冤罪先生   作:モノクロさん

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第6話

「空崎 ヒナさんですね。少しお時間宜しいでしょうか?」

 

 殺人事件が起きた現場に近い道沿いを歩きながら、回収漏れの監視カメラがないか探していたヒナの前に、ヴァルキューレの生徒達が数人、立ち塞がった。

 

 このタイミングで話しかけてくるとは、もしかすると、シャーレの建物から出た後、ずっと後をつけていたのかもしれない。

 

 先生が任意同行された件といい、コンビニの店員であるソラの証言といい、ニュースの件といい、まるで話ができすぎているようにすら感じてしまう。

 

 しかし、その事を表情に出す事なく、ヒナはヴァルキューレの生徒達に向き合った。

 

「何か用かしら?」

 

 ヒナがそう尋ねると、大柄の威圧的な生徒が前に出て、ヒナにズイッと顔を近づけてきた。

 

「シャーレの先生の件で話がある。昨日は夜遅くまで先生と一緒だったそうだな。何か、先生に関して知っている事はないか?」

 

「…………」

 

 ヒナは目を細めると、目の前の生徒を値踏みするように見つめる。

 

 この生徒は、此処にいるヴァルキューレの生徒の中でも特に体格が良く、威圧的な印象を受ける。そして何より、態度が高圧的だ。

 

 もしもソラがこの手の生徒に高圧的な対応をされれば、委縮して何も話せなかっただろう。

 

 自分の意見すらまともに話せず、一方的な物言いで相手を威圧し、自分の思い通りに動かす。そんな雰囲気を持つ生徒だ。

 

「どうなの? 何か知らないの?」

 

 高圧的な態度の生徒の後ろから、別の生徒がそう聞いてくる。彼女もまた装備した銃器を何度も手で叩きながら、威圧的な態度でものを言い、傲慢そうな表情を浮かべていた。

 

 恐らくは、ゲヘナの自治区ではないこの場所でなら、此方からは何もされないと『勘違い』しているのだろう。

 

 その威圧的な態度も、高圧的な態度も、自分達が優位な立場にいると、『勘違い』しているからだろう。

 

 ヒナはそんな2人の生徒を静かに見つめると、小さく息を吐いた。

 

「そうね……知っているわ」

 

「……そうですか。では、是非当局までご同行を」

 

「必要あるの? 貴女達が聞きたいのは、あくまでも『私が知る範囲での昨晩の先生の事』でしょ? それなら此処で簡単に話せるわ。普段通りの先生だった。見送ってもらったその時まで、何も変わらず、何時もの先生だった。それだけの話よ」

 

 拒否する事は可能だが、下手に印象を悪くすれば、それを理由に先生に対する圧力が強まるかもしれない。

 

 ヒナはそう考え、必要最低限の発言に留まり、それ以上話す事はないと態度で示した。

 

 しかし、そんなヒナの発言が気に食わなかったのか、高圧的な態度の生徒が苛立たしげに舌打ちを漏らした。

 

「ちっ……舐めた態度をとりやがって……良いから、こっちに来い!!」

 

 苛立ちを隠そうともせずにそう言うと、高圧的な態度の生徒がヒナに手を伸ばしたその時……。

 

「おい、何をしている?」

 

 高圧的な態度の生徒の手を、誰かが掴み、その動きを制止した。

 

「カ、カンナ局長!!」

 

「何時からヴァルキューレは、生徒に恐喝をするような組織になったんだ?」

 

 高圧的な態度の生徒の手を、更に強く握り締めながら、カンナは同じヴァルキューレに所属する生徒達に鋭い視線を向けた。

 

「こ、これは違うんです。我々は空崎 ヒナに任意同行を……」

 

「ほう? その割には随分と高圧的な態度で接していたようだな」

 

 カンナは淡々とした口調でそう言うと、高圧的な態度の生徒を見る目を細めた。

 

 そして、高圧的な態度の生徒達は、カンナに睨まれた事で萎縮し、何も言えなくなってしまう。

 

「まぁ、良いさ。話を聞いていたが、彼女はちゃんと情報を提供していたようにみえたのだが、私の気のせいだったか?」

 

「い、いえ。その……それは……」

 

「まぁ、良いさ。君達は『キヴォトスの治安を守る』為に此処にいるんだろ? それが生徒を恐喝か……全く嘆かわしい」

 

 カンナはそう言うと、高圧的な態度の生徒の手を離し、ヒナに向き直る。

 

「彼女達と同じヴァルキューレに所属する者として、先程までのご無礼を謝罪します。どうか、寛大なご対応をお願いします」

 

 そう言って、カンナはヒナに対して頭を下げた。

 

「頭を上げて頂戴。別に気にしてないわ」

 

 ヒナがそう言うと、カンナは下げていた頭を上げ、安心したように息を吐く。そして、高圧的な態度の生徒ともう1人の生徒に視線を向けた。

 

「この2人には私が後で説教をするとして……貴女はこれからどうするつもりですか?」

 

「そうね。私は私なりに今回の事件を調べるつもりよ」

 

「……そうですか」

 

 ヒナの言葉に、カンナは小さく呟くと、何か考えるように沈黙する。そして、意を決したように口を開きかけ、そして閉ざした。

 

「……ご無理をなさらぬよう」

 

「……えぇ、ありがとう。貴女も仕事、頑張って」

 

 ヒナはそう答えると、カンナの横を通り過ぎ、歩き出す。そして、そんなヒナの後ろ姿を見送ると、カンナは小さく呟いた。

 

「私も、今の立場がなければ、貴女のように行動する事が出来たのだろうな」

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