ー数日後ー
あれから取調室と留置所を往復する毎日。一向に解放される様子はなく、時間だけが過ぎていく。
外は今、どうなっているのだろう?
仕事は……リンちゃんには迷惑をかけてるな。
他の皆も心配しているのかな?
いや、それよりも、犯人はまだ捕まっていない事の方が心配だ。次の被害者が出る前に何とかしないと。
しかし、そんな思いとは裏腹に、先生に対する取調べは日に日に過酷さを増していった。
取り調べの生徒達による不眠不休の責め立て、まるで犯罪者のような扱い。
それでも何とか耐え続け、取り調べが終われば再び留置所へと戻される。そして、取り調べが始まれば、再び不眠不休の責め立て。
そんな日が何日も続き、そして漸く、生徒達との面会を許されるようになった
。
看守から面会室に通されると、そこにはホシノがいた。彼女が1人だけ。他の子達は来ていないようだった。
「ホシノ、久し振り。ごめんね、こんな形で会うなんて」
「…………」
先生がホシノに声をかけるが、ホシノはどこか暗い表情のまま先生の顔を見つめたまま何も反応を示さない。
「……ホシノ?」
「……んで」
「え?」
「……なんで先生は、あんな事をしたの?」
「っ」
ホシノの言葉に、先生は言葉を詰まらせる。しかし、それでも先生は静かに首を振った。
「違うよ……私はやってない」
「じゃあ、なんで?」
そんな先生に対し、ホシノは問い詰めるように溜まりに溜まった感情を吐き出すように先生に言葉をぶつける。
「先生、言ったよね? 『生徒を守るのが先生の務め』だって」
「……」
「それなのに、なんで先生はその生徒を……先生と連絡がつかない間、ずっとニュースでは、先生が犯人だって、そう報道されていた。シロコちゃんも、ノノミちゃんも、セリカちゃんもアヤネちゃんも、みんな……みんな信じてたのに」
「……ホシノ」
「ねぇ、なんでなの? なんで先生は……先生を信じていた私達を裏切るような事をしたの?」
ホシノの言葉に、先生は何も言い返せない。しかし、それでも先生は必死に言葉を紡ぎ出す。
「……私は、本当に何もしてないんだ。あの日は当番の子を見送った後、残っていた仕事を終わらせるまでシャーレで……」
「そのシャーレから、先生が抜け出した映像が、監視カメラに映ってたんだよ!!」
ホシノの言葉に、先生は思わず絶句した。まさか、そんな……何かの間違いだ。
「ホシノ、聞いて欲しい。本当に私は……」
「やめてよ!!」
先生の言葉を遮り、叫ぶように言葉を発した。拒絶の色を示し、瞳からは裏切られた事による絶望と怒りが伝わってくる。
「やめてよ……今更言い訳なんて聞きたくない!! なんでなの? なんで先生は私達を……生徒を……っ」
ボロボロと涙を零し、ホシノは先生を糾弾するように叫ぶ。
「なんで、皆を裏切った!!」
そんなホシノの姿を見て、先生は何も言い返す事が出来なかった。
「……もう、二度とアビドスには来ないで。私達の前に、二度と姿を現さないで」
ホシノはそう言い残すと、部屋を出て行った。部屋に残された先生は、ただ俯く事しか出来なかった。
言ってしまった。こんな筈じゃなかったのに。
もっと違う事を、あんなにやつれた先生を問い詰める気なんて、これっぽっちもなかったのに。
こんな事言うつもりじゃなかったのに……。
先生の顔を見た瞬間、安堵した自分がいた。そして、それなのに何故か、先生を見た途端、感情が抑えられなくなっていた。
一度吐き出された言葉は、もう引っ込める事は出来ない。
今更ながらに後悔するホシノ。しかし、ホシノの心は後悔以上に怒りと悲しみが支配していた。
もういい、これでいいんだ。ホシノはそう自分に言い聞かせ、ヴァルキューレを背に、アビドスに戻ろうとした時。
「小鳥遊 ホシノ」
ホシノを引き留める声が聞こえた。振り向くと、そこには先生以上にやつれてボロボロになったヒナの姿があった。
「……あぁ、委員長ちゃん。久し振りだね。委員長ちゃんも先生の所に?」
「そう……だけど、どうしたのその顔。何か……先生に何かあったの?」
「…………」
無言でいるホシノに、ヒナは全てを察したのか、目を見開き、わなわなと震えながらホシノに詰め寄った。
「まさか、貴女……先生を」
「……っ」
「……なんで」
ヒナは、ホシノの襟元を掴み上げると、怒りを露にしながら叫ぶ。
「なんでなの!! なんで貴女がっ!! よりにもよって、貴女が先生を……なんで信じてあげなかったの!! 貴女が……他の誰でもない貴女がなんで!!」
アビドスの借金問題で、自分を犠牲にして問題を解決しようとしたホシノの為に、頭を下げた先生を……他の誰でもない、先生を信じなくてはいけない筈のホシノが、何故先生を信じてあげる事が出来なかったのか。
「…………」
ホシノは、何も言い返さない。そして、ヒナはそんなホシノから手を離し、力なく項垂れた。
「……ごめんなさい」
「……委員長ちゃん?」
「貴女がどう思おうと、それは貴女の自由。好きにするといい」
「……っ」
「でも、それならお願い。もう先生に関わらないで。これ以上、先生を苦しめないで……お願い」
それだけ言うと、ヒナはホシノを置いて、ヴァルキューレの建物の中へと入って行った。
「…………」
残されたホシノは、ただ黙ってその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
なお、ヒナの面会までの間、先生は他の生徒からも同様の言葉を投げかけられ、何も言い返す事も出来ずに、ただ黙って俯く事しか出来なかったという。
外の世界には先生の味方は殆どいない。それを実感した先生は、面会を終えた後、留置所に戻ってからも、ただ俯く事しか出来なかった。