冤罪先生   作:モノクロさん

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第3話

ヒナside

 先生と別れた後、私は真っ直ぐに自宅へと帰宅した。

 

 コートをハンガーラックにかけ、鞄を置くと、そのままバスルームへと向かう。

 

 シャワーで汗を流し終わる頃には、すっかり身体も温まっていた。

 

 私はバスタオルで身体の水気を拭き取りながら洗面所を出ると、部屋着に着替える。

 

 そしてキッチンへ向かい冷蔵庫を開けると、あらかじめ用意していた軽食をレンジで温め、リビングのテーブルへと運んだ。

 

「いただきます」

 

 手を合わせて食事を始め、少しした後、自然と笑みが溢れた。

 

 先生と休日に会う事が出来る。

 

 先生と生徒という立場は変わらないが、ゲヘナの風紀委員長としてではなく、1人の生徒として、先生と過ごせる時間は、とても貴重なものだ。

 

 勇気を出して言ってみて良かった。

 

 もし断られたら……なんて不安もあったが、先生は優しく受け入れてくれた。

 

 それがとても嬉しかったし、同時に少し照れ臭かったりもした。

 

 約束を交わした小指に目がいき、自然と頬が緩む。あの時に触れた先生の指の感触を愛おしく感じながら、私は小指を撫でた。

 

 食事を終え、後片付けを済ませると、私は寝室へと向かう。

 

 普段と違い、早めの時間に寝る事が出来る。これなら、明日は万全の体調で仕事が出来るだろう。

 

「おやすみなさい、先生」

 

 ベッドに潜り込むと、私は先生の顔を思い浮かべながら目を閉じる。

 

 今日は良い夢が見れそうだ。そんな予感を抱きながら、私は眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 翌朝、私は何時もより早く目が覚めた。窓の外はまだ薄暗く、時計を見ると、まだ朝の5時だった。

 

「……少し早いわね」

 

 普段ならもう少し布団の中で微睡んでいるのだが、今日は不思議と目が覚めてしまったようだ。

 

 二度寝をしても良かったが、妙に目が冴えてしまい、眠気が訪れる気配もない。

 

「……仕方ないわね」

 

 私はベッドから起き上がると、軽く身支度を整えて部屋を出る。

 

 リビングに向かい冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、それを一口飲んで喉を潤す。そしてそのままキッチンへ向かうと、朝食の準備と昼の弁当の仕込みを始めた。

 

 トーストを焼き、その間にベーコンエッグを作り、同時にスープを作る。サラダは……残念ながら冷蔵庫に材料がなかった為、今回は諦める事にした。

 

 朝食が出来上がる頃に時計を見ると、5時半を過ぎていた。

 

 弁当箱にはながら作業で用意したおかずを弁当に詰め込み、袋に入れた後、鞄の中に入れて、漸くテーブルにつく。

 

 手を合わせた後、朝食を食べていると、不意に携帯の着信音が鳴る。画面を見ると『アコ』と表示されており、私は電話に出た。

 

「もしもし、どうしたのアコ?」

 

 私が出ると、朝早くに申し訳ありませんという言葉の後に、温泉開発部が市内で温泉を掘り当てる為に破壊活動を行っているとの報告が告げられた。

 

「そう、分かったわ」

 

 私は短くそれだけ答えると、通話を切り、携帯をテーブルの上に置く。そして用意した食事をかきこむように食べ終えると、手早く水で軽く洗い、鞄を持って家を出た。

 

 ドアを開けると、強い風が吹き込んできた。冬の冷たく乾燥した空気は肌を刺すようで、思わず顔を顰める。

 

 しかし、そんな事を気にしている場合ではない。私はそのまま鍵を閉めると、足早に現場へと向かった。

 

 

 

 

「任務完了。帰還するわ」

 

 空となった薬莢が辺りに散らばる中、私は、温泉開発部の部長、鬼怒川 カスミを拘束しながら、部下に指示を送った。

 

 市内の彼方此方にて黒煙が上がり、その殆どは、温泉開発部が用意した重機から発せられたものである。

 

 これだけの大掛かりな資材を投入しての破壊行為を見るに、今回の温泉開発は、念入りに計画されていたのだろう。

 

 アコが私を呼んだのも頷ける。

 

 これだけの規模ならば、イオリ1人では手に余る。人材の育成も進めなければいけないのだろうが、その時間を作る余裕がないのが現状である。

 

「了解です」

 

 私の命令に従い、部下たちは手際良く事後処理を進めていく。後はカスミを風紀委員会本部の地下にある特別牢に連行すれば終わりである。

 

 とはいえ、この件の事務処理が残ってはいるのだが……それは本部に戻ってから考えれば良いだろう。

 

 時計を確認すると、時間は12時過ぎ。思ったより時間がかかってしまった。

 

「私はこのままカスミを連行するわ。後は任せるわね」

 

 それだけ言い残すと、私は部下に背を向けて歩き出す。カスミは抵抗らしい抵抗を見せない。私に捕まった事で諦めたのだろう。

 

 しかし、この子は油断ならない性格をしている。特別牢に連れて行くまでは目を光らせておく必要がある。

 

 私は護送車に乗り込むと、カスミと向かい合った状態で席に座った。

 

 カスミは俯いたまま、一言も発さない。プルプルと震えてはいるが、私はそんな彼女を黙って見つめていた。

 

 長い沈黙が続き、漸く本部へと到着する。私はカスミを護送車から降ろすと、待機していた部下達と共にそのまま地下にある特別牢へと向かった。

 

「ボディチェックを怠らないように。前にも、こっそり隠し持ってた爆発物で脱走した事があるから油断はしないようにね」

 

 部下達が念入りにチェックさせた後、牢の中へと放り込むようにカスミを下ろす。私は施錠を確認すると、そのまま特別牢を後にした。

 

 これで一仕事完了。後は、特に問題がなければ万魔殿の嫌がらせに近い書類の山を片付ければ今日の仕事は終わりだ。

 

 そう思いながら、執務室に向かう足取りは、何時もと違い、何処か軽やかだった。

 

 きっと、先生と休日を過ごす事が出来るという事実が、心に余裕を持たせているのだろう。

 

 思わず、鼻歌を歌い出しそうになる程に、私は上機嫌だった。

 

 しかし、その思いは慌てた様子で駆けてきたアコの言葉で打ち消される事になる。

 

「ヒナ委員長、大変です!! 先生が殺人事件の重要参考人として逮捕されました!!」

 

「…………………………ぇ?」

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