冤罪先生   作:モノクロさん

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第14話

 ヒナに気を取られていた隙をつき、ワカモを取り押さえる事に成功したカンナ。

 

 日頃より荒事に慣れている事もあり、相手を組み伏せる術を持つ彼女であれば、ワカモの動きを制する事は造作もない。

 

 しかし、カンナの目的はワカモを制圧する事ではなく、あくまでも身動きを封じ、ほんの僅かな時間、先生の意思を伝える事にある。

 

 対してワカモは、カンナの拘束から逃れようと、必死に身体を捩る。

 

「なっ!! くっ!! 離しなさい!! 先生を罠に嵌めたヴァルキューレの狂犬がっ!!」

 

 ワカモが叫び、暴れ回る。それでも、カンナは彼女を拘束する力を弛める事はない。

 

 先生を罠に嵌めた狂犬か。

 

 確かに、その通りなのかもしれない。

 

 殺人事件の容疑者として先生の名が浮上し、彼を任意という形で拘束し、そして今に至る結果を考えれば、その時の当事者である私は、先生を罠に嵌めたと思われてもおかしくはない。

 

 その罵倒も、罵りも、誹りも、甘んじて受け入れよう。

 

 混乱を抑える為とはいえ、私は先生の行動を制限し、更にキヴォトスで起きている情報を遮断させ、そして……。

 

 先生の関与する余地を無くし、彼からシャーレの権限を剥奪させ、全てを奪った原因を作った立場なのだから。

 

 狐坂 ワカモ……本音を言えば、お前が羨ましい。何にも縛られず、己が信じた道を、何の躊躇いもなく進む事が出来るお前が、心の底から羨ましく、そして妬ましい。

 

 全てを投げ出し、責任を放棄すれば、私も同じ事が出来たのだろうが、言うのは簡単だ。

 

 だがそれは、これまで守り続けてきた秩序を乱す行為であり、それを、責任ある立場の者がすれば、それは無責任というものだ。

 

 と、その無責任な行動を取ったヴァルキューレが何を言っているのだか。そう自傷気味に笑いたくなるのを堪えながら、私は小声でワカモを説得した。

 

「その件については謝罪する。先生には本当に申し訳ない事をした」

 

「っ!!」

 

 私の謝罪の言葉に対して、ワカモは信じられないと言った表情を浮かべながら、私を睨み付ける。

 

 そんな彼女に、私は更に続けた。

 

「言い訳はしない。だが、此処でお前とヒナが争う事を、先生が望んでいない事を、どうか理解してくれ」

 

「何を……今更……」

 

 ワカモが、歯を食い縛りながら私を睨む。

 

「あれだけ先生を乏めておきながら、今更……何をっ!!」

 

 ワカモが怒りを露にする。それはそうだ。先生が犯人であるかのような報道に対し、ヴァルキューレは『何もしなかった』。

 

 上司にその事を抗議しても、何も変わらなかった。彼女が怒りを露にするのは当然の事だ。私はそれを承知の上で、ワカモに伝えた。

 

「そうだ。私は何も出来なかった。上の命令に従い、何もしなかった。言い訳の余地もない。だが、彼女だけは違う。彼女はずっと、先生が無罪であると信じて行動していた。お前と同じく、先生を助けたいと、ずっと行動してきたんだ」

 

「……」

 

 私の言葉を受け、ワカモがヒナへと視線を向ける。そして、彼女はそのまま先生へと視線を移した。

 

 ヴァルキューレの生徒達に囲まれた先生は、ただ黙って二人を見つめていた。その表情は何処か悲しげで、二人が争う事を望んでいない事を、ワカモは理解した。

 

「だから頼む。このまま続ければ、悲しむのは先生なんだ。先生の事を思うなら、どうか此処は引いてくれ……頼む」

 

「…………っ」

 

 ワカモは暫く黙っていたが、やがて諦めたのか抵抗をやめた。その事を確認した私は、ゆっくりと彼女を拘束する力を弱めた。

 

 次の瞬間、ワカモは素早く上体を起こすと、そのまま私の顎に向けて頭突きを繰り出した。

 

「っ!!」

 

 突然の事に反応が遅れた私は、その一撃をまともに受けてしまい、思わず後ろに仰け反った。

 

 そして、拘束から逃れたワカモは、カンナとも距離を取り、周囲の状況を確認しながら、忌々しげに身を翻し、走り出す。

 

「先生、申し訳ありません。ですが、このワカモ、必ずや先生をお助けします」

 

 それが、彼女の妥協点だった。

 

 ワカモはそのまま人だかりに向かって走り去り、やがて人に紛れてその姿を消すのであった。

 

 顎がヒリヒリする。

 

 しかし、彼女なりの配慮なのだろう。

私はゆっくりと立ち上がると、周囲を見渡した。

 

 報道陣は、相変わらずニュースのネタになったと喜んでおり、ヒナとワカモの攻防を動画で撮影していた生徒達も、良いものが撮れたと満足気だ。

 

 そして、先生は、二人がこれ以上争う事はないと安堵してはいたが、肉体的にも精神的にも、消耗し切っているのが分かる。

 

 そしてヒナは……。

 

 此処に集まった生徒達全員が、先生に味方する事がないのだと悟ったのか、その顔からは諦念の感情しか読み取れなかった。

 

「先生、お怪我は?」

 

 私は先生に声を掛けるが、先生は首を横に振る。

 

「大丈夫だよ、カンナ。ありがとう」

 

「いいえ、これも仕事ですので」

 

「そっか。それでも、二人を止めてくれて、本当にありがとう」

 

「…………」

 

 やめてくれ。私は先生に感謝される立場ではないのだ。

 

 先生の無実を証明する事も出来ず、矯正局に送る事しか出来ない私が、先生に『ありがとう』と言われる資格はない。私は何も出来なかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある生徒達は思う。

 

(……ちっ、ヒナの奴、余計な事を)

 

(あのまま先生を連れ去れば、それを口実に先生を始末する事が出来たというのに)

 

(まぁいい。問題ない。どうせ、ヒナ以外、先生を信じる者は誰もいないのだ)

 

(それならば、社会的に殺せばそれでいい)

 

 

 

 

 ある生徒は思う。

 

(あの男のせいでカンナ局長が……許せない)

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