ーヒナsideー
対面窓越しに見た先生は、酷く憔悴していた。まるで、生きる希望を失ったかのように。
一体先生の身に、何があったのかと思ったその時、外で出会ったホシノの事を思い出す。
自分の番になるまでの間、先生は多くの生徒達と会ったのだろう。そして、その度にもしかしたら……。
そんな先生を目の当たりにした私は、ただ呆然とするしか出来なかった。
それなのに……。
「ヒナ……大丈夫? ちゃんと食事はとってるの?」
先生は、自分の事ではなく、私の身を案じてくれたのだ。
この数日間、先生の無罪を証明する為に、聞き込みを行ったが、成果を得られなかった。
それどころか、先生が犯人であると、そう主張している生徒の方が圧倒的に多く、話も碌に聞いて貰えなかった。
更には、先生の悪口を言う生徒の話を聞く度に胸が締め付けられる感覚に襲われたのだった。
私は一体どうすればいいのだろう?
先生を救いたいのに……その方法が分からない。
自分がこれ程までに無力な存在なのだと、そう実感する程に、無力感に苛まれてしまう。
「……先生」
気が付けば、私は泣いていた。涙を流す権利など私にはないと分かっているのに、それでも止まらなかった。
先生の存在がどれだけ私にとって大事な存在だったか、それを再認識し、そして同時に、そんな存在を守りたいのに何も出来ない自分が悔しかった。
「どうして、先生がこんな目に合わないといけないの?」
もしも、私にもっと力があれば、先生が無実である事を証明できたのに。今の私には何も出来ない。それが悔しくて堪らなかった。
「先生と別れた後、先生が捕まったって聞いて、頭の中が真っ白になった」
何時も通りの日常が始まると思っていた。しかし、現実はあまりにも残酷で、私は絶望した。
「先生が犯人だって証拠が沢山出て、皆、先生が犯人だって信じて疑わなかった」
テレビの情報からは、先生が現場から逃走する映像が流れた。画質が悪く、背格好のみでしか判断出来ないものだったとしても、専門家達がこぞって先生が犯人だと断定した。
そこから、多くの匿名からなる証言が、まるで真実であると裏付けるように、次々と出てきた。
「私は、先生が無実だって信じてた。頑張って無実である証拠を探し続けた。それでも、ダメだった……」
日を追う毎に、先生にとって不利益な情報ばかりが出回り、SNSでも、先生を糾弾する声が高らかに叫ばれた。
「先生の無実を証明出来なくて、ごめんなさい」
何も出来ない無力な自分を呪いたくなる程に悔しくて堪らなかった。
「私は……先生がそんな事しないって事、知ってる。ずっと見てきたから」
先生は何時も生徒の為に行動し、時には自分の身を犠牲にしてまで生徒達を守るような人だ。
そんな先生を見てきたからこそ、先生が無罪である事を知っているのに。
「絶対見つけるから。先生が無実だって証拠を。必ず見つけるから……だからっ」
だから……。
「先生、諦めないで……」
そんな私の願いは叶うのか?
いや、叶えなくてはならないんだ。それが、私が今出来る唯一の事なのだから。
しかし、何処までいっても、現実は無慈悲に、残酷なまでに、先生を追い詰めていく。
ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、そして、様々な学園からの先生の辞任要求。
事態の収拾を図っていた連邦生徒会のリン行政官ですら、先生を擁護する事が困難となり、暴動が本格化する前に、先生からシャーレの権限を剥奪。
先生は、文字通り全てを失ったのだ。