冤罪先生   作:モノクロさん

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第23話

 クソッ……クソッ……クソッ……クソッ!!

 

 部下達からの連絡が途絶え、全ての作戦が失敗した事を悟った犯人は、最後の頼みの綱として、急ぎカイザーコーポレーションと連絡を試みた。

 

 普段から使用している、連絡用の携帯端末。しかし、何度もコールしても、一向に繋がらない。

 

「何故だ!! どうして連絡がつかないんだ!!」

 

 端末を床に叩きつけ、犯人は怒りに震えていた。

 

 だが、連絡が取れない理由は明白だった。見切りを付けられたのだ。恐らくは、テレビ局の関係者も。

 

 我々は関係ない。末端の者が勝手にやった事……いや、これはそれ以上に悪質だ。

 

 私達がカイザーコーポレーションの関係者である情報の全てを、今頃は処分しているのだろう。

 

「クソッ!! クソがぁ!!」

 

 怒りに我を忘れ、犯人は何度も端末を踏み付ける。だが、それで事態が変わる事はなかった。

 

 そんな時だ。彼女のいる部屋をノックする音が聞こえた。

 

「何の用だ!!」

 

 苛立ちを隠そうともせず、犯人は部屋の外に声をかける。すると、扉が開き、ヴァルキューレの生徒達を率いるカンナの姿があった。

 

 全員が武装し、此方に銃口を向けている。

 

 たじろぐ犯人を他所に、カンナは事務的に、しかし、怒気の孕んだ声色で逮捕状を突きつけた。

 

「貴女に逮捕状が出ています。シャーレの一件……と言えば、分かりますよね?」

 

「く、クソッ!!」

 

 犯人が抵抗するより早く、ヴァルキューレの生徒達が犯人に手錠をかける。そして、それを確認した後、カンナは怒りを抑えつつ、犯人に詰め寄った。

 

「今回の一件で、私も先生を……任意とはいえ留置所に送り、そして矯正局に護送した立場の者です。上の命令とはいえ、犯した罪は償うつもりです。ですが、先生を嵌めた事だけは……」

 

 カンナは怒りで我を忘れそうになるのを堪えながら、犯人に言葉をかける。だが、その怒りは収まる事を知らない。

 

「貴女がした事は……絶対に許せない」

 

 そう告げると、カンナは怒りを鎮めつつ、後の事は部下達に任せ、部屋を後にした。

 

 これからヴァルキューレは、逮捕された彼女と同じく大きく荒れる事になるだろう。責任の擦り付けや尻尾切りは、遅かれ早かれ行われる。

 

 その裏で、カイザーコーポレーションの関係者は姿を眩まし、逮捕されるのは末端も末端、後はそこそこの知名度のある人材を切り捨てておしまいだ。

 

 ヒナの努力は、あくまでも先生が無実である事を証明しただけで、これまで流され続けた情報による風評被害は、決して拭われたわけではない。

 

 何より、騙され、洗脳されていたとはいえ、先生を糾弾した生徒達は荒れるだろう。治安は悪化し、それを収める筈の組織はヴァルキューレ含めてボロボロの状態だ。

 

 やる事が多すぎる。やるべき事が多すぎて、どれから手をつければ良いのか分からない。

 

 そんな未来が容易に想像出来てしまい、カンナは大きな溜息を吐く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヒナsideー

 連邦生徒会から緊急で発表された放送に、各学園の生徒達は騒然となった。

 

 誰もが犯人と疑わず、糾弾したシャーレの先生が、何者かによって貶められていた事実。しかもそれが、自分達が信じ続けてきたテレビ局の関係者による犯行と知るや否や、洗脳が解けていき、自分達の犯した所業に、誰もかれもが絶望に染まったのだ。

 

 更には、テレビ局とヴァルキューレの組織ぐるみの犯行であると知り、その責任の有無を、怒りの矛先を、犯人であるテレビ局の関係者とヴァルキューレの上層部に擦り付けようと躍起になっていた。

 

 テレビ局もテレビ局だ。

 

 先んじて報道した局に負けじと、先生を糾弾した多くの局が掌を返したように件のテレビ局とヴァルキューレへと矛先が向くように糾弾し始めたのだ。

 

 そして、先生に対する謝罪に関して、各局の対応は『1分』にも満たないものだった。

 

 アナウンサーの謝罪の言葉。人の人生を左右しかねない放送をしておいて、この謝罪はあまりにも軽すぎる。

 

 他の報道も似たようなものだった。自分にとって都合の悪い情報は報道しない。責任の所在は犯人とそれに与した者達に擦り付け、自分達は責任から目を逸らし、何もなかったと白を切る。

 

 無実を証明し、その結果がこれだ。皆が皆、己の保身の為に逃げ続けているのだ。絶望に染まった生徒達は、どうする事も出来ず、ただ泣き崩れる事しか出来なかった。

 

 しかし、唯一の救いと言えば、連邦生徒会による緊急放送後、七神 リンが先生の下を訪れ、誠心誠意の謝罪を行った事だろう。

 

 彼女もまた、最後の最後まで先生の事を信じ、彼を擁護し続けたのだが、各学園からの辞任要求を飲まざるを得なくなり、先生を守る事が出来なかった。

 

 リンの謝罪に、先生は『気にしないで』と、リンの謝罪を受け入れた。そして、シャーレの権限を取り戻し、改めて先生としての復帰を果たしたのだ。

 

 しかし、長きに渡る心身の疲労もあり、直ぐに復帰するのではなく、先ずは生徒達のケアを優先し、各学園に自らの足で赴き、生徒達一人一人と対話をする意向を示したのだ。

 

 そして、その護衛役として選ばれたのが、私である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレの建物の中で、私は待ち続ける。矯正局の前で待っていては、マスコミの格好の的になってしまう為、カンナが気を利かせてくれたのだ。

 

 とはいえ、当のカンナも、あの事件後、責任を追求される事となり、一ヶ月の謹慎処分を受ける事となった。

 

ー仕方がありません。それだけの事をしたのです。責任を取るのも上司の務めです。それに、先生の無実が証明されたのです。これくらいの事、なんともありませんー

 

 そう言って、彼女は気丈に振舞っていた。彼女に非はない。最後まで先生を信じた生徒でありながら、組織のいざこざに巻き込まれ、責任を取る形となった。それでも尚、ヴァルキューレに残る意向を示したのだ。

 

ー私は何も出来ませんでした。ですが、先生が私を頼り、貴女とワカモを止めるようお声がけしてくれた事は、とても嬉しかったですー

 

 そう言って彼女は私に微笑んだ。その笑顔に嘘偽りはなく、私は彼女の心意気に、敬意を評した。

 

 ワカモとは、あの時以降、姿を見ていない。セミナー襲撃を未然に防いだという情報を最後に、その消息は不明のままだ。

 

 彼女にも言いたい事は沢山あるのだが、互いに立場が違う者。機会が訪れれば、また会う日は来るだろう。そんな事を考えている内に、足音が聞こえた。

 

 コツン、コツンと、ゆっくりと、しかしはっきりと伝わってくる。聞き間違える筈もない。先生だ。先生が帰ってきたのだ。

 

 扉が開き、その姿が明らかとなる。あの時、約束を交わしたこの場所で、私達は互いに視線を交わす。

 

「お帰りなさい。先生」

 

 私が出迎えの言葉を述べると、先生は静かに頷き、優しい笑顔で答えてくれた。

 

「ただいま、ヒナ」

 

 一歩、互いに一歩ずつ、距離が近付く。信じた。信じ続けてきた。この日を、この時を、ずっと待ち続けた。先生が帰ってくる時を、ずっと……ずっと……。

 

 私達の手が重なる。先生の手から伝わる温もりに、私の鼓動は早くなる。指を絡ませ、互いの手を確かめるように、しっかりと握り合う。

 

 約束を交わした指切りげんまん。先生の小指と私の小指を絡め、互いに約束を交わしたあの日の思い出。

 

 あの時告げた言葉を思い出し、私は涙を流した、あの日から耐えてきた涙が、堰を切ったように溢れ出る。

 

「先生……私……私は……っ」

 

 言いたい事は山程あるのに、言葉が上手く出てこない。そんな私を、先生は優しく抱き締めてくれた。

 

「ありがとう……私なんかの為に頑張ってくれて……」

 

 『なんか』じゃない。私にとって、先生は『なんか』じゃない。

 

「本当に……ありがとう」

 

 感謝したいのは、私の方だ。私だけではない。先生は私達生徒を何度も救ってくれたのだ。

 

 伝えたい。この気持ちを。先生に、私の感謝の気持ちを。そして、私が今思っている事を。

 

「先生……私……っ」

 

 涙ながらに、私は先生の目を見つめた。そして、先生もまた、涙を流している事に気付いた。

 

 あぁ……私と同じだ。先生も……泣いていたんだ……。

 

 それなら、言葉は不要だ。互いの涙を受け止め、私達は静かに、こうして再開を果たした喜びを噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一月が経過した。

 

 あっという間の出来事だった。

 

 各学園に顔を出し、生徒達のケアをする先生を護衛する毎日。

 

 多くの生徒が先生に謝罪した。

 

 なんであんな事をと、涙ながらに後悔しながら、何度も何度も頭を下げてきた。

 

 そんな生徒達を、先生は優しく励まし、許した。

 

 先生は生徒を信じ続ける。生徒の言葉を受け止める。それが先生としての役目だから。

 

 そうして、悪化した治安が落ち着きを取り戻した頃、私と先生は漸く、あの時の約束を果たす時が来たのだ。

 

 私服姿に身を包み、キャリーケースを片手に、先生と共に列車に乗り込む。

 

 行き先は決めず、列車に揺られながら、流れる風景に目を向け、他愛のない話をする。それが楽しく、そして、とても心地良かった。

 

 何時しか会話は途切れ、互いに肩を寄せ合いながら、微睡の中にて寝息を立てる。そっと繋いだ手を離さないように、しっかりと握りしめながら。

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