神秘「ギルガメッシュ」 作:聖杯くん
「――貴様は、何なのだ」
ギイギイと軋む音と共に、低くて唸るような男の声が発せられた。
タキシード姿の人形、マエストロはその身を震わせながら、震える声で問い詰める。
「”神秘”? ”恐怖”? いや、貴様は――」
「ほう。逆に貴様は、最低限の知識は持ち得ているらしい」
黄金の少女――ギルガメッシュと名乗った彼女の興味が、私からマエストロに移る。
取り乱した様子で言葉を羅列するマエストロを、ギルガメッシュは愉悦の笑みを浮かべながら観察していた。
「貴様は、そのどちらでもあり、そのどちらでもない。
だが、”神秘”と”恐怖”は同時に存在することが出来ないはずだ。
逆にどちらかでなければこの世界に存在することは出来ないはず」
「理解しなくていいぞ、先生とやら。
少なくとも、”今”の貴様には何も関係のない話だ」
「それに、ギルガメッシュとは、かの黄金の裁定者の名前。
なぜ、生徒がその身に秘された神秘の名を識っている――?」
ギルガメッシュが何も言わなかったとしても、私はマエストロの言葉を何一つとして理解できなかっただろう。
何かわかることがあるとすれば、それはギルガメッシュの存在が、マエストロにとって信じがたい程のイレギュラーであることくらいだ。
だから、この場のやり取りは、彼と彼女の2人だけのものになる。
「貴様如きに理解できるわけがなかろう、芸術家気取りの三流よ」
「……何?」
ピタリと、マエストロの震えが止まる。
驚愕するような、それでいてどこか怯えるようであった彼の声が、明確に怒りの込められたそれに変わる。
「知性も、品格も、経験も持ち得ぬキヴォトスの生徒に、芸術の何を理解できる?
先生の、それもカードのもたらした奇跡であるお前には驚愕させられたが、どうやらそれは取り消さねばならないようだ」
直後、マエストロの周囲にいくつものモヤが浮かび始めた。
モヤはやがて人の形を取り、シスター服にガスマスクを被った無限の軍勢が姿を現す。
「ユスティナ聖徒会……!? でも、彼女たちはすでに倒されたはずじゃ!?」
「然り。元々私は、この戒律の守護者たちを
だが、安心して欲しい。私は自身の芸術を、舞台に立たぬ生徒たちに見せびらかすことも、ましてや襲わせることもしないとも」
ユスティナ聖徒会は、サオリたちが調印式でテロを起こすために利用した力。
1人1人の戦闘力が比較的高いだけでなく、厄介なことに、一度に大量に展開できるユスティ聖徒全てが、何度倒しても無限に復活する凶悪さを兼ね備えている。
無力化するには、どうにかして召喚する力そのものをどうにかするしかない代物。
それが今、どういった経緯があったのか、マエストロの手の中にある。
ヒエロムニスだけでも危うかったのに、さらなる絶望の出現に、私は思わず息を吞んでいた。
「先生。貴方という理解者を見出せた喜びのあまり、未完成であっても、我が「芸術」をご覧入れたいと行動に移してしまったが……、まずは相応しくない者にご退場願わねばならないようだ」
「マエストロ……!! クソ、こうなったら、もう一度……!!」
マエストロの悪意が、ギルガメッシュただ1人に向けられる。
埒外の力を秘めたヒエロニムスと、無限の軍勢たるユスティナ聖徒会。
ギルガメッシュの実力はわからない。
なんとなく、今まで出会ったキヴォトスで最上位の実力を持つ生徒たちよりも、1つ上の強さを持っている気はするが、これは推測に過ぎない。
例えそうだとしても、ヒエロニムスは、アリウスの実力者たちが即座に逃走を選ぶ怪物。
そして、ユスティナ聖徒会は滅びることのない、高い実力を兼ね備えた戦闘集団。
この2つの脅威は、たとえ大人のカードが引き寄せた奇跡だったとしても。
たった1人の生徒に、相手をさせていい敵ではない。
だから、どんな代償を払うことになったとしても。
「もう一度、何度だって大人のカードを使ってやる」
生徒のためなら、どんな代償も安くつく。
時間がどうした、人生がどうした。
私の覚悟に応えるように、大人のカードは再び光を放つ――!!
「――止めよ。奇跡とは、一度しか起こらぬからこそ奇跡たり得るのだ」
気が付けば、カードを持つ手が見覚えのある鎖に繋がれていた。
これは、ヒエロムニスの動きを止めていたものと同じ物で。
「「「―――――――!!!!!!!!!!」」」
「気が狂ったか? 鎖でつなぎ止めておけば、戒律の守護者から身を守るだけで済んだものを」
カードの使用を止めた代償に、自由を取り戻した天使の咆哮が響く。
天使と修道女の組み合わせは、何らかの宗教画を思わせる芸術に感じられるが、絶望的な現状がそのような感傷を塗りつぶす。
生徒を、奇跡を打ち砕くには十二分に過剰な戦力。
その全てと対峙して、しかしギルガメッシュは決して臆する様子を見せなかった。
「だから貴様は三流なのだ。図星を突かれて怒りを抑えられなかったか?
そもそも、神秘に理解が及んでいないのは貴様の方であろう?
現に、その大層な芸術とやらも”恐怖”の贋作でしかないではないか」
「随分と、まるで何もかもを知っているような口ぶりではないか」
「知っているとも。貴様が言っていたではないか、
そう告げたギルガメッシュの手には、いつの間にか一本の鍵が握られていた。
黄金に輝く、見るからに特別なものとわかる鍵。
ギルガメッシュはそれを空に掲げると、その手を捻りガチャリと空間を開錠した。
「――え?」
空間を、開錠した。
決して意味の分からない、だけどそう形容するしかない現象が目の前で繰り広げられる。
浮かび上がるのは、無数の黄金の水面。
無数にも思える波打つそれぞれから、様々な種類の銃口が顔を覗かせる。
「目覚めたばかりで力が出ぬのか、それとも
黄金の水面は延々とその数を増やし、やがてユスティナを更に上回る数となる。
まさか、こんなでたらめな武装が、彼女の愛銃とでもいうのだろうか。
もしもそうであるのなら、これまで首位を抑えていた、ゲーム開発部の天童アリスが使うレールガンを超えて、ヤバい武装ランキングのトップに躍り出ることになる。
「
「これは、何だ……?」
怒りを隠そうともしていなかったマエストロに、声の震えが戻っていた。
それがどうにも、私には有り得てはならないものと相対した時の恐怖によるものに感じられて。
「百合園セイアの預言のような、神秘の片鱗ではない。
かの裁定者の力が、そのまま現出している――?」
「……さて、ここからは先生、貴様の出番だ」
マエストロの発言に答えることはなく、ギルガメッシュは私の方を見ると、何か悪いことを企んでいるようにも見える笑顔を向けた。
何故だろう、ものすごく嫌な予感がする。
「
財を放つというと、この場合、消費する弾丸の話をしているのだろうか。
ふと、とある生活安全局の警官を務める少女の姿が脳裏によぎる。
いや、恐らく彼女のように全く銃を当てられないというわけではなく、ギルガメッシュの愛銃(仮)では、どうしても大雑把な狙撃にならざると得ないという話だろう。
「ところで貴様、面白いものを持っているな? それで
「え? ええ!?」
「さあ、疾く指揮に回るがいい。さもなくば諸共死ぬぞ?」
「ちょ、ちょっと待って!?」
慌てて取り出したのは、一見何の変哲もないタブレット端末。
それをすぐさま起動させて、その中で待機している彼女に声を掛ける。
「アロナ!! 戦闘準備!!」
『は、はい!! シッテムの箱越しに状況は把握しています!! 間もなく、オペレーションシステムの準備が完了します!!』
タブレットから浮かび上がるのは、ある1人の幼い少女のホログラム。
彼女こそ、シッテムの箱と名付けられたタブレット端末でOSを務めるサポートAI。
「新規生徒の情報を登録――完了! オペレーションシステム、起動します!!」
アロナの号令と共に、多岐にわたるシッテムの箱の機能の1つ、戦闘時の指揮をサポートするためのホログラムモニターが眼前に広がる。
端末と繋がり、思考が加速して時間の流れが段々遅くなる感覚と同時に、共に戦う生徒、つまりギルガメッシュの情報が脳にインプットされていく。
そして、他の生徒を指揮したときとは比べ物にならない圧倒的な情報量が、脳に直接鈍器を叩きつけられたかのような痛みを引き起こした。
「ア、ガァ――!? コレ、ハ――!!」
「先生!! 聞こえますか!! 落ち着いてください!!
まさか、
慌てるアロナの声が聞こえてくるが、肝心の内容までは頭に入ってこない。
何か私のために動いてくれているような気がするが、何もわからない。
だって、痛みが。
痛み、痛み、痛み、痛み、痛み、痛み、痛み、痛み。
痛みが痛みで、痛みが痛みであって、痛みが痛みだからこそ痛みは痛みを痛みとして痛みが痛み痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「――先生!! 先生!!
先生はギルガメッシュさんの指示にだけ集中してください!!」
「――ア、ロナ」
突如、痛みが治まって、様々な音が鮮明に聞こえてきた。
最初はアロナの悲痛な声、次に複数の銃撃の音、そして最後が黄金の少女の声。
「まだ100も開いていないというのに、この程度すら処理しきれぬというのなら、この先の脅威には対抗できんぞ、先生」
「……もう、大丈夫、だから」
やろうと思えば100丁以上の銃を同時に展開できるのかとか、ヒエロムニスとユスティナの組み合わせ以上の脅威があってたまるかとか、そんな思いが一瞬脳裏をよぎる。
しかし、それらの思いを一旦無視して、気を失っている間に始まっていた戦闘に集中する。
モニターに映るのは、敵と対峙するギルガメッシュの姿。
アロナがオートで銃を動かして攻撃している中、ギルガメッシュは微動だにしない。
他の生徒を指揮するときは、ある程度は自分たちの意思で攻撃をしてくれるのだが、それすらも放棄して指揮をこちらに委ねるらしい。
私の指揮を促すように、モニターの右端にギルガメッシュを模したアイコンが浮かび上がる。
だから、言葉に力を込めて、私は真っすぐと戦場を見つめる。
「――行くよ、ギルガメッシュ」
「――精々、
ターゲットは、オートで銃撃を行う
銃撃の狭間を掻い潜った者にはライフルを、防御態勢をとる者にはグレネードランチャーを、あえて用意した銃撃の少ないエリアに集った者たちにガトリングを。
ギルガメッシュが指示に従う形で、新たに出現させた
――さて、話は変わるが、これまで私が先生として戦う中で、状況に応じた戦力の投入を求められる機会がいくつかあった。
生徒たちが使う銃には種類があり、それぞれ相手をするのが得意な装備のタイプが異なる。
爆発、貫通、神秘、振動。
軽装備、重装甲、特殊装甲、弾力装甲。
他にも、戦闘地帯の得意不得意さえ生徒1人1人で異なり、故に様々な状況の解決のために、戦闘任務では敵や地形に応じて様々な生徒の力を借りてきた。
その常識を、ギルガメッシュは覆す。
「まさかだけど、これらの銃は全て種類が違う――!?」
「当然だ。重ねて言うのなら、この程度は我が財のごく一部に過ぎん」
生徒それぞれが得意とするタイプの銃の全てを、ギルガメッシュは1人で操ってしまう。
それも、同じタイプの銃の中でさえ、様々な物を
それらを、一度に大量に展開できるのだから、その恐ろしさは折り紙付きだろう。
開戦から数分も経たないこの時間が、人生で一番多くの銃を見た時間だと胸を張って言える。
その多くが、私が銃の知識に疎いからか見覚えのないものばかりだが、中には他の生徒が愛用している銃と思わしきものも存在した。
ゲヘナ風紀委員長、空埼ヒナの愛銃、
「――え、機関銃がレーザー?」
「どうした? よそ見している暇はあるのか?」
「!? 確かに、言うとおりだね!!」
他の1人を盾にして、反撃の一撃を放とうとしていたユスティナ聖徒に狙いを定める。
一撃を放ったのは、狙撃銃アイディール。
美食を求める少女たちのリーダーも愛用する狙撃銃が、聖徒を再び死地へと送る。
だが、一方的にこちらが有利と言える状況ではなかった。
無限の再生能力を持つユスティナ聖徒会。
無尽蔵の体力を持つ人工天使ヒエロムニス。
つまり、状況を端的に言い表すとするのなら。
「「火力不足」」
私とギルガメッシュの言葉が重なる。
そう、押しとどめられてはいるが、追い込むには至っていない。
そもそも全滅という概念がないユスティナはもちろんのこと、ヒエロムニスも怯む様子は見せても、倒れる様子は見せない。
このままでは、私たちが敵を倒しきるより先に、シッテムの箱が
「その前に、せめてヒエロムニスを倒しきらないと……」
ヒエロムニスさえ排除できれば、後は対処のしようがある。
外で戦ってくれていた生徒たちで協力すれば、ユスティナ聖徒会がどれだけ数を現したとしても、致命的な被害だけは避けて制圧することが出来るだろう。
だが、あの天使だけは別だ。
ヒエロムニスは、今の生徒たちの手に余る。
ここで倒せず外に出ようものなら、どれだけの被害が出るか計り知れない――!!
「あと1つ、何か決定打さえあれば……!!」
アシスト機能をフル活用して、思考を極限まで加速させて打開策を求めるが、現状維持以上より良い結果が出てこない。
それこそ、最大出力のレールガンのように強力な一撃があれば、或いは現状を変えられるかもしれないが、シッテムの箱は冷酷に、そんな希望はないと現実を突きつける。
――だから、現状を打破する切り札は、王の言葉によってもたらされた。
「――仕方あるまい。貴様に1つチャンスをやろう」
「……え?」
思いがけない声に顔を上げる。
モニターで見ていた戦場とは違う現実の景色。
黄金の髪を靡かせ、敵を真正面から見据えるギルガメッシュが、今は自らの意思で宝物庫の鍵を握っていた。
同時に、モニターに新たなアイコンが出現する。
赤色に染められたそれは、明らかに他の指示とは特別異なることを告げていて。
「価値なき贋作共に使うのは、全くもって不愉快極まりないがな。
宝物庫の最奥に眠るで至高の財であれば、奴らなぞ一撃のもと沈めてくれる」
決してこちらを振り返ることなく、ギルガメッシュは淡々と告げる。
もし、その言葉が真実であるのなら。
一塁の希望にかけて、シッテムの箱が示した新たな指示の内容を確認する。
「だが、初めに言ったな?
シッテムの箱は告げた。
「15秒だ。
その全てを使う前提で、王律鍵バヴ=イルによる開錠は最短でこの長さだ。
付け加えるなら、宝物庫の最奥を開く間、
「それでも貴様が15秒を掴み取ってみせたのなら。
褒美として、
発動条件である、短くも絶望的に長い15秒間の条件と共に。
ギルガメッシュ(ナーフ済み)
どうしても瞬殺で終わってしまうので、もしも最初から色々宝具を使えたらのifは、いつか番外編で書きたいですね。