冤罪先生   作:モノクロさん

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第12話

 振り下ろされた銃身は、咄嗟に先生を手放したワカモに触れる事なく空を切り、そのまま地面を深々と抉り取るように大きな窪みを作り上げた。

 

「……っ」

 

 突然の奇襲に、ワカモは驚きの表情を浮かべながら私を見つめる。その表情からは、『何故貴女が?』と困惑の色が見られ、彼女もまた、私が先生を助けたいと思っている側だと信じていたようだ。

 

 私は、そんなワカモを睨みつけながら口を開く。

 

「先生を何処へ連れて行くつもり?」

 

「……っ」

 

 そんな私の気迫に、ワカモはじりじりと後退る。

 

「先生を連れ去ってどうするつもりと聞いている」

 

 分かりきった答えだ。それでも、私はワカモに確認せずにはいられなかった。

 

 刹那、ワカモの銃から放たれる銃弾と、地面に零れ落ちる空薬莢。

 

 その銃弾を、私は紙一重で回避しながらワカモとの距離を詰める。

 

 ワカモの銃剣と私の銃身が鍔迫り合い、火花が散った。

 

「ゲヘナの風紀委員長さん。貴女は此方側だと思っていましたが、どうやら勘違いだったようですね」

 

「…………」

 

「そこを退きなさい。先生は私が……」

 

「どうやって守るの?」

 

「っ!!」

 

 私の言葉に、ワカモの目が見開かれる。

 

「先生と私達では、身体の作りが違いすぎる。先生にとって、銃弾一発ですら致命傷となる。それなのに、どうやって守るの?」

 

 その事を、私はエデン条約で嫌という程思い知らされた。

 

 アリウスの凶弾から先生を守れなかった。その事が、私にとってどれ程辛い事であったか。先生を守れなかった事に対する自分の無力さが、どれ程憎く思ったか。

 

 そして何より、先生にとって耐え難い事が何か。あの時、面会室での遣り取りで、それを嫌と言う程思い知らされた。

 

「それに、先生にとって大事な生徒に、犯罪の片棒を担がせる事に、抵抗がないと本気で思っているの? どれ程苦しむか分かってるの?」

 

「っ!!」

 

 ワカモの目が動揺に揺れ動く。そして、そのまま後ろへと後退るが、私は更に距離を詰めた。

 

「此処で先生を犯罪者にすれば、生徒達は先生を容赦無く撃つわ。生徒にそんな事をさせて、先生がどう思うか、貴女に分からないの?」

 

 ワカモの顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。そんな彼女と睨み合いながら、私は銃身で押し返しながら言葉を続けた。

 

「それでも、我を通すというのなら、私が相手になるわ」

 

 そんな私の言葉に、ワカモは銃剣で私の銃身を押し返しながら、口を開いた。

 

「貴女の言いたい事は分かりました。しかし、それでも私は先生を守る為に此処へ来たのです」

 

「……っ」

 

「押し通らせて貰いますわ!!」

 

 ワカモが引き金を引くのと同時に、私は咄嗟に回避行動を取る。その隙に、ワカモは距離を取りながら発砲してきた。

 

「っ!!」

 

 銃弾を紙一重で回避しながら、私は駆け出した。此処で、ワカモを野放しにする事は出来ない。

 

 同じく先生を思う彼女に銃口を向ける。引き金を引く度に、銃口から銃弾が放たれる度に、私の胸が激しく痛む。

 

 そして、ワカモを止めるという思いとは裏腹に、心が周囲の生徒達に訴えかけた。

 

 ……誰でもいい。誰でもいいから。

 

 どうか彼女に……狐坂 ワカモに助太刀を。

 

 誰か声を、誰か声を上げてくれ。『先生を助けろ』と『狐坂 ワカモに協力しろ』と声を上げてくれ。

 

 そうすれば、先生を取り巻く理不尽な状況を変える事が出来るかもしれない。先生を守る事が出来るかもしれない。

 

 だから……誰か、お願いだ!!

 

 誰か彼女の想いに応えてくれ!!

 

 私ではダメだ。ダメなんだ。

 

 私が積み上げてきた努力を誇らしいと言ってくれた先生の言葉を、私が裏切るわけにはいかない。だから……。

 

 その思いとは裏腹に、動きを見せるのはヴァルキューレの生徒だけで、他の生徒も報道陣も、全く動こうとしなかった。

 

 誰も動かない。誰も声を上げない。

 

 遠巻きに私とワカモの攻防を、ただ黙って見つめる事しか出来ない。

 

 誰も……いないと言うの?

 

 皆、先生を助けたいとは思っていないの?

 

 先生を……見捨てると言うの?

 

 視界がぼやける。思考が停止する。此処には、先生の味方は、誰もいないと言うのか?

 

 ワカモの銃弾が、私の頬を掠める。その痛みに、私は思わず顔を顰めた。

 

 身体が膠着する。その一瞬の隙をつき、ワカモが銃剣の切先を私に向けて、突進してきた。

 

 回避は間に合わない。殺意の籠った一撃。それだけ、彼女も必死なのだ。

 

 その切先が届く寸前、私は目を瞑った。

 

 しかし、彼女から放たれた一撃が私に届く事はなかった。

 

「……ぇ」

 

 私は、思わず声を漏らす。そして、ゆっくりと目を開ける。すると、そこにはワカモを押し倒し、動きを封じるカンナの姿があった。

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