる前に、俺たちは見てしまった。
両足が完全に階段から離れ、投げ出されたかのように宙にいる転校生の姿を。
「転校生ッ!?」
俺は咄嗟に身を乗り出して手を伸ばし、転校生を助けようとする。
なんとか転校生の手を握ることが出来た……しかし、身を乗り出した所為で俺もかなりバランスを崩してしまった。
「お、おい、お前ら!?」
一瞬反応が遅れて、手を伸ばしたヴォルタは俺のもう片方の腕を掴んで引っ張ってくれようとしている。
だけど、流石の大男でもほぼ空中にいる二人分の体重を引き寄せることが出来きずに、俺達三人は仲良く階段を転げ落ちた。
体中に感じる痛みと、そして顔面を圧迫する柔らかい何か、そして後頭部への強い衝撃が一瞬の内に感じた。
「う、うぅ、あれ?……イグアス?……イグアス!?」
「何か凄い音がしたけど、大丈夫……う、うわぁぁ!?」
「イ、イグアスとヴォルタが倒れてる!?」
そして、俺はこの後の記憶が定かではない。
気が付いたら保健室のベットの上で寝ていた。
(……いや、転校生を助けようとしたところまでは記憶にあるんだ)
俺は無言のまま体を起こし自分の顔に手を当てる。
手を伸ばして、転校生とヴォルタと三人で階段を転げ落ちたんだ。
(そして、そう、確か、俺、転校生の胸に顔をうずめていなかったか?)
俺はその事実に気付き急激に顔も耳も赤くなるのを自覚する。
(という事は、あの顔に感じていた柔らかい物は――)
自分は何をやらかしたのか考え直している最中に隣のベッドに寝ている大男に声をかけらた。
「やっと起きたか、イグアス」
「ああ」
「覚えているか?転校生を助けようとして仲良く三人で階段を転げ落ちたんだと」
「ああ」
「幸い、打撲とかの怪我をしたのは野郎二人だけで、レイブンには軽い擦り傷程度だ」
「……ああ」
「だけどお前、レイヴンのこと助けようとして後頭部を強打したんだって?大丈夫か?」
「……ああ」
「……どうしたイグアス?」
「……なんでもない」
俺はあの時の感触を感じた頬に手を当てながらヴォルタの話を切り上げて布団に包まる。
ヴォルタはおかしなことをする奴だなと思い、その姿を見ていた。
どうやら、ヴォルタは落下の最中の詳細な出来事を見ていない様だ。
俺はそう考えつつも、先ほどからまったく別の考えが出てきて集中しきれないでいた。
――そう、その考えとは……
(おっぱいって、あんな柔らかくて暖かいのか!?)
不良と言えども、年頃の男子高生。
女の子の手を握るのも、女の子の胸部装甲を体感するのも初めての事であった。