冤罪先生   作:モノクロさん

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第7話

 ヴァルキューレの生徒達と局長のカンナ。

 

 先の遣り取りから、ヴァルキューレ内でも先生の件は意見が割れているのだろう。

 

 特にカンナは今回の一件に対し不満を抱えている事は確かだった。

 

 報道の件も、恐らくは。

 

 上手くカンナと接触し、局内の情報を得る事が出来れば、先生の現状も把握する事が出来るのだが、恐らくそれは難しい。

 

 あの様子からしてわカンナは今回の捜査から外されている。そして、局内でも一部の生徒には先生の情報を統制している可能性がある。

 

 ヒナはそう考え、小さく息を吐いた。

 

 そう言った生徒達が、最終的に頼るのがテレビ媒体やネットといった、不特定多数の人間が集まる媒体だ。

 

 しかし、テレビやネットでは得られる情報に対し、その情報を鵜吞みにし易いというデメリットがある。

 

 人は得たい情報だけを取捨選択し、その情報を真実であると思い込む傾向がある。

 

 それはテレビやネットといった情報媒体に限った事ではなく、新聞記事や雑誌といった物にも言える事だ。

 

 そして、そういった情報の取捨選択は個人差がある為、その情報の真偽は人によりけりだ。

 

 しかし、それでもテレビやネットといった不特定多数の人間が集まる媒体の情報が真実であると、そう認識し易い傾向にある。

 

 それは何故か? 

 

 答えは簡単だ。人は自分の信じたい情報に拘る反面、大多数の人間が選ぶ選択肢に靡く傾向もあるからだ。

 

 人は、自分の意見に同調する者の意見を聞き、その意見が『真実』であると錯覚する。

 

 多ければ多い程、それが『正しい』と信じ込み、逆に少数の意見の側にいる人間は上手くこじつけるように調整しながら大多数側の意見の中に組み込まれ『真実』から遠ざけられてしまう。

 

 その過程が繰り返される内に、人は情報に対して『真偽』を冷静に判断する事が徐々に難しくなっていく。

 

 その結果、大多数の人間が選ぶ選択肢に同調する傾向が強くなり、『真実』と信じていた情報が虚偽であると誤認する。

 

 そして、その情報の真偽を判断しないまま、人は情報を取捨選択しては、『これが正しい』と思い込むようになる。

 

 特に、今回のようにセンセーショナルな事件の場合、視聴者の興味を煽りやすい事もあり、場合によっては相手を上手く誘導する事も可能とするのだ。

 

 ……暫くはテレビやネットの情報には触れない方が良いのかもしれない。ヒナはそう結論付けると、再び歩き出した。

 

 結局、その日は何の収穫も得る事は無かった。シャーレから現場にかけての主だった監視カメラも、他のルートに点在するカメラも、全てヴァルキューレが回収していた。

 

 当然、昨日殺された被害者のアパートやその周辺の監視カメラも回収済みだろう。

 

 被害者の生徒が誰なのか、それは今だに発表されていないが、此処まで入念に映像データを回収しているのだ。その辺りも抜かりはないのだろう。

 

 そして、日が沈み始めた頃、ヒナが携帯を手に取ると、アコや他の風紀委員から大量のメールや着信が来ていた。

 

 中身を確認するのも憂鬱だが、一つ一つ対応しなくてはならない。

 

 アコからの連絡は特に酷かった。

 

 夕方のニュースでは、先生が現場から逃走する映像が流れたという。荒い画像で、朧げながら先生と思わしき人物が走り去る映像が流れたようで、多くの専門家が、この人物はシャーレの先生で間違いないと太鼓判を押したようだ。

 

 そして、そのニュースを見たアコが動揺しながらヒナに連絡する姿を見て、他の風紀委員もそのニュースを見始め、心配した一部の風紀委員が私に連絡を入れたのだろう。

 

 皆一様に私の身を案じるメールを送ってきている。先生が捕まる前日、私が当番だった事もあり、心配してくれるのは嬉しいが、情報を鵜呑みにしないよう、注意するつもりでアコに電話をかけた。

 

 それがいけなかった。

 

『もしもし、ヒナ委員長!! 良かった。連絡がつかなかったので心配しました!!』

 

「大丈夫よアコ、それと、心配させてごめんね。メールの内容を確認したけど、それについて話が……」

 

『ヒナ委員長……その、苦言を呈するようで申し訳ないのですが、今回の先生の件、あまり思い詰めないで下さい』

 

「……アコ?」

 

 急に何を言い出すのかと、ヒナは疑問を抱く。

 

「何を急に……」

 

『私としても、今回の一件は不本意ですが、あれが先生の本性だったのだと驚きを隠せません。ですが……」

 

『あんな犯罪者の事でヒナ委員長が心を痛める必要はありません!!』

 

 その言葉に、ヒナの頭の中は真っ白になった。アコは今、なんて言った?

 

 先生の事を、アコが、犯罪者って……。

 

「……皆は?」

 

『え?』

 

「他の風紀委員達は先生の事を何て言ってるの? ねぇ、教えて」

 

『い、いえ……皆、同意見です。あんな犯罪者と普通に接してきた事が恥ずかしく思うと』

 

「……そう」

 

『ヒナ委員長? その……大丈夫ですか?』

 

「……えぇ、大丈夫よ。ごめんねアコ。心配かけて」

 

 

『いいえ、ヒナ委員長の心労を考えればこの程度……』

 

「でもね、アコ。よく聞いて。これは凄く、大事な事なの」

 

『……ヒナ委員長?』

 

 ヒナは、アコに言い聞かせるように、静かに。しかし、はっきりと言った。

 

「先生は犯罪者なんかじゃないわ」

 

『え? それはどういう……』

 

「テレビの情報を鵜呑みにしないで、自分の目で調べて、確かめてって事。それじゃあ、またね」

 

 アコの返事を聞く事無く、ヒナは電話を切った。そして、携帯を握り締めたまま、夕焼けに染まる空を見上げる。

 

「大丈夫……大丈夫よ……」

 

 自分に言い聞かせるように、何度も呟くと、ヒナはゆっくりと歩き出した。

 

 最悪な状況が、キヴォトス内に浸透していくのを感じた。白紙の上に墨が零れ落ち、ゆっくりと侵食していくように、今回の事件がシャーレの先生に対する悪意となって広がっている。

 

 この流れを断ち切るには、先生が無実であると証明する必要がある。その為にも、現在ネット上で出回っている情報に惑わされないようにしなければならないだろう。

 

 アコにはそう伝えた。願わくば、他の皆も、それに気付いてほしい。そう願いながら、ヒナは調査を切り上げ、帰宅する事にした。

 

 暫くは電車やバスは使わない方が良さそうだ。出費は嵩むだろうが、仕方がない。

 

 いや、今のヒナは誰かと接触するのを避けたかったのかもしれない。もしも駅のホームや車両の中で、知人が先生の事を悪と断じ、悪意を以て先生を糾弾する光景を見たならば。そんな姿を想像するだけで、ヒナの心は荒んでいくのを感じた。

 

 そうして、自宅に辿り着いたヒナは、疲れたようにため息を漏らすと、制服をハンガーラックにかけ、下着姿のまま、ベットに倒れかかるように横になった。

 

 食欲はないが、せめて身体を清潔にと思ったが、身体が思うように動かない。きっと疲れてしまったのだろう。

 

 ソラとの遣り取り、ヴァルキューレの生徒達とカンナとの遣り取り、そして、先生を犯罪者と断じたアコとの遣り取り。

 

「……先生」

 

 ベットに横たわり、ヒナは先生の名を呟いた。そして、静かに目を瞑り、眠りにつく事にした。

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