独房の鉄格子越しに、カヤとカンナが対峙する。
カンナにとっては、忘れ難い人物であり、彼女の行いが原因で、多くの生徒や市民が巻き込まれた事は記憶に新しい。
しかし、その原因となったのが、歴代に続く防衛室長達の汚職によるものなのだから質が悪い。
カヤの挑発とも取れる言葉に、カンナは何も答えず、ただ静かに彼女の言葉に耳を傾けていた。
返答はない。そんなカンナの態度に、カヤはやれやれといった様子で息を吐き、言葉を続ける。
「まぁ、貴女の事です。悔やんでいるのでしょう? 自分の部下が犯した失態を。もっとしっかりと管理していればこのような事はなかったと」
「…………」
「ですが、此処でそれを嘆いた所で仕方ありません。何か変わるわけでもないのですから、これからどうするべきか考える必要があります。貴女も、それを理解しているのでしょう?」
「……何をおっしゃりたいのか、私には分かりません」
カンナはカヤを訝しむように見る。そんな彼女に、カヤは何処か見透かしたように言った。
「私と取引しませんか?」
「え……」
驚くカンナに、カヤは続ける。
「簡単な事です。私が此処から出た後の話。流石に、肩書を失った状態から成り上がるのは至難の業ですので、先生に口添えをするだけで構いません。『カヤの助言で助けられた』とでも言って頂ければそれでいいんです」
「…………」
カンナは、カヤの意図が読めなかった。彼女は一体何を考えているのだ?
そんな彼女の疑問に答えるかのように、カヤは言う。
「ふふふ、別に深い意味があるわけではありません。ただ、折角のチャンスです。有効的に使わない手はありませんからね」
カヤは、カイザーコーポレーションと結託し、謀略でキヴォトスの頂点に君臨しようとした。しかし、その目論見は様々な要因が働き、失敗に終わってしまった。
しかし、矯正局に収監されてなお、彼女は諦めていなかったのだ。そして、目の前に先生と先生に暴行を働いた元部下達の姿と、訳あり顔のカンナを見れば、これがまたとないチャンスに映ったのだろう。カヤはカンナの返答を待つ。
「…………」
暫く考えた後、カンナは小さく頷いた。
「……分かりました」
「ふふ、取引成立ですね。では、早速話を……と、言いたい所ですが、此処ではやめておきましょう」
細く、閉じられたような細目が僅かに開き、眼光が妖しく光る。チャンスをものにしたと確信したカヤは、落ち着いて話を聞ける場所を指定した。
「面会室であれば、落ち着いて話を聞く事が出来るでしょう。そうですね。貴女の部下が話していたヒナさん……確か、ゲヘナの風紀委員長でしたか、彼女と私が面会出来るよう手配して下さい。その監視役は無論貴女です。可能ですよね?」
「……不可能ではないでしょう。かなり無茶をする事にはなるでしょうが」
カンナはそう答えると、カヤに背を向けて歩き出した。
「では、後ほど……」
カヤは小さく笑みを浮かべると、独房の中で静かに時を待つのであった。